この記事のポイント
防衛・政府ルーツを持つデータ統合・AI活用基盤企業であり、政府と民間の両方に展開する独自のポジション
主力4製品(Gotham・Foundry・AIP・Apollo)の役割の違いと、すべてを結ぶOntologyの構造
業績急成長・防衛AI需要・NVIDIAとの協業という3つの注目背景
政府・民間・日本市場の顧客構成と、FDE(Forward Deployed Engineer)型の独自導入モデル
「戦争SaaS」という呼称の背景と、それだけでは捉えきれない事業の二面性

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)は、2003年に創業し、翌年にはCIA傘下の投資機関In-Q-Telから出資を受けて成長した、防衛・政府向けの情報分析ソフトウェアを出発点とする企業です。
現在は「Foundry」や「AIP」といった民間企業向け製品も急速に展開を広げ、2025年通期売上は前年比56%増の44.8億ドルに達しています。
本記事では、Palantirの事業内容や主力製品の違い、注目される3つの理由、顧客構成と導入モデル、そして「戦争SaaS」と呼ばれる背景まで、投資目線ではなく事業の実態ベースで整理します。
目次
Palantirとは?

Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)は、政府・防衛機関と民間企業の両方に向けて、データ統合とAI運用の基盤ソフトウェアを提供している米国企業です。
2024年9月にS&P 500へ採用され、株価の急上昇によって個人投資家の注目も集まっていますが、GoogleやAmazonのように一般消費者が日常で触れるサービスは一切ありません。政府機関や大規模な企業の「内部のオペレーション」を支えるソフトウェアを作っている会社であり、その事業はほとんどの個人からは直接見えない領域で展開されています。
ウクライナ戦争の長期化やNATOの防衛テクノロジー投資の拡大を背景に、防衛向けAI基盤を持つPalantirは「戦争SaaS」と揶揄されることも増えました。その一方で民間AI基盤としても急成長しており、日本では2026年3月に高市首相がPalantir共同創業者と官邸で会談する一方、ドイツでは警察向け導入に複数の州が反発するなど、各国の反応は歓迎と警戒が交差しています。
創業の経緯と防衛ルーツ

Palantirは2003年、ピーター・ティール(PayPal共同創業者)、アレックス・カープ(現CEO)、スティーブン・コーエンの3名が共同創業しました。2025年度の年次報告書(10-K)でも、この3名がco-founderとして記載されています。
創業の背景には、2001年の同時多発テロがあります。
米国の情報機関は膨大なデータを保有していたにもかかわらず、縦割りの情報管理によって脅威を事前に検知できなかったことが問題視されました。10-Kでは、Palantirが当初から米国インテリジェンス・コミュニティ向けに、対テロ捜査・作戦支援ソフトウェアを開発していたことが記載されています。
2004年にはCIA傘下の投資機関In-Q-Telから出資を受け、インテリジェンスの現場に密着した製品開発が始まりました。
この経緯が意味しているのは、Palantirが後から防衛に参入した一般的なIT企業ではなく、最初から防衛・情報分析を出発点として生まれた企業であるということです。
この出自が、製品の設計思想にも顧客構成にも色濃く反映されています。
Palantirが注目される理由

Palantirの名前をニュースやSNSで見かける機会が急増しているのは偶然ではありません。
2025年から2026年にかけて注目度が急上昇している背景には、業績の急成長、防衛AI需要の拡大、NVIDIAとの協業という3つの要因があります。
業績の急成長

Palantirの2025年通期売上は前年比56%増の44.8億ドルに達し、FY2026のガイダンスでは約72億ドル(約61%成長)を見込んでいます。
この規模のエンタープライズソフトウェア企業が60%超の成長を維持しているのは異例であり、特に民間企業向けの急拡大が注目されています。
自社のデータが複数のシステムに散らばって全体像を一か所で把握できない、という課題は多くの企業が抱えています。そんな中、Palantirのように「データ統合からAI運用までを一気通貫で提供する基盤」への需要が高まっていることが、この成長の背景にあります。
防衛AI需要の高まり

企業向け事業が伸びている一方で、防衛分野でも大型案件が続いています。
2025年7月、米陸軍はPalantirと最長10年・上限100億ドルのEnterprise Service Agreement(ESA)を締結しました。
これは従来75の個別契約として分散していたソフトウェア調達を1本の包括契約に集約する取り組みで、軍のソフトウェア調達としては過去最大級の規模です。
同年4月14日には、NATOがMaven Smart System NATO(MSS NATO)の調達完了を公表しました。AI支援による情報融合と意思決定の高速化を目的とした調達で、要件定義からわずか6か月での完了はNATO史上でも異例のスピードとされています。
従来の防衛産業がハードウェア(戦車、航空機、ミサイル)を中心としていたのに対し、Palantirが提供しているのは継続的なソフトウェア契約による意思決定基盤です。
この「防衛のソフトウェア化」というトレンドの中で、Palantirが果たしている役割はますます大きくなっています。
NVIDIAとの協業

2023年4月に発表されたAIP(Artificial Intelligence Platform)は、大規模言語モデル(LLM)を汎用チャットボットとしてではなく、企業の既存データや業務プロセスに統合して活用するための基盤です。
AIPの登場以降、「AIを試す」段階から「AIを現場に実装する」段階に移行する企業がPalantirを選ぶケースが増えています。
2026年3月12日には、NVIDIAとSovereign AI OS Reference Architectureを共同発表しました。NVIDIA Blackwell Ultra GPUの上にPalantirのソフトウェア基盤を載せた統合構成で、データ主権(データを自国内で管理すること)を維持しながらAIを運用したい政府機関や企業に向けた協業モデルです。
このOntologyが共通基盤として機能しているからこそ、Gotham・Foundry・AIPの間でデータ共有やAI機能の横断利用が可能になっています。
各製品の特徴をもう少し詳しく見ていきます。
Gotham — 防衛・情報分析の出発点

Gothamは、政府機関や軍事組織向けに設計された情報分析・意思決定支援プラットフォームです。衛星画像、通信記録、金融取引記録、人物関係図など、複数のデータソースを統合して分析し、脅威のパターンを発見したり作戦計画を立案したりするための環境を提供します。
もともとは対テロ情報分析のために開発されたPalantirの最初の製品であり、米国のインテリジェンス・コミュニティが初期ユーザーでした。前述のNATOのMSS NATOも、Palantirの防衛向けAI基盤の採用例にあたります。
Gothamの特徴は、単なるデータの可視化ツールではない点にあります。データの統合・分析から、意思決定・行動計画の策定までの一連のプロセスを支援するオペレーション基盤として設計されています。この「情報分析から行動までをつなぐ」という設計思想は、後に民間向けに開発されたFoundryにも引き継がれています。
Foundry — 民間企業のオペレーション基盤

Foundryは、民間企業向けのデータ統合・業務運用プラットフォームです。組織内に散在するデータ(ERP、CRM、生産管理、IoTセンサーなど)を一元化し、サプライチェーンの最適化、製造工程の効率化、需要予測、不正検知といった業務課題を、データに基づいて解決するための基盤として機能します。
Gothamが「情報のパターンを発見し、脅威を特定する」ことに重心を置くのに対し、Foundryは「日々の業務を動かし、継続的に最適化する」ことに重心を置いています。製造業、物流、ヘルスケア、金融、エネルギーなど、現場のオペレーションが複雑でデータが多岐にわたる業界を中心に導入が広がっています。
AIP — 生成AIの業務実装基盤

AIP(Artificial Intelligence Platform)は、LLMや生成AIを、汎用のチャットボットとしてではなく、組織のデータ・業務ロジック・アクションと結びつけて活用するための基盤です。2023年4月に発表されたPalantirの中で最も新しく、最も急速に成長している製品です。
AIPが企業にとって重要なのは、「AIエージェントを試しに動かす」段階から、「自社のデータとルールに基づいてAIを安全に業務に組み込む」段階への橋渡しを提供している点です。Ontologyの上にAIを載せることで、AIの出力を業務データと紐づけて検証し、人間が承認したうえで行動に移すワークフローを構築できます。
AIをどう業務に組み込むかを検討している企業にとっては、AIPのような「データ統合層の上にAIを載せる」というアーキテクチャの考え方は、自社の導入設計を考えるうえで参考になります。
Apollo — ソフトウェアの配信・運用基盤

Apolloは、Gotham・Foundry・AIPを顧客環境に配信し、継続的に運用・更新するためのソフトウェアデリバリー基盤です。
一般的なSaaSはクラウド上の共有インフラで動作しますが、Palantirの顧客には「クラウドに接続できない環境」が含まれます。政府の機密ネットワーク、戦術的なエッジ環境(戦場やインターネット非接続環境)、厳しいデータ規制を持つ国や組織などです。Apolloは、こうした環境でもPalantirのソフトウェアを配信・更新・運用できるようにする裏方の製品です。
表に出ることは少ないですが、「あらゆる環境で動く」というPalantirの柔軟性を支えているのはApolloの存在です。防衛ルーツを持つPalantirが機密環境でもシームレスにソフトウェアを稼働させられるのは、このデリバリー基盤があるからこそです。
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Palantirの顧客と導入モデル

Palantirの製品がわかったところで、次はそれを「誰が、どのように使っているのか」を見ていきます。Palantirの顧客層と、一般的なSaaSとは大きく異なる導入プロセスを理解することで、この企業の事業構造がより立体的に見えてきます。
政府・防衛機関

Palantirの出発点であり、現在も売上の大きな柱を占めているのが政府・防衛機関向けの事業です。
10-Kでは、米国のインテリジェンス・コミュニティや国防総省が初期の主要顧客であったことが記載されています。現在では、前述の米陸軍との最長10年・上限100億ドルのESA契約や、NATOのMSS NATO調達など、大規模な案件が相次いでいます。
政府分野の顧客は防衛・安全保障に限りません。10-Kでは、FDA(米国食品医薬品局)、CDC(疾病予防管理センター)、NIH(国立衛生研究所)など公衆衛生関連の連邦機関もPalantirを利用していることが記載されています。COVID-19パンデミック時のデータ統合・分析にも活用され、安全保障以外の政府業務でも実績を積み重ねています。
民間企業と日本市場での展開

民間企業向け事業は、Palantirの中で最も急速に成長しているセグメントです。前述のとおり、2025年Q4の米国民間向け売上は前年同期比137%成長し、米国の商用顧客数も前年比49%増の571社に拡大しています。
業界としては、製造業、物流・サプライチェーン、ヘルスケア、金融サービス、エネルギーなど、現場オペレーションのデータ量が多く業務プロセスが複雑な分野が中心です。どの業界にも共通するのは、「複数のシステムに分散したデータを統合して、そこからAIを含む分析・自動化に展開したい」という課題を抱えている点です。
日本市場では、2019年にSOMPOホールディングスとの合弁会社としてパランティア・ジャパンが設立されました。SOMPOグループでは現在8,000人超がPalantirを積極利用しており、保険の引受・損害査定からグループ横断のデータ活用基盤として展開が進んでいます。富士通との協業も進行中で、日本の企業・公共機関への展開が今後さらに加速する可能性があります。
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FDE型の導入モデルと料金

Palantirの導入プロセスは、一般的なSaaS製品とは根本的に異なります。
PalantirはFDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる自社エンジニアを顧客先に派遣し、顧客と共に業務課題を定義してデータの統合・分析基盤を構築します。パイロット導入から本番環境への展開まで数か月から年単位の期間をかけ、顧客の組織にソフトウェアを定着させていくプロセスです。
これは、セルフサービスで利用を始められるSaaS(SlackやSalesforceなど)とは対照的なアプローチです。その分、導入には時間とコミットメントが必要ですが、組織の業務に深く入り込んだ形でのデータ活用が実現します。このFDE型導入モデルこそが、Palantirの高い顧客維持率と案件単価を支えている構造的な強みでもあります。
料金については、Foundry Plansのページが存在し、コンピュートの従量課金レートなどは公開されています。ただし、エンタープライズ契約の総額や導入費用は一律公開されておらず、導入規模や利用範囲に応じた個別見積もりが基本です。
Palantirの業績

Palantirの事業構造と顧客構成を整理したところで、直近の業績を数字で確認します。
以下の表は、2025年通期決算プレスリリース(2026年2月2日発表)およびQ4 2025 Investor Presentationに基づく主要指標です。
| 指標 | 実績 |
|---|---|
| FY2025 売上高 | 44.8億ドル(前年比56%増) |
| FY2025 Q4 売上高 | 14.1億ドル(前年同期比70%増) |
| 米国政府向け Q4 売上 | 5.70億ドル |
| 米国民間向け Q4 売上 | 5.07億ドル(前年同期比137%増) |
| 米国商用顧客数 | 571社(前年比49%増) |
| 調整後営業利益率 | 50%(FY2025通期) |
| FY2026 売上ガイダンス | 約72億ドル(前年比約61%成長) |
この表から読み取れるのは、Palantirの成長が「防衛特需」だけでは説明できない構造に変わりつつあるということです。
民間事業の急拡大

特に目を引くのが、米国民間向け(US Commercial)セグメントの伸びです。Q4で前年同期比137%という成長率は、エンタープライズソフトウェア業界でも突出した数字です。AIPの登場以降、「AIを現場に実装したい」企業からの需要が急速に拡大しており、これまで「政府依存が高い」とされてきた企業イメージを覆しつつあります。
米国商用顧客数も前年比49%増の571社に拡大しており、少数の大型顧客に依存する構造から、顧客基盤の裾野が広がりつつあることがわかります。
高い利益率の背景

FY2025通期の調整後営業利益率50%は、SaaS企業としてはトップクラスの水準です。FDE型の深い導入モデルが高い契約単価と顧客維持率を支えており、一度導入されると組織の基幹オペレーションに組み込まれるため解約されにくい構造になっています。
FY2026のガイダンスで約61%成長を提示していることからも、この成長ペースが一過性ではなく構造的なものであるとPalantir自身が見ていることがうかがえます。
Palantirはなぜ「戦争SaaS」と呼ばれるのか

Palantirについて調べると、「戦争SaaS」という俗称を目にすることがあります。正式な業界用語ではありませんが、この呼び方が生まれた背景を整理しておくことで、Palantirの事業構造をより正確に理解できます。
呼称の背景にある3つの事実
「戦争SaaS」という表現は、以下の3つの事実から生まれています。
-
歴史的に防衛・政府セグメントの売上比率が高い企業
Palantirの売上は長年、政府向けが過半を占めてきました。2025年Q4時点では米国政府向けと民間向けの差は縮まっていますが、この企業が防衛を出発点として成長してきた歴史は変わりません。
-
製品が軍事オペレーションの意思決定に直結する
Gothamは情報分析、ターゲット選定支援、作戦計画立案といった軍事オペレーションの意思決定を支援する機能を持っています。
NATOのMSS NATOが「AI搭載戦闘システム」として調達されたことは、Palantirの製品が戦場の意思決定基盤として実際に使われていることを示しています。
-
従来の防衛産業とは異なるビジネスモデルで防衛ソフトを提供している
戦車や航空機を納入する伝統的な防衛企業(Lockheed Martin、Raytheonなど)とは異なり、Palantirは継続的なソフトウェア契約(サブスクリプション型)で防衛向けの基盤を提供しています。
この「SaaS的なモデルで防衛ソフトを売る」という構造が、「戦争SaaS」という表現につながっています。
防衛だけでは語れない事業全体

ただし、「戦争SaaS」というラベルだけでPalantirを理解するのは、事業の一面しか見ていないことになります。
米国民間向け売上は前年比137%成長し、政府向けに迫る規模にまで拡大しています。Foundryは製造業や金融、ヘルスケアなど平時の企業オペレーションに使われており、AIPは企業のAI導入基盤として急速に採用が広がっています。
SOMPOグループの8,000人以上が日常的にPalantirを業務で使っている事例を見ても、民間での利用が「おまけ」ではないことは明らかです。
むしろ2025年から2026年にかけては、民間側の成長がPalantirの市場評価を大きく押し上げている局面です。
「防衛企業」としての側面は確かに存在し、それはPalantirの出自と強みの根幹に関わるものですが、事業のすべてではありません。
Palantirを正確に理解するには、「防衛企業」と「民間AI基盤企業」という2つの顔が共存していること自体を、この企業の本質的な特徴として受け止める必要があります。
Palantirに対する各国の反応

Palantirの存在感が増す中、各国の反応は歓迎と警戒が入り混じっています。
戦場でのAI活用から医療データの統合まで、導入が進む国もあれば、プライバシーやデータ主権の観点から導入に歯止めがかかる国もあります。この温度差自体が、Palantirという企業の性質をよく表しています。
ウクライナ — 戦場で実証されるAI基盤

Palantirのソフトウェアが最も実戦的に使われているのがウクライナです。TIME誌の報道によれば、ドローン映像、衛星画像、熱センサーデータを統合して敵の射撃陣地を推定し、精密攻撃の火力任務を立案する用途にPalantirの基盤が使われています。
カープCEOは「ウクライナにおけるターゲティングの大部分をPalantirが担っている」と述べています。
戦闘だけでなく、戦争犯罪の証拠収集、地雷除去の優先順位付け、避難民の再定住支援、汚職の摘発など、ウクライナの6以上の政府機関がPalantirの製品を利用しているとされています。
ウクライナでの実戦データが製品の改良に直結しており、前述の米陸軍ESA契約にもウクライナでの実績が影響しているとの見方もあります。
イラン — AIターゲティングの最前線

2026年3月、米軍のイラン攻撃作戦「Operation Epic Fury」において、PalantirのMaven Smart Systemがターゲット選定に使用されていることが複数の報道機関によって報じられました。
The Registerの報道によれば、従来8〜9のシステムに分散していたターゲティング機能を単一のプラットフォームに統合し、作戦開始から24時間で約1,000の標的を特定・優先順位付けしたとされています。
この実戦投入はPalantirの株価を1週間で15%押し上げた一方、AIによるターゲット選定の精度と民間人被害をめぐる議論も激化しています。
Byline Timesの調査報道は、共同創業者のティール氏らがイランとの軍事衝突を公に主張していた点を指摘し、「攻撃の情報的根拠を提供しつつ紛争から利益を得る」構造を「二重の利益相反」と批判しています。
ウクライナでは「防衛側のAI」として導入が支持されやすい一方、イランのケースは「攻撃側のAI」としての論争が先行しており、同じ技術に対する評価がまったく異なる点が特徴的です。
イギリス — NHSと国防省の大型契約

イギリスでは、Palantirの導入が防衛と医療の両面で進んでいます。
国防省(MoD)は2025年9月にPalantirとデータ分析機能に関する戦略的パートナーシップを締結し、2025年12月には2.4億ポンド(約480億円)の契約を随意契約で発注しました。
一方、NHS(国民保健サービス)では、Palantirが約3.3億ポンドのFederated Data Platform(FDP)契約を獲得しましたが、大きな反発も起きています。
英国医師会(BMA)は2025年にPalantirとのNHS契約の解除を求める決議を可決し、Palantirが米国移民・関税執行局(ICE)の業務にも関わっていることへの懸念が理由として挙げられました。
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2025年3月時点では、NHSのprovider trustsのうちPalantirのプラットフォームを利用しているのは72か所で、全体の約3分の1にとどまっています。
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ドイツ — プライバシーと主権をめぐる反発

ドイツではPalantirの導入をめぐって賛否が大きく割れています。
バイエルン州やヘッセン州など複数の州が警察向けにPalantirのデータ分析ソフトを導入してきましたが、連邦憲法裁判所が警察のデータマイニングを認める州法を「情報に関する自己決定権の侵害にあたる」として違憲と判断しました。
市民権団体(Chaos Computer Clubなど)からも、EU一般データ保護規則(GDPR)との整合性を疑問視する声が上がっています。
カープCEOは2025年12月のインタビューでドイツの技術環境を「世界最悪」と批判し、移民政策についても厳しい発言を行っています。
企業トップがここまで踏み込んだ批判をすること自体が異例であり、Palantirとドイツの関係は緊張を含んだものになっています。
スイス — 7年間で9回以上の拒否
スイスでは、Palantirが7年にわたって連邦政府機関への営業活動を続けましたが、少なくとも9回にわたって契約を断られています。ソフトウェアが不要と判断されたケースもあれば、Palantirとの取引がもたらす評判上のリスクを懸念して拒否したケースもありました。
中立国としてのスイスの立場と、Palantirの防衛・情報機関との結びつきが相容れなかった構図です。
日本 — 首相官邸レベルでの接点

前述のとおり、日本では企業レベルでの導入が進んでいるのに加え、政府レベルでの接点も生まれています。
2026年3月5日には、高市首相がPalantir共同創業者のピーター・ティール氏と首相官邸で約25分間会談しました。AIなど先端技術分野の日米協力をめぐって意見交換が行われましたが、詳細は「相手との関係もある」として公表されていません。
ティール氏はトランプ大統領との近い関係でも知られており、この会談は3月19日に予定されていた日米首脳会談の直前というタイミングでも注目を集めました。
日本政府はデジタル庁を中心に政府等保有データのAI学習データ化を推進しており、2025年6月の重点計画でもデータ活用の拡大が方針として示されています。
こうしたデータ政策の転換期にPalantirとの接点が生まれている点は、今後の動向を見るうえで押さえておきたいポイントです。
こうして並べてみると、ウクライナやイギリスのように防衛・公共分野での導入を加速する国がある一方、ドイツやスイスのようにデータ主権やプライバシーの観点からブレーキをかける国もあります。
イランのケースでは、AI技術そのものの精度と倫理がより直接的に問われる局面に入っています。日本は企業導入と政府レベルの接点が同時に進んでおり、今後どの方向に軸足を置くかは注視が必要です。
まとめ|Palantirは「防衛ルーツ×民間拡大」のデータ・AI基盤企業
Palantirは、「企業向けデータ分析会社」とも「軍事AI企業」とも呼ばれますが、どちらか一方のラベルでは全体像を捉えきれない企業です。
本記事の要点を改めて整理します。
- 2003年に対テロ・情報分析の領域から創業し、CIA傘下のIn-Q-Telからの出資を受けて成長した。防衛・政府に深いルーツを持ちながら、Foundry・AIPを通じて民間企業への展開を急速に拡大している
- 主力4製品(Gotham・Foundry・AIP・Apollo)はすべてOntologyという共通データ層を共有し、データ統合からAI活用・業務運用までを一気通貫で提供する設計になっている
- 2025年通期売上44.8億ドル(前年比56%増)、FY2026ガイダンス約72億ドル。米国民間向けはQ4で前年比137%成長と、防衛だけに依存しない事業構造への転換が進んでいる
- NVIDIAとはGPU(計算基盤)とソフトウェア(意思決定基盤)の補完関係にあり、2026年3月にSovereign AI OS Reference Architectureを共同発表した
- 「戦争SaaS」という呼称は防衛事業の一面を捉えたものであり、全体像を理解するには防衛と民間の二面性を踏まえる必要がある
「結局なんの会社なのか」という問いに対しては、防衛ルーツを持ちながら、政府と民間の両方でデータ統合とAI活用のオペレーション基盤を提供する会社——という理解が、最も実態に近いといえます。


















