この記事のポイント
Dynamics 365はCRMとERPを統合したMicrosoftの業務プラットフォーム
Sales・Customer Serviceなどの主要モジュールを必要に応じて導入可能
営業プロセスを標準化・可視化できるSalesモジュールの実用性
導入メリットは“情報の一元化”と“Microsoft製品との親和性”
導入成功の鍵は段階的展開と専門家による要件整理

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
営業活動の見える化、顧客対応の品質向上、そして経理や在庫業務の自動化──企業のあらゆる部門で業務の統合と効率化を進めたいと考えていませんか?
Microsoftが提供する「Dynamics 365」は、CRMとERPを統合した業務アプリケーション群で、企業のデジタル変革を支える中核的な存在です。
この記事では、Dynamics 365の概要から主要モジュールの機能と使い方、導入によるメリットや注意点までを網羅的に解説します。初めての方でも全体像がつかめる内容になっています。
目次
Supply Chain Management(サプライチェーン管理)
2. Microsoft製品とのネイティブ連携で業務に自然に溶け込む
5. DX(デジタルトランスフォーメーション)を現場から推進
Dynamics 365とは?
Dynamics 365とは、Microsoftが提供するクラウドベースの業務アプリケーション群で、顧客管理(CRM)や基幹業務管理(ERP)を統合した統合型プラットフォームです。
営業活動や顧客サポート、会計、在庫管理、現場業務など、企業活動に必要な主要業務を1つの環境で管理できます。
Dynamics 365イメージ
従来は部署ごとに分かれていたシステムを統一し、データの一元管理と業務連携を実現することがDynamics 365の最大の強みです。これにより、各部門がリアルタイムで共通の情報にアクセスできるようになり、組織全体の意思決定スピードやサービス品質の向上が期待できます。
また、Dynamics 365はクラウドサービスであるため、オンプレミス型のシステムと異なり初期投資を抑えつつスモールスタートが可能です。必要な機能だけを選んで導入し、業務の成長や変化に応じて柔軟に拡張できる点も、多くの企業に選ばれている理由です。
さらに、Microsoft TeamsやOutlookなどのMicrosoft 365製品とネイティブ連携しており、営業担当者やカスタマーサポートの現場でも、日常業務の中で自然に使える設計になっています。
モジュール別の主な機能と用途
Salesイメージ
Dynamics 365は、業務内容ごとに複数のアプリケーション(モジュール)で構成されており、必要な業務に応じて個別に導入できる柔軟性が特徴です。ここでは、代表的なモジュールの役割と用途について詳しく解説します。
モジュール名 | 主な用途 | 特徴的な機能 |
---|---|---|
Sales | 営業支援 | 商談・リード管理、顧客スコアリング、レポート |
Customer Service | 顧客対応 | 問い合わせ管理、ナレッジベース、マルチチャネル対応 |
Marketing | 見込み客育成 | メール配信、キャンペーン管理、顧客セグメント作成 |
Field Service | 現場作業管理 | スケジューリング、作業指示、モバイル対応 |
Finance | 会計・財務 | 請求、売上・支払管理、財務レポート |
Supply Chain | サプライチェーン | 在庫・購買・物流・製造管理 |
HR(Human Resources) | 人事管理 | 勤怠、給与、人材評価 |
Sales(営業支援)
営業活動全般を一元管理するモジュールです。リード(見込み顧客)の獲得から商談の進捗管理、見積作成、成約までのプロセスを可視化し、営業チームのパフォーマンス向上を支援します。OutlookやTeamsとの連携により、メールや会議情報を商談に自動ひも付けできるため、営業担当者の入力負担を軽減できます。
【導入効果】
- 営業情報の共有・可視化により、属人化を解消
- プロセスの標準化により、新人営業でも早期に成果が出やすい
- 顧客との対応履歴が蓄積され、長期的なリレーション構築が容易
- ダッシュボード活用で、戦略的な営業マネジメントが実現
Customer Service(カスタマーサービス)
顧客からの問い合わせ対応を効率化するモジュールで、サポートチームの品質と対応スピードを高めます。メール、チャット、電話など複数チャネルからの問い合わせを一元管理し、ナレッジベースやケース管理機能を活用して、解決までの時間を短縮します。SLA(サービスレベル契約)の管理にも対応しています。
【導入効果】
- 顧客からの問い合わせを一元管理し、対応漏れや重複を防止
- ナレッジベースの活用により、迅速な問題解決が可能
- チャットボットとの連携で、24時間体制のサポートが実現
Marketing(マーケティングオートメーション)
見込み客(リード)の育成や顧客との関係強化を目的としたマーケティング活動を支援します。メールキャンペーンの作成、セグメント配信、キャンペーンの成果測定といった機能が備わっており、Salesモジュールと連携することで、マーケティングから営業へのスムーズな引き継ぎが可能になります。
【導入効果】
- リードの獲得から育成までを一元管理し、営業活動の効率化
- セグメント配信により、ターゲットに応じたアプローチが可能
- キャンペーンの効果測定により、次回施策へのフィードバックが容易
Field Service(現場サービス)
現地対応を伴うサービス業務(例:保守点検、設備修理)に適したモジュールです。作業依頼の受付から、技術者のスケジューリング、現場での対応記録、部品管理までを一元化。モバイルアプリの活用により、現場担当者が移動中でもリアルタイムに情報共有できる環境を整えられます。
【導入効果】
- スケジューリング機能により、最適な技術者を迅速に手配
- モバイルアプリで現場情報を即時に共有し、業務の効率化
- 部品管理機能により、在庫の最適化とコスト削減が実現
- 顧客情報の蓄積により、長期的な関係構築が可能
Finance(財務会計)
請求、支払、仕訳、財務分析などの会計業務をカバーするERPモジュールです。グローバル対応の会計基準や複数通貨にも対応しており、決算処理や財務レポート作成の効率化を図れます。他モジュールと連携することで、売上・購買などの業務フローと財務処理が自動的にひもづき、手入力によるミスを防ぎつつリアルタイムな財務状況の把握が可能になります。
【導入効果】
- 請求書や仕訳の自動生成により、業務負担を軽減
- リアルタイムな財務状況の把握が可能になり、迅速な意思決定を支援
- グローバル展開に対応した多通貨・多言語機能を活用し、海外拠点の会計業務も一元管理
- 他モジュールとの連携により、業務フロー全体の可視化が実現
Supply Chain Management(サプライチェーン管理)
Supply Chain Management(サプライチェーン管理)
在庫、仕入れ、製造、配送といったサプライチェーン全体を統合的に管理するモジュールです。需要予測に基づいた在庫補充、倉庫間の移動管理、物流コストの可視化など、多拠点運営や製造業にも適しています。IoTセンサーやERP連携により、リアルタイムの在庫・生産情報を活用した自動化も可能です。
【導入効果】
- 在庫の最適化により、コスト削減と納期短縮を実現
- 需要予測機能により、過剰在庫や欠品を防止
- 製造・物流のプロセスを可視化し、業務改善の基盤を構築
- IoTデータを活用したリアルタイムな状況把握が可能
Human Resources(人事管理)
従業員の情報管理、採用、評価、勤怠、給与など、人事部門の業務を統合するモジュールです。組織変更への柔軟な対応や評価プロセスの可視化により、人材育成やタレントマネジメントにも活用できます。Microsoft VivaやTeamsとの連携により、従業員エンゲージメント向上との相乗効果も期待できます。
【導入効果】
- 従業員情報を一元管理し、人事業務の効率化
- 評価プロセスの可視化により、人材育成やタレントマネジメントを強化
- Microsoft Teamsとの連携により、従業員エンゲージメント向上を支援
Dynamics 365 Salesの使い方と導入効果
今回は、Dynamics 365の中でも特に人気の高い「Sales」モジュールに焦点を当て、その具体的な使い方と導入効果について解説します。
Dynamics 365 Salesは、営業プロセスの標準化・可視化・効率化を支援するSFA(営業支援)モジュールです。ここでは、実際の操作フローを具体的に示しながら、導入による業務改善効果を解説します。
ステップ1:リード(見込み顧客)の登録と管理
営業活動は「リード」の登録から始まります。名刺交換やWebフォーム経由、セミナー来場者などの情報をDynamics上に登録することで、見込み顧客情報をデータとして蓄積します。
- 企業名や連絡先、興味のある製品・サービスなどを記録
- 入力は手動のほか、Outlookメールやフォームと自動連携可能
- フォローすべき顧客を優先度やステータスで分類・可視化
teamsとの連携画面
ステップ2:商談(オポチュニティ)の作成と進捗管理
顧客との接点が進み、具体的な提案や交渉が始まる段階で、リードを「オポチュニティ」に昇格させます。ここからは商談として、金額や確度、ステージごとに管理されます。
- 商談フェーズ(提案・検討中・契約調整など)を設定
- 予想受注日・見積金額・関係者情報を登録
- ステージごとのKPIを定めて営業プロセスを標準化
ステップ3:活動履歴と対応状況の記録
日々の営業活動(電話、訪問、メール、会議など)を、顧客や商談単位で記録できます。OutlookやTeamsと連携することで、入力の手間を省きながら活動ログを自動収集できます。
- コンタクト履歴を時系列で確認可能
- 上司やチームメンバーもリアルタイムで状況把握
- 見落としや属人化を防ぎ、チーム営業を実現
ステップ4:見積作成と契約対応
見積書や提案書のテンプレートを活用し、統一フォーマットでスピーディに提案が可能です。WordテンプレートやExcel連携により、誤記のない文書作成が簡単に行えます。
- 商品マスタと価格表を連携
- 見積履歴や承認フローも一元管理
- 契約書や発注書との連携、DocuSign等の電子署名サービス対応
ステップ5:成果の可視化と分析
営業状況はリアルタイムでダッシュボードに反映され、定量的な成果分析が可能です。個人別・チーム別・期間別など、柔軟な切り口で分析でき、予算管理や改善施策に活用できます。
- 商談パイプライン、目標達成率、案件ごとの成約率などを可視化
- Power BIを連携することで、より高度な分析やグラフ表示も可能
- 上司・マネージャーがリモートでも数値管理可能
実際の作成イメージ
今回は仮データのみですが色々な可視化ページが作成可能です。
Dynamics 365の導入メリット
Dynamics 365は、単なる業務ソフトの集合体ではなく、企業全体の業務基盤を統合し、部門横断でのデータ活用と業務効率化を可能にするプラットフォームです。ここでは、導入によって得られる代表的なメリットを整理して紹介します。
1. 業務データの一元管理で「サイロ化」を解消
営業、サポート、経理、在庫など、従来は部署ごとに分かれていた業務情報をDynamics 365上に集約することで、情報の分断(サイロ化)を解消できます。これにより、各部門間の連携が円滑になり、リアルタイムな意思決定が可能になります。
例:営業が受注情報を入力すれば、財務部門で即座に請求処理が開始できる。
2. Microsoft製品とのネイティブ連携で業務に自然に溶け込む
Dynamics 365は、Outlook、Teams、Excel、SharePoint、Power BIなどのM365製品とシームレスに連携しており、従業員が普段使用しているツールから直接操作・確認ができます。これにより、新しいツールの習得負荷を抑えつつ、自然な形で業務に統合できます。
3. 部門・業種を問わず柔軟に拡張可能
モジュール単位で導入できる構造のため、まずは営業やカスタマーサービスなど特定部門から小規模に導入し、徐々に全社展開することが可能です。また、製造、小売、金融、公共機関など、業種ごとの業務特性に合わせて設定・カスタマイズできる柔軟性があります。
4. クラウド基盤による俊敏な運用とセキュリティ
Microsoft Azureを基盤とするクラウド型サービスであるため、サーバー管理が不要で、短期間かつ低コストで導入が可能です。また、Microsoftによる定期的なセキュリティ更新や可用性確保により、堅牢で信頼性の高い運用が期待できます。
5. DX(デジタルトランスフォーメーション)を現場から推進
Dynamics 365は、業務のデジタル化を「トップダウン」ではなく、**現場部門の課題から改善する「ボトムアップ型DX」**として進めやすいのが特徴です。特にSalesやCustomer Serviceなどの顧客接点部門では、導入初期から目に見える効果が出やすく、社内でのDX推進の足がかりになります。
6. AI機能の活用で業務の高度化
Copilotを導入することで、業務の自動化や効率化が進みます。たとえば、営業活動においては、過去の商談データをもとに次のアクションを提案したり、顧客のニーズを予測することが可能です。また、AIによるデータ分析機能を活用することで、より戦略的な意思決定ができるようになります。
【関連記事】
Microsoft 365 Copilotとは?使い方や有効化の方法、活用例を徹底解説
Dynamics 365の導入の流れと注意点
Dynamics 365は柔軟性の高いクラウド型プラットフォームですが、導入効果を最大化するには事前の設計と段階的な展開が重要です。ここでは、一般的な導入プロセスと、検討時に押さえておくべきポイントを解説します。
ステップ1:業務課題の整理とゴール設定
最初に行うべきは、社内の業務課題を明確化し、「どの業務をどのように改善したいのか」を定義することです。これにより、導入すべきモジュールや必要な機能の方向性が見えてきます。
例:営業の属人化を解消したい → Salesモジュール+活動履歴の可視化が必要
ステップ2:必要なモジュール・機能の選定
Dynamics 365は複数のモジュールで構成されており、全てを同時に導入する必要はありません。まずは1部門(例:営業部門)に絞ってスモールスタートし、実運用を経て他部門へと拡張することが推奨されます。
ステップ3:PoC(概念実証)やテスト導入の実施
いきなり本番環境を構築するのではなく、限定的な範囲でPoC(Proof of Concept)を行い、使いやすさや効果を確認します。この段階でユーザーからのフィードバックを反映しやすくすることが、失敗リスクを下げる鍵です。
ステップ4:本番導入と定着化支援
PoCでの評価を踏まえて本番環境を構築します。導入後は、操作説明や業務フローの見直しなど、「ツールを使いこなすための定着支援」が欠かせません。特にExcel文化が根強い組織では、現場の意識転換が重要なフェーズになります。
導入を検討中の方へ:まずは専門家に相談を
Dynamics 365は非常に多機能なプラットフォームである一方、企業の状況や目的に合わせた最適な導入設計が不可欠です。要件定義、モジュール選定、PoC、展開、定着化まで一貫して支援が必要な場合は、専門パートナーの支援を受けることが成功の近道です。
Dynamics 365の導入・活用にお悩みの企業様は、ぜひAI総合研究所にご相談ください。
要件整理から運用定着まで、貴社に最適な導入プランをご提案いたします。
また開発・構築だけでなく、その後の保守や研修についてもサポートいたします。お気軽にご連絡ください。
AI研修
よくある質問(FAQ)
以下は、Dynamics 365に関するよくある質問とその回答です。導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
Q1. Dynamics 365はすべてのモジュールを導入しなければいけませんか?
いいえ。Dynamics 365は必要なモジュールだけを選んで導入できます。たとえば営業部門のみであれば「Sales」、顧客サポート中心であれば「Customer Service」といった形で、スモールスタートが可能です。
Q2. Excelや既存の業務システムと連携できますか?
はい。Excelはもちろん、他のMicrosoft製品(Outlook、Teams、Power BIなど)とはネイティブ連携が可能です。また、外部システムとの連携もAPIやPower Automateを通じて柔軟に構成できます。
Q3. 導入までにどれくらいの期間がかかりますか?
導入範囲によって異なりますが、小規模なSalesモジュールのみであれば1~2ヶ月程度で導入可能です。ERP(FinanceやSupply Chain Management)を含む大規模導入の場合は、要件定義から本番稼働まで6ヶ月以上かかることもあります。
Q4. クラウドでのセキュリティは大丈夫ですか?
Dynamics 365はMicrosoft Azure上で提供されており、国際的なセキュリティ基準に準拠しています。認証、暗号化、監査ログなど、エンタープライズ向けのセキュリティ対策が施されています。
Q5. 操作が難しく、現場が使いこなせないのでは?
Dynamics 365は直感的なUIとMicrosoft 365製品との連携により、現場でも比較的スムーズに運用できます。ただし、定着化のためには研修や初期サポートが重要です。導入支援パートナーの活用をおすすめします。
まとめ
Dynamics 365は、営業・顧客対応・財務・人事・現場作業といった企業活動の中核をなす業務を一元管理できるクラウドプラットフォームです。各モジュールを段階的に導入しながら、部門横断での業務連携とデータ活用を進めることで、組織全体の生産性と柔軟性が大きく向上します。
特にSalesやCustomer Serviceなどの顧客接点業務では、導入初期から効果を実感しやすく、DXの第一歩として適しています。
Dynamics 365の構築・活用にお悩みの方は、AI総合研究所までお気軽にご相談ください。
専門家が貴社の課題に合わせた最適な導入・運用支援をご提案いたします。