この記事のポイント
Vertex AIから進化した統合エージェント基盤。新規エージェント開発はAgent Platform起点が第一候補で、既存のVertex AI Agent Builder資産の扱いは公式ドキュメントと契約条件を確認するのが前提
4つの柱(Build/Scale/Govern/Optimize)のうち、Govern系(Agent Identity・Gateway・Registry)は他クラウドにない差別化ポイント
Gemini 3.1 Pro・Claude Opus/Sonnet/Haiku・Model Garden 200以上のモデル対応。マルチLLM運用前提の企業に最適
料金は公開価格で確認できるモデル利用料・Grounding・Provisioned Throughput等を中心に従量課金。その他の機能料金は公式価格ページ/アカウントチームへの見積もりが前提。新規顧客向け$300クレジットも活用しつつPoCから始めるのが現実的
Google Workspace・BigQuery・A2Aプロトコル連携が重要ならAgent Platformが第一候補。AWS Bedrock AgentCore・Azure AI Foundryと並ぶフル機能基盤

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Gemini Enterprise Agent Platformとは、2026年4月のGoogle Cloud Next '26で発表された、Vertex AIから進化したエンタープライズ向けのエージェント開発統合基盤です。
これまでVertex AIで提供されていたモデル構築・チューニング機能に加え、Agent Studio・Agent Gateway・Memory Bank・Agent Simulationといったエージェント運用に必要な機能を1つのプラットフォームに集約しています。
本記事では、Gemini Enterprise Agent Platformの4つの柱(Build / Scale / Govern / Optimize)・対応モデル・競合比較・活用事例・料金体系までを、2026年4月時点の公式一次情報をもとに体系的に解説します。
Vertex AIからの進化と移行時の判断軸、ぐるなび・PayPal・L'Oréalなどの導入事例も含めて整理します。
目次
Gemini Enterprise Agent Platformとは?
Gemini Enterprise Agent Platformが登場した背景
Gemini Enterprise Agent Platformの4つの柱
Gemini Enterprise Agent Platformの対応モデルとエコシステム
AWS Bedrock AgentCore・Azure AI Foundryとの比較
Bedrock AgentCore / Azure AI Foundryが有利なケース
Gemini Enterprise Agent Platformの活用事例
L'Oréal:グローバル展開Beauty Tech Agentic Platform
Payhawk:Financial Controller Agentで50%削減
Burns & McDonnell / Color Health / Comcast / Geotab
Gemini Enterprise Agent Platformの料金体系
Gemini Enterprise Agent Platformとは?
Gemini Enterprise Agent Platform(ジェミニ エンタープライズ エージェント プラットフォーム)は、Google Cloudが2026年4月23日のGoogle Cloud Next '26で発表した、エンタープライズ向けのエージェント開発・運用の統合基盤です。

Google CEOのSundar Pichai氏は、このプラットフォームを「mission control for the agentic enterprise(エージェンティック企業の航空管制)」と位置づけました。
従来のVertex AIが担っていたモデル構築・チューニングに加え、エージェントの統合・オーケストレーション・セキュリティ・DevOpsまでを1つのプラットフォームに集約したのが特徴です。
ポイントを先にまとめると、次のようになります。
- Vertex AIから進化した新しい統合基盤で、モデル選択・モデル構築・エージェント構築を1つのプラットフォームで完結できる
- 4つの柱(Build / Scale / Govern / Optimize)として再構成され、エージェント開発のライフサイクル全体をカバーする
- Gemini 3.1 Pro・Gemini 3.1 Flash Image(Nano Banana 2)・Lyria 3・Claude Opus/Sonnet/Haikuを含む200以上のモデルに対応する
- Agent PlatformはVertex AIの「進化」であり改称ではない。Vertex AI Agent BuilderなどVertex AI系プロダクトの扱いや移行要件は公式ドキュメント・契約条件を確認する
- 新規顧客は$300の無料クレジットで試せ、従量課金モデルでスケールする
Googleによれば、Agent Development Kit(ADK)経由でGeminiモデル上で処理されるトークンは月間6兆トークンを超え、実ユースケース集を公開しています。
もはや「エージェントを作れるか」ではなく「エージェントをどう管理・運用するか」が企業の主要課題になっており、Gemini Enterprise Agent Platformはその回答として設計されています。
Agent Platformの位置づけ
Gemini Enterprise Agent Platformは、より広いGemini Enterpriseという全体コンセプトの一部です
。Gemini Enterpriseは次の2層で構成されます。
| 層 | 名称 | 対象ユーザー | 役割 |
|---|---|---|---|
| 開発者層 | Gemini Enterprise Agent Platform | 開発者・IT部門 | エージェントの構築・デプロイ・ガバナンス・最適化 |
| ユーザー層 | Gemini Enterprise app | 全従業員 | エージェントの発見・実行・管理(エンドユーザー向けハブ) |
この2層構造によって、開発者はAgent Platformで洗練されたエージェントを作り込み、ビジネスユーザーはGemini Enterpriseアプリから自然なUIで利用できる流れが確立されています。
本記事では主に開発者層のAgent Platformに焦点を当てつつ、アプリ層との関係も整理します。
なぜ「統合基盤」なのか

従来のVertex AIでも個別にエージェント関連サービスは提供されていましたが、開発者はAgent Development Kit(ADK)・Vertex AI Agent Builder・Model Garden・Vertex AI Searchなどを個別に組み合わせる必要がありました。
Agent Platformはこれらを1つの管理面とデータ面にまとめ、**Build(構築)→ Scale(スケール)→ Govern(ガバナンス)→ Optimize(最適化)**の一連のライフサイクルを同じ環境で回せるように再設計されています。
特に企業導入で問題になりやすい「エージェント同士の識別・権限管理・監査」に独自の機能(Agent Identity / Agent Gateway / Agent Registry)を備えており、この点が他クラウドとの大きな差別化ポイントです。
Gemini Enterprise Agent Platformが登場した背景

Agent Platformが必要とされた背景には、エージェントAIの実用フェーズが「作る」から「運用する」に移行したという現実があります。
ここでは公式発表から読み取れる主要な動機を整理します。
エージェントの「数」が企業の課題を変えた
2025年から2026年にかけてのエージェントAIブームで、多くの企業が個別のエージェントを構築できるようになりました。しかし、実際に本番運用に近づけるほど、次のような新しい課題が顕在化しています。

- 複数エージェントが同時並行で動作するときの優先順位・権限管理
- エージェントが外部ツールを呼び出す際の認証・認可・監査ログ
- 数日間にわたって稼働する長時間ワークフローの状態管理
- モデル・プロンプト・ツールを変更した際の性能劣化の検知
単発のエージェントを作るのとは違い、数十・数百のエージェントを同時に運用する段階では、開発者が個別にスクリプトや設定を寄せ集める方式では破綻します。
Google Cloudはこの状況を「エージェンティック企業(agentic enterprise)」と呼び、Agent Platformを「その航空管制塔」と位置づけています。
Vertex AI時代からの進化ポイント
これまでのVertex AIは、AIモデルの学習・推論・デプロイを中心に据えたMLプラットフォームでした。一方、Agent Platformはエージェントを第一級の管理対象として再設計されています。主な進化ポイントは次の通りです。

- エージェント固有のID(Agent Identity)と権限管理(Agent Gateway)
- エージェント間連携を前提としたオーケストレーション
- 長期記憶を扱うMemory BankとMemory Profiles
- 実トラフィックでの継続評価(Agent Evaluation)と最適化(Agent Optimizer)
重要なのは、Vertex AI自体が廃止されたわけではないという点です。
Vertex AIのモデル構築・チューニング機能はAgent Platformに統合され、今後すべてのVertex AIサービスとロードマップはAgent Platformを通じて提供される方針です。
規模の拡大という現実
Googleの公式発表では、ADK経由でGeminiモデル上で処理されるトークンは月間6兆を超え、実ユースケース集として1,302件が公開されています。この規模になると、個別のスクリプトやシェル操作では運用し切れません。

もし自社でも「エージェントは作れたが、複数のエージェントが同時に走るようになってから管理が追いつかない」という状態にあるなら、Agent Platformのようなガバナンス機能付き基盤への移行は検討する価値があります。
特に監査要件が厳しい金融・医療・製造業では、後述するAgent Identity / Gateway / Registryが実運用で効いてくる場面が多くあります。
Gemini Enterprise Agent Platformの4つの柱
Agent Platformは**Build(構築)/ Scale(スケール)/ Govern(ガバナンス)/ Optimize(最適化)**という4つの柱で構成されています。以下の表で、各柱の役割と代表機能を整理しました。この表を見た上で、次の節で各柱の詳細を解説します。

| 柱 | 役割 | 代表機能 |
|---|---|---|
| Build | エージェントの開発・設計 | Agent Development Kit、Agent Studio、Agent Garden、Workspaces |
| Scale | エージェントの実行・永続化 | Agent Runtime、Memory Bank、Agent Sessions |
| Govern | セキュリティ・権限・監査 | Agent Identity、Agent Registry、Agent Gateway、Model Armor |
| Optimize | 品質モニタリング・継続改善 | Agent Simulation、Agent Evaluation、Agent Observability、Agent Optimizer |
この表で注目したいのは、単なる「機能の寄せ集め」ではなく、開発者が1つのエージェントをリリースから改善まで回すライフサイクル全体に対応している点です。従来は各プロセスを別サービスで実現していましたが、Agent Platformでは同じメタデータ・同じID体系で横断的に扱えます。
Build(構築)
Buildはエージェントの開発フェーズを支える機能群です。ローコードから本格的なコード開発まで、複数のアプローチを選べる設計になっています。

Agent Development Kit(ADK)
ADKはコードファーストの開発フレームワークで、グラフベースのサブエージェント構成をサポートします。月間6兆トークン以上がADK経由で処理されており、企業のプロダクション利用で実績があります。
Agent Studio
Agent Studioはローコード・ビジュアルインターフェースで、非エンジニアでもエージェントの推論フロー・ワークフローを設計できます。Agent StudioからADKへのコードエクスポートも可能で、プロトタイプから本格実装へスムーズに移行できます。
Agent Garden
Agent Gardenは事前構築されたエージェントテンプレートのライブラリです。コード最新化、財務分析、経済調査、請求書処理など、業務別にすぐ使えるテンプレートが提供されています。
Workspaces
Workspacesはセキュアなサンドボックス環境で、エージェントがbashコマンドを実行したり、ブラウザ操作を行ったりできます。本番環境から隔離されているため、実験的なエージェントでも安全に試せます。
Scale(スケール)
Scaleは構築したエージェントを実運用規模で稼働させるための機能群です。特に「長時間動くエージェント」と「記憶を引き継ぐエージェント」のサポートが強化されています。

Agent Runtime
Agent Runtimeはサブ秒の冷起動と秒単位のプロビジョニングを実現した、スケーラブルな実行環境です。
従来のコンテナベースの実行基盤より、エージェント特有の短時間セッションに最適化されています。
Agent Memory Bank
Memory Bankはエージェントの長期記憶を管理する仕組みです。Memory Profilesで低レイテンシにユーザーごとの文脈を呼び出せ、会話セッションをまたいでも情報が保持されます。後述のPayhawkでは、Memory Bankにより費用提出時間が50%以上削減されています。
Agent Sessions
Agent Sessionsは各エージェント対話の状態を管理します。Custom Session IDsを使うと、既存データベースの会話履歴と紐づけて、マイグレーションなしでAgent Platformに乗せられます。
長時間ワークフローとWebSocket対応
多日ワークフロー対応とWebSocket双方向ストリーミングにより、人間の承認待ちを含む長時間エージェントや、リアルタイム音声・動画処理のエージェントを同一基盤で動かせます。
Govern(ガバナンス)
GovernはAgent Platformの最大の差別化要素です。エージェントを識別・監査・制御する機能群を備えており、コンプライアンス要件が厳しい業界でも使えるように設計されています。

Agent Identity
各エージェントに暗号化された一意のIDを割り当てます。
「誰が」「どのエージェントに指示したか」「そのエージェントがどのリソースにアクセスしたか」を監査ログで追跡できるようになり、企業内での責任分界点が明確になります。
Agent Registry
企業内のエージェント・ツール・MCPサーバーを一元管理するカタログです。
IT部門はAgent Registryで「承認済みエージェント」と「未承認エージェント」を区別でき、シャドーIT化を防げます。
Agent Gateway
Agent Gatewayはエージェントのツール呼び出しを中央集約するポリシー執行点です。
Model Armor統合により、プロンプトインジェクション対策やデータ漏洩防止が標準で効きます。
Agent Anomaly / Threat Detection
統計モデルとLLM-as-a-judgeを組み合わせた異常検知と、リバースシェルや不審なIP接続といった脅威検知が組み込まれています。
Security Command Centerと連携するAgent Security Dashboardで一元監視できます。
Optimize(最適化)
Optimizeは本番稼働後の品質を継続的に保つ機能群です。
エージェントAIはモデル・プロンプト・ツール変更の影響を受けやすいため、評価と改善のループを自動化することが重要です。

Agent Simulation
Agent Simulationは人間らしい合成ユーザーとエージェントを対話させ、リリース前にストレステストを行う機能です。
本番トラフィックを再現した評価が可能になります。
Agent Evaluation
マルチターン自動評価者がライブトラフィックに対して継続的にスコアリングを行います。
本番で性能劣化が起きた場合の早期検知に役立ちます。
Agent Observability
複雑なエージェント推論をビジュアルにトレースできます。
「どのサブエージェントが判断を下し、どのツールを呼び出したか」がグラフで確認でき、デバッグや監査で重宝します。
Agent Optimizer
Agent Optimizerは、実際の障害を自動的にクラスター化し、システムプロンプトの改善提案まで行います。
従来は開発者が手動で分析していた失敗パターンを、継続的な改善ループに自動で組み込めます。
Gemini Enterpriseアプリとの2層構造
Agent Platformを理解する上で重要なのが、開発者向けのAgent Platformと、エンドユーザー向けのGemini Enterprise appが明確に分離された2層構造になっていることです。
この設計は、従来のAIツールにありがちな「開発者と利用者の境界が曖昧」という問題を解消します。

2層構造のイメージ
ここでは、Agent PlatformとGemini Enterpriseアプリの役割を機能単位で整理します。
以下の表で、どの機能がどの層に属するかを示しました。
| 層 | 主要機能 | 利用者 |
|---|---|---|
| Agent Platform(開発者層) | ADK、Agent Studio、Agent Runtime、Memory Bank、Agent Identity、Agent Gateway、Agent Simulation、Agent Observability | 開発者・IT部門 |
| Gemini Enterprise app(ユーザー層) | Agent Designer、Inbox、Skills、Projects、Canvas、Agent Gallery | 全従業員 |
この分離により、開発者は「安全なエージェント基盤」を整備しつつ、ビジネスユーザーは「業務に直結したUI」からエージェントを呼び出せます。同じエージェントが両方の層から一貫して見える点がポイントです。
Gemini Enterpriseアプリの主要機能
Gemini Enterpriseアプリ側では、エンドユーザー向けに次のような機能が提供されています。

Agent Designer
Agent DesignerはGemini Enterprise内のノーコード/ローコードエージェント作成ツールです。チャットボックスに目的を入力するだけで自動でフローが生成され、ビジネスサイドでもエージェントを素早く立ち上げられます。
Inbox
Inboxは稼働中エージェントの状況を一元管理する画面で、「入力必要」「エラー」「完了」でタスクを分類表示します。
複数の長時間エージェントを抱えるチームで特に有用です。
Skills
Skillsは再利用可能なワークフローをコード化する仕組みで、ブランドガイドラインの適用や標準帳票の出力など、部門横断で共通化したい処理をまとめておけます。
Projects
Projectsはチームとエージェントが共同作業する動的なワークスペースです。エージェントが案件ごとに必要な権限・データを分離しつつ作業できます。
Canvas
CanvasはGoogle Docs/Slidesと統合したエディタで、Microsoft 365との相互運用性も備えています。
Microsoft 365 OneDriveのコンテキスト統合や、Microsoft Office形式へのエクスポートにも対応しているため、既存のWorkspace/Office混在環境でも使えます。
Agent Gallery
Agent GalleryはGoogle純正・社内製・パートナー製エージェントを一元管理するハブで、Adobe・Salesforce・ServiceNow・Workdayなどのパートナー製エージェントにもアクセスできます。
Agent Marketplace経由ではAccenture・Oracle・ServiceNowのエージェントも提供されています。
BYO-MCPとA2Aで広がるエコシステム
Gemini Enterpriseは**BYO-MCP(Bring Your Own Model Context Protocol)**に対応しており、MCPサーバー経由で自社の業務ツール・内部ワークフローをエージェントに接続できます。
また、Agent2Agent(A2A)プロトコルはGoogleが2025年4月に発表し、2025年6月にLinux Foundation配下のプロジェクトとなったオープン規格で、異なるベンダーのエージェント同士を連携させる基盤になっています。

実務上は「まず既存のSalesforce/ServiceNowエージェントをAgent Galleryから呼び出してPoCを始め、社内固有の処理はBYO-MCPで拡張する」という段階的な導入が現実的です。いきなり全部を社内でゼロから作る必要はなく、エコシステムで埋められる部分はエコシステムに任せるのが実装を早める近道です。
Vertex AIからの進化と既存資産の扱い
Agent Platformを理解する上で、**「Vertex AIの改称ではなく進化である」**という点は絶対に押さえておく必要があります。この区別を誤ると、既存Vertex AIユーザーの移行計画や契約交渉で大きな齟齬が生じます。

「進化」の意味を正確に押さえる
Google Cloud公式の表現を正確に引用すると、Agent Platformは**「Vertex AIのモデル構築・チューニング機能に、新しいエージェント統合・セキュリティ・DevOps機能を加えて作られた統合プラットフォーム」**です。以下の2点を混同しないことが重要です。

- Vertex AIの個別機能がAgent Platformに統合された(モデル選択・モデル構築・チューニング)
- 今後、Vertex AIサービスとロードマップはAgent Platformを通じて提供される
Google Cloud公式は、「今後、すべてのVertex AIサービスとロードマップはAgent Platformを通じて提供される」と発表しており、新機能・新サービスの追加先はAgent Platformに一本化されます。
Vertex AI Agent BuilderなどVertex AI系プロダクトが今後どのように扱われるか、既存ワークフローの移行タイミングや強制度合いについては、公開一次ソースだけでは読み切れない部分もあるため、実プロジェクトでは公式ドキュメントとアカウントチームへの確認が前提になります。
Vertex AI Agent Builderとの関係
特に注意したいのが、Vertex AI Agent Builderの扱いです。Agent BuilderはVertex AI時代からの主要なエージェント開発サービスですが、Agent Platform登場後のAgent Builderの提供条件・今後のアップデート方針は、現時点の公開一次ソースだけでは確定できない部分があります。

以下の表は2026年4月時点の公開情報から読み取れる位置づけを整理したものです。実際のプロジェクト判断では、必ずGoogle Cloudの公式ドキュメント・アカウントチーム経由で最新の扱いを確認してください。
| 観点 | Vertex AI Agent Builder | Gemini Enterprise Agent Platform(新) |
|---|---|---|
| 主な用途 | 会話型エージェントの構築(Dialogflow系) | エンタープライズエージェント全般の構築・運用 |
| 新機能の追加先 | 公開情報では明示なし | 今後の新機能はこちらに集約 |
| ガバナンス機能 | Vertex AI既存のIAM等 | Agent Identity・Gateway・Registry |
| 今後の扱い | 公式ドキュメント・契約条件で要確認 | 段階的に移行検討 |
この表から読み取れるのは、新規のエージェント開発プロジェクトはAgent Platformで始めた方が長期的には合理的だということです。既存のAgent Builderユーザーがどのタイミングで移行すべきかは、契約プラン・利用機能・サポート条件によって変わるため、導入時点の一次ソース確認が欠かせません。特にガバナンス機能を重視する場合、Agent Platformの新機能は避けて通れません。
移行時に詰まる論点
AI総合研究所の支援事例で多い移行時の詰まりポイントを、先回りで整理しておきます。

- 既存のVertex AI Workbench資産はどうなるか: Model Garden・Vertex AI Searchなど一部機能はAgent Platformから呼び出せるが、コンソール画面とIAM権限は移行期に混在する
- 課金体系の変化: モデル利用料は継続するが、Agent Identityなど新機能の料金が追加される可能性がある(料金セクションで後述)
- Agent Builderで作ったDialogflow CX資産: 既存フローの動作・移行要否は公式ドキュメントと契約条件で確認が必要。新規拡張はAgent Platform側での実装が合理的
- Memory Bankと既存DBの共存: Custom Session IDsで既存会話ログを継続利用できるため、完全移行ではなく段階移行が現実的
移行計画を立てる際は、「Agent Platformへの一斉移行」ではなく「新規プロジェクトからAgent Platformを採用し、既存Vertex AI資産の扱いは公式ドキュメントと契約条件を確認しながら段階的に判断する」というハイブリッド運用を前提に設計することをおすすめします。コンプライアンス要件で監査ログの一元化が必須な場合を除き、無理な一斉移行はコストとリスクが見合いません。
Gemini Enterprise Agent Platformの対応モデルとエコシステム
Agent Platformが「マルチLLM運用前提」で設計されている点は、企業導入を検討する際の重要な判断材料です。ここでは対応モデルを整理し、そのうえでMCP・A2Aといった相互運用プロトコルとの関係を見ていきます。

Google純正モデル
Agent Platformでは、Google DeepMindが提供する主要モデルにファーストクラスでアクセスできます。次のリストは2026年4月時点の公式発表ベースです。

- Gemini 3.1 Pro — 推論・コーディング・長文処理の主力モデル
- Gemini 3.1 Flash Image(Nano Banana 2) — 高速な画像生成・編集モデル
- Lyria 3 — 音声・音楽生成モデル
- Gemma 4 — 公開されたオープンウェイトモデル
Google純正モデルは、Agent Platformの管理面・監査機能と深く統合されており、課金・トラフィック制御・コンテキスト管理などで一貫した運用ができます。
サードパーティモデル:Anthropic Claude対応
Agent Platformの注目点の1つが、AnthropicのClaude Opus・Sonnet・Haikuに対応していることです。これまで「エージェント基盤選び=モデルベンダー選び」になりがちでしたが、Agent Platformでは同じプラットフォーム上でGemini系とClaude系を使い分けられます。

- Claude Opus系: 高難度の推論・長文読解が必要なシーン
- Claude Sonnet系: コストと性能のバランスが重要なシーン
- Claude Haiku系: 大量処理・低レイテンシが求められるシーン
実務では、バックオフィスのエージェントはコスト優先でHaiku系、顧客対応の高精度エージェントはOpus系、といったモデル使い分け戦略が取れます。
Model Gardenで200以上のモデルにアクセス
Google純正・サードパーティに加え、Agent PlatformはModel Garden経由で200以上のモデルにアクセスできます。MetaのLlama、スタートアップ製オープンモデル、業界特化型モデル(医療・金融など)が含まれ、コンプライアンスやデータ主権の要件に合わせた選定が可能です。
MCPとA2Aで広がる相互運用性
Agent Platformはプロトコルレベルでも開放的な設計を採用しています。

- MCP(Model Context Protocol): 外部ツール・データ連携のオープン規格。BYO-MCPで既存の社内ツールを接続可能
- Agent2Agent(A2A): エージェント同士の連携プロトコル。2025年4月にGoogleが発表し、2025年6月にLinux Foundation配下のプロジェクトになった
- Agent Payment Protocol(AP2): PayPalと共同開発されたエージェント決済プロトコル
MCPとA2Aは業界共通のオープンスタンダードとして定着しつつあり、Agent Platformで開発したエージェントが他ベンダーのエージェントと連携する道も確保されています。特定ベンダーに強くロックインされるリスクを抑えたい場合、この「オープンプロトコル対応」は判断材料になります。
AWS Bedrock AgentCore・Azure AI Foundryとの比較
エンタープライズエージェント基盤は2025〜2026年に3大クラウドすべてで出揃いました。ここではAWS Bedrock AgentCore、Azure AI Foundry、Gemini Enterprise Agent Platformを機能・ポジションの両面から比較します。

3社比較表
以下の表で、3プラットフォームの主要機能を整理しました。この表の後で、どのケースでどの基盤が有利かの読み解きを示します。
| 観点 | Gemini Enterprise Agent Platform | AWS Bedrock AgentCore | Azure AI Foundry |
|---|---|---|---|
| 提供開始 | 2026年4月(Cloud Next '26) | 2025年10月(GA) | 2024年〜継続進化 |
| 主力モデル | Gemini 3.1 Pro、Claude、200+モデル | Claude(Anthropic)、Titan、Llama等 | GPT-5、Phi、OpenAIモデル中心 |
| ランタイム | Agent Runtime(サブ秒起動) | AgentCore Runtime | Azure AI Agent Service |
| メモリ | Memory Bank + Memory Profiles | 短期・長期メモリ | Agent Memory(プレビュー) |
| ガバナンス | Agent Identity / Gateway / Registry | Identity + Gateway + Policy | Microsoft Entra統合 |
| 可観測性 | Agent Observability + Optimizer | AgentCore Observability | Foundry Observability |
| 差別化 | Google Workspace/BigQuery連携、A2A主導 | AWSサービス統合、Anthropic最深連携 | Microsoft 365/Copilot統合、OpenAI直結 |
| オープンプロトコル | MCP + A2A(Google主導) | MCP対応 | MCP + A2A対応 |
この比較から浮かび上がるのは、3社とも基本機能(ランタイム・メモリ・ガバナンス・観測)は揃えたうえで、エコシステム統合の強さで差別化している点です。どのクラウドを選ぶかは、既存のIT資産がどこに寄っているかで決まる部分が大きくなっています。
Agent Platformが有利なケース
以下のようなシナリオでは、Agent Platformを第一候補として検討する価値があります。

- Google Workspaceを全社で使っている: Gmail・Docs・Meetと深く連携するエージェントを構築できる
- BigQueryベースのデータ基盤がある: Agentic Data Cloud・Knowledge Catalog経由でシームレスに連携
- マルチLLM運用(Gemini + Claude)が必須: 他社より柔軟な切替が可能
- A2Aプロトコルでのエージェント間連携を重視: Google主導の規格で先行
- ロボティクス・マルチモーダル領域の拡張を視野に: Lyria 3・Nano Banana 2などの統合
Bedrock AgentCore / Azure AI Foundryが有利なケース
逆に、以下のようなシナリオでは競合プラットフォームが向きます。

- 既存がAWS中心: S3・Lambda・SageMakerとの統合を取るならAgentCore
- Claude最深連携を最優先: AnthropicとAWSの戦略提携があり、Claude系の新機能がAgentCoreに先に出ることが多い
- Microsoft 365・Copilot基盤と統合: FoundryがMicrosoft Agent Frameworkと合わせてスムーズ
- OpenAI GPT-5系が主力モデル: FoundryはOpenAIに直結
実装支援の現場感覚では、「既存データ基盤がどこにあるか」と「すでに使っているSaaSがどこ寄りか」を判断軸にすると迷わずに済みます。マルチクラウド運用前提の場合でも、エージェント基盤は1つに集約した方が運用コストは下がります。
Gemini Enterprise Agent Platformの活用事例
Cloud Next '26の発表では、複数の企業がAgent Platformの導入事例を公開しています。数値効果が明らかになっているものを中心に紹介します。

ぐるなび(日本):レストラン発見AI「UMAME!」
ぐるなびは、Agent PlatformのMemory Bankを活用してレストラン発見AI「UMAME!」を構築しました。Memory Bankでユーザーの過去の来店履歴・嗜好を長期記憶として保持し、ユーザー満足度が約30%向上する見込みだと発表されています。

日本企業の事例として、Agent Platformの長期メモリ機能がレコメンド精度向上にどう効くかを示す代表例です。
PayPal:エージェント決済基盤
PayPalはADKと**Agent Payment Protocol(AP2)**を組み合わせ、エージェント同士が決済を仲介する新しい基盤を構築しました。複数エージェントが自律的に取引を行う未来を見据えた事例で、ビジュアルツールでエージェント間の相互作用を可視化しながら開発が進められています。

L'Oréal:グローバル展開Beauty Tech Agentic Platform
L'OréalはADKとMCP(Model Context Protocol)を組み合わせ、Beauty Tech Agentic Platformを構築しました。Google Cloudが持つ「resilience・multi-LLM flexibility・enterprise-grade trust framework」を評価し、グローバルスケールでのデプロイに採用しています。

Payhawk:Financial Controller Agentで50%削減
PayhawkはMemory Bankを活用し、Financial Controller Agentを開発しました。ユーザーの経費申請習慣を記憶することで、費用提出時間を50%以上削減しています。

Burns & McDonnell / Color Health / Comcast / Geotab
以下の事例は数値効果の詳細が公開されていないものの、Agent Platformの採用が確認されています。
- Burns & McDonnell: ADKで数十年のプロジェクトデータをリアルタイムアクションに変換
- Color Health: Virtual Cancer Clinicでエージェント型のがん検診サービスを展開
- Comcast: Xfinity Assistantをマルチエージェントアーキテクチャで再構築
- Geotab: ADKを中核に、社内にエージェントCenter of Excellence(CoE)を設立
これらの事例から見えるのは、Agent Platformが「多様な業界・多様なユースケース」で採用されている点です。金融・コスメ・医療・モビリティ・メディアと業界横断で実装事例が揃っており、どの業界でもテンプレートに近い参考事例が見つかりやすい状況になっています。
Gemini Enterprise Agent Platformの料金体系
料金は大きく分けてAgent Platform側の従量課金とGemini Enterpriseアプリ側のサブスクリプションの2層で構成されます。2026年4月時点の情報を整理します。

Agent Platform側:従量課金の構成要素
Agent Platform自体は「使った分だけ払う」従量課金モデルで、2026年4月時点で公式の生成AI価格ページから確認できる主な公開価格要素は次の通りです。

- モデル利用料(トークン単位、Gemini・Claude・Model Garden各モデル)
- Grounding料金(Google検索・エンタープライズ検索の利用)
- Provisioned Throughput(予約枠を確保する運用向け)
上記以外にも、Agent Gateway経由のツール呼び出し・Agent Runtime/Simulationの稼働・Memory Bankのストレージ・Agent Identity/Registry/Observabilityといった各機能には課金が発生する可能性がありますが、詳細料金の粒度は2026年4月時点では公式価格ページ上で明示されていない部分があります。実費試算を行う場合は、公式価格ページに加えてGoogle Cloudアカウントチームへの見積もり依頼を前提にしてください。
モデル利用料の具体例として、2026年4月時点のGemini 3 Flashは入力$0.5 / 100万トークン、出力$3 / 100万トークンです。Gemini 3 Pro・Claude各モデルはモデルごとに料金が異なり、最新の価格はGoogle Cloud公式の料金ページで確認する必要があります。
新規顧客向け$300無料クレジット
Google Cloud全体の施策として、新規顧客は$300の無料クレジットをAgent Platformや他のGoogle Cloudサービスに使えます。90日以内に使い切らず、かつ有料アカウントにアップグレードしない場合、無料トライアルアカウントは停止されます。
このクレジットは、PoCの初期費用を抑えられる可能性がある額として位置づけられます。実際に収まる範囲は利用モデル・トークン量・稼働時間によって変動するため、PoC範囲と成功指標を事前に決めてから開始することをおすすめします。
Gemini Enterpriseアプリ側:サブスクリプション
エンドユーザーがGemini Enterpriseアプリを利用する場合、Gemini Enterpriseの有料エディションが必要です。2026年4月時点で公開されているエディションは次の通りです。
| エディション | 公開価格 | 対象 |
|---|---|---|
| Business | $21 / ユーザー / 月 | 中小規模・スモールスタート向けの標準エディション |
| Standard | starting at $30 / ユーザー / 月 | 基本的なエージェント利用+拡張機能 |
| Plus | starting at $30 / ユーザー / 月 | 高度な統合・エンタープライズ機能 |
| Frontline | 問い合わせ | フロントライン従業員向けの限定エディション |
Standard・Plusは「starting at」価格であり、具体的な金額は利用規模や契約条件によって変動します。大規模展開やFrontlineエディションの詳細はGoogle Cloudアカウントチームへの問い合わせが前提です。また、価格はサブスクリプション型のため、Azure・AWSのようなリージョン別価格ではなく、契約条件によって決まります。
料金の全体像とPoC設計
上記の2層構造を踏まえると、開発者がAgent Platformで試作する段階では$300の無料クレジットが小規模PoCの初期費用を抑えられる可能性があり、本格的に全社展開する段階ではGemini Enterpriseアプリのユーザーライセンスが主要コストになります。以下のPoC設計を推奨します。

- Phase 1(1〜2ヶ月): $300無料クレジットを活用し、範囲を絞ったPoCを試作。Agent Studioで素早くプロトタイピング
- Phase 2(3〜6ヶ月): 従量課金に移行し、Memory Bank・Agent Identityを導入した本格エージェントを構築。一部のパワーユーザー向けにGemini Enterpriseアプリを配信
- Phase 3(6ヶ月以降): 全社展開。Gemini Enterpriseアプリのライセンスを段階的に追加し、Agent Registry・Agent Gateway経由でガバナンスを確立
この段階設計により、初期投資を抑えつつ、ガバナンスと運用体制を育てながらスケールできます。いきなり全社ライセンスに踏み切るより、Phase 1〜2で「自社にとっての本当に効くユースケース」を特定してから拡大する方が、投資対効果の見通しが立ちやすくなります。
自社のエージェントAI基盤を国産マルチLLM環境で構築する
Gemini Enterprise Agent Platformのような海外クラウドの新基盤は、Google Workspace・BigQueryなど既存のGoogle Cloud資産と深く統合できる強力な選択肢です。一方で、日本企業特有の業務慣習・オンプレミス環境との連携・セキュリティ要件への適合となると、海外クラウドだけで完結させるのは難しい場面が少なくありません。
AI総合研究所では、Gemini・Claude・GPTを含むマルチLLM環境で企業ごとのエージェント基盤を構築する「AI Agent Hub」を提供しています。クラウド/オンプレを問わず、PoCから本番運用まで一貫した伴走支援で、Agent PlatformやBedrock AgentCoreの導入と並行して社内標準基盤を整えたい企業に選ばれています。
自社のエージェントAI基盤を国産マルチLLM環境で構築する
AI Agent Hubでマルチクラウド時代のエージェント運用を現実解に
Gemini Enterprise Agent Platformのような海外クラウドの新基盤は強力ですが、日本企業の業務慣習・セキュリティ要件・既存システムに合わせた形で導入するには伴走支援が不可欠です。AI総合研究所の「AI Agent Hub」は、Gemini・Claude・GPTを含むマルチLLM対応のエージェント構築環境と、PoCから本番運用までの実装伴走を1パッケージで提供します。
まとめ
Gemini Enterprise Agent Platformは、Vertex AIから進化したエンタープライズ向けエージェント統合基盤として、Build / Scale / Govern / Optimizeの4つの柱でエージェントのライフサイクル全体をカバーします。Gemini 3.1 Pro・Claude・Model Garden 200以上のモデルに対応し、Agent Identity・Gateway・Registryといったガバナンス機能で他クラウドに対する差別化を図っています。
特に次の3つが実務での価値につながる要素です。
- Vertex AIからの連続性と、新機能を集約した一本化: 既存Vertex AI資産を活かしつつ、新機能はAgent Platformに集約され、将来性が確保されている
- マルチLLM前提の設計: Gemini系とClaude系を同一基盤で使い分けでき、モデル選定の柔軟性が高い
- ガバナンス機能の標準装備: Agent Identity・Gateway・Registryが最初から組み込まれており、コンプライアンス要件が厳しい業界でも本番運用に載せやすい
次のステップとしては、まず**$300クレジットを活用した小規模PoC**から始めるのが現実的です。新規顧客向けの$300クレジットは小規模PoCの初期費用を抑えられる可能性があり、Agent Studioで1〜2個のプロトタイプエージェントを構築して自社での効果を確かめた上で、Memory Bank・Agent Identityを段階的に導入していく流れが、投資対効果の見通しを立てやすい進め方です。
既にVertex AIを活用している場合は、新規プロジェクトからAgent Platform起点に切り替え、既存資産の扱いは公式ドキュメント・契約条件を確認しつつ段階的に移行判断するハイブリッド戦略で、移行コストとリスクのバランスを取れます。Bedrock AgentCoreやAzure AI Foundryとの選定に迷う場合は、既存データ基盤とSaaSの寄り先を軸にすれば、判断はおのずとシンプルになります。








