この記事のポイント
Physical Intelligenceは「ハードを作らないロボットAIの本命」で、単一モデルで多様なロボットを動かす戦略に業界資金が集中している
π系モデルは約18か月で5世代(π0→π0-FAST→π0.5→π*0.6→π0.7)と進化が速く、技術トレンドを追うならπ0.7の「未学習タスク実行」が現在地
$11B超の企業価値は「ロボット版OpenAI」の期待水準。NVIDIA GR00Tとは違い、モデル層のみで独立事業を狙う点が特異
OSS版openpi(π0・π0-FAST・π0.5)は研究用途で試せるが、π*0.6・π0.7は非公開。商用検証はローンチパートナー経由が現実解
日本のTelexistenceがPI提携でコンビニ向け飲料補充を推進中(TX SCARAはFamilyMart 300店舗展開実績あり)。国内SIerが「ロボット×基盤モデル」で相談を受ける際の第一想起社になる

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Physical Intelligence(フィジカル・インテリジェンス、通称π)は、Sergey Levine・Karol Hausman・Chelsea Finn・Brian Ichter・Lachy Groom・Adnan Esmail・Quan Vuongの7名が2024年に設立した、あらゆるロボットで動く「汎用脳」を作るサンフランシスコ発のスタートアップです。
ハードウェアは作らず、VLA(Vision-Language-Action)モデルを「独立した事業レイヤー」として提供する戦略を取り、フィジカルAI(物理AI)領域の本命企業の一角に位置します。2024年10月の初代π0以降、約18か月で5世代のモデルを立て続けに公開し、2026年3月には$11B超の企業価値でシリーズC相当$1Bを追加調達交渉中と報じられています。
本記事では、Physical Intelligence社の会社定義とミッション、創業チームと$11B調達の意味、π0からπ0.7までの5世代モデル系譜、各モデルの技術的特徴(Flow Matching・FAST tokenization・Open-world generalization・RECAP法・Emergent capabilities)、openpi(OSS)の使いどころ、NVIDIA GR00T・Figure Helix・Gemini Roboticsとの競合マップ、日本のTelexistence提携、そして商用化までの距離と今後の展望を2026年7月時点で体系的に解説します。
目次
Physical Intelligence(π)とは?あらゆるロボットで動く「汎用脳」を作るスタートアップ
Physical Intelligenceの「ハードを作らない」戦略の意味
Physical Intelligenceの創業チームと資金調達——なぜ$11B超のvaluationか
π0——初代generalist policyとVLA×Flow Matchingの設計
π0のアーキテクチャ——VLM + Flow Matching action expert
Cross-embodiment——複数種類のロボットで動く
π0-FAST——FASTトークナイザで5倍高速化した自己回帰型VLA
Flow Matching vs FAST——使い分けと性能トレードオフ
π0.5——Open-world generalizationで「初見の家」でも動くVLA
Open-world generalizationが解いた課題
π0からの進化点——約100環境到達で「テスト環境並みの性能」
π0.7——Steerableで未学習タスクを解くEmergent Capabilities
π0.7のアーキテクチャ——Gemma 3ベースの4B VLM+860M action expert
Emergent capabilities——訓練データにないタスクを実行
Steerable——「同じタスクを違うやり方で」制御できる
openpi——GitHub公開のOSS版と商用グレードVLAの試し方
Physical Intelligenceの競合マップ——NVIDIA GR00T・Figure Helix・Gemini Roboticsとの位置づけ
日本市場との関わり——Telexistence提携とコンビニ飲料補充
Telexistence提携の内容——コンビニ向け飲料補充ロボット
Physical Intelligence(π)とは?あらゆるロボットで動く「汎用脳」を作るスタートアップ

Physical Intelligence(フィジカル・インテリジェンス、通称「π」または「PI」)とは、2024年2月にサンフランシスコで設立された、ロボット向け基盤AIモデルを開発するスタートアップです。
同社は「bringing general-purpose AI into the physical world」を掲げ、あらゆる形状・用途のロボットを単一のAIモデルで動かせる「汎用ロボット脳」の実現を目指しています。
2026年現在、Physical Intelligenceは単なる研究会社にとどまらず、$11B(約1.7兆円)超の企業価値でシリーズC相当$1Bの追加調達を交渉中と報じられる、ロボットAI領域の最重要プレイヤーの一社です。

Physical Intelligenceが掲げる会社ミッション(出典:Physical Intelligence)
Physical Intelligenceの「ハードを作らない」戦略の意味

Physical Intelligenceが業界で特異な位置にいる理由は、自社でロボット本体を作らない点にあります。
同社が開発するのはπ(パイ)と名付けられたVision-Language-Action(VLA)モデルそのもので、既存のロボットアーム・ヒューマノイド・移動ロボットに「知能層」を供給する構造を目指しています。
2026年時点で一般販売パッケージは提供されておらず、TechCrunchも同社に明確な商用化タイムラインがない旨を伝えているため、実装はパートナー企業との共同検証・カスタマイズが中心のフェーズにあります。
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Figure AI・1X Technologies・Tesla Optimus
ヒューマノイド筐体を自社設計し、AIモデルとハードを一体で提供する垂直統合型
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NVIDIA GR00T・Google Gemini Robotics
自社ハードを持たないが、シミュレータや開発ツールと一体でモデルを提供するプラットフォーム型
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Physical Intelligence
モデルレイヤーのみに集中し、あらゆるロボットで動く「クロスエンボディメント」に特化した独立モデル層
ここでのポイントは、「どのロボットで動くか」に縛られないモデル層を作ることで、ロボット業界全体のインフラになるという戦略設計です。
LLMがChatGPT/Claude/Geminiという「モデル層」を独立事業として成立させたのと同じ構造を、ロボットの物理制御領域で狙っているのがPhysical Intelligenceの本質です。
Physical Intelligenceの創業チームと資金調達——なぜ$11B超のvaluationか

Physical Intelligenceが業界で異例なのは、設立からわずか2年で企業価値$11Bに到達しつつあるそのペースです。
本セクションでは、なぜ同社がこれほどの調達水準に達したかを、創業チームの構成と調達推移の2軸で整理します。
創業チームは「ロボット学習の第一人者」で構成

Physical Intelligenceの創業チームは、深層強化学習・ロボット模倣学習・メタ学習の各領域で第一線の研究者が集結しています。
同社の初期プレスリリースおよびCapitalGのブログによれば、創業メンバーとリーダー陣は以下のとおりです。
| 役割 | 氏名 | 出身・背景 |
|---|---|---|
| CEO | Karol Hausman | 元Google Brain Robot Manipulation Lead、Stanford兼任教授 |
| Chief Scientist | Sergey Levine | UC Berkeley教授、深層強化学習ロボティクスの草分け |
| Research Lead | Chelsea Finn | Stanford教授、MAML(Model-Agnostic Meta-Learning)考案者 |
| Co-founder | Brian Ichter | 元Google Brain、RT-2・SayCan論文の主著者 |
| Co-founder | Quan Vuong | 元Google DeepMind、RT-2・RT-X等の主著者 |
| Co-founder | Adnan Esmail | オペレーション・事業開発担当 |
| Co-founder | Lachy Groom | 元Stripe、シリコンバレーの著名エンジェル投資家 |
この顔ぶれから読み取れるのは、「ロボット学習の学術系トップ研究者」と「Google Brain・OpenAI・Stripeのプロダクト経験者」を一枚岩に組み合わせた構成である点です。
論文実装で終わらせず、モデルをプロダクト化してマルチロボットに展開する「橋渡し力」を最初から内蔵しているチーム設計になっています。
$70M→$400M→$600M→$1Bの調達推移

Physical Intelligenceの調達履歴は、シードから2年で累積$2Bに達しつつある異例の速さです。
以下の表で、これまでの主要な調達ラウンドを整理しました。
| ラウンド | 時期 | 調達額 | 企業価値 | 主要投資家 |
|---|---|---|---|---|
| シード(プレA) | 2024年上半期 | 約$70M | 非公表 | Thrive Capital、Lux Capitalほか |
| シリーズA | 2024年11月 | $400M | 約$2.4B | Jeff Bezos、Lux Capital、Thrive Capital |
| シリーズB | 2025年11月 | $600M | 約$5.6B | CapitalG主導、Lux Capital、Thrive Capital、Jeff Bezos |
| シリーズC相当(交渉中) | 2026年3月〜 | 約$1B | $11B超 | Founders Fund、Lightspeed Venture Partners、既存投資家 |
特に注目すべきは、シリーズB($5.6B)からシリーズC相当($11B超)まで、わずか4か月で企業価値がほぼ倍増している点です。
これはGPT-4以降のOpenAIやAnthropicが辿った成長曲線とほぼ同じテンポで、投資家が「ロボット領域における基盤モデル勝者の一角」としてPhysical Intelligenceに賭けている構図が読み取れます。
$11B valuationが業界で意味するもの
$11B超の企業価値は、ロボットAI領域で見ると突出した水準です。
同時期に資金調達を進めている競合各社と比較すると、Physical Intelligenceの位置づけがより鮮明になります。ハード込みで見ればFigure AIが$39B超という報道もある一方、モデル層のみで独立事業を成立させようとしている企業としては、Physical Intelligenceが有力な先行企業の一角として独自のポジションを築いています。
投資家サイドは、LLMにおけるOpenAI・Anthropicの構造を「ロボット領域でも再現できるか」という賭けをしており、その本命枠にPhysical Intelligenceを置いている、というのが2026年時点での実務観察です。
πモデル系譜——π0からπ0.7まで5世代の時系列整理

Physical Intelligenceが提供するモデル群は、総称して「π(パイ)」シリーズと呼ばれます。
2024年10月の初代π0から2026年4月のπ0.7まで、わずか18か月で5世代のモデルが公開されており、ロボット基盤モデル領域における研究〜プロダクト化サイクルの速さを象徴しています。
πモデル5世代の全体マップ
以下の表で、π0からπ0.7までの5世代モデルを時系列に整理しました。各モデルは前世代を継承しつつ、特定の課題を解く技術要素を新たに導入する形で進化しています。
| モデル | 公開日 | 中核となる技術要素 | 代表的な到達点 |
|---|---|---|---|
| π0 | 2024年10月31日 | Flow Matching + VLM、Cross-embodiment | 初の汎用ロボットポリシー、7構成・68タスクの大規模事前学習データで訓練 |
| π0-FAST | 2025年1月16日 | FAST(Frequency-space Action Sequence Tokenization) | 自己回帰型VLA、Flow Matching比5倍の学習速度 |
| π0.5 | 2025年4月22日 | Open-world generalization、コトレーニング | 未見の家庭で家事タスクをOOD 94%成功 |
| π*0.6(π0.6) | 2025年11月17日 | RECAP法(RL + Corrections) | 経験学習で18時間連続エスプレッソ、失敗率1/2 |
| π0.7 | 2026年4月16日 | Steerable、Emergent capabilities、Gemma 3基盤 | 未学習タスクの実行、多様なマルチモーダルプロンプト |
この系譜が示すのは、**「まず動かす(π0)→速度を上げる(π0-FAST)→新環境で動かす(π0.5)→経験から学ぶ(π*0.6)→未学習タスクをこなす(π0.7)」**という、汎用ロボットポリシーが解くべき課題を1つずつ潰していく道筋です。
各世代が「単なる性能向上版」ではなく、汎用ロボットポリシーが乗り越えるべき技術的関門を1つずつ潰した設計になっている点が、他社の連番アップデートとは違います。
進化の軸——「アーキテクチャ」から「経験学習」へ

5世代のπモデルを進化軸で見ると、大きく2つのフェーズに分けられます。
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フェーズ1(π0〜π0-FAST〜π0.5):アーキテクチャの確立
Flow Matchingベースの行動生成、FASTトークナイザによる高速化、Open-world汎化と、モデルの「基本設計」を固めた時期
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フェーズ2(π*0.6〜π0.7):経験と汎化能力の拡張
RECAP法による強化学習と修正、Gemma 3ベースの大規模VLMバックボーン、Emergent capabilitiesによる未学習タスク実行と、「学び方」そのものを進化させる時期
特にπ0.7の「Emergent capabilities(創発的能力)」は、LLMがGPT-3〜GPT-4で見せた飛躍と類似する現象で、ロボット領域でも「スケール則」が効き始めていることの一つの兆候として注目されています。
以降のセクションでは、各モデルの技術的特徴と実用面での意義を1つずつ詳しく整理していきます。
π0——初代generalist policyとVLA×Flow Matchingの設計

π0が制御対象とする複数のロボットプラットフォーム(出典:Physical Intelligence)

π0(パイ・ゼロ)は、2024年10月31日にPhysical Intelligenceが公開した同社初のロボット向け汎用ポリシーモデルです。
公式ブログ「π0: Our First Generalist Policy」によれば、π0は「多様なロボット・タスクにまたがる大規模データで学習した、単一の汎用ポリシー」として設計されており、それまでのロボット学習が「タスクごとに個別モデルを訓練する」パラダイムだったのを大きく転換した位置づけです。
π0のアーキテクチャ——VLM + Flow Matching action expert

π0の中核設計は、Vision-Language Model(VLM)+ Flow Matching action expert という2階層構成です。
視覚と言語を処理する上位モジュールと、連続的な行動軌跡を生成する下位モジュールが役割分担する形で組まれています。
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上位モジュール(VLMバックボーン)
画像・言語指示を入力とし、内部表現に変換するVision-Language Model。PaliGemmaベースで初期化されたトランスフォーマー
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下位モジュール(Action expert)
上位モジュールの表現を受け取り、ロボットの関節角度・グリッパー開閉などの連続的な動作を生成する専用モジュール
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Flow Matching
Action expertが採用する連続値生成手法。ノイズから正解軌跡へ「流れ」を学習することで、離散トークン化を経ずに滑らかな動作系列を出力できる
この構成が示すのは、LLMのように離散トークンを扱う上位層と、ロボット制御のように連続値を扱う下位層を明示的に分離する設計思想です。
Flow Matchingは拡散モデル系の発展形で、未来50ステップ分の動作系列(アクションチャンク)を一度に生成できるため、1ステップごとに次動作を予測する従来手法と比べて時間方向の整合性が高くなります。
Cross-embodiment——複数種類のロボットで動く

π0のもう一つの重要な設計思想が、Cross-embodiment(クロスエンボディメント)——異なる形状・動作機構のロボットのデータを混ぜて学習し、単一モデルで複数種類のロボットを動かせるようにする発想です。
π0公式ブログによれば、Physical Intelligenceは、7種類以上の異なるロボットプラットフォームから収集した10,000時間以上の実機データでπ0を訓練しました。
対象タスクの例は以下のとおりです。
- ドライヤーから洗濯物を取り出して畳む(家庭)
- テーブルを片付けて食器をバスから食洗機へ移す(家庭)
- 箱を組み立ててラベルを貼る(倉庫・工場)
- 卵を割らずにケースに収めて蓋を閉じる(食品加工)
- コーヒーマシンで飲料を抽出する(サービス業)
Physical Intelligence社の公式ブログとテクニカルレポートによれば、π0は7構成・68タスクからなる大規模事前学習データで訓練され、複数の評価タスクで既存のVLA手法を上回る性能を示しました。
初代モデルにして「実運用に手が届く水準」に到達したことが業界に大きなインパクトを与えています。
π0はロボット領域における「GPT-3モーメント」
多くの研究者が、π0の登場を**ロボット領域における「GPT-3モーメント」**と評しました。
理由は明確で、「大規模データで訓練された単一モデルが、事前想定されていない多様なタスクを高精度でこなせる」ことを、それまでのロボット学習が実現できていなかったからです。
π0が示したのは、LLMで機能した「スケール則 + 汎用モデル」の設計原理が、ロボットの物理制御領域でも通用するという実証でした。
π0-FAST——FASTトークナイザで5倍高速化した自己回帰型VLA


FASTトークナイザが行動系列を自己回帰型VLAに変換する仕組み(出典:Physical Intelligence)
π0-FASTは、2025年1月16日に公開されたπ0の自己回帰型バリアントです。
初代π0が採用したFlow Matchingは動作の滑らかさで優れる一方、学習に時間がかかるという課題がありました。
π0-FASTはこの課題を解決するため、FAST(Frequency-space Action Sequence Tokenization)という新しい行動トークン化手法を導入しています。
FASTトークナイザの仕組み——DCTで連続値を離散化

FASTの核心は、連続的な行動系列を離散トークンに圧縮することで、LLMと同じように自己回帰的に行動を生成できるようにする点です。
以下の手順で連続値の動作を離散トークン列に変換します。
-
Step 1: DCT変換
連続的な行動系列に離散コサイン変換(DCT:Discrete Cosine Transform)を適用し、周波数領域に写像する
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Step 2: 高周波成分の切り捨て
低周波成分(ゆっくりした動きの本質)を保持し、高周波成分(微細ノイズ)を圧縮する
-
Step 3: 量子化とトークン化
残った係数を離散化して、LLMが扱うトークンと同じ形式に変換する
この処理により、行動系列をLLM互換の離散トークンとして扱えるようになり、Transformerベースの自己回帰生成をそのまま行動生成に使えるようになりました。
Flow Matching vs FAST——使い分けと性能トレードオフ

π0(Flow Matching)とπ0-FAST(FAST + 自己回帰)は、それぞれ得意領域が異なります。
以下の表で、両モデルの性能特性を整理しました。
| 観点 | π0(Flow Matching) | π0-FAST(自己回帰) |
|---|---|---|
| 動作の滑らかさ | 高い(連続値を直接生成) | やや粗い(トークン量子化の影響) |
| 学習速度 | 標準 | 約5倍高速 |
| 推論コスト | 低い | 約4〜5倍高い |
| 言語追従性能 | 標準 | やや高い |
※ 性能比較はPhysical Intelligence公式ブログ・π0-FAST研究ページおよびHugging Face「π0 and π0-FAST: Vision-Language-Action Models for General Robot Control」に基づく
この比較から分かるのは、「学習コストを下げたいならπ0-FAST、推論コストを下げたいならπ0」という明確な使い分け軸です。
FASTは学習が5倍速い代わりに推論は4〜5倍遅い、Flow Matchingは学習が遅い代わりに推論は軽い、というトレードオフになっています。
Physical Intelligenceは2025年2月4日のOpen Sourcing π0発表で両方の重みとコードをopenpiリポジトリでオープンソース化しており、研究者・開発者は用途に応じて選択できる状態になっています。
π0.5——Open-world generalizationで「初見の家」でも動くVLA

π0.5(パイ・ゼロ・ポイントファイブ)は、2025年4月22日に公開された**「オープンワールド汎化」を初めて定量的に打ち出したVLA**です。
公式ブログ「π0.5: a Vision-Language-Action Model with Open-World Generalization」によれば、π0.5は訓練データに含まれていない未見の家庭でも家事タスクを実行できることを実証しました。

π0.5が取り込む多様な訓練データと長期VLA policyの構造(出典:Physical Intelligence)
Open-world generalizationが解いた課題

それまでのVLAが抱えていた最大の課題は、訓練環境と似た環境でしか動かないという汎化性能の限界でした。
π0.5はこの課題に対して以下のアプローチを取っています。
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異種ロボットデータのコトレーニング
複数プラットフォームの実機データ、Webからのimage-textペア、image captioningコーパスを混合してコトレーニング
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約100の異なる訓練環境
100を超える実環境(住宅・実験室・オフィス等)でデータを収集し、環境固有のオーバーフィットを回避
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50ステップのアクションチャンク
π0を継承しつつ、Flow Matchingで50ステップ分の動作を一度に生成することで時間方向の整合性を強化
Physical Intelligence社は、サンフランシスコ市内のレンタル住宅3軒を借りて、π0.5搭載の移動マニピュレーターに以下のような家事を実行させています。
- シンクに食器を入れる
- ベッドを整える
- 衣類をランドリーバスケットに入れる
- キッチンをかたづける
これらのタスクにおけるOOD(Out-of-Distribution、訓練データに含まれない環境)成功率は94%を記録しており、既存のVLAが「訓練環境と似た場所」でしか動かなかった水準を大きく更新しました。
π0からの進化点——約100環境到達で「テスト環境並みの性能」
π0.5の技術的な突破口は、訓練環境の多様性を約100まで増やした時点で、テスト環境固有データを使ったベースラインに近い性能に到達するという発見です。
これは、「未見環境で動くための万能解は特別な新技術ではなく、訓練データの環境多様性を一定水準まで増やすこと」だという事実をロボット領域で初めて定量化した結果で、その後のロボット基盤モデル研究に大きな影響を与えました。
なお、π0.5は当初は内部モデルとして扱われていましたが、2025年9月以降にopenpiリポジトリに追加公開され、現在は重みと訓練コードを含めた完全なOSS提供に切り替わっています。研究者・開発者はπ0.5のOpen-world汎化を自社ロボットで再現検証できる状態にあります。
π*0.6——RECAP法で「経験から学ぶ」VLA

π0.6(パイ・スター・ゼロ・ポイントシックス、記号「π」は「π-star」と読む)は、2025年11月17日に公開された**「経験から学ぶ」VLA**です。
公式ブログ「A VLA that Learns from Experience」とarXiv論文によれば、π*0.6の中核技術は**RECAP(RL with Experience and Corrections via Advantage-conditioned Policies)**という強化学習手法です。

π0.6が18時間連続稼働で実運用したプロ用エスプレッソ抽出タスク(出典:Physical Intelligence)*
RECAP法の3段階学習——デモ・修正・自己改善

RECAPは、人間の学習プロセスを模した3段階の学習パイプラインです。
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Stage 1: 初期デモンストレーション
人間のオペレーターがテレオペで示した動作データで、まず基本方策を訓練する
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Stage 2: リアルタイム専門家修正
ロボットが実タスクを実行中、人間の専門家が誤動作を検知して即座に修正介入。修正データが方策改善に反映される
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Stage 3: 自律試行による強化学習
ロボット自身が自律的にタスクを試行し、成功/失敗のデータから方策を自己改善する
特徴的なのが、Stage 2〜3の学習で使うAdvantage conditioning——行動を「strong(有利)」または「weak(不利)」に分類し、その分類を方策のコンテキスト窓に入力する仕組みです。
実行時は「strong」な行動だけを取り出すよう指定することで、失敗しやすい動作を回避しつつ成功率を高められます。
π*0.6の実運用データ——18時間連続稼働と失敗率1/2

π*0.6の実運用性能は、Physical Intelligenceが公開した数値で見ると次のとおりです。
以下の表で、RECAPあり/なしの実運用性能を整理しました。
| 実運用タスク | 稼働実績 | 失敗率削減 |
|---|---|---|
| プロ用エスプレッソマシンでのドリンク抽出 | 18時間連続稼働 | 従来比1/2以上 |
| 家庭での洗濯物折り畳み | 50点の未見洗濯物を新住宅で処理 | 従来比1/2以上 |
| 工場での箱組立・ラベル貼り | 59個の実箱を組立完遂 | 従来比1/2以上 |
※ 稼働データはPhysical Intelligence公式ブログ「A VLA that Learns from Experience」より
この結果が示すのは、RECAPが「PoCデモ」ではなく「実運用に耐える稼働時間」を実現している点です。
18時間連続でエスプレッソを抽出し続けるようなタスクは、単発のデモでは達成できても、疲労・環境変化・部材ばらつきに対応できずに崩れるのが従来手法の限界でした。RECAPで経験学習を組み込むことで、この壁が実質的に破られたと評価されています。
π*0.6が示した「実運用フェーズ」への転換
π*0.6は、Physical Intelligenceのロードマップの中で**「研究モデルから実運用モデルへの転換点」**として位置づけられます。
π0〜π0.5までが「様々なタスクで動く」を証明する段階だったのに対し、π*0.6は「同じタスクを長時間安定して回す」を証明する段階に踏み込みました。この段階の到達は、Telexistenceのようなロボットスタートアップが実運用を前提とした提携を進める上での重要なシグナルとなっています。
π0.7——Steerableで未学習タスクを解くEmergent Capabilities

π0.7(パイ・ゼロ・ポイントセブン)は、2026年4月16日に公開されたPhysical Intelligence現時点の最新モデルです。
公式ブログ「π0.7: a Steerable Model with Emergent Capabilities」およびarXiv論文によれば、π0.7は「Steerable(操舵可能)」で「Emergent capabilities(創発的能力)」を持つロボット基盤モデルとして定義されており、訓練データに含まれない全く新しいタスクを実行できる点が最大の特徴です。

π0.7が未学習タスクを実行するロボットアーム(出典:Physical Intelligence)
π0.7のアーキテクチャ——Gemma 3ベースの4B VLM+860M action expert

π0.7の技術構成は、Physical Intelligenceのモデルとして初めて**大規模なオープンVLM基盤(Gemma 3)**を採用したことが大きな転換点です。
-
VLMバックボーン
Gemma 3ベースの4Bパラメータ、内部に400MパラメータのSigLIP視覚エンコーダを含む
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Action expert
860Mパラメータの専用モジュールで、Flow Matchingベースの連続値行動生成を担当
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多様なマルチモーダルプロンプト
言語命令に加えて、速度・品質のメタデータ、制御モダリティラベル、視覚的サブゴール画像を入力として扱える
Gemma 3を採用したことで、LLMの世界知識をロボット行動に橋渡しできる幅が大きく広がった点が実務的なインパクトです。
「エスプレッソを淹れて」「洗濯物を畳んで」という自然言語指示だけでなく、「素早く」「ていねいに」「この画像の状態にして」といった細かい条件を含む指示にも応答できるようになりました。
Emergent capabilities——訓練データにないタスクを実行

π0.7で特に注目されたのが、訓練データに含まれない未見のタスクを、既存スキルの組み合わせで実行できるという創発的能力です。
以下はTechCrunchや公式デモで公表された具体例です。
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未見のエスプレッソマシンを操作
訓練データにそのマシンの操作が含まれていない状態で、他のマシン操作から得た知識でボタン配置を推論し、抽出タスクを完遂
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洗濯データなしで洗濯を実行
「洗濯物を畳む」タスクの訓練データを含まないロボットに対し、他の家事データから推論して洗濯物を畳ませることに成功
-
未見のキッチンで多段階調理
複数機器(コンロ・冷蔵庫・電子レンジ)を組み合わせる調理タスクを、個別機器の操作データから合成して実行
これらは、LLMがGPT-4以降で見せた「未見のタスクをin-context learningで解く」現象と類似の挙動が、ロボット領域でも起き始めたことを示しています。
Steerable——「同じタスクを違うやり方で」制御できる

π0.7のもう一つの特徴が「Steerable(操舵可能)」で、同じタスクを速度・品質・スタイルの指定で違う実行方法に切り替えられる能力です。
「早く洗濯物を畳んで」と指示すれば速いが粗い動作を、「ていねいに畳んで」と指示すれば遅いが丁寧な動作を、同一モデルで切り替えられます。これは工場での量産ライン(速度優先)とサービス業(丁寧さ優先)を単一モデルでカバーできる可能性を示しており、実務展開の柔軟性が大きく広がりました。
なお、π0.7の重みは現時点でopenpiに公開されておらず、詳細は論文とデモ動画で追う形になります。今後のOSS展開の予定については、Physical Intelligenceは公式には明言していません。
openpi——GitHub公開のOSS版と商用グレードVLAの試し方

Physical Intelligenceは、初代π0とπ0-FASTの重みとコードを2025年2月4日にopenpiリポジトリとして公開しています。
これは商用水準を目指すVLA基盤モデルのOSS公開例として、研究者・スタートアップが自社ロボットで実験する敷居を大きく下げました。
openpiで公開されているモデルと非公開モデル

以下の表で、Physical Intelligenceのモデル群を「OSS公開/非公開」で整理しました。
| モデル | OSS公開 | 公開範囲 |
|---|---|---|
| π0 | ✅ 公開 | 重み・訓練コード・推論コード |
| π0-FAST | ✅ 公開 | 重み・訓練コード・推論コード |
| π0.5 | ✅ 公開(2025年9月) | 重み・訓練コード・推論コード |
| π*0.6 | ❌ 非公開 | 論文とデモのみ |
| π0.7 | ❌ 非公開 | 論文とデモのみ |
※ 2026年7月時点。今後のOSS化について公式アナウンスなし
この方針から読み取れるのは、**「初代モデルは研究コミュニティに開放し、最新モデルは商用の武器として保持する」**というOpenAI・Anthropicにも共通するオープン戦略です。
openpiで試せるπ0・π0-FAST・π0.5には、Cross-embodiment・Flow Matching・FASTトークナイザ・Open-world汎化までの基本設計が公式実装として動く状態で入っているため、自社ロボットへの適用可能性を検証する目的なら十分な出発点になります。
openpiの実務的な使いどころ

openpiは以下の用途で活用されています。
-
LeRobot連携での再現実験
Hugging FaceのLeRobotフレームワークと組み合わせて、SO-100などの小型学習用ロボットで再現実験が可能。統合手順はpi0の公式ドキュメントにまとめられている
-
自社ロボットへのファインチューニング
自社が保有するロボットプラットフォームでπ0の重みを微調整し、業務タスクへの適合性を検証する用途
-
VLA研究のベースライン
新しいVLAアーキテクチャを提案する研究で、π0を再現ベースラインとして使用する用途
ライセンスはApache 2.0系で、商用利用も可能な条件で公開されています。ただし、実運用に耐える性能を出すには自社データでの再学習が必要になるため、「そのままプロダクトに載せる」ではなく「PoCの出発点」として位置づけるのが実務的です。
商用検証を本格的に進めたい場合は、Physical Intelligenceのローンチパートナー契約や、パートナー経由での提供を検討する形になります。
Physical Intelligenceの競合マップ——NVIDIA GR00T・Figure Helix・Gemini Roboticsとの位置づけ

2026年時点で、ロボット基盤モデル領域は複数のプレイヤーが競合しています。
Physical Intelligenceは「モデル層のみに集中する」独自のポジションを取っていますが、隣接する競合各社のスタンスと比較すると、その戦略的な意味がより鮮明になります。
競合4社との戦略比較
以下の表で、主要な競合プレイヤーとPhysical Intelligenceのポジションを整理しました。
| 企業 | 代表モデル | ハード戦略 | OSS方針 | 強み領域 |
|---|---|---|---|---|
| Physical Intelligence | π0〜π0.7 | ハード非保有(モデル層のみ) | π0・π0-FAST・π0.5を公開、π*0.6/π0.7は非公開 | Cross-embodiment、経験学習 |
| NVIDIA | GR00T N1.7 / N2(preview) | ハード非保有(Isaac Sim・Cosmosと一体) | 一部モデルOSS、開発ツール一式 | シミュレータ連携、ハードSDK |
| Figure AI | Helix | ヒューマノイド筐体を自社設計 | 非公開(垂直統合) | 実機と学習ループの一体化 |
| Google DeepMind | Gemini Robotics / Gemini Robotics-ER | 自社ハード非保有 | 非公開(API提供) | Gemini基盤との連携、身体推論 |
| Skild AI | Skild Brain | ハード非保有 | 非公開 | 汎用ロボット向け基盤モデル |
※ 2026年7月時点の各社公開情報から整理。詳細はVLAモデル記事で6系統比較、触覚統合型はVTLAモデル記事を参照
この比較から分かるのは、Physical Intelligenceが「モデル層独立」+「OSS公開」の組み合わせで、他社にはないポジションを取っている点です。
Figure AIは垂直統合、Google Gemini RoboticsはAPI提供、NVIDIA GR00Tはシミュレータと一体、と各社が独自の統合戦略を持つ中、Physical Intelligenceだけが「モデル層をあらゆるロボットで動かせる独立事業」として設計されています。
選定判断——「相談ケース別に第一想起社を切り替える」

AI総研の支援経験から見た使い分けは、相談ケースごとに第一想起社が変わる、というのが実務観察です。
以下のケース別に、まず声をかける先の傾向を整理します。
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既存ロボット資産にAIを載せたい(多メーカー混在の現場)
Cross-embodiment性能が武器のPhysical Intelligenceが第一想起。openpiで自社ロボットに適用可能性を検証してから、商用ライセンス交渉に進むのが実務ルート
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ヒューマノイド実機で新規業務を立ち上げたい
Figure AI・1X Technologiesなど「筐体+モデル一体」の垂直統合ベンダーが第一想起。ハード選定と学習ループを1社に任せる方が立ち上げが速い
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既存NVIDIA GPU資産と連携させたい
NVIDIA GR00Tが第一想起。Isaac SimとNVIDIA GPUの活用ノウハウが社内にあるならこちらが実装コスト低
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Google Cloudベースで統合したい
Gemini RoboticsとGeminiエコシステムの組み合わせが第一想起。既存Google Cloudの資産と統合しやすい
ここでのポイントは、「どれが最強か」ではなく「どの技術資産を活かすか」で選定軸を決めることです。
Physical Intelligenceは「ロボットハードを縛らない」独自性が強みなので、多メーカー混在の現場や、ロボットを頻繁に入れ替える運用では実務的な優位性が特に大きくなります。
日本市場との関わり——Telexistence提携とコンビニ飲料補充

Physical Intelligenceは日本市場においても、既に具体的な提携が進んでいます。
2025年6月25日、日本のロボットスタートアップTelexistenceがPhysical Intelligenceと提携し、コンビニ向け飲料補充業務の自動化を推進することを発表しました。
Telexistence自体は2023年7月にSeries Bで$170M(当時のレートで約230〜270億円相当)を調達済みで、Foxconn・SoftBank Vision Fund等が出資する資金力のあるスタートアップです。
Telexistence提携の内容——コンビニ向け飲料補充ロボット

Telexistenceは、コンビニエンスストアの飲料棚に商品を陳列する「TX SCARA」等のロボットを開発するスタートアップで、既にFamilyMart 300店舗規模での飲料補充ロボット導入を進めているほか、7-Elevenの都内一部店舗でもTX GHOSTの実証を実施している、日本のロボット実運用の先進事例の一つです。
Physical Intelligenceとの提携で、以下の点が業界で注目されています。
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実運用フィールドとしての日本コンビニ
Physical Intelligence側から見れば、コンビニ棚という「多品種・多商品配置・営業時間中の稼働」という難易度の高い実運用フィールドが得られる
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Telexistence側の技術ジャンプ
自社開発ロボットに世界最先端のVLA基盤モデルを載せることで、タスク展開スピードを大幅に上げられる
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既存資金力とのシナジー
Telexistenceは既に2023年時点で大型調達済みで、Foxconn等の製造・小売り現場に強いスポンサーを抱える。ここにPhysical Intelligenceの世界最先端VLA基盤モデルが加わることで、実運用シフトを一気に加速できるポジションが整った
この提携が示すのは、日本のロボットスタートアップが「基盤モデル層を海外に依存する」のは十分に合理的な戦略である点です。
ハード実装力・現場適合力で強い日本企業が、モデル層をPhysical Intelligenceに委ねることで、開発リソースを現場対応に集中させる分業構造が成立しつつあります。
Physical Intelligenceの課題と展望——商用化までの距離とπ1への期待

Physical Intelligenceの技術水準は業界最先端の一角ですが、現時点では研究フェーズと実運用フェーズの中間にあるのも事実です。
商用化までの距離感と、今後予想される次世代モデルへの期待をまとめておきます。
現時点で残る課題——「デモは動くが業務標準にはまだ遠い」
以下は、AI総研の実務観察と各種公開情報から整理した、Physical Intelligenceが直面している主要な課題です。

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汎化性能の実運用ばらつき
π0.7で「未学習タスク実行」を実証したとはいえ、実運用では特殊環境・特殊部材で性能が大きくばらつく。オールユースの基盤モデルは未完
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大規模テレオペレーターへの依存
π0〜π0.5の訓練には10,000時間超のロボット実機データが必要で、規模のスケールにはコストがかかる
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推論コストの高さ
Gemma 3ベースのπ0.7は、リアルタイム制御の推論に高性能GPUを必要とし、実運用でのハードコストが未確定
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商用ライセンスの正式提供枠組み未成熟
現時点で「誰でも購入できる」パッケージ商用ラインは公開されておらず、ローンチパートナー経由での個別交渉が中心
これらの課題は「Physical Intelligenceだから」というより、ロボット基盤モデル領域全体が抱える共通課題でもあります。
競合各社も同じ壁に直面しており、この壁を先に超えた会社が「ロボットのOpenAI」の地位を掴む、という業界構図です。
次世代モデル——「π1」と「π*0.7」への期待
Physical Intelligenceは、π0系列の完成形として「π1(パイ・ワン)」を将来公開する可能性が業界で予想されています。ただし、2026年7月時点で公式アナウンスはありません。

シリーズ命名から推測すると、以下のような発展系列が考えられます。
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π*0.7
π*0.6と同じくRECAP法を適用したπ0.7のバリアント。経験学習でπ0.7の実運用安定性を強化する方向
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π1
π0系列の集大成としての次世代モデル。Emergent capabilities + Cross-embodiment + Open-world汎化 + RECAP経験学習の全てを統合した「完成形の汎用ロボットポリシー」となる可能性
ただし、これらはあくまで業界の予想と類推であり、Physical Intelligenceの公式ロードマップとしては公表されていない点は明記しておきます。
業界の次の競争軸——「モデル」から「実運用データ量」へ
π0.7までの進化を追ってきて見えるのは、業界の勝負が「モデルアーキテクチャの発明」から「実運用データ量の獲得」に移りつつあるという潮流です。

Telexistenceのようにコンビニ店舗という実運用フィールドを持つ企業と提携し、そこで得られたフィードバックデータを次世代モデルに反映させる、というループが競争優位の中心になっていく可能性が高い状況です。この視点で見ると、Physical Intelligenceが日本市場を含む提携ネットワークを広げつつある動きは、単なる商用展開ではなく次のモデル世代への投資として理解できます。
読者が「自社でロボット×AI導入を検討する立場」なら、Physical Intelligenceの動向はこの1年で最も高頻度でウォッチすべき対象の一つであり、日常的な業界ニュースの中で継続追跡する価値のある会社です。
ロボット基盤モデル時代を見据えて社内AI活用を先に固める
Physical Intelligenceが示す「ロボット向け汎用脳」の時代は、日本企業にとってもいずれ避けて通れない転換点になります。
しかし、π系モデルの本格商用化を待つ間に、社内のホワイトカラー業務のAI活用は今すぐ着手できます。むしろ、ロボット基盤モデルが業務プロセスに入ってくる時期に備えて、社内AI基盤を先に固めておくことが、後々のロボット導入時のインテグレーションを楽にします。
AI Agent Hubは、Teams上で業務アクション(社内検索・稟議書作成・議事録要約・受発注確認等)を実行するAIエージェントを、実行ログ・権限・セキュリティを一元管理できる基盤として設計されています。ロボット基盤モデル時代を見据えた「社内AI活用の土台」として、まずはホワイトカラー領域から着手するのが実務的です。
ロボット基盤モデル時代の社内AI活用を先に固める
Physical Intelligenceの波を業務エージェント設計につなぐ
π系モデルの商用化を待つ間にも、社内のホワイトカラー業務はAIエージェントで自動化できます。AI Agent Hubなら、Teams上で業務アクションを実行するエージェントを、実行ログ・権限・セキュリティまで含めて一元管理できます。ロボット基盤モデル時代を見据えた社内AI基盤の設計を、LPで体系的に確認できます。
まとめ
本記事では、Physical Intelligence(π)社の会社定義・創業チーム・調達・全モデル系譜・openpi・競合マップ・日本市場を、2026年7月時点の最新情報で整理しました。
2026年の潮流として押さえておくべきポイントは以下の3つです。
- 「ハードを作らないモデル層独立」戦略が業界で特異な位置を占め、設立から2年で$11B超のvaluation・シリーズC相当$1B交渉中に達している
- π0(2024/10)→π0.7(2026/04)の約18か月で5世代と進化が速く、π0.7ではGemma 3ベースのSteerableモデルで未学習タスクを既存スキルの組み合わせで実行する創発的能力まで到達
- openpi(π0・π0-FAST・π0.5)はApache 2.0で公開され研究用途で試せる一方、π*0.6・π0.7は非公開でローンチパートナー経由が商用検証の現実解
日本市場ではTelexistenceとの提携でコンビニ飲料補充が実運用フェーズに入りつつあり、国内SIerが「ロボット×基盤モデル」の相談を受ける際の第一想起社としての位置づけが定まりつつあります。
Physical Intelligenceが示すのは、「ロボットは1機能1モデルから、単一基盤モデルで多機能をこなす時代へ」という業界構造の転換です。この転換に自社が乗るかどうかは、今後2〜3年の設備投資・人材配置に直結する意思決定になります。












