この記事のポイント
Microsoft環境中心の企業にはAzure AI翻訳が第一候補。Office・Teams・Power Platformとの統合が最も深い
大量バッチ翻訳はNMTモデル、品質重視の翻訳にはGPT-4oベースのLLM翻訳と使い分けるべき
まず無料枠(月200万文字)で検証し、専門用語が多い業務にはカスタム翻訳で精度を底上げすべき
データを外部に出せない環境ではDockerコンテナの切断型デプロイが唯一の選択肢になる
DeepLは欧州言語で強いがコンテナ非対応。対応言語数とオンプレミス要件ではAzure AI翻訳が有利

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Azure AI翻訳(Azure Translator)は、Microsoftが提供するクラウドベースのニューラル機械翻訳サービスです。
130以上の言語と方言に対応し、テキスト翻訳・ドキュメント翻訳・カスタム翻訳の3つの機能を中心に、グローバルなビジネスコミュニケーションを支援します。
2025年10月のプレビューAPIでは、GPT-4oなどのLLMモデルを翻訳エンジンとして選択できる機能や、トーン・性別に応じた翻訳が追加されました。
本記事では、Azure AI翻訳の主要機能から2026年最新のプレビュー機能、使い方、料金体系、競合比較まで体系的に解説します。
Azureの基本知識や料金体系についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
Microsoft Azureとは?できることや各種サービスを徹底解説
Microsoft 365 Copilotの最新エージェント機能「Copilot Cowork」については、以下の記事をご覧ください。
Copilot Coworkとは?機能や料金、Claude Coworkとの違いを解説
Azure AI翻訳(Azure Translator)とは
Azure AI翻訳(Azure Translator)は、Microsoft Azureが提供するクラウドベースのニューラル機械翻訳サービスです。Azure AI services(Foundry Tools)の一部として提供されており、130以上の言語と方言に対応した高品質なテキスト翻訳を実現します。
公式ドキュメントによると、現在の正式名称は「Azure Translator in Foundry Tools」で、Azure AI Studio → Microsoft Foundryへのブランド統合に伴い名称が更新されています。ただし、Azure PortalやAPIエンドポイントでは引き続きTranslatorの名称で利用できます。

AzureのTranslator
グローバル展開する企業にとって、多言語対応は顧客体験と業務効率の両面で重要な課題です。Azure AI翻訳はREST APIとSDKで提供されるため、既存のアプリケーションやワークフローにシンプルなAPI呼び出しで統合でき、Webサイト・チャットアプリ・社内システムなど多様な場面で活用できます。
Azure AI翻訳の主要機能
Azure AI翻訳には、用途に応じた5つの主要機能があります。以下の表で各機能の概要と開発オプションを整理します。
| 機能 | 概要 | 開発オプション |
|---|---|---|
| テキスト翻訳(v3 GA) | リアルタイムでテキストを翻訳。動的辞書や翻訳除外にも対応 | REST API、SDK、Foundryポータル、コンテナ |
| テキスト翻訳(2025-10-01プレビュー) | LLMモデル選択、トーン指定、性別指定など拡張機能を追加 | REST API |
| ドキュメント翻訳(非同期) | PDF・Word・PowerPoint等のファイルをバッチ翻訳。書式を保持 | REST API、SDK、コンテナ |
| ドキュメント翻訳(同期) | 単一ファイルをリアルタイムで翻訳。Blob Storageアカウント不要 | REST API、Foundryポータル、コンテナ |
| カスタム翻訳 | 業界固有の用語やスタイルを学習した翻訳モデルを構築 | Custom Translatorポータル |
このうちテキスト翻訳v3 GAが最も広く利用されている基本機能で、チャットアプリケーションやリアルタイムコミュニケーションツールでの即時翻訳に適しています。
テキスト翻訳とドキュメント翻訳
テキスト翻訳は、APIに送信したテキストをリアルタイムで翻訳する機能です。1回のリクエストで最大1,000件の配列要素(各最大50,000文字)を処理でき、言語検出、二か国語辞書、文字転写(トランスリテレーション)にも対応しています。
ドキュメント翻訳は、PDF・Word・PowerPoint・Excelなどの形式に対応し、元のドキュメントの構造やフォーマットを保持したまま翻訳を実行します。非同期(バッチ)モードではAzure Blob Storageを使って大量のファイルを一括処理でき、同期モードでは単一ファイルをリアルタイムで翻訳してレスポンスとして直接返却します。
カスタム翻訳
カスタム翻訳(Custom Translator)は、自社の業界用語や表現スタイルを学習させた独自の翻訳モデルを構築する機能です。たとえば、医療・法律・製造業など専門分野で頻出する用語を学習データとして提供することで、汎用翻訳では得られない精度の翻訳結果を実現できます。
カスタムモデルの構築にはCustom Translatorポータルを使用し、対訳データ(ソース言語とターゲット言語のペア)をアップロードしてトレーニングを実行します。構築したモデルはテキスト翻訳APIとドキュメント翻訳APIの両方で利用できます。
Azure AI翻訳の2025年プレビュー新機能
2025年10月にリリースされたテキスト翻訳2025-10-01-preview APIでは、従来のニューラル機械翻訳(NMT)に加えて、大規模言語モデル(LLM)を翻訳エンジンとして選択できるようになりました。この新機能は既存のv3 GAとは破壊的変更を含む別バージョンのAPIとして提供されています。
LLMモデルの選択
プレビューAPIでは、翻訳リクエスト時に翻訳エンジンとしてGPT-4o-miniまたはGPT-4oを指定できます。従来のNMTモデルは大量のテキストを高速かつ低コストで翻訳するのに適していますが、LLMモデルはより自然で文脈を考慮した翻訳を生成できます。
LLMモデルを使用するにはMicrosoft Foundryリソースが必要で、課金はAzure OpenAIの入力/出力トークン単価に基づきます。品質・コスト・速度のバランスに応じてNMTとLLMを使い分けられる点が大きな利点です。
トーンと性別の指定
LLMモデルを活用した新機能として、トーン指定翻訳と性別指定翻訳が追加されています。
-
トーン指定翻訳
フォーマル・インフォーマル・ニュートラルの3種類のトーンで翻訳を生成できます。ビジネス文書にはフォーマル、カジュアルなチャットにはインフォーマルなど、用途に応じた翻訳品質を実現します。
-
性別指定翻訳
男性・女性・ニュートラルの性別パラメータを指定し、言語的な性別表現を適切に制御できます。フランス語やスペイン語など文法的な性を持つ言語で特に有効です。
-
アダプティブカスタム翻訳
最大5件の参照翻訳(翻訳メモリ)を提供することで、LLMモデルがそのスタイルに合わせたフューショット翻訳を実行します。カスタム翻訳モデルのトレーニングなしで、特定のスタイルに寄せた翻訳が可能です。
プレビューAPIのLLM翻訳には制限があり、1リクエストあたり最大50件の配列要素(各最大5,000文字)となっています。v3 GAの1,000件/50,000文字と比較すると処理量は小さいため、大量バッチ処理にはNMTモデル、品質重視の翻訳にはLLMモデルという使い分けが推奨されます。
Azure AI翻訳の使い方
Azure AI翻訳のリソース作成から翻訳APIの呼び出しまでの基本的な手順を解説します。
リソースの作成
Azure PortalからTranslatorリソースを作成します。
-
Azure Portalにログインし、「リソースの作成」を選択します
-
検索バーで「Translator」を検索し、「Translator」を選択します

Translatorの検索 -
「作成」をクリックして、以下の情報を入力します
- サブスクリプション
使用するAzureサブスクリプションを選択します。 - リソースグループ
新規または既存のリソースグループを選択します。 - リージョン
使用するデータセンターのリージョンを選択します。Japan Eastが日本から最も近いリージョンです。 - 名前
Translatorリソースの名前を入力します。 - 価格レベル
F0(無料)またはS1(従量課金)を選択します。

リソースの作成
- 「確認および作成」をクリックし、設定内容を確認したら「作成」を選択します
リソースが作成されると、「キーとエンドポイント」ページからAPIキーとエンドポイントURLを取得できます。これらの値がAPI呼び出しに必要です。
コンテナによるオンプレミスデプロイ
データガバナンスやセキュリティ要件により、クラウドへのデータ送信が難しい場合は、Dockerコンテナとしてオンプレミス環境にTranslatorをデプロイできます。
コンテナではテキスト翻訳、ドキュメント翻訳(同期)、文字転写をサポートしており、接続型(オンライン課金)と切断型(オフライン利用)の2種類が提供されています。切断型コンテナは年間コミットメントプランでの契約が必要ですが、インターネット接続なしでの翻訳処理が可能です。
詳しい利用方法についてはAzure AI翻訳の公式ドキュメントをご覧ください。

Azureの公式ドキュメント
Azure AI翻訳と競合サービスの比較
翻訳APIサービスは複数の選択肢があります。以下の表で、Azure AI翻訳と主要な競合サービスを比較します。
| 項目 | Azure AI翻訳 | Google Cloud Translation | DeepL API |
|---|---|---|---|
| 対応言語数 | 130以上 | 130以上 | 30以上 |
| ドキュメント翻訳 | PDF/Word/PowerPoint等に対応 | PDF/Docx等に対応 | PDF/Docx等に対応 |
| カスタムモデル | Custom Translator(対訳データ学習) | AutoML Translation | 用語集(Glossary)のみ |
| LLMモデル選択 | GPT-4o/GPT-4o-mini(プレビュー) | Geminiモデル(プレビュー) | 独自モデルのみ |
| コンテナデプロイ | 対応(接続型/切断型) | 非対応 | 非対応 |
| Microsoft製品統合 | Office/Teams/Power Platform等と深く統合 | Google Workspace統合 | 限定的 |
| 無料枠 | 月200万文字 | 月50万文字 | 月50万文字 |
| エンタープライズ対応 | VNET/Private Endpoint対応 | VPC Service Controls対応 | 非対応 |
Azure AI翻訳の最大の強みは、Microsoft製品エコシステムとの深い統合です。Office 365やTeams、Power Platformの翻訳機能のバックエンドとしてTranslatorが使われており、Microsoft環境を中心に運用している企業では最も統合しやすい選択肢となります。
一方、DeepLはヨーロッパ言語を中心に自然な翻訳品質で知られていますが、対応言語が30言語程度と限定的で、コンテナデプロイには対応していません。Google Cloud Translationは言語数ではAzure AI翻訳と同等ですが、コンテナデプロイが提供されていないため、オンプレミス要件がある場合はAzure AI翻訳が有利です。
Azure AI翻訳の導入事例
Azure AI翻訳は多くのグローバル企業に採用されています。Microsoft公式のAzure AI翻訳ページで紹介されている代表的な事例を紹介します。
Volkswagenグループ
フォルクスワーゲングループは、世界最大級の自動車メーカーとして40以上の言語で膨大なドキュメントを提供しており、毎年翻訳される単語数は最大10億に達します。デジタル化に伴うリアルタイム翻訳の需要増大に対応するため、Azure AI翻訳を中央翻訳管理オフィスの機械翻訳プロジェクトに採用しました。Azureのスケーラビリティにより、急増する翻訳需要にも柔軟に対応できています。
KPMGグループ
世界154カ国に約20万人の専門家を持つKPMGは、銀行向けリスク分析ソリューション「Magna」にAzure AI翻訳を組み込んでいます。事前構築された標準翻訳とカスタム翻訳を組み合わせることで、多言語対応のリスク分析を実現し、世界中の銀行顧客のニーズに対応しています。
これらの事例に共通するのは、大量の多言語コンテンツを扱うグローバル企業が、スケーラビリティとカスタマイズ性の両面でAzure AI翻訳を評価している点です。
AI翻訳の活用をAIエージェントの業務自動化に広げるなら
Azure AI翻訳でAIサービスを業務に取り入れているなら、次はAIエージェントによる業務プロセス全体の自動化が視野に入ります。AI Agent Hubは、Azure AIサービスと連携したAIエージェントをTeams上で展開できるプラットフォームです。
- Azure AI翻訳を含むAIサービスの活用実績を、エージェントベースの業務自動化にそのまま拡張
- Teams上で完結するため、既存のMicrosoft環境にそのまま導入可能
- 自社テナント内で完結するセキュリティで、安心して業務データを扱える
AI翻訳の活用をAIエージェントの業務自動化に拡張
Azure AI翻訳からAIエージェント活用へ
Azure AI翻訳でAIサービスを活用しているなら、AIエージェントによる業務自動化が次のステップです。Teams上で動くAI Agent Hubなら、翻訳を含む多言語業務を一気通貫で自動化できます。
Azure AI翻訳の料金
Azure AI翻訳は、無料枠から従量課金制まで柔軟な料金体系を提供しています。以下は2026年3月時点の主な価格レベルです。
F0(無料レベル)
無料レベルでは、標準翻訳とカスタム翻訳トレーニングの任意の組み合わせで月200万文字まで無料で利用できます。テキスト翻訳・言語検出・二か国語辞書・文字転写が含まれます。小規模なプロジェクトや評価目的には十分な容量です。
S1(従量課金制)
S1レベルでは使用量に応じた従量課金制で、無料レベルよりもカスタム翻訳機能が充実しています。以下の表は主な機能と料金です。
| 機能 | 料金(100万文字あたり) |
|---|---|
| 標準テキスト翻訳 | $10 |
| 標準ドキュメント翻訳 | $15 |
| カスタムテキスト翻訳 | $40 |
| カスタムドキュメント翻訳 | $40 |
| カスタムモデルトレーニング | $10(トレーニングあたり最大$300) |
| カスタムモデルホスティング | ホストされたモデルあたり月$10(リージョン単位) |
料金は利用リージョンによって異なる場合があります。最新の正確な価格はAzure AI翻訳の料金ページで確認してください。
LLM翻訳(プレビュー)を使用する場合は、Translatorの文字単位課金ではなくAzure OpenAIの料金体系で入力/出力トークンに基づいて課金されます。NMTとLLMでは課金モデルが異なるため、コストと品質のバランスを考慮して選択してください。
翻訳コストの全体像を把握するには、Azureの料金体系の基本を理解した上で、実際の翻訳量を料金計算ツールで試算することをお勧めします。
まとめ
Azure AI翻訳は、130以上の言語に対応し、テキスト翻訳・ドキュメント翻訳・カスタム翻訳を備えたクラウド翻訳サービスです。2025年10月のプレビューAPIではLLMモデル選択やトーン指定など、翻訳品質をさらに向上させる機能が追加されています。
まずは無料枠(月200万文字)でテキスト翻訳APIを試してみてください。Azure PortalからTranslatorリソースを作成し、APIキーを取得すればすぐに始められます。自社の専門用語が多い場合は、カスタム翻訳で対訳データを学習させることで翻訳精度を大幅に改善できます。











