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予知保全AIとは?仕組み・導入事例・ツール比較を解説

この記事のポイント

  • 設備の突発停止で月1回以上ラインが止まるなら、AI予知保全の導入効果が最も出やすい
  • 予知保全AIの仕組みはIoTセンサー→データ収集→AI分析→保全アクションの4層構造
  • コマツは外付けセンサー不要のAI予知保全を実現、JR西日本は自動改札機の故障予測で点検周期を延伸
  • ツール選定はセンサー既設か新設か、クラウドかエッジか、教師あり/なしかの3軸で判断すべき
  • 個人利用プラン年額約22万円〜のノーコードAIもあり、まず1設備・1センサーのスモールスタートが現実的
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

XでフォローフォローするMicrosoftMVP

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

予知保全AIとは、IoTセンサーで収集した設備の稼働データをAIが分析し、故障の兆候を事前に検知して最適なタイミングで保全を行う仕組みです。
従来の「壊れてから直す」事後保全や「定期的に交換する」予防保全とは異なり、設備の実際の劣化状態に基づいて保全計画を立てるため、ダウンタイムの最小化と保全コストの最適化を両立できます。

本記事では、予知保全AIの仕組み、3つの保全方式の違い、コマツ・JR西日本・花王の導入事例、主要ツール比較、料金相場、導入で詰まる論点までを2026年4月時点の最新情報で体系的に解説します。

予知保全AIとは?従来の保全方式との違い

予知保全AI(Predictive Maintenance AI)とは、設備に取り付けたIoTセンサーから振動・温度・電流・音響などのデータをリアルタイムに収集し、AIが正常状態からの逸脱を検知して故障を未然に防ぐ保全手法です。

このセクションでは、予知保全の基本概念と、事後保全・予防保全との違いを整理します。

予知保全AIとは?従来の保全方式との違い

事後保全・予防保全・予知保全の違い

製造業の設備保全には大きく3つの方式があります。それぞれの特徴と課題を以下の表で整理しました。

保全方式 タイミング メリット デメリット
事後保全(BM) 壊れてから修理 保全計画が不要 突発停止で生産損失。二次被害のリスク
予防保全(TBM) 一定期間で定期交換 突発停止を抑制できる まだ使える部品も交換。過剰保全になりやすい
予知保全(CBM/PdM) 劣化兆候を検知して保全 最適タイミングで保全。部品寿命を最大化 センサーとAI基盤の初期投資が必要


事後保全は「壊れるまで使い切る」方式のため保全計画は不要ですが、突発停止による生産損失が最大のリスクです。予防保全は定期交換により突発停止を抑えられますが、まだ十分使える部品まで交換するため保全コストが膨らみます。予知保全は設備の実際の劣化状態をデータで把握し、故障する直前に保全を実施するため、ダウンタイムと保全コストの両方を最適化できるのが強みです。

なぜ「AI」が必要なのか

予知保全の概念自体は以前から存在します。ベテランの保全員が設備の音や振動を五感で感じ取り、「そろそろ危ない」と判断する——これも広義の予知保全です。しかし、この方法には3つの限界があります。

なぜ「AI」が必要なのか

  • 属人化
    ベテランの経験と勘に依存するため、退職や異動で知見が失われます。

  • スケーラビリティの限界
    1人の保全員が常時監視できる設備数には限りがあります。工場全体の数百〜数千の設備を人間だけでカバーすることはできません。

  • 微細な変化の見落とし
    人間の五感では捉えられない周波数帯域の振動変化や、数日〜数週間かけて緩やかに進行する劣化パターンは、AIの統計分析でなければ検知できません。

AIを導入することで、これらの限界を突破できます。24時間365日・全設備を同時に監視し、人間が気づけない微細な劣化パターンを統計的に検知し、残存寿命を定量的に予測する。これが予知保全にAIが不可欠な理由です。

AI Agent Hub1


予知保全AIの仕組み:IoTセンサーからAI予測まで

予知保全AIシステムは、大きく4つの層で構成されています。このセクションでは、各層の役割と2026年時点の技術トレンドを解説します。

予知保全AIの仕組み

IoTセンサー層:データの入口

予知保全AIの起点はIoTセンサーです。設備の状態を数値化するために、用途に応じた複数のセンサーを組み合わせます。

IoTセンサー層

以下の表に、代表的なセンサーの種類と検知対象を整理しました。

センサー種類 計測対象 検知できる異常 主な適用設備
振動センサー 加速度・速度 軸受摩耗、ギア損傷、アンバランス モーター、ポンプ、コンプレッサー
温度センサー 表面温度・内部温度 過熱、冷却異常、摩擦増大 配電盤、モーター、変圧器
電流センサー 電流波形・消費電力 モーター劣化、負荷異常 モーター、インバーター
音響センサー 超音波・可聴域音 異音検知、エア漏れ、放電 配管、バルブ、電気設備
圧力センサー 油圧・空圧 油圧低下、フィルター詰まり 油圧装置、空圧システム


振動センサーは予知保全で最も広く使われるセンサーです。軸受やギアの劣化は振動の周波数成分に特徴的なパターンとして現れるため、AI分析との相性が特に高いとされています。

なお、コマツの予知保全システム(KOMTRAX)のように、外付けセンサーを一切使わずCNC・PLC経由でサーボ制御情報を自動収集する方式も登場しています。既存の設備制御データだけでAI予知保全を実現できるため、センサー設置工事が不要というメリットがあります。

データ収集・蓄積層:エッジかクラウドか

センサーで取得したデータは、エッジデバイスまたはクラウドに送信して蓄積します。

データ収集・蓄積層

  • エッジ処理型
    工場内のゲートウェイやエッジAIデバイスでリアルタイム処理する方式です。ネットワーク遅延がなく、インターネット接続がない設備でも動作します。ただし処理能力に制約があるため、軽量なモデルしか動かせません。AIとIoTの違いと連携を理解しておくと、エッジとクラウドの使い分けがイメージしやすくなります。

  • クラウド処理型
    AWS・Azure・GCPなどのクラウドにデータを送信し、大規模なAI分析を行う方式です。複数工場のデータを統合して横断分析できる反面、通信コストとセキュリティ設計が必要です。

  • ハイブリッド型
    エッジで即時アラートを出しつつ、クラウドで長期トレンド分析を行う方式です。2026年時点ではこの方式を採用するケースが増えています。

支援経験からは、最初から大規模なクラウド基盤を構築するより、エッジデバイス1台+対象設備1台のスモールスタートで効果を検証し、成果が出てからクラウドに拡張するアプローチが成功率の高いパターンです。

AI分析・予測層:どのアルゴリズムを使うか

予知保全AIで使われるアルゴリズムは、大きく3つのアプローチに分かれます。

AI分析・予測層

  • 教師あり学習
    過去の故障データと正常データの両方を使ってAIモデルを構築します。故障パターンを直接学習するため精度が高い反面、「故障データ」が十分にないと使えません。故障データが蓄積されている設備には最適です。

  • 教師なし学習(異常検知型)
    正常データだけを学習し、「正常から外れた」状態を異常として検知します。故障の事例がなくても導入できるため、新規設備やめったに壊れない設備に適しています。故障データが蓄積されていない現場で採用しやすい方式です。

  • 時系列予測
    センサーデータの時間的な変化パターンを学習し、将来の設備状態を予測します。「あと何日で閾値を超えるか」という残存寿命(RUL: Remaining Useful Life)の予測に使われます。

富士電機のAIプラットフォームでは、「説明できるAI」として判定根拠を可視化する機能を搭載しています。予知保全では「なぜ異常と判定したか」が現場に伝わらないと保全員が行動に移せないため、説明可能性は実用上の重要な要素です。

2026年のトレンド:生成AIとデジタルツインの融合

2025年から2026年にかけて、予知保全AIの領域で2つの大きなトレンドが進行しています。

2026年のトレンド

1つ目は生成AIによる保全レポートの自動生成です。従来のAI予知保全は「異常を検知してアラートを出す」ところで止まっていましたが、生成AIの統合により、異常の原因分析・推奨される対処法・部品発注の要否までを自然言語レポートとして自動生成する機能が実用化されています。

2つ目はデジタルツインとの連携です。製造業における生成AIの活用事例でもこのトレンドは顕著です。設備の物理モデルをデジタル空間に再現し、センサーデータをリアルタイムに反映することで、「この劣化パターンが続いた場合、何日後にどの部品が故障するか」をシミュレーションできます。大手メーカーを中心にデジタルツインとAIエージェントを全工程に導入する動きが加速しています。


予知保全AIの導入で得られる4つのメリット

予知保全AIを導入することで、製造現場のどの課題が解決されるのかを整理します。メリットだけでなく、それぞれの限界や前提条件も併せて解説します。

予知保全AIの導入で得られる4つのメリット

ダウンタイムの削減

最も直接的な効果は、設備の突発停止を未然に防ぐことによる生産ライン稼働率の向上です。

突発停止が1回発生すると、設備の修理時間だけでなく、復旧までの段取り替え、品質確認、後工程への波及対応など、複合的な損失が生じます。支援経験からは、大型設備1台の突発停止で半日〜1日の生産停止が発生し、損失額は数百万円に達するケースも珍しくありません。

予知保全AIを導入すれば、故障の兆候を数日〜数週間前に検知し、計画的にメンテナンスを実施できます。これにより「壊れてから止まる」を「計画的に止める」に変えられます。

保全コストの最適化

予防保全では「まだ使える部品を定期的に交換する」ため、部品費用が過大になりがちです。予知保全AIでは部品の実際の劣化状態をモニタリングするため、部品寿命を最大限活用しつつ故障直前に交換できます。

具体的には、以下のコストが削減対象になります。

  • 部品交換費用 寿命に余裕がある部品の交換を回避
  • 緊急対応費用 突発故障時の緊急出動・特急部品手配がなくなる
  • 二次被害の修理費用 1箇所の故障が隣接部品に波及する連鎖故障を防止

ただし、予知保全AIの導入自体にコスト(センサー・通信インフラ・AIプラットフォーム)がかかるため、「保全コスト削減額 > 導入コスト」のROIが成立するかは設備ごとに検証が必要です。

属人化の解消と技術伝承

ベテラン保全員の経験と勘に依存する保全体制は、退職・異動によって保全品質が一気に低下するリスクを抱えています。

予知保全AIは設備の状態をデータとして可視化し、異常判定の基準をAIモデルとして保持するため、人が変わっても同じ精度で保全判断ができます。ベテランが「音で分かる」「触って分かる」と言っていた暗黙知が、AIモデルとして組織に蓄積されます。

さらに、AIの判定結果とベテランの経験を突き合わせる運用を続けることで、若手保全員の育成ツールとしても機能します。「AIがこの設備を警告した理由」をベテランが解説する、というOJTが可能になります。

安全性の向上

設備の故障は生産停止だけでなく、作業者の安全リスクにも直結します。製造業におけるAIの活用事例でも、安全管理へのAI適用が増えていることが確認できます。高圧設備の破裂、回転体の破損、化学プラントの暴走など、突発故障が重大事故につながるケースは少なくありません。

予知保全AIによる早期検知は、設備が致命的な状態に至る前に介入できるため、労働災害リスクの低減に貢献します。

AI研修


予知保全AIの導入事例

実際にAI予知保全を導入し、効果を出している企業の事例を紹介します。一次ソースが確認できる3社に絞り、定量的な効果と導入のポイントを解説します。

予知保全AIの導入事例

コマツ産機:外付けセンサー不要のAI予知保全

コマツ産機のKOMTRAX予知保全システムは、CNC・PLC経由でサーボ制御情報を自動収集し、クラウド上のAIが部品の残存寿命を予測する仕組みです。

コマツ産機

この事例で注目すべきは、外付けセンサーを一切使わないという点です。既存のCNC・PLCから運転データを自動取得するため、センサー設置工事が不要で、故障リスクとなる外部接続点も発生しません。

AIモデルの開発にはMicrosoft Azure Machine Learningが使われており、市場の機械から劣化時・故障時のデータを収集して独自の劣化部位判定モデルを構築しています。2018年に大型サーボプレス向けとして市場導入され、トヨタ自動車の工場で運用実績があります。大型プレス機のモーターに異常の兆候を検知し、必要最小限の部品交換で突発停止を回避できた事例が報告されています。

現在はサーボモータが主な対象ですが、今後は減速機、タイミングベルト、ボールスクリューなどへ対応を拡大する予定です。

JR西日本:自動改札機の故障予測とCBM展開

JR西日本はCBM(Condition Based Maintenance)の推進として、鉄道設備の状態監視と予知保全を展開しています。

JR西日本

自動改札機のログデータを活用したAI故障予測を導入し、従来1〜3ヶ月に一度だった定期点検の周期を延伸できる可能性を実証しました。データに基づく保全判断により、保全員の巡回負荷を軽減しつつ故障の未然防止を両立するアプローチです。

この知見は鉄道設備にとどまらず、JAXAとの共創で人工衛星の故障予測AIにも応用されており、CBMの適用範囲が宇宙分野にまで広がっています。

花王:バッチプロセスでの異常予兆検知

花王はアズビルのAIオンライン異常予兆検知システム「BiG EYES」を和歌山工場に導入し、ケミカル事業のエステル設備の監視を自動化しました。

この事例の特徴は、連続プロセスではなくバッチプロセスで異常予兆検知を実現した点です。バッチプロセスは品種ごとに運転パターンが異なるため、従来のAI予知保全が適用しにくいとされていました。花王は多品種・多パターンのデータを学習させることでこの課題を克服し、第16回日本化学工業協会「レスポンシブル・ケア大賞」を受賞しています。

導入効果としては、監視業務の大幅な負荷削減、生産性向上、属人化の解消、製造技術の伝承が報告されています。

3社の事例に共通するのは、既存のデータ資産(PLCデータ、改札機ログ、プロセスデータ)を活用してAI予知保全を構築している点です。新たに大規模なセンサーインフラを構築したケースは少なく、既存データの棚卸しから始めるアプローチが成功の鍵になっています。


予知保全AIツール・サービス比較

2026年4月時点で日本国内の企業が検討できる予知保全AIツール・サービスを整理します。製品の系統は「異常検知プラットフォーム型」「設備メーカー提供型」「SaaS型簡易ツール」に大別されます。

予知保全AIツール・サービス比較

以下の表で主要ツールの特徴を比較しました。実際の価格は設備数・センサー数・連携要件によって変動するため、正式な見積もりは各ベンダーへの問い合わせが必要です。

ツール名 提供元 対応データ 方式 料金目安 特徴
Impulse ブレインズテクノロジー 時系列・画像・音声 教師なし学習 要問い合わせ 異常検知プラットフォーム。大阪ガス・ヤンマー等に導入実績
BiG EYES アズビル プロセスデータ 統計モデル+AI 要問い合わせ 化学・電力向け。関西電力の火力発電所にも導入
Prediction One ソニーネットワークコミュニケーションズ CSV・時系列 AutoML 14日間無料体験あり(個人利用 217,800円〜/年、法人は要問い合わせ) 汎用ノーコードAI(予知保全専用ではない)。データサイエンティスト不要で予測モデル構築
KOMTRAX 予知保全 コマツ産機 CNC/PLCデータ 教師あり学習 要問い合わせ 外付けセンサー不要。プレス機・板金機特化
CX-M 東京エレクトロン デバイス 時系列データ 自動分析 要問い合わせ 時系列データ自動分析マシン。設備データの傾向変化を自動検出
SimF NDR 振動 シミュレーション分析 要問い合わせ 設備の劣化シミュレーションによる予知保全


ツール選定で重要なのは、「高機能なプラットフォームが最良」とは限らない点です。自社の保全対象設備と既存データの状況によって最適な選択肢は変わります。

大規模なプラント・化学工場であればImpulseやBiG EYESのようなプラットフォーム型が適しています。一方、中小製造業で「まず1台の設備から始めたい」ならPrediction One(個人利用217,800円〜/年)やSimFが検証候補にしやすい製品です。

支援経験からは、設備メーカー提供型(KOMTRAXなど)は自社設備との親和性が高いものの、マルチメーカー環境では使いにくいという制約があります。複数メーカーの設備を一元管理するなら、プラットフォーム型を選ぶのが現実的です。

予知保全AIを設備保全業務に定着させるために

AI Agent Hub

IoTデータ活用から業務フロー連携まで設計

予知保全AIを単体ツールで終わらせず、保全管理システム・IoTプラットフォームと接続して保全業務全体を自動化。AI Agent Hubで実装までの基盤構築を支援します。


予知保全AI導入で詰まる5つの論点

予知保全AIの導入を検討する際に、多くの企業が判断に迷うポイントを整理します。ツール比較だけでは解決できない、導入判断の本質的な論点です。

予知保全AI導入で詰まる5つの論点

論点1:故障データがない設備でも導入できるか

「うちは設備が壊れた記録をちゃんと残していない」という声は非常に多い課題です。教師あり学習には故障データが必須ですが、教師なし学習(異常検知型)であれば正常データだけで導入できます

論点1

正常な状態の運転データを一定期間(通常2〜4週間)収集すれば、そこから外れたパターンを「異常」として検知するモデルを構築できます。故障データが蓄積されたら、そのデータを使って教師あり学習のモデルに切り替え、精度を高めるという段階的なアプローチが実務的です。

論点2:AI予知保全の精度をどう評価するか

「精度99%」というカタログスペックに惑わされてはいけません。予知保全における精度評価は、以下の2つの指標のバランスで判断します。

論点2

  • 検知率(Recall)
    実際に故障した設備のうち、事前に検知できた割合です。検知率が低いと「見逃し」が発生し、予知保全の意味がなくなります。

  • 誤報率(False Positive Rate)
    正常な設備を「異常」と判定してしまう割合です。誤報が多いと保全員が「またか」と判定を無視するようになり、本当の異常も見逃す「オオカミ少年問題」が発生します。

PoCの段階では、検知率と誤報率のバランスを自社の設備で検証することが最重要です。支援経験からは、検知率90%以上・誤報率5%以下をひとつの目安として目標設定している企業が多い印象です。ただしこの数値は設備の種類や環境条件に大きく左右されるため、自社データでの実測値で判断してください。

論点3:投資対効果(ROI)の算出方法

経営層を説得するには、予知保全AIの導入コストと削減効果を定量化する必要があります。

論点3

ROI算出の基本式は「(年間削減額 − 年間運用コスト)÷ 初期投資額 × 100」です。年間削減額には以下の項目を含めます。

  • 突発停止による生産損失額(過去実績から算出)
  • 緊急保全の人件費・部品費(通常保全との差額)
  • 過剰な定期交換の部品費(予防保全との差額)
  • 二次被害の修理費用(連鎖故障の過去実績)

一方で、初期投資にはセンサー・通信機器・AIプラットフォームライセンス・初期設定の人件費を含め、年間運用コストにはSaaS利用料・データ通信費・モデル再学習の工数を含めます。

まずは「最も故障頻度が高い設備」「故障時の損失額が最も大きい設備」を1台選び、その設備だけでROIを計算するのが出発点です。全設備を一括で導入しようとすると、投資額が膨らんで社内稟議が通りにくくなります。

論点4:現場の保全員にどう受け入れてもらうか

技術的にAI予知保全が機能しても、現場の保全員が「AIの判定は信用できない」と感じれば運用に乗りません。

この問題への対処は、AIの役割を「保全員の判断を置き換える」ではなく「保全員の判断を補助する」と位置づけることが出発点です。AIが出したアラートをベテラン保全員が確認し、判定が正しかったかどうかをフィードバックするサイクルを回すことで、AIの精度も向上し、保全員のAIに対する信頼も醸成されます。

導入初期は「AIが出した予測をベテランが検証する」運用とし、AIの判定精度が十分に実証された段階で「AIが出した予測に基づいて保全計画を自動作成する」段階に進める、という2段階の導入が効果的です。

論点5:スモールスタートの具体的な進め方

予知保全AIの導入を成功させるための具体的なスモールスタートの手順を示します。

論点5

  • Step 1 最も故障頻度が高い設備、または故障時の損失額が大きい設備を1台選定する
  • Step 2 その設備に振動センサーまたは温度センサーを1つ取り付ける(既存PLCデータが使える場合はセンサー不要)
  • Step 3 正常データを2〜4週間収集する
  • Step 4 Prediction OneなどのノーコードAIやSaaS型ツールでAI分析を開始し、異常検知モデルを構築する
  • Step 5 1〜3ヶ月間の検証期間を設け、検知率と誤報率を評価する
  • Step 6 ROIが確認できたら、対象設備を段階的に拡大する

全社一括導入ではなく、1台→5台→全ラインという段階的な拡大が、現場の負担を抑えつつ成果を積み上げるアプローチです。


予知保全AIの料金・コスト感(2026年4月時点)

予知保全AIの導入コストは、「センサー+通信インフラ」と「AIプラットフォーム」の2つに大別されます。以下の表に、2026年4月時点の公開情報をもとに価格帯を整理しました。実際の価格はセンサー数・設備数・連携要件によって変動するため、正式な見積もりは各ベンダーへの問い合わせが必要です。

予知保全AIの料金・コスト感

センサー・通信インフラの費用

項目 費用目安
振動センサー(1台あたり) 数万円〜10万円程度
温度センサー(1台あたり) 数千円〜数万円
IoTゲートウェイ(1台) 5万円〜20万円程度
通信回線(SIM/Wi-Fi) 月額数百円〜数千円/台


センサー費用は種類と精度によって大きく異なります。汎用的な振動センサーであれば1台数万円から導入できますが、高精度・高耐久の産業用センサーは10万円以上になるケースもあります。

AIプラットフォームの費用

区分 代表的なツール 初期費用 月額費用
SaaS型 SimF 要問い合わせ 要問い合わせ
プラットフォーム型 Impulse / BiG EYES 要問い合わせ 要問い合わせ
設備メーカー型 KOMTRAX 要問い合わせ 要問い合わせ
分析マシン型 CX-M 要問い合わせ 要問い合わせ
汎用ノーコードAI Prediction One 14日間無料体験あり(サンプルデータのみ) 個人利用 217,800円〜/年、法人は要問い合わせ


Prediction Oneは14日間の無料体験(サンプルデータのみ)で操作感を確認でき、自社データでの検証は有償ライセンス(個人利用217,800円〜/年)から利用可能です。プラットフォーム型は個別見積もりが基本ですが、年間数百万円〜の投資が一般的です。

コストを判断する際のポイントは、ツールの月額費用だけでなく、以下の隠れコストを含めて評価することです。

  • データ準備の人件費
    センサーの設置、データクレンジング、正解データの作成にかかる工数です。

  • モデルの再学習コスト
    設備の状態は経年変化するため、AIモデルを定期的に再学習させる必要があります。

  • 既存システムとの連携費
    CMMS(設備保全管理システム)やERP・MESと連携させる場合のカスタマイズ費用です。生産管理AIとの連携を視野に入れる場合は、この費用が重要になります。

まずはノーコードAIの個人利用プランやSaaS型ツールでPoCを実施し、効果を定量化してから本格導入の予算を確保するステップが現実的です。

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予知保全AIを設備保全の自動化までつなぐなら

予知保全AIは「異常を検知する」ところがゴールではありません。検知した異常に対して、保全計画の自動作成、部品の発注、作業指示書の生成、作業完了の記録までを一連の業務フローとして設計すれば、予知保全は「単体ツール」ではなく「保全業務全体の自動化基盤」になります。

AI Agent Hubでは、IoTセンサーからのアラートをトリガーに、保全管理システムへの作業指示登録、部品在庫の確認と発注、Teamsでの保全員への通知までをAIエージェントが自動実行する業務フローの設計・構築を支援しています。予知保全AIの導入から業務自動化まで、全体像を確認したい場合は以下の資料をご覧ください。

AI総合研究所では、製造業のAIエージェント活用に関する支援実績をもとに、IoTデータの活用設計から保全業務の自動化までを一気通貫でサポートしています。

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IoTデータ活用から業務フロー連携まで設計

予知保全AIを単体ツールで終わらせず、保全管理システム・IoTプラットフォームと接続して保全業務全体を自動化。AI Agent Hubで実装までの基盤構築を支援します。


まとめ

本記事では、予知保全AIの仕組み・保全方式の違い・導入事例・ツール比較・料金相場・導入で詰まる論点を2026年4月時点の最新情報で解説しました。

予知保全AIは、IoTセンサーとAI分析を組み合わせることで、設備の突発停止を未然に防ぎ、保全コストの最適化と属人化の解消を同時に実現する技術です。コマツの外付けセンサー不要方式、JR西日本の自動改札機故障予測によるCBM展開、花王のバッチプロセスでの異常予兆検知など、業界を問わず成果が出ています。

ツール選定では、Prediction OneのようなノーコードAI(個人利用217,800円〜/年)からプラットフォーム型まで選択肢が広がっており、自社の規模に合わせたスモールスタートが可能です。最初の一歩として取り組むべきは、最も故障頻度が高い設備を1台選び、そこにセンサーを1つ付けて正常データを収集することです。2〜4週間のデータ収集で異常検知モデルの構築が可能になります。

設備保全の課題が「壊れてから直す」から脱却できていないなら、まずは1台の設備でPoCを実施し、自社データで予知保全AIの効果を検証してみてください。

監修者
坂本 将磨

坂本 将磨

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

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