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MLBが2026年シーズンからABS(自動ボール・ストライク判定)チャレンジシステムを全試合導入。韓国KBOでは55,026球中の判読率99.9%を記録
NPB全12球団にホークアイ導入済み。ソニーCMS/DMPとNPB+アプリで投球軌道・打球速度・回転数をリアルタイム可視化
SmartScout(月額約1,500円)やForceSenseなど、スマホ1台でプロ級のフォーム解析が可能なAIツールが登場
ライブリッツのFastBall AIがアマチュア野球にもAI分析を展開。ソフトバンクホークスでは守備位置や走塁の科学的分析を実現
京都府立医大の野球肘早期発見AI、ACESの姿勢推定AI「Deep Nine」など、怪我予防分野でもAI活用が進展

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
野球界では、AI審判の正式導入から選手のフォーム解析、怪我予防、試合戦略の最適化まで、AIの活用が急速に広がっています。MLBでは2026年シーズンからABS(自動ボール・ストライク判定)チャレンジシステムが全試合で導入され、韓国プロ野球(KBO)では判読率99.9%という精度が報告されています。
日本でもNPB全12球団にホークアイトラッキングが導入済みで、ソニー開発のCMSやNPB+アプリを通じたデータ活用が本格化しています。SmartScoutやForceSenseといったスマホ1台で使えるAI解析ツールの登場により、プロからアマチュアまで科学的なトレーニングが可能になりました。
本記事では、野球界におけるAI活用事例13選を「AI審判」「パフォーマンス分析」「怪我予防」「試合戦略・ファン体験」の4カテゴリに分けて、具体的な導入効果とともに解説します。
目次
福岡ソフトバンクホークス × ライブリッツ(AIトラッキング + FastBall AI)
AI動画解析アプリ ForceSense(NineEdge社)
姿勢推定AI Deep Nine(ACES × 電通 × GAORA × 共同通信デジタル)
野球×AI市場の現状と活用カテゴリ
野球界におけるAI活用は、2024年から2026年にかけて導入フェーズから実運用フェーズへと大きく移行しています。MLBでは2026年シーズンからABS(自動ボール・ストライク判定)チャレンジシステムが全試合で正式導入され、韓国プロ野球(KBO)ではすでに判読率99.9%という精度で運用が進んでいます。日本のNPBでも全12球団の本拠地球場にホークアイトラッキングシステムが設置完了し、ソニーが開発したコンテンツ制作システム(CMS)とデータ管理プラットフォーム(DMP)によるデータ活用基盤が整いました。
こうした動きの背景には、AIカメラをはじめとするトラッキング技術の高精度化と、生成AIの企業導入が本格化したことがあります。従来はプロ球団の一部が高額な機材を用いて行っていたデータ分析が、スマートフォン1台で利用できるAI解析ツールの登場により、アマチュア野球にまで裾野を広げています。
以下の表は、野球界で活用されるAI技術を4つのカテゴリに分類したものです。
| カテゴリ | 主な活用領域 | 代表的な技術・サービス |
|---|---|---|
| AI審判・判定支援 | ストライク/ボール判定、リプレイ検証 | ABS、ホークアイ |
| パフォーマンス分析 | フォーム解析、投球/打球データ計測 | SmartScout、ForceSense、NPB+ |
| 怪我予防・コンディション管理 | 故障リスク検知、フォームの偏差分析 | Deep Nine、野球肘AI |
| 試合戦略・ファン体験 | 配球予測、勝敗予想、リアルタイム解説 | AIキャッチャー、SPAIA |
この分類から分かるように、AIの活用範囲は「判定の正確性向上」から「選手育成」「怪我予防」「観戦体験の革新」にまで広がっています。以降のセクションでは、各カテゴリの代表的な事例を具体的な導入効果とともに解説していきます。
野球×AIのAI審判・判定支援事例
野球におけるAI審判は、ストライク/ボール判定の正確性を飛躍的に高める技術として、韓国とアメリカで実運用が始まっています。従来、球審の判定精度はMLBの調査で約88%とされており、1試合あたり約14球の判定が実際のストライクゾーンと異なるという課題がありました。AI審判システムはこの課題に対し、カメラとトラッキング技術を組み合わせることで人間の目では捉えきれない精度を実現しています。
韓国プロ野球(KBO)のAI審判 ABS
この試合 AI審判がストライクを判定してます
— RARELY AKIRA (@sekai_yakyu_828) March 7, 2024
韓国プロ野球KBO
ABS 自動投球判定システムを導入
世界各国のトップリーグでAI判定制度が使用されるのは史上初めてとなる
AIが瞬時に判定→審判に伝達
フレーミングに惑わされない公正ジャッジ
一方で課題も 1:00 のシーン
ボールなのにストライク判定… pic.twitter.com/r8zTKrTjra
韓国プロ野球(KBO)は、世界に先駆けてABS(Automated Ball-Strike System)を一軍公式戦に導入しました。センターカメラと一塁・三塁側に設置されたカメラが投球軌道を追跡し、AIが瞬時にストライク/ボールを判別します。判定結果はイヤホンを通じて球審に伝えられ、球審がそのままコールする仕組みです。
Number Webの報道によると、KBOが開幕から185試合・55,026球を検証した結果、判読率は99.9%に達し、判断ミスはわずか21球にとどまりました。また、THE ANSWERの報道では、AI判定結果と異なるコールを行い隠ぺいしようとした審判が解雇される事案も発生しており、「AIの判定を球審が正確に伝達できるか」という人間側の運用課題も浮き彫りになっています。試合時間については、判定の迅速化により平均19分の短縮効果が報告されています。
MLB ABS チャレンジシステム(2026年正式導入)
MLBは2022年からマイナーリーグでABSの実験を重ね、2025年にはオープン戦とオールスター戦で試験導入を行ったうえで、2026年レギュラーシーズンから全試合での正式導入を決定しました。KBOとは異なり、MLBは「チャレンジ方式」を採用しています。
具体的な運用ルールは以下のとおりです。
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チャレンジ権
各チームに1試合2回のチャレンジ権が付与され、チャレンジが成功した場合は権利が保持されます。延長戦では、残りのチャレンジ権がないチームに追加で1回分が付与されます。
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申告方法
投手・捕手・打者のいずれかが帽子またはヘルメットに手を触れることでチャレンジを宣告します。球審が判定をコールした直後に申告する必要があります。
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判定プロセス
チャレンジ発動から約15秒で判定結果が確定し、場内アナウンスとスコアボードのグラフィック表示で即座にファンにも共有されます。
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技術仕様
12台以上のカメラによるトラッキング技術を使用し、ストライクゾーンは選手ごとの身長比率に基づいて個別に設定されます。
ITmedia NEWSの報道によると、2025年春季キャンプでは1試合平均4回以上のチャレンジが実施され、成功率は約50%でした。これは球審の判定が半分のケースで覆ったことを意味しており、AI判定の導入がいかに判定精度の向上に寄与するかを示すデータといえます。
野球×AIの選手パフォーマンス分析事例
選手のパフォーマンス分析は、野球におけるAI活用のなかでもっとも事例が豊富な領域です。投球フォームや打撃スイングを数値化し、改善点を客観的に示すことで、従来のコーチの「勘と経験」に頼った指導から、データに基づいた科学的トレーニングへの転換が進んでいます。プロ球団はもちろん、アマチュア野球にもAI解析ツールが普及し始めており、野球界全体のレベル向上に貢献しています。
福岡ソフトバンクホークス × ライブリッツ(AIトラッキング + FastBall AI)

福岡ソフトバンクホークスの画像
福岡ソフトバンクホークスは、ライブリッツ社が開発した野球選手AIトラッキングシステムを導入し、チーム戦略に活用しています。高解像度カメラで撮影した選手の走攻守の動作データを独自のAI(機械学習)で分析し、守備範囲・打球への反応速度・走塁のコース取りといった、従来は勘や経験に頼りがちだったプレーを科学的に指標化しています。
これにより、統計に基づいた戦略的な守備シフトの構築や、走塁技術の効率的な改善が可能になりました。ライブリッツのシステムは阪神タイガースを含む複数のプロ球団でも採用されており、日本球界のデータ活用基盤として広がりを見せています。
さらに2025年には、ライブリッツが生成AIを活用した「FastBall AI」プロジェクトを始動しました。第一弾サービス「FastBall AIアナリスト」は、選手の計測データ(投球・打球・体組成など)をAIが科学的に分析し、一人ひとりの強みや改善点を示すレポートを自動生成します。元東京ヤクルトスワローズの久古健太郎氏が監修しており、プロのノウハウがアマチュア野球チームの育成にも活かされる仕組みです。
NPBホークアイ × ソニーCMS/DMP × NPB+
NPBでは2024年シーズンまでに全12球団の本拠地球場へホークアイトラッキングシステムの導入が完了しました。ソニーグループ傘下のHawk-Eye Innovationsが提供するこのシステムは、複数の高精度カメラで投球の軌道・球速・回転数、打球速度・打球角度、スイング速度などをリアルタイムで計測します。
ソニーのプレスリリースによると、同社はホークアイデータを活用した「コンテンツ・マネジメント・システム(CMS)」を開発し、全12球団の公式戦のプレーデータを一元管理する「データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)」も構築しています。このシステムはGoogle Cloud上に構築されており、GKE AutopilotとCloud GPUの組み合わせにより、試合の有無に応じてリソースを自動で増減させ、「全プレーのCGコンテンツ化」と「コスト最適化」の両立を実現しています。
2025年10月にはソニー・NPBエンタープライズ・コナミデジタルエンタテインメントが共同で、NPB公認プロ野球速報アプリ「NPB+」のテスト配信を開始しました。2026年シーズンからの本格稼働を目指しており、ファンが投球軌道や打球データをリアルタイムで確認できる観戦体験の進化が期待されています。
スポーツ界全体のAI活用事例については、以下の記事も参考にしてください。
【関連記事】
スポーツ界におけるAIの活用事例19選!ジャンル毎の事例や将来展望を解説
SmartScout(Knowhere社)
Knowhere社が開発したSmartScoutは、スマートフォン1台で投球・打撃の詳細データを計測・解析できるAIアプリです。投球では球速・変化量・回転数・回転効率など8項目以上を自動計測し、打撃では打球速度と打球角度をリアルタイムで分析します。従来のトラックマンやラプソードといった高額な計測機器(数百万円規模)と同等の分析を、月額約1,500円で利用できる点が大きな特徴です。
PRTIMESのプレスリリースによると、SmartScoutはすでにMLBやNPBの複数チームで実証採用されており、2025年2月には千葉ロッテマリーンズがSmartScoutを正式導入しデータ活用に関する共同研究を開始しています。2025年4月にはグロービス・キャピタル・パートナーズをリード投資家として総額4.8億円の資金調達を完了し、現役プロ野球選手も投資家として参画しています。2025年夏にはアマチュア選手向けバージョンのリリースが予定されており、プロからアマチュアまでデータ活用の裾野を広げる取り組みが加速しています。
AI動画解析アプリ ForceSense(NineEdge社)

AI動画解析アプリ「ForceSense」の画像
NineEdge社が提供するForceSenseは、AIによる動画解析で打撃・投球フォームを定量的に分析するアプリです。iPhoneとスタンドがあれば、その場で動画を撮影してすぐに解析結果を得られるため、練習中や試合直後のフィードバックに活用できます。
打者向けには打球速度・打球角度・スイング速度の計測、投手向けには球速・腕の速度・リリースポイントの高さをリアルタイムで分析する機能を備えています。AIがフォームを自動認識して撮影タイミングを判断するため、撮影者が専門知識を持っていなくても正確なデータを取得できます。また、過去の動画・解析データを蓄積して振り返ることができ、自分のフォーム変化やパフォーマンスの推移を客観的に確認できます。無料でダウンロード可能で、アプリ内課金で追加機能を利用する料金体系となっています。
ProPlayAI

PROPLAYAIの画像
ProPlayAIは、1台のカメラで撮影した2Dビデオを3Dデータセットにマッピングし、投球フォームを高精度に解析するAIプラットフォームです。関節角度・回転速度・体重移動のタイミングなど、通常はモーションキャプチャーが必要だった指標をスマートフォンの映像だけで算出します。
Thanks to a partnership with @proplayai, all the participants of @TierSouth’s Winter Arm Care program will receive a biomechanics evaluation that will help us individualize the player’s plan. pic.twitter.com/Cpo6lu8hV0
— Wes Anderson (@WesAndersonPC) December 19, 2022
解析結果は、同ポジション・同レベルの選手との統計比較で表示されるため、自分のスキルレベルが数値として可視化され、改善すべきポイントが明確になります。料金は月額99ドル(約15,000円)からで、プロの投手育成からアマチュア選手の自主トレーニングまで幅広く活用されています。
野球×AIの怪我予防・コンディション管理事例
野球は投球動作における肩・肘への負荷が大きく、選手生命を左右する怪我のリスクと常に隣り合わせのスポーツです。AIは、人間の目では捉えにくいフォームの微細な変化や疲労の蓄積パターンを検出することで、怪我の「予兆」を早期に発見し、予防的な対策を可能にしています。
野球肘の早期発見AI(京都府立医大 × 兵庫県立大)
京都府立医科大学と兵庫県立大学の研究チームは、AIを用いて野球肘(離断性骨軟骨炎=OCD)を早期発見するプログラムを共同開発しました。朝日新聞の報道によると、このプログラムは超音波画像をAIが解析し、専門医でなくても高い精度でOCDの兆候を検出できるように設計されています。
野球肘は成長期の少年選手に多く発生し、放置すると選手生命に関わる重篤な障害につながります。しかし、地方を中心に整形外科の専門医が不足しており、定期的な検診を受けられない選手が少なくありません。AIによる画像診断の自動化は、こうした医療資源の地域格差を補う手段として注目されています。研究チームは今後、OCDに限らず野球肘全般の早期発見に応用範囲を広げる計画を進めています。
姿勢推定AI Deep Nine(ACES × 電通 × GAORA × 共同通信デジタル)

Deep Nineの画像 (出典)PRTIMES
ACES・電通・GAORA・共同通信デジタルの4社が共同開発した「Deep Nine」は、ヒューマンセンシング技術(人の動きをAIで認識・分析する技術)を野球に応用した姿勢推定AIアプリケーションです。選手の投球・打撃・守備動作を映像から解析し、身体の各関節の位置・角度・速度情報を数値として定量化します。
Deep Nineの特徴は、怪我前と怪我後の身体の動きの違いを分析できる点にあります。疲労の蓄積によって生じる微細なフォームの変化を検出し、怪我の予兆を早期に把握することが可能です。選手自身がパフォーマンスの低下を感じた際に、保存された過去の身体データと現在の動作を比較し、どの部位の動きが変化しているかを確認してトレーニング内容を調整するといった使い方ができます。国内プロ野球球団への試験導入と映像データ分析がすでに開始されています。
野球×AIの試合戦略・ファン体験向上事例
AIは試合中の戦術判断を支援するだけでなく、ファンの観戦体験を根本から変える力を持っています。リアルタイムで配球予測や作戦成功確率を表示する技術は、野球中継の新しい楽しみ方を生み出しました。
AI作戦成功確率 × AIキャッチャー(データスタジアム × 日本テレビ)

AI作戦成功確率の表示

AIキャッチャーの画像
データスタジアム社は、野球の攻撃時の各種作戦について成功確率を予測するAIを開発し、日本テレビ系プロ野球中継で「AI作戦成功確率」として実用化しています。ヒット・送りバント・盗塁の3作戦について、打者ごとにAIが成功確率を算出し、1球ごとにリアルタイムで確率が更新される仕組みです。ボールカウントの変化に応じて成功確率がどれだけ増減するかが画面上に表示されるため、視聴者はデータに基づいた視点で試合展開を楽しめます。
同じくデータスタジアムと日本テレビ・博報堂DYメディアパートナーズが共同開発した「AIキャッチャー」は、バッターを抑えるための最適な配球をAIがリアルタイムで提示するシステムです。過去16年間のプロ野球約400万球のデータをベースに、ボールカウント・アウトカウント・イニング・点差・出塁状況に応じて、最適な球種とコースをAIが算出します。
今年のプロ野球中継の楽しみの一つ。
— 🌏 生コラ美容液(卸)|ハッピー橋本亨@ええねんプランニング社長 (@happy3939) June 20, 2020
読売だけやと思うけど、AIキャッチャーを導入。16年間でなんと400万球を記憶して、配給を決めて紹介。
今日の解説の江川さん、キャッチャー、AIの選択の違いが面白い。
ただ今、ジャイアン1-0でリード。 pic.twitter.com/WamgmgEldF
実際のバッテリーのサイン選択とAIの推奨配球を比較できるため、「プロの配球術とAIの判断がどこで一致し、どこで異なるか」を楽しむ新しい観戦スタイルが生まれています。
SPAIA プロ野球 AI勝敗予想

SPAIAの画像
SPAIAの「プロ野球 AI勝敗予想」は、過去の試合データを機械学習させたAIモデルにより、各試合の勝利チームを予想するサービスです。先発投手の成績・打線の調子・球場特性・対戦相手との相性など、複数の変数を総合的に分析して予測を行います。
定期的にモデルの更新が行われており、シーズンが進むにつれて直近のデータが反映されることで予測精度の向上が期待できます。ユーザーの的中率や投票結果もサイト上で閲覧可能で、AIの予想と自分の予想を比較しながら試合を観戦するファンが増えています。画像認識や機械学習といった技術が、エンターテインメントとしても活用される好例です。
AI BASEBALL 野球勝敗AI予想

AI BASEBALLの画像
AI BASEBALLは、プロ野球と高校野球の勝敗予測をAIで提供する有料サービスです。会員登録費(25,000円〜50,000円)が必要ですが、高精度の予測を特徴としています。たとえば、2024年2月の予想的中率は100%、2022年は81.6%の実績が公表されています。
独自のアルゴリズムにより、チームの直近の調子・主力選手のコンディション・天候条件・球場の特性を加味した予測を行います。有料モデルだけあって、無料サービスとは一線を画す精度を追求しており、自分の野球知識とAIの予測を突き合わせることで観戦の楽しみが深まるサービスといえます。
野球×AIを活用する4つのメリット
野球界でAIが急速に導入されている背景には、従来の手法では実現できなかった4つの大きなメリットがあります。AIの面白い活用事例は野球に限らず多くの分野で登場していますが、ここでは野球特有の価値に焦点を当てます。ここでは、選手・指導者・ファンそれぞれの視点から、AI活用がもたらす具体的な価値を整理します。
データに基づくパフォーマンス向上
野球では1試合あたり数百球の投球、数十回の打席、数百のプレーが発生し、膨大なデータが生まれます。AIはこれらのデータを瞬時に解析し、選手ごとの強み・弱みを数値で可視化します。たとえば、SmartScoutはスマートフォン1台で投球の回転数や変化量を計測し、改善点を自動で提示します。従来はコーチの主観的な判断に頼っていた指導が、客観的なデータに基づくものに変わることで、効率的なトレーニングが実現しています。ソフトバンクホークスのAIトラッキングシステムでは、守備位置の最適化や走塁コースの改善が科学的に進められ、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献しています。
怪我の予防と選手寿命の延長
投手の肩・肘に対する負荷は、1球ごとに蓄積されます。AIは投球フォームの微細な変化を検出し、疲労の蓄積や怪我の予兆を早期に発見できます。京都府立医大のAIは超音波画像から野球肘を早期検知し、専門医不足の地域でもスクリーニングを可能にしました。Deep Nineは怪我前後のフォーム変化を定量的に比較でき、復帰時のコンディション確認にも活用されています。選手の怪我を未然に防ぐことは、チームにとっても戦力維持の面で計り知れない価値があります。
試合運営の公正性向上
KBOのAI審判は55,026球中の判読率99.9%を達成し、MLBでも2026年からABSチャレンジシステムが全試合に導入されます。AIによる判定支援は、人間の視覚では正確に捉えきれない高速の投球を客観的に判定し、誤審による試合結果への影響を最小限に抑えます。チャレンジシステムでは約15秒で判定結果が確定するため、試合の流れを大きく止めることなく公正性を担保できます。選手・監督・ファンのすべてが納得できる試合運営に向けた大きな前進です。
ファンの観戦体験の革新
データスタジアムの「AI作戦成功確率」やNPB+アプリのリアルタイムデータ表示は、ファンが試合を「見る」だけでなく「分析しながら楽しむ」観戦スタイルを可能にしました。SPAIAやAI BASEBALLの勝敗予測サービスは、データに基づいた予想を立てる楽しみを提供しています。投球の軌道や打球の速度・角度をリアルタイムで確認できるNPB+アプリが2026年シーズンに本格稼働すれば、球場でもテレビでもこれまでにない情報量で野球を楽しめるようになります。
野球×AI導入で注意すべき3つのポイント
AI活用のメリットが大きい一方で、導入にあたっては技術的・倫理的な課題も存在します。ここでは、選手・チーム・リーグが押さえておくべき3つの注意点を解説します。
AIの判定・分析精度の限界と過信リスク
KBOのAI審判は99.9%の判読率を記録していますが、裏を返せば55,000球中21球は誤判定が発生しています。とくに変化球のギリギリのコースや、打者の体格によるストライクゾーンの境界付近では、AIの判定と人間の感覚にズレが生じるケースがあります。また、フォーム解析AIが示す「理想のフォーム」も、あくまで過去データの統計的傾向に基づくものであり、選手個々の身体特性や感覚を無視して機械的に適用すると逆効果になる可能性があります。AIの分析結果はあくまで「判断材料」として活用し、最終判断は選手やコーチが行うという運用ルールを明確にしておくことが重要です。
データの質と量の確保、プライバシーへの配慮
AIの精度はトレーニングデータの質と量に大きく依存します。データ量が少ないアマチュア野球やマイナーリーグでは、プロ向けに開発されたAIモデルがそのまま機能するとは限りません。また、選手の身体データ(関節角度・筋力・疲労度など)は個人の健康情報に該当するため、収集・保管・共有にあたってはプライバシーへの十分な配慮が必要です。とくに未成年の選手が多い少年野球やアマチュア野球では、保護者の同意取得やデータの利用範囲の明確化など、倫理的なルール整備が欠かせません。
導入コストと技術格差の拡大
ホークアイのような球場設置型のトラッキングシステムは導入コストが高く、NPBの全球団導入が実現した一方で、独立リーグや地方の社会人チームにとっては導入のハードルが高いのが現状です。SmartScoutやForceSenseのようにスマートフォンで利用できるツールの登場により参入障壁は下がっていますが、それでもデータを分析し戦略に落とし込める人材の確保は別の課題として残ります。AI導入の恩恵が一部の資金力のあるチームに偏ると、リーグ全体の競争バランスに影響する可能性があります。チーム規模に合ったAIツールの選定と、段階的な導入計画を立てることが現実的なアプローチです。
自社の業務にAIを導入したいが何から始めればよいか分からない、という場合は、まず小さな領域で効果を検証する「パイロット導入」が有効です。野球チームのAI導入事例は、業種を問わず「データ活用の第一歩」を考えるうえで参考になるモデルケースです。AIのビジネス活用方法についてはこちらの記事も参考にしてください。
野球AI関連ツールの料金比較
野球向けAI解析ツールの料金体系は、無料アプリから有料サブスクリプションまで幅広い選択肢があります。以下の表で、主要ツールの料金と特徴を整理しました。
| ツール名 | 提供元 | 料金(2026年3月時点) | 主な機能 |
|---|---|---|---|
| SmartScout | Knowhere | 月額約1,500円 | 投球解析(球速・変化量・回転数)、打撃解析(打球速度・角度) |
| ForceSense | NineEdge | 無料(アプリ内課金あり) | 動画撮影・自動解析、フォーム比較、データ蓄積 |
| ProPlayAI | ProPlayAI | 月額99ドル〜(約15,000円〜) | 2D→3Dマッピング、関節角度解析、統計比較 |
| FastBall AI アナリスト | ライブリッツ | 要問い合わせ | 計測データのAI分析、レポート自動生成、改善提案 |
| SPAIA AI勝敗予想 | SPAIA | 無料 | プロ野球勝敗AI予測、的中率表示、ユーザー投票 |
| AI BASEBALL | AI BASEBALL | 25,000円〜50,000円(入会金) | プロ野球・高校野球の高精度勝敗予測 |
この表が示すように、手軽に始めるならForceSense(無料)やSmartScout(月額約1,500円)が導入のハードルが低い選択肢です。より精密な3D解析が必要な場合はProPlayAI、チーム単位でのデータ活用を目指すならFastBall AIアナリストが候補になります。いずれのツールもスマートフォンがあれば利用開始できるため、まずは無料ツールで効果を確認してから段階的に投資を増やすアプローチが現実的です。
バックオフィス業務をAIで自動化 AI Agent Hub
Microsoft Teams上でAIエージェントが業務を代行
経費精算・請求書処理をAIが自動実行。Microsoft Teams上でAIエージェントが業務を代行し、金融機関レベルのセキュリティで安心導入。
まとめ
野球界におけるAI活用は、AI審判・選手分析・怪我予防・ファン体験の4領域で具体的な成果が出ています。本記事で紹介した13の事例から、以下の3つのポイントが見えてきます。
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AI審判は実運用段階へ
KBOでは判読率99.9%を達成し、MLBも2026年からABSチャレンジシステムを全試合に導入しました。判定の公正性をAIが担保する時代はすでに始まっています。
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データ分析の民主化が加速
SmartScout(月額約1,500円)やForceSense(無料)の登場により、プロ球団だけでなくアマチュア選手も科学的トレーニングに取り組める環境が整いつつあります。NPBホークアイの全球団導入とNPB+アプリの本格稼働により、日本球界のデータ活用基盤はさらに強化されます。
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怪我予防と選手寿命の延長にAIが貢献
京都府立医大の野球肘AI、Deep Nineの姿勢推定AI、SmartScoutの動作解析など、怪我の「予兆」を検知する技術が実用化されています。データに基づく予防的アプローチは、選手の競技人生を守る重要な手段です。
まずはチームの課題を1つ特定し、無料で使えるAI解析ツールを試してみるところから始めてみてください。たとえば投手のフォームチェックにForceSenseを導入し、データに基づいた練習メニューの改善効果を1か月検証するだけでも、AI活用の価値を実感できるはずです。
AI総合研究所では最新AIの企業導入、開発、研修を支援しています。AI導入の企業の担当者様はお気軽にご相談ください。









