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建設業でERPはなぜ必要か|見積・原価・労務をつなぐ基幹システムの役割と導入ポイント

この記事のポイント

  • 建設業向けERPの役割と一般ERPとの違いを整理
  • 建設企業形態別にERPで重視すべきポイントを整理
  • よくあるERP導入失敗パターンと対策を具体的に紹介
  • 自社にフィットするERP検討のステップを提示
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

建設業向けERPは、「見積・原価管理ツール」ではなく、見積・受注・原価・労務・協力業者・請求・会計を一つの基盤でつなぐ経営インフラです。本記事では、建設業ならではの課題や建設企業形態別の押さえるべきポイント、クラウド/オンプレの選び方、よくある導入失敗パターンと対策までを整理し、自社にフィットするERPを検討するための視点を分かりやすく解説します。

目次

建設業向けERPとは?一般的なERPとの違い

ERPの基本:複数部門の情報を統合する土台

建設業向けERPの特徴:プロジェクト・原価・協力業者をフォーカス

プロジェクト管理システムとの違いと役割分担

建設業向けERPを一言でまとめると

なぜ今、建設業でERPが求められているのか

市場環境の変化:人手不足・働き方改革・利益率の圧迫

現場と本社のギャップ:データが分断されている

2024年働き方改革と長時間労働の可視化

DXやデータ活用の前提としてのERP

建設業向けERPに求められる主な機能

主な機能の全体像

見積・提案管理

プロジェクト管理(案件管理)

原価管理(予算・実績対比)

協力業者・外注管理

労務・工数管理

安全・進捗管理

請求・債権管理

経営分析・経営管理

建設業でERPを導入するメリット

原価の見える化と利益の早期把握

協力業者との透明性向上と紛争予防

働き方改革への対応と労務管理の精度向上

現場と経営が同じ数字で会話できるようになる

営業力の強化と見積精度の向上

建設企業の形態別に見るERPの押さえるべきポイント

建設企業形態ごとの整理

ゼネコン(大型工事中心):原価管理と協力業者統括がカギ

地域ゼネコン:見積精度と労務管理の両立

サブコン(設備・躯体工事):工事変更対応と原価管理

専門工事業:労務確保と安全管理

自社はどのタイプに近いかを最初に決めておく

クラウドERPとオンプレERP 建設業ではどう選ぶべきか

クラウドERPとオンプレERPの違い(建設業の視点で整理)

クラウドERPが向いているケース

オンプレERPが検討に上がるケース

ハイブリッド型という選択肢

どう選ぶかの現実的なステップ

建設業向けERPの選定ポイント

まず確認したい「フィット感」の軸

自社の事業形態・工事種別に合っているか

見積・原価・労務の機能がどこまで一体になっているか

BIM・CAD・現場管理ツール・給与計算との連携のしやすさ

現場で「使い続けられる」ユーザー体験になっているか

ベンダー・導入パートナーの建設業理解とサポート体制

5〜10年スパンでのコストとロードマップ

建設業でありがちなERP導入失敗パターンと対策

主な失敗パターンの全体像

1. 施工管理者・現場が使わず、紙・Excel運用が残る

2. 協力業者の理解不足で、発注・請求が混乱する

3. 複数工事・複数工事種別への対応で、カスタマイズが膨らむ

4. マスタ設計を軽視して、稼働直後から原価が合わない

5. スコープとスケジュールを詰め込み過ぎて、全てが中途半端になる

6. 導入後の運用・改善体制がなく、"入れっぱなしのERP"になる

建設業がERP導入を検討する際によくある疑問と判断のヒント

「うちの規模でERPはまだ早いのでは?」という不安

「まずどこからERP化するべきか分からない」

「現場の管理ツールを全部入れ替える必要があるのか」

「社内の合意形成をどう進めればよいか」

まとめ:自社の建設業務にフィットするERPを選ぶために

建設業向けERPとは?一般的なERPとの違い

建設業向けERPは、製造業向けERPと同様に、「一般的なERP」の考え方をベースにしながら、建設業特有の業務プロセスに最適化したシステムです。

ERPの基本:複数部門の情報を統合する土台

ERP(Enterprise Resource Planning)は、本来は業種を問わず使われる概念で、

  • 営業・見積・受注・原価・在庫・購買・人事・会計といった基幹業務を
  • 1つのシステム上でつなぎ、同じマスタ・同じデータ構造で管理する

ことを目的にした仕組みです。

ポイントは、営業・現場・事務が持つバラバラのデータを統合し、「一つの数字」を全社で共有できるようにするという発想にあります。

ここでは建設業におけるERPについて解説していきますが、「そもそもERPとは何か」を詳細に解説した記事もありますので、ERPについてまだ曖昧なところがある方はこちらも併せてお読みください。

▼ERP徹底解説記事▼

ERPとは?仕組み・機能・導入メリットから提供形態・最新トレンドまでわかりやすく解説 | AI総合研究所

ERPとは、企業の業務とデータを一元管理する統合基幹システムです。定義や仕組み、導入メリット・デメリット、提供形態の違い、周辺システムとの役割分担、最新トレンドまでわかりやすく解説します。

https://www.ai-souken.com/sap-erp/erp-overview

建設業向けERPの特徴:プロジェクト・原価・協力業者をフォーカス

建設業向けERPは、このERP の考え方をベースにしながら、

  • プロジェクト管理・案件管理
  • 見積・実績・変更管理
  • 原価管理(予算と実績の対比)
  • 協力業者・外注の管理
  • 労務・安全・進捗管理
  • 請求・債権管理

といった、建設業特有の業務をカバーするモジュールや機能を強化したものです。

同じ「営業管理」でも、

  • 提案から契約までのプロセスと契約種別(請負契約、下請契約など)
  • プロジェクトの段階(企画→着工→工事中→竣工)による業務の違い
  • 変更注文(変更工事)とその原価・請求への反映

といった前提が異なるため、建設業向けERPでは、

  • 見積・受注・原価計算・請求がプロジェクト単位で設計されている
  • 協力業者や労務者の管理が、給与・安全・工程管理と一体になっている

といった点が大きな特徴になります。

プロジェクト管理システムとの違いと役割分担

よく混同されるのが、プロジェクト管理ツール(Asanaなど)や工程管理システムとの違いです。

  • プロジェクト管理ツール/工程管理システム
    → 現場の「いつ・どこで・誰が・何をするか」を進捗ベースで管理するシステム

  • ERP(建設業向け)
    → 見積・受注・原価・労務・協力業者・請求・会計を含む、
    企業全体の基幹業務を統合するシステム

イメージとしては、

  • 現場の詳細な日程調整や作業実績はプロジェクト管理ツールが得意
  • その結果を協力業者費用、労務費、請求額、会計、人事給与とつなげる"上位レイヤー"をERPが担う

という役割分担になります。

最近のクラウドツールは、プロジェクト管理とERPの機能を部分的に包含するものも増えていますが、自社の現場管理と経営管理をどこまで一体で扱うかを設計することが重要です。

建設業向けERPを一言でまとめると

建設業向けERPは、「見積から竣工・請求まで、プロジェクトごとの予算・原価・進捗・労務・協力業者を一つの基盤で管理し、建設企業の"儲け方"と"現場の健全性"を見える化するためのERP」だと言えます。

建設業向けERP

この「建設業ならではのERP像」を押さえたうえで、次のセクションでは、なぜ今、多くの建設企業がERPを検討するようになっているのかを、環境変化と現場の課題から整理していきます。

なぜ今、建設業でERPが求められているのか

建設業は、他の産業と比べてシステム導入の歴史は浅く、今なおExcelや紙運用が多いケースがほとんどです。
それでもあらためてERPを検討する背景には、建設業ならではの環境変化と、経営と現場双方の"課題感"があります。

なぜ建設業でERP?

市場環境の変化:人手不足・働き方改革・利益率の圧迫

ここ数年の建設業では、次のような状況が当たり前になっています。

  • 建設技能者の高齢化と後継者不足で、人材確保が深刻化している
  • 2024年の働き方改革で、建設業にも時間外労働の上限規制が適用された
  • 資材価格の高騰と低い契約金では、利益を出しにくくなっている
  • 監理技術者や安全管理者といった有資格者の確保が難しくなっている

この環境下では、「営業・見積・原価・労務・安全」をバラバラのシステムや紙・Excelで管理していると、経営判断が後追いになり、利益管理が難しくなります。

プロジェクトごとに「見積時にいくらで請け負ったのか」「実際の原価はいくらか」「利益はどのくらい出たのか」を、タイムリーかつ正確に把握することが、競争力を保つための必須要件になっています。

現場と本社のギャップ:データが分断されている

多くの建設企業では、次のような状態が見られます。

  • 現場は紙の工程表や黒板で管理、本社には報告がExcelで上がってくる
  • 見積は営業が別の見積ツール(または手計算)で作り、原価は経理がExcelで集計
  • 協力業者の発注・請求は、メール・FAX・紙での遣り取り
  • 労務管理は別の給与システム、安全管理は別の帳票システム

それぞれの仕組みはそれなりに動いていても、

  • プロジェクトの「正」がどこか分かりにくい
  • 工事が変更になったときに、複数システムやExcelを修正しきれない
  • 月次の原価や利益は「締めてみないと分からない」

という状況になりやすく、
現場と本社が「同じ数字」「同じ進捗」を見て議論できないことがボトルネックになります。

ERPは、見積・受注・原価・労務・協力業者・請求・会計といった情報を、一つのデータモデルとマスタで管理することを前提にしているため、この「現場と本社の分断」を解消する手段として期待されています。

2024年働き方改革と長時間労働の可視化

建設業に時間外労働の上限規制が適用されたことで、「いつ誰が何時間働いているか」の把握が法的要求事項になりました。

これまで、現場の実作業時間が曖昧だったり、事務作業の時間が把握できていなかったりするケースが多かったのですが、ERPを導入することで

  • 案件別・作業者別の稼働時間を正確に記録する
  • 繁忙期に時間外が増えすぎていないかを事前に把握する
  • 労務計画を立てる際に、過去データに基づいた見積もりができる

といった仕組みが整い、法令遵守と効率化を同時に実現することができます。

DXやデータ活用の前提としてのERP

建設業でも「i-Construction」「スマートコンストラクション」といったキーワードが広がり、IoTやドローン、AI活用に関心を持つ企業が増えています。

ただし、データ活用や高度な分析を行う前提として、

  • プロジェクトの原価・進捗・労務データが
  • 一貫した定義と粒度で、タイムリーに取得できていること

が欠かせません。

バラバラのシステムやExcelに散らばったデータを寄せ集めている状態では、現場のドローンデータやIoT情報を集めても、本社の経営判断と結びつきにくいのが実情です。

その意味で、ERPは

  • 現場と本社の基幹情報を統合する
  • プロジェクト単位でのデータ定義やマスタ構造を整理する

という役割を担う、DXの第一段階のインフラとして位置づけられています。

このように、建設業でERPが求められている背景には、人手不足への対応、働き方改革への対応、利益管理の必要性、DXへの期待といった複数の要因があります。
次のセクションでは、この前提を踏まえて「建設業向けERPに具体的にどんな機能が求められるのか」を整理していきます。

建設業向けERPに求められる主な機能

建設業向けERPは「何でもできる魔法の箱」ではなく、見積・受注・原価・労務・協力業者・請求・会計といった現場と経営の業務を、一気通貫でつなぐための仕組みです。
ここでは、建設業向けERPに求められる代表的な機能を整理し、それぞれがどんな課題に効くのかを簡潔に押さえていきます。

主な機能の全体像

まずは、代表的な機能と役割を一覧で整理します。

機能領域 主な役割・ポイント
見積・提案管理 構成別見積、比較見積、見積から契約への流れ
プロジェクト管理 案件単位での予算・実績・進捗の一元管理
原価管理 予算と実績の対比、工事変更の原価への反映
協力業者・外注管理 発注・検収・請求・支払の一元管理
労務・工数管理 作業者別・案件別の労務費、時間外の把握
安全・進捗管理 ヒヤリハット、災害報告、工程表との対比
請求・債権管理 工事完成基準での売上認識、変更工事の請求
経営分析・経営管理 案件別採算、部門別採算、経営指標の一元化

以下で順番に見ていきます。

見積・提案管理

建設業の営業活動は「見積の精度」が勝負どころです。見積が甘いと、その時点で利益は決まります。

  • 過去の案件から類似案件の積算データを引き出す
  • 資材単価・労務単価・外注費の更新を反映した見積
  • 客先や工事形態ごとの見積テンプレートの活用

これらを見積ツールだけで完結させるのではなく、原価・労務・協力業者マスタと連動し、受注後の実績比較まで含めて管理できることが、建設業向けERPならではの強みです。

プロジェクト管理(案件管理)

建設工事は、契約から着工、工事中、竣工、その後の手直しまで、複数のステージを経ます。
各ステージで必要な情報・承認が異なるため、ERPでは案件単位での統合管理が重要です。

  • 案件ごとの予算(見積額)と実績の対比
  • 工程表と実績進捗の把握
  • 工事変更(増減工事)の管理と原価・請求への反映

建設業向けERPでは、こうした案件ライフサイクル全体を支える仕組みが組み込まれます。

原価管理(予算・実績対比)

建設業の経営判断で最も重要なのが「この工事はいくら利益が出るのか」という原価把握です。

製造業と違い、建設工事は一品ものであり、工事が進む中で当初予算からの乖離が発生しやすいため、ERPでは次のような機能を狙います。

  • 科目別原価管理(材料費・労務費・外注費・諸経費など)
  • 工事変更による原価の増減の追跡
  • 予算と実績の差異分析
  • 竣工時の最終利益把握

これにより、「この工事は予定通り利益が出ているのか」「どこで赤字になりそうか」を、工事が完成する前に把握できるようになります。

協力業者・外注管理

建設工事は、協力業者や外注業者がいなければ成り立ちません。
ERPでは、協力業者への発注から検収、請求、支払までを一元管理します。

  • 協力業者マスタと単価情報の一元管理
  • 発注書の自動生成と進捗追跡
  • 検収・請求の自動マッチング
  • 支払予定と実績の把握

これにより、協力業者との関係を透明化し、紛争を防ぐとともに、原価管理の精度を高めることができます。

労務・工数管理

働き方改革への対応と、労務費の見える化は、建設企業の重要課題です。

  • 作業者の日々の作業時間と場所を記録
  • 案件別・作業種別の労務費集計
  • 時間外勤務時間の把握と警告
  • 給与計算への自動連携

これにより、「どの案件にどれだけ労務費が投下されているか」「時間外が多くないか」を、タイムリーに把握できます。

安全・進捗管理

建設業では、安全管理と工程管理が営業成績と同等に重要です。

  • ヒヤリハット報告の記録と集計
  • 災害・事故の報告と原因分析
  • 工程表と実績進捗の比較
  • 各工程の工期遅れ・安全課題の早期警告

ERPに安全・進捗データが集約されることで、「安全水準」「工期達成度」を経営層も含めてリアルタイムに把握できます。

請求・債権管理

建設工事の請求は、「工事完成基準」や「工事進行基準」といった会計基準に基づいて行われます。
また、工事変更に伴う追加請求や、前払金の管理も複雑です。

ERPでは、

  • 工事進捗に応じた期間別・段階別の売上認識
  • 変更工事の追加請求自動生成
  • 工事代金の回収状況の把握
  • 債権管理と会計仕訳の自動連動

といった機能を通じて、複雑な建設業の請求・会計要件に対応します。

経営分析・経営管理

最後に、これらの情報が全社の経営管理にどう活かされるかが、ERP導入の本質的な価値になります。

  • 案件別の最終利益
  • 部門別・営業所別の採算性
  • 原価率の改善トレンド
  • 労務費や外注費の傾向分析

こうした経営指標を、一つのデータ基盤から引き出すことで、経営層が数字に基づいた戦略判断をしやすくなります

主な機能

次のセクションでは、これらの機能が実際にどのようなメリットをもたらすのかを、原価管理・利益把握・現場と経営のコミュニケーションといった観点から整理していきます。

建設業でERPを導入するメリット

ここまでの前提を踏まえると、建設業でERPを導入するメリットは「機能が増えること」ではなく「現場の実績が経営数値に自動的につながり、経営と現場が同じ前提で意思決定できること」にあります。
ここでは特に問い合わせや相談で話題に上がりやすいポイントに絞って整理します。

原価の見える化と利益の早期把握

建設業で最も切実なニーズが「工事がどのくらい利益を生んでいるのか」を早期に把握することです。
従来のシステムやExcelだと、工事完了まで正確な利益が分からないケースがほとんどです。

ERPを導入すると、

  • 工事の予算(見積額)と実績(原価)が常に対比されている
  • 工事変更が発生した段階で原価に反映される
  • 月次のタイムリーな利益予測が可能になる

といった仕組みが整うため、工事がまだ進行中でも「この案件の利益見込み」をリアルタイムに把握できるようになるのが大きなメリットです。

これにより、問題が発生した早い段階で改善施策を打つことができます。

協力業者との透明性向上と紛争予防

協力業者や下請業者との関係は、建設企業の競争力に直結します。
ERPで協力業者の発注・検収・請求を一元管理することで、

  • 発注から支払までの流れが見える化される
  • 検収漏れや発注漏れといったミスが減る
  • 請求内容と実績の整合性が自動チェックされる

といった形で、協力業者からの信頼を勝ち取りやすくなります。

特に労務費や外注費は「原価の大きな要素」であり、ここを透明化することで、協力業者との長期的なパートナーシップを築き、安定的に人材や外注先を確保しやすくなるというメリットがあります。

働き方改革への対応と労務管理の精度向上

2024年からの働き方改革で、時間外勤務時間の把握が法令要件になります。

ERPを導入すると、

  • 作業者別・案件別の労務時間が自動集計される
  • 時間外が増えすぎている案件・部門を早期に検知できる
  • 労務計画を立てる際に、過去データに基づいた見積もりができる

といった形で、法令遵守と業務効率化を同時に実現することができます。

また、「どの案件にどれだけ労務費が投下されているか」を正確に把握することで、労務費の原価率改善にもつながります

現場と経営が同じ数字で会話できるようになる

ERP導入の効果として、数字そのもの以上に重要なのが「現場と経営が同じ前提で話し合えるようになる」ことです。

従来は、

  • 現場は工程表や現場日誌で進捗を見ている
  • 本社は月次集計された数字で採算を見ている

という分断がありました。その結果、

  • 「現場感覚と本社の数字が食い違う」
  • 「原価が想定と異なるけど、なぜなのか不明」

という状況に陥りがちです。

ERPで見積・原価・労務・協力業者・請求が一気通貫になれば、

  • 現場の実績がそのまま原価・利益に反映される
  • 経営が求める利益目標を意識した形で、現場も数字を見るようになる

という形で、現場と経営が同じデータ基盤を前提に会話できるようになります
これはシステムの機能以上に、組織文化・マネジメント面での大きな変化につながります。

営業力の強化と見積精度の向上

ERPで過去の案件原価データが蓄積されると、

  • 似た工事の過去データを参考にした精度高い見積が可能に
  • 営業が「この工事は利益が取れるか」を見積段階で判断できる
  • 受注後も予算管理を通じて、利益を守る施策が打てる

といった形で、営業力そのものが強化されます。

属人的な見積ではなく、データに基づいた営業提案ができるようになることで、営業活動の精度と効率が向上します。

メリット

このように、建設業におけるERP導入のメリットは「システムが増えること」ではなく、
原価・利益・労務・協力業者・工程といった現場の課題を、全社視点で一気に見直せることにあります。

ERPの導入について、メリットや導入プロセスなどを徹底解説した記事もありますので、導入を検討されている担当者の方は以下もご覧ください。

▼ERP導入の教科書▼

ERP導入の教科書|メリットや導入プロセス、よくある失敗と対策を解説 | AI総合研究所

ERP導入の目的やメリット・デメリット、導入プロセス、よくある失敗パターンと成功のポイント、検討時に使えるチェックリストを分かりやすく解説します。

https://www.ai-souken.com/sap-erp/how-to-introduce-erp

次のセクションでは、建設企業の形態ごとにERPで特に重視すべきポイントがどこにあるのかを整理していきます。

建設企業の形態別に見るERPの押さえるべきポイント

同じ「建設業向けERP」といっても、建設業の業態(ゼネコン、サブコン、専門工事業、設計事務所など)や扱う工事(建築、土木、設備など)によって、重視すべきポイントはかなり変わります
ここでは代表的な建設企業形態ごとに、ERP選定・設計の観点を整理します。

建設企業形態ごとの整理

まずは全体感を表でまとめます。

企業形態 代表例 ERPで特に重視したい領域
ゼネコン(大型工事) 元請として複数協力業者を統括 原価管理、協力業者管理、利益管理
地域ゼネコン 建築・土木混在、地域密着 原価管理、労務管理、見積精度
サブコン(設備・躯体) 鉄骨、防水、電気、空調など 労務管理、工事変更管理、原価管理
専門工事業 土木施工、配管、電工など 労務管理、協力業者管理、安全管理
建築設計事務所 設計・監理中心 プロジェクト管理、原価、顧客管理

以下でタイプ別にポイントを見ていきます。


ゼネコン(大型工事中心):原価管理と協力業者統括がカギ

大型工事を扱うゼネコンでは、複数の協力業者を統括し、全体の原価を管理する能力が競争力に直結します。

重視したいポイント

  • 科目別原価管理(材料・労務・外注費など)が細かく対応できるか
  • 協力業者マスタの管理と発注・請求の流れが体系化されているか
  • 複数プロジェクトを並行管理し、部門別・営業所別の採算も見えるか
  • 工事変更(増減工事)の原価・請求への自動反映

ゼネコンが扱う工事は、規模が大きく複雑であるため、ERPでの原価管理の精度が利益を大きく左右します。

地域ゼネコン:見積精度と労務管理の両立

地域密着で建築・土木など多種の工事を扱う企業では、多品種への対応と労務管理の両立が重要です。

重視したいポイント

  • 建築・土木など工事種別ごとの見積テンプレートの充実度
  • 過去の類似案件データを参考にした見積ができるか
  • 労務時間の把握と給与計算への自動連携
  • 複数営業所の案件を一元管理できるか

地域ゼネコンは競争も激しく、見積精度の向上と労務効率化が直接利益につながります。

サブコン(設備・躯体工事):工事変更対応と原価管理

設備や躯体などの専門分野で施工するサブコンでは、親企業(ゼネコン)からの指示変更への対応と原価管理が鍵になります。

重視したいポイント

  • 工事変更(追加工事)の指示から原価・請求への反映が迅速か
  • 労務費の時間外管理(働き方改革対応)
  • 親企業への請求・報告書の自動生成
  • 協力業者への指示変更の伝達と原価反映

サブコンは大手親企業の管理要求が厳しく、データの正確性と迅速な対応が期待されます。

専門工事業:労務確保と安全管理

土木施工、配管、電工などの専門工事業では、労務者の確保と安全管理が事業継続の要です。

重視したいポイント

  • 労務者の勤務時間・場所・資格を一元管理できるか
  • 安全管理(ヒヤリハット、災害報告)のシステム化
  • 協力業者(下請け人夫)の単価管理と支払管理
  • 工事種別別の採算管理

特に働き方改革への対応と人材確保が課題であり、ERPで労務管理を強化することが競争力に直結します。


自社はどのタイプに近いかを最初に決めておく

多くの建設企業は、複数の事業形態を持っています。

  • 大型工事と小型工事の両方を扱う
  • 建築と土木の両方に対応している
  • 下請けとしての事業と自社施工事業を持つ

この場合でも、ERP検討の入り口としては、

  • 自社の主力事業・主力工事はどのタイプか
  • 将来伸ばしたい領域はどこか

を最初に決めておくと、「何に強いERPを選ぶべきか」がぶれにくくなります


建設企業の形態別ERPポイント

建設業向けERPを比較するときは、機能一覧だけでは見分けがつきにくくなりがちです。

次のセクションでは、こうした前提を踏まえたうえで、クラウドERPとオンプレERPを建設業の視点からどう選び分けるかを整理していきます。

クラウドERPとオンプレERP 建設業ではどう選ぶべきか

建設業でERPを検討するとき、多くの企業が最初に悩むのが「クラウド型にするか、オンプレミス型にするか」です。
ここでは、一般論ではなく建設業ならではの事情を踏まえて、選び方の考え方を整理します。

クラウドERPとオンプレERPの違い(建設業の視点で整理)

まずは、建設業にとっての比較軸を表でまとめます。

観点 クラウドERP オンプレERP
初期費用 比較的低い(サブスク型が中心) 高額になりやすい(サーバー・ライセンス一括投資)
ランニングコスト 毎月の利用料+通信費 保守費+ハード更改費+運用要員コスト
拠点展開 複数事務所・協力業者アクセスがしやすい 各拠点でのネットワーク整備が必要
現場アクセス スマートフォンからのアクセスが容易 工事現場からのアクセスに制約がある
カスタマイズ性 制約が多め(アドオンはあるが範囲は限定されがち) 自由度が高いが、その分複雑化しやすい
データセキュリティ ベンダー側で管理(自社ポリシーとの調整が必要) 自社で全て設計・運用(責任も自社側)

建設業では、複数の事務所や協力業者、さらに工事現場からアクセスする必要があるため、クラウドERPのメリットが相対的に大きいという特性があります。

クラウドERPが向いているケース

次のような特徴がある建設企業は、クラウドERPが候補に入りやすくなります。

  • 複数の営業所・事務所があり、それぞれから同じシステムにアクセスしたい
  • 協力業者も含めて、見積・納期・原価データへのアクセスを提供したい
  • スマートフォンやタブレットから現場でデータを入力・参照したい
  • インフラ運用に人手をかけたくない

特に現代の建設業では、現場からのデータ入力や進捗確認がますます重要になっており、クラウドERPのアクセス利便性は大きなアドバンテージになります。

オンプレERPが検討に上がるケース

一方で、次のような条件がある場合は、オンプレERPも真剣に検討する価値があります。

  • 顧客(大手発注者)の要求で、データを自社内で厳格に管理する必要がある
  • ローカルネットワークで完結させたい(インターネット接続に制約がある)
  • 長年にわたって作り込んできた業務プロセスを、かなり忠実に再現する必要がある

ただしオンプレを選ぶ場合は、
今後10年程度、自社でインフラとアプリケーションのライフサイクルを回し続ける準備があるか」という視点が欠かせません

ハイブリッド型という選択肢

最近は、クラウドかオンプレかの二択ではなく、ハイブリッド構成を取る企業も増えています。

  • 本社側の見積・原価・請求・会計はクラウドERP
  • 協力業者からの現場報告や工務店向けのシステムは、工事現場でも使えるクラウド連携
  • 大手顧客からの設計データやBIM情報の管理は、別途セキュアな環境で運用

といった構成です。

このアプローチであれば、

  • 本社と拠点の運用負荷を減らしつつ
  • 顧客要求やセキュリティ要件を満たす

という形で、両者の良いとこ取りを狙うことができます。

クラウド、オンプレ、ハイブリッド

どう選ぶかの現実的なステップ

クラウドかオンプレかを決める際は、いきなり製品比較に入るのではなく、次のステップで整理すると判断しやすくなります。

  1. データセキュリティと顧客要件の整理

    • 顧客(大手発注者)がクラウド利用を許可しているか
    • 社内ポリシーでのデータ管理要件
  2. 拠点・協力業者のアクセス要件

    • 何か所の営業所からアクセスが必要か
    • 協力業者にどこまでアクセスを提供するか
  3. IT運用体制と投資スタンス

    • インフラを自社でどこまで面倒見られるか
    • 初期投資と月額コストのバランスをどう取りたいか
  4. 候補となるERP製品の構成パターンを把握

    • そのERPがクラウド前提なのか、オンプレ前提なのか
    • ハイブリッド構成の事例やテンプレートがあるか

このプロセスを経たうえで、企業の実情に合わせて判断していくのが、建設業にとって現実的なアプローチです。

▼クラウドERPとオンプレERPの違いについて▼

クラウドERPとは|メリット・デメリットとオンプレミスERPとの違いをわかりやすく解説 | AI総合研究所

この記事ではクラウドERPとは何かを解説し、オンプレミスERPとの違い、メリット・デメリット、向いている企業の条件や選定時のチェックポイントも整理します。

https://www.ai-souken.com/sap-erp/what-is-cloud-erp

次では、クラウド/オンプレの違いも踏まえつつ、建設業向けERPを選定する際にチェックしておきたい具体的なポイントを整理していきましょう。

建設業向けERPの選定ポイント

ここまで見てきたように、建設業向けERPは「機能が多いほど良い」わけではなく、自社の事業形態や工事パターンにどれだけフィットするかが最も重要です。
このセクションでは、選定時に外したくない観点を整理します。

まず確認したい「フィット感」の軸

製品カタログや比較サイトを見る前に、次の軸で自社の前提を整理しておくと判断しやすくなります。

観点 確認したいポイントの例
事業形態・工事種別フィット ゼネコン/サブコン/専門工事など、自社の事業との適合度
機能範囲・深さ 見積・原価・労務・協力業者をどこまでカバーしているか
クラウド/オンプレ構成 自社のセキュリティ・アクセス要件と合うか
拡張性・連携性 BIM・CAD・現場管理ツール・給与計算などとの連携
導入・運用体制 ベンダー/パートナーのサポート力・建設業理解
コスト・投資スタンス 初期+運用コスト、5〜10年スパンで見たTCO

以下、もう少し具体的に見ていきます。

自社の事業形態・工事種別に合っているか

同じ「建設業向けERP」でも、得意としている領域は製品ごとに違います。

  • ゼネコン向けに強い製品
  • サブコン・専門工事向けに強い製品
  • 建築工事に特化した製品
  • 土木工事に特化した製品

など、それぞれの「守備範囲」があります。

製品説明で「建設業向け」と書かれていても、

  • 自社と同じ事業形態・工事種別での導入事例があるか
  • それぞれの事例で、どの機能をどう使っているか

を必ず確認し、単なるラベルではなく具体的な"フィット実績"があるかを見ておくことが重要です。

見積・原価・労務の機能がどこまで一体になっているか

建設業視点では、次のような領域がどの程度まで一体で設計されているかがポイントになります。

  • 見積から受注への流れと、その後の原価管理の連携
  • 労務管理(給与計算・時間外管理)と原価計算の連携
  • 協力業者への発注と請求・支払の連携

個別の機能として「あります」と書かれていても、実際には別モジュール扱いで結合が弱いケースもあります。

  • 同じマスタ(工事・協力業者・労務者)で動いているか
  • 画面操作やレポートの中で、自然に情報がつながって見えるか

といった観点で、"統合感"を体験ベースで確認することが大切です。

BIM・CAD・現場管理ツール・給与計算との連携のしやすさ

建設企業では、次のようなシステムやツールが並行して使われることが多いため、ERPとの連携しやすさも重要です。

  • BIM/CADシステム(図面・設計情報)
  • 現場工程管理ツール(工程表、進捗管理)
  • 給与計算システム
  • 安全管理ツール

ここでは、

  • 標準のインターフェースやAPIが用意されているか
  • 特定ベンダー製の現場ツールとの連携テンプレートがあるか
  • 既存の給与計算システムとのデータ連携ができるか

などを確認し、ERP導入後のシステム全体像までイメージできるかをチェックしておくと安心です。

現場で「使い続けられる」ユーザー体験になっているか

建設業の場合、事務員だけでなく工事現場の施工管理者や作業員もシステムを使うため、ユーザビリティが想像以上に重要です。

  • 現場向けのシンプルな入力画面やモバイル対応があるか
  • 工事別・作業種別の進捗が、一目で分かる画面が用意されているか
  • 写真やドキュメントの添付が容易か

単なるデモ画面だけで判断せず、できれば実際の現場業務に近いシナリオでハンズオン評価を行うと、定着性を見極めやすくなります。

ベンダー・導入パートナーの建設業理解とサポート体制

建設業向けERPは、「ソフトだけ買えばうまくいく」ものではありません。
ベンダーや導入パートナーの力量が、結果に大きく影響します。

  • 自社と同じ事業形態の導入実績がどれくらいあるか
  • 建設業の商習慣(工事契約、変更工事、下請け関係など)を理解しているか
  • 導入後のサポート(改善提案・運用相談・教育)の体制が整っているか

を確認し、「製品」と「パートナー」の両方をセットで見て評価することが重要です。

5〜10年スパンでのコストとロードマップ

最後に、コストは導入費だけでなく、5〜10年スパンでの総コスト(TCO)で見る必要があります。

  • 初期導入費用(ライセンス・構築・データ移行・教育など)
  • 年間保守費・サブスクリプション費用
  • ハード更新・OS/DB・ERP本体のバージョンアップ費用
  • 社内の運用要員にかかる負荷・人件費

あわせて、

  • 今後の機能強化の方向性(ロードマップ)が自社の方針と合うか
  • クラウド移行や周辺サービスとの統合計画がどうなっているか

も確認しておくと、「数年後に行き詰まるERP」を選んでしまうリスクを減らせます。

ERPの選定ポイント

ここまでのポイントを押さえたうえで候補製品を比較すると、単なる機能一覧ではなく、「自社の建設業務をどこまで支えられる基盤か」という視点で見極められるようになります。

次のセクションでは、建設業でありがちなERP導入の失敗パターンと、その回避策を整理していきます。

建設業でありがちなERP導入失敗パターンと対策

建設業におけるERP導入の相談を聞いていると、「機能不足」よりも 現場との齟齬や進め方のミス が原因でつまずいているケースが目立ちます。
ここでは、よく見られる失敗パターンと、その対策を整理します。

主な失敗パターンの全体像

まずは、代表的な失敗パターンを一覧で整理します。

失敗パターン 何が起きるか
現場との温度差で定着しない 施工管理者が使わず、結局紙・Excelが残る
協力業者の理解不足 協力業者が新システムに対応できず、紛争に発展
複数工事対応のカスタマイズ過多 保守不能なシステムとなり、バージョンアップ不能に
マスタ設計の軽視 稼働直後から工事別原価が合わない、信頼できない
スコープ・スケジュールの詰め込み過ぎ 延期・機能削減・品質低下が連鎖する
導入後の運用・改善体制を未整備 初期設定のまま止まり、狙った効果が出ない

以下、それぞれの中身と対策を見ていきます。


1. 施工管理者・現場が使わず、紙・Excel運用が残る

ありがちな状態

  • 事務所だけでERPを導入し、現場への影響を過小評価する
  • 施工管理者が「今までのやり方の方が早い」と感じて、使わなくなる
  • スマートフォンでのアクセスが不便で、現場からのデータ入力が定着しない

結果として起きること

  • 事務所ではERP運用、現場では紙・Excelで管理という二重運用が続く
  • 現場データが事務所に上がってくるまでに時間がかかり、情報がタイムリーでない
  • 原価計算や進捗報告が遅延し、経営判断に活かせない

対策のポイント

  • 導入前に、施工管理者を含めたプロジェクトメンバーに巻き込む
  • 現場の作業流れを理解したうえで、「施工管理者が本当に使える画面」を設計する
  • スマートフォン対応や音声入力など、現場の利便性を重視した仕様にする
  • 試行運用段階で現場の率直なフィードバックを反映する

2. 協力業者の理解不足で、発注・請求が混乱する

ありがちな状態

  • ERPで協力業者への発注・請求が一元管理される設計だが、協力業者が対応できない
  • 従来の発注書・請求書フォーマットと異なり、協力業者から「使いづらい」と言われる
  • 協力業者がシステムにアクセスしないため、「発注したのか、していないのか」といった齟齬が発生

結果として起きること

  • 協力業者との間で請求トラブルが増える
  • 手作業での確認・修正が増え、運用負荷が却って増加する
  • 協力業者との関係が悪化し、将来の工事での協力を得にくくなる

対策のポイント

  • 導入前に主要協力業者と話し合い、システムの概要と利点を説明する
  • 協力業者がシステムにアクセスできない場合は、発注元からの情報提供方法を明確に決める
  • 従来の発注書・請求書フォーマットとの互換性を保つなど、移行期間を設ける
  • 定期的に協力業者からの意見を聞き、改善する仕組みを作る

3. 複数工事・複数工事種別への対応で、カスタマイズが膨らむ

ありがちな状態

  • 「建築も土木も同じシステムで扱いたい」という要望から、個別改修が増え続ける
  • 工事種別ごとに異なる積算体系に対応しようとして、マスタやロジックが複雑化する
  • 初期段階で将来の拡張やバージョンアップをあまり意識していない

結果として起きること

  • 時間が経つほど仕様が複雑化し、誰も全体像を把握できない
  • 新しいバージョンへのアップグレードがほぼ不可能になる
  • 不具合対応や改修に時間とコストがかかり、投資効率が悪化する

対策のポイント

  • 最初は「最も構成比率の高い工事種別」に最適化し、それを軸にする
  • 他の工事種別は「設定やマスタの工夫」で吸収できないかを検討する
  • 「競争力に直結する部分」だけをカスタマイズ対象に限定する
  • 初期段階から「将来のバージョンアップ」を前提にした設計方針を持つ

4. マスタ設計を軽視して、稼働直後から原価が合わない

ありがちな状態

  • プロジェクト後半まで勘定科目・工事分類などのマスタ設計が固まらない
  • 旧システムやExcelのデータを、そのまま持ってくれば良いと考えている
  • データクレンジングや移行テストに十分な時間を割いていない

結果として起きること

  • 稼働直後から工事別原価が「旧システムと合わない」という事態が発生
  • どの数字を信じてよいか分からず、現場も経営もERPを信用しなくなる
  • 結局しばらくの間、旧システムと二重運用せざるを得ない

対策のポイント

  • 早い段階でマスタ設計の方針を決め、勘定科目や工事分類を整理する
  • 移行対象のデータ範囲(何年分・どの粒度まで)をきちんと決める
  • 複数回のリハーサル移行を実施し、「どの差異が許容されるか」を事前に整える
  • 稼働直後のマスタ修正期間を見込んだスケジュールにする

5. スコープとスケジュールを詰め込み過ぎて、全てが中途半端になる

ありがちな状態

  • 「せっかくならこの機会に全部まとめて変えたい」と範囲を広げすぎる
  • 見積・原価・労務・協力業者管理を全部初期フェーズに含める
  • スケジュールだけは固定されており、リソースの増強がない

結果として起きること

  • 要件定義が浅いまま設計・開発に入ってしまい、手戻りが頻発する
  • 本来重要な領域(原価・労務管理など)の作り込みが不十分になる
  • 稼働直前に機能削減やロールバックが連発し、現場の信頼を失う

対策のポイント

  • 最初に「絶対に外せない範囲」と「段階導入に回せる範囲」を仕分ける
  • 「見積と原価管理」を初期フェーズ、「協力業者管理」を次フェーズという具合にフェーズ分けする
  • 人・時間・予算の制約を明示したうえで、スコープとスケジュールを現実的なラインに調整する

6. 導入後の運用・改善体制がなく、"入れっぱなしのERP"になる

ありがちな状態

  • 導入までのプロジェクト体制は厚いが、本番稼働後の運用チームがほとんど考えられていない
  • 現場や事務所からの改善要望の受け付け窓口が曖昧
  • レポートや分析画面を「最初に作ったもののまま」ほとんど更新していない

結果として起きること

  • 稼働直後に出た課題が解消されず、ユーザーの評価がどんどん下がる
  • 事務所の組織変更や工事パターンの変化に、システム側が追随できない
  • 「最初の設定のまま止まったERP」を抱え続けることになる

対策のポイント

  • 導入フェーズから、運用・改善を担う「小さなERPチーム」を社内に作る前提で設計する
  • 稼働後3〜6か月は、改善サイクルを回すための専用リソースを確保する
  • 現場からの問い合わせ・改善要望の受付と優先度付けの仕組みを決めておく

失敗パターン

これらの失敗パターンは、「自社だけの特殊事情」というより、建設業のERP導入で頻出するものです。
この記事で挙げたポイントを事前に共有しておけば、ベンダーやパートナーとの打ち合わせの中でも、

  • どこに時間とコストをかけるべきか
  • 逆に、どこは割り切ってシンプルに進めるべきか

を具体的に議論しやすくなります。


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次のセクションでは、ここまでの内容を踏まえて、建設業がERPを検討する際によく出てくる疑問を整理しながら、判断のヒントをまとめていきます。

建設業がERP導入を検討する際によくある疑問と判断のヒント

ここまでの内容を踏まえつつ、建設企業の現場や情報システム部門からよく挙がる疑問を整理しながら、判断のヒントをまとめます。

「うちの規模でERPはまだ早いのでは?」という不安

中小の建設企業では、「まだ早い」「投資が重いのでは」という声が出やすくなります。
判断の目安としては、企業規模よりも次のポイントを見た方が現実的です。

  • 複数の工事を同時進行で管理していて、原価把握が煩雑になっているか
  • 二重入力やExcelでの突合作業が常態化しているか
  • 工事別・部門別の利益が、会計システムだけでは追い切れなくなっているか

これらが複数当てはまる場合は、規模にかかわらず 「ERPを検討すべきステージに入っている」 と考えた方がよいケースが多いです。

「まずどこからERP化するべきか分からない」

いきなり全社一斉導入を目指すと、スコープが膨らみすぎて頓挫しやすくなります。
現実的には、次のような考え方で「初期フェーズの核」を決めると進めやすくなります。

  • 経営インパクトが大きく、かつ課題が顕在化している領域はどこか(例:見積精度、原価管理など)
  • そこを整えることで、他の領域(労務、協力業者管理、会計など)にも波及効果が見込めるか
  • 成功事例として社内に共有しやすい範囲か

この観点で優先度をつけ、「最初にERP化する領域」と「次のフェーズに回す領域」 を分けて計画するのがポイントです。

「現場の管理ツールを全部入れ替える必要があるのか」

工程管理ツール、安全管理ツール、労務管理ツールなど、すでに複数ツールが動いている企業では、「全部入れ替えか、全面連携か」という二択で悩みがちです。

現実的には、次のような整理を行うと方向性が見えやすくなります。

  • そのツールは今後も使い続ける価値があるか(業務にフィットしているか、陳腐化していないか)
  • ERPに同等以上の機能が標準で用意されているか
  • 入れ替えコストと、残した場合の連携・保守コストのバランスはどうか

そのうえで、

  • ERPに置き換える機能
  • 当面は既存ツールを残し、インターフェースでつなぐ機能

を分けて考えると、「全部入れ替えか、何もしないか」の極端な選択を避けやすくなります。

「社内の合意形成をどう進めればよいか」

ERPは、特定部門だけのシステムではなく、全社的な基盤です。
そのため、企画段階から次のようなメンバー構成を意識しておくことが重要です。

  • 現場の施工管理者(複数工事の代表者)
  • 営業部門の代表
  • 経営企画・経理など、数字を管理する部門
  • 情報システム部門

それぞれが「自部門の要望」を出すだけではなく、

  • 会社全体として何を優先するか
  • どこまで標準化・共通化に寄せる覚悟があるか

を議論できる場を用意することで、後からの抵抗や不満を減らすことができます。
ERP導入はITプロジェクトというより、業務と組織の変革プロジェクト として位置づけることが、社内の合意形成を進めるうえでの前提になります。


ここまでの内容を踏まえたうえで、最後に「建設業にとってERPとは何か」「自社はどのスタンスで向き合うべきか」を整理し、全体のまとめとして押さえていきます。

まとめ:自社の建設業務にフィットするERPを選ぶために

建設業向けERPは、単なる「見積・原価管理ツール」ではありません。
見積・受注・原価・労務・協力業者・請求・会計といった情報を一つの基盤で扱い、現場と本社が同じ前提・同じ数字で意思決定できるようにするための経営インフラです。

本記事で整理してきたポイントを、あらためてコンパクトに振り返ると次のようになります。

  • 自社の事業形態・工事種別に合うことが大前提
    ゼネコンなのか、サブコンなのか、専門工事業なのか、あるいは設計事務所なのか──
    まず自社の「事業の形」を言語化し、それにフィットするERPかどうかを見極めることが第一歩になります。

  • 見積・原価・労務・協力業者がどこまで一体で見えるかが勝負どころ
    機能の有無ではなく、見積から原価へ、労務費から給与へ、協力業者発注から請求へといった流れが同じマスタとデータモデルで動いているか、実務として自然につながっているかを重視すべきです。

  • クラウドかオンプレかは「現場アクセス」と「セキュリティ要件」で決める
    単なる流行ではなく、現場からのアクセス需要・顧客のセキュリティ要件・IT運用力を踏まえて、クラウド/オンプレ/ハイブリッドの現実的な落としどころを検討することが重要です。

  • 導入の成否は"進め方"と"現場の巻き込み方"で大きく変わる
    現場との温度差、協力業者の理解不足、マスタ設計軽視といった失敗パターンを避けるには、現場を含めたメンバー構成、マスタ設計の早期着手、段階的導入など、進め方のディテールが欠かせません。

  • ERP導入は「経営スタイル」そのものを見直す機会
    どの数字を共通言語にし、どのプロセスを標準化し、何をカスタムとして残すのか。
    その判断を通じて、組織の意思決定やマネジメントのスタイルそのものも見直されていきます。

自社にとっての「正解のERP」は、機能一覧の比較だけでは決まりません。
本記事で挙げた視点を使って、

  • 自社の建設業務と課題を整理する
  • 優先順位の高い領域から段階的にERP化する
  • 製品だけでなく、導入パートナーや運用体制まで含めて設計する

という流れで検討していけば、「入れて終わりのシステム」ではなく、
建設企業の事業成長とDXを支える"長く使える基盤"としてのERP に近づいていけるはずです。


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監修者

坂本 将磨

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

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