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SAP移行とは?ECCからS/4HANAへの移行方式・注意点を徹底解説

この記事のポイント

  • ECCのアドオンが100本超ならGreenfieldで業務再設計、50本以下で業務変更を抑えたいならBrownfieldが第一候補。迷ったらSelectiveで領域ごとに使い分ける
  • 費用は導入範囲・アドオン規模・データ量で大きく変動し、現行システムの「健康診断」を先に済ませないと見積比較が成立しない
  • カゴメはアドオン1,000超→100未満に削減、アスクルはダウンタイム21時間で移行完了。成功事例は「標準寄せの意思決定を上流で固めた」点が共通
  • 2026年はS/4HANA 2025リリース・Clean Core拡張レベル定着・JouleによるABAPコード自動変換が揃い、移行の技術的ハードルが下がっている
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

SAP移行は、既に稼働している基幹システムをSAP S/4HANAやクラウド環境へ移し替えるプロジェクトです。新規導入とは異なり、既存のアドオン・データ・インターフェース資産をどう扱うかが設計の中心になります。

本記事では、Greenfield・Brownfield・Selectiveの3方式の違いと向き不向き、アドオン棚卸し・データ移行・カットオーバーなど移行特有の論点、費用と期間の考え方、カゴメ・アスクルなどの実名事例、2026年最新動向を整理します。
自社の制約に合った現実的なSAP移行シナリオを描くための判断材料を提供します。

SAP移行とは

SAP移行とは

SAP移行とは、既に稼働している基幹システム(SAP ERP/ECCや他社ERP、オンプレ独自システムなど)を、SAP S/4HANAやクラウド環境へ移し替えることを指します。ゼロからSAPを入れる「新規導入」とは、考えるべき前提が大きく異なります。

新規導入は、「どのプロセスをどのように標準化するか」を白紙に近い状態から設計できます。一方、移行は次のような制約や前提を抱えたプロジェクトになります。

  • 既存業務フロー・アドオン・インターフェース資産をどこまで活かすか

  • 過去データをどの粒度・どこまで遡って持ち込むか

  • 稼働中システムを止められる時間(ダウンタイム)に制約がある

  • グループ会社・海外拠点など、複数システム/インスタンスの統合が絡むことが多い

つまりSAP移行は、ゼロベースで設計し直すプロジェクトというより、既存資産と制約条件を踏まえて最適な落としどころを探るプロジェクトです。

典型的な対象としては、次のようなケースが挙げられます。

  • SAP ERP(ECC)→ SAP S/4HANA(オンプレ/クラウド)

  • オンプレSAP → S/4HANA CloudRISE with SAP ベースのクラウド環境

  • 他社ERP/自社開発基幹 → SAP S/4HANA への置き換え

「アドオンが膨れてバージョンアップに踏み切れない」「ECC保守の2027年問題が迫っている」——SAP移行を検討する企業の多くが、こうした状況を起点にプロジェクトを始めています。もしアドオンが100本を超え、業務プロセスの見直しも同時に必要な状況であれば、移行は単なる技術更改ではなく、経営・業務・ITをまたぐ変革プロジェクトになります。

SAP移行とは

SAP移行の代表的な3方式

SAP移行の代表的な3方式

SAP移行を検討するとき、最初に整理しておくべきなのが「どの移行方式を取るか」です。方式によって、業務プロセスの変更範囲、プロジェクト期間、必要な投資が大きく変わります。

以下の表で、3つの方式の特徴を比較しました。

方式 業務プロセスの見直し 期間・工数 主なねらい
Greenfield 大きい(再設計前提) 中〜長期 業務刷新・標準化・テンプレート活用
Brownfield 小〜中(現行踏襲が基本) 比較的短期も狙える まずはS/4HANA化・基盤更改
Selective 中〜大(領域ごとに調整) 中〜長期(設計次第) 統合・再編・段階的な業務刷新


この表から分かるのは、方式選択は「技術の問題」ではなく「業務をどこまで変えるか」の経営判断だという点です。以下で各方式の詳細と向き不向きを解説します。

Greenfield(新環境にゼロベース構築)

Greenfield(グリーンフィールド)は、既存システムの設定やアドオンには基本的に縛られず、新しいS/4HANA環境をゼロベースで設計・構築し、必要なマスタ・トランザクションデータだけを移行するやり方です。

Greenfieldが向いているのは、次のような状況です。

  • 現行ECCがアドオン・ローカルルールで極端に複雑化している
    「一度リセットしたい」場合は、現行踏襲を前提にすると課題が解決されない。

  • グローバルでプロセスを統一したい
    本社テンプレートを作り、各拠点に展開する構想がある場合。

  • 他社ERPやレガシー独自システムからSAPへ初めて乗り換える
    既存SAP資産がないため、コンバージョンの選択肢がそもそもない。

一方で、Fit/Gap・業務設計にしっかり時間とリソースをかける必要があり、現場の業務変更インパクトが大きくなります。期間・コスト・社内負荷は3方式の中で最も重くなりやすいため、経営層のコミットメントとチェンジマネジメントの体制が不可欠です。

Brownfield(既存ECCをS/4HANAへコンバージョン)

Brownfield(ブラウンフィールド)は、既存のSAP ERP(ECC)環境をベースに、その設定やアドオンを生かしながらS/4HANAへ「システムコンバージョン」する方式です。

Brownfieldが向いているのは、次のような状況です。

  • ECCの保守切れが迫っており、早期にS/4HANAへ移行したい
    2027年問題への対応を優先し、業務変更は段階的にやりたい場合。

  • 業務プロセスは大きく変えず、技術基盤だけを更新したい
    現行の仕組みが概ね機能しており、まずはS/4HANA化を完了させたい場合。

  • アドオンが多く、いきなりゼロベース設計に切り替えるのが現実的でない
    アドオン資産を極力活かしつつ、段階的にClean Coreへ近づける戦略を取りたい場合。

ただし、既存のアドオンや設定をどこまで持ち込むかの見極めを誤ると、現行の課題もS/4HANAに持ち込んでしまいます。Brownfieldでも、アドオンの棚卸しと「残す/捨てる/標準で代替」の判断は必須です。

Selective(選択的に統合・再構成)

Selective(セレクティブ)は、グループ内に複数のSAP/非SAPシステムが存在している場合などに、統合と再設計を同時に行うアプローチです。

Selectiveが向いているのは、次のような状況です。

  • グループ内に複数のSAP/他社ERPが乱立しており、S/4HANAで統合したい
    M&A・事業統合・会社分割など、組織再編と並行してシステムも整理したい場合。

  • 段階的に移行を進めたい
    「先にこの会社・この業務だけ」など、一部の領域から段階的に刷新する構想がある場合。

  • データの選別を細かくコントロールしたい
    過去データを全件ではなく、期間や条件を絞って持ち込みたい場合。

設計と移行シナリオが複雑になりやすく、専門性の高いパートナーが必要です。プロジェクトマネジメントとアーキテクチャ設計の成熟度が求められるパターンでもあります。

移行方式の選び方

移行方式の選び方

最終的には、自社の制約と狙いから逆算して方式を決めることになります。判断に迷いやすいのは次のようなケースです。

  • 「Greenfieldで業務刷新」と「Brownfieldで早期移行」のどちらを取るか
    アドオンが100本を大きく超え、業務プロセスの見直しが経営課題になっているならGreenfieldが有力です。50本以下で業務変更を最小限に抑えたいならBrownfieldが現実的です。間を取る場合はSelectiveも選択肢に入ります。

  • いつまでにS/4HANAへ移行しなければならないか
    ECC保守切れまでの期間が短い場合、Greenfieldでは間に合わない可能性があります。Brownfieldで先にS/4HANA化を完了し、その後にClean Coreへ段階的に移行するロードマップを描くのが安全策です。

  • グループ統合や組織再編の予定があるか
    統合が予定されているのにBrownfieldで単独コンバージョンを進めると、統合時に再度大規模な改修が発生します。統合が見えている場合はSelectiveを検討すべきです。

複数の方式を組み合わせたハイブリッドシナリオも実務では一般的です。例えば、主要拠点はBrownfieldで早期にS/4HANA化し、グループ統合対象の会社はSelectiveで段階的に取り込むといった設計です。

SAP移行の代表的な3方式

SAP移行プロジェクト特有の論点

SAP移行プロジェクト特有の論点

SAP移行は、「新規導入+α」ではなく、既存資産を抱えた別種のプロジェクトとして捉えたほうが安全です。ここでは、導入プロジェクトと比べたときの移行ならではの論点に絞って整理します。

アドオン/カスタマイズの棚卸し

アドオン棚卸しの判断フロー

最も大きな違いが、既に存在するアドオンやカスタマイズの扱いです。

移行プロジェクトでは、アドオン1本ずつに対して次の判断を行う必要があります。

  • どれだけあるのか
    本数・規模・担当モジュールを一覧化する。

  • いまも本当に使われているのか
    利用状況・頻度を確認し、使われていないものを特定する。

  • S/4HANA標準機能で代替できるものはないか
    S/4HANAで追加された標準機能やSimplification Itemを確認し、標準寄せの候補を洗い出す。

  • 残すものはClean Core準拠にできるか
    残すアドオンについて、ABAP Cloudのリリース済みAPIで実装し直せるかを評価する。

ここを曖昧にしたまま進めると、不要なアドオンまで新環境に持ち込んでしまい、後から「やはり要らなかった」と再改修が発生します。カゴメの事例では、1,000本以上のアドオンを棚卸しし、100本未満にまで削減しています。この棚卸しと判断プロセス自体が、移行プロジェクトの大きなワークになります。

データ移行の設計

データ移行の設計

新規導入と違い、移行では「膨大な履歴データをどう扱うか」が大きな論点になります。

  • 持ち込む範囲の決定
    どの時点からのデータを新環境に持ち込むか(何年分、どの種類)。

  • データ品質の評価
    コード体系の統一度、マスタの重複・欠損、フォーマットの揺れを確認する。

  • データモデル変更への対応
    S/4HANAでデータモデルが変わる領域(FI/COの一体化、マテリアル関連など)で、どのようにマッピング・変換するかを設計する。

履歴を「全件持ち込む」のか、「サマリ化する」のか、「参照用に旧環境を残す」のかで、移行のボリュームもリスクも大きく変わります。データクレンジング(品質の修正)は地味ですが、移行後のシステム信頼性を左右する重要な工程です。

カットオーバー戦略

カットオーバー戦略

既存システムがすでに業務の中心にあるため、本番切り替え(カットオーバー)の設計も新規導入以上にシビアです。

検討すべき項目を以下に整理します。

検討項目 判断のポイント
切り替えタイミング 決算期・繁忙期を避ける。会計年度の切り替え時点が多い
許容ダウンタイム 業種・業態によって数時間〜数日まで幅がある
並行稼働の要否 並行期間を設けるとリスクは下がるが、二重運用の負荷が増える
ロールバック計画 切り替え後に不具合が出た場合の「戻し方」を事前に設計する


アスクルの事例では、国内屈指のデータ量・トランザクション規模でありながら、サイト稼働を維持したままダウンタイムを21時間に抑えて移行を完了しています。カットオーバー戦略は移行方式や業種によって最適解が変わるため、早い段階で方針を決めておくことが重要です。

S/4HANAで変わる機能・データモデルへの対応

S/4HANAでは、一部の機能やデータモデルがECCから変更されています。

  • 廃止・非推奨になった機能やトランザクション

  • データモデルが統合・再設計された領域(FI/COの一体化、マテリアル関連など)

  • アドオンやレポートが前提としていたテーブル構造の変更

これらへの対応を誤ると、コンバージョン後に動かない機能やレポートが大量に出るリスクがあります。事前調査(Simplification Itemチェックなど)と、「どの仕様変更を受け入れ、どこは追加対応するか」の切り分けが、移行プロジェクト特有の大きなテーマです。

SAP移行プロジェクト特有の論点

SAP移行の事例

SAP移行の事例

SAP移行を検討する際、同業種・同規模の企業がどのような方式を選び、どのような成果を上げているかは重要な判断材料になります。ここでは、方式や規模の異なる日本企業の実名事例を紹介します。

企業 業界 移行方式 主な成果
カゴメ 食品 Greenfield アドオン1,000本超→100本未満に削減。91%の業務を標準化。年間4.6万時間の効率化見込み
アスクル EC・オフィス用品 Brownfield ECCからS/4HANAへコンバージョン。サイト稼働維持のままダウンタイム21時間で移行完了
原田伸銅所 金属加工 Greenfield(GROW) 国産パッケージからS/4HANA Cloud Public Editionへ移行。2026年4月本稼働予定
ブリヂストン タイヤ・ゴム Selective ヨーロッパ26か国のECCシステムを1つのS/4HANAに統合


これらの事例に共通するのは、**「標準寄せの意思決定を上流で固めた」**という点です。

カゴメは、長年の運用でアドオンが1,000本以上に膨れ上がり、システムが複雑化・ブラックボックス化していました。Greenfield方式を選択し、「企業価値を決める領域は業務側にシステムを合わせ、その他の管理業務はシステムに業務を合わせる」という「選択と集中」の方針を貫いたことで、大幅なアドオン削減と効率化を実現しています。

アスクルは、ECCの基幹システムをBrownfieldでS/4HANAへコンバージョンしました。一般的に基幹システム移行ではダウンタイムを2〜3日設けるケースが多い中、サイト稼働を維持しながら21時間という短時間で切り替えを完了しています。

原田伸銅所は、GROW with SAPを活用し、S/4HANA Cloud Public Editionへの移行を進めています。中堅企業向けのSaaS型導入パッケージを活用することで、従来よりも短期間での本番稼働を目指しています。

もしアドオンが膨れ上がって「何が動いているのか分からない」状態になっているなら、それはカゴメと同じ出発点です。棚卸しと標準寄せの判断を先送りにするほど、移行の難易度とコストは上がります。

出典:SAP導入事例ブリヂストン事例

SAP移行の事例


SAP移行の費用と期間の目安

SAP移行の費用と期間の目安

SAP移行の費用と期間は、移行方式・導入範囲・アドオン規模・データ量・パートナーの単価など多くの変数に左右されるため、一律の相場を示すのは難しい領域です。ここでは、見積もりの前提を理解するための枠組みを整理します。

SAP移行の費用を左右する主な変数

移行費用を構成する主な変数を以下に整理しました。

変数 費用への影響
移行方式 Greenfieldは業務設計工数が大きく高くなりやすい。Brownfieldは比較的抑えやすい
アドオンの本数・複雑度 残す/作り替える本数が増えるほど開発・テスト工数が膨らむ
導入モジュール数 会計のみと全モジュール一括では費用が数倍異なる
データ移行の範囲・品質 データクレンジングとマッピングの工数はデータ品質に大きく依存する
グローバル展開の有無 海外拠点・多言語・多通貨対応が加わると設計・テスト工数が増加する
パートナーの単価 2027年問題を背景に、SAP認定コンサルタントの需要が高まっている


ECCからS/4HANAへの移行コストは当初の導入コストの40〜60%を占めるという見方もありますが、これは企業規模やアドオンの状況によって大きく変わります。具体的な金額感を得るには、後述する「現行システムの健康診断」を先に済ませ、アドオン本数・データ量・導入範囲を確定させたうえでパートナーから見積もりを取る必要があります。

SAP移行の期間の目安

期間の目安は、移行方式とスコープで大きく変わります。

  • Brownfield(会計中心のコンバージョン)
    9〜12か月が目安。アドオンの作り替えが少なければ、さらに短縮も可能。

  • Greenfield(基幹業務を含む再設計)
    12〜24か月が一般的。業務設計・Fit/Gapに時間がかかるため、技術的な移行作業よりも上流工程が長くなる傾向。

  • Selective(グループ統合を含む)
    18〜24か月以上。設計の複雑さと、統合対象の数によって大きく変動。

2027年問題を背景に移行需要が集中しており、パートナーの確保が難しくなっているという状況もあります。「2027年末までに完了」を前提とするなら、2026年中にプロジェクトを開始するのが現実的なスケジュールです。

SAP移行を検討する企業が最初にやるべきこと

最初にやるべきこと

SAP移行は、いきなり「どのパターンが良いか」「どのベンダーに依頼するか」から入ると議論が拡散しがちです。まずは、自社側で最低限の前提をそろえておくことが重要です。

現行システムの健康診断を実施する

最初の一歩は、現状を数字と事実で把握することです。

  • 利用中のSAPバージョン、サポート期限

  • アドオン本数・規模、利用中の拡張ポイントの数

  • インターフェース数(接続している外部システム、ファイル連携含む)

  • データ量(主要テーブルのレコード数/DBサイズ)とデータ品質の大まかな評価

これにより、Greenfieldが現実的かBrownfieldを前提に考えるべきか、データ移行がどの程度のボリュームと難易度になりそうかの目安が見え始めます。

業務刷新の要否とレベル感を決めておく

次に、業務をどこまで変える覚悟があるか/ないかを、経営・業務・ITの間で粗く合わせておきます。

  • 今の業務やローカルルールを、どこまで見直したいのか

  • グローバルで標準化したいプロセスがあるか

  • 会計・販売・在庫・製造など、特に課題感が強い領域はどこか

「業務刷新も含めて大きく変えたい」のか「まずはS/4HANA化を優先し、業務の見直しは段階的にやりたい」のかが見えてくると、移行方式の候補も自然と絞られていきます。

現実的な移行パターン候補を絞る

現状把握と業務刷新の方針を踏まえ、社内でたたき台のシナリオを作っておくと、パートナーとの議論がスムーズになります。

例えば、以下のようなシナリオです。

  • 案A
    主要拠点はBrownfieldで早期にS/4HANA化し、その後テンプレートを磨き込む。

  • 案B
    本社・基幹会社はGreenfieldで再設計し、他拠点は段階的にロールイン。

  • 案C
    グループ内の複数SAPをSelectiveで統合しつつ、業務標準化も同時に進める。

この段階では粗くて構いませんが、自社なりの前提と優先順位を明文化しておくことで、ベンダー各社の提案内容も比較しやすくなります。

移行プロジェクトに関わる制約条件を明文化する

最後に、SAP移行に伴う制約条件を、早い段階で言語化しておきます。

  • いつまでにS/4HANA/クラウド化を完了したいか(法令・サポート・事業計画などの観点)

  • 本番切り替え時に許容できるダウンタイム/システム停止時間

  • 投資上限や、年間の予算枠の制約

  • 他の大型プロジェクト(基盤更改、組織再編、工場建設など)とのスケジュール関係

これらを明確にしておくと、「そもそもGreenfieldは期間的に無理」「Brownfield単独ではグループ統合の要件が満たせない」といった判断が早い段階ででき、現実的な移行シナリオに議論を収束させやすくなります。

SAP移行を検討する企業が最初にやるべきこと

ここまでの整理を社内で行ってからパートナー選定・RFP作成に進むことで、単なる「ベンダー任せの移行」ではなく、自社の狙いに沿ったSAP移行プロジェクトを設計しやすくなります。

SAP移行の2026年最新動向

SAP移行の2026年最新動向

SAP移行を取り巻く環境は、2026年に入りさらに変化しています。ここでは、移行の意思決定に影響する最新の動向を整理します。

SAP S/4HANA 2025リリース

2025年10月にSAP S/4HANA 2025がリリースされ、移行先として選択可能な最新バージョンとなりました。メインストリーム保守は2030年末までの7年間が提供されます。Brownfield(システムコンバージョン)の場合、Software Update Manager(SUM)のDatabase Migration Option(DMO)を使用し、S/4HANA 2023または2025へのコンバージョンが可能です。

S/4HANA 2025では、SAP Fioriのユーザー体験が強化され、AI支援の検索・フィルタ・要約機能が追加されています。また、Migration Cockpitの機能が拡充され、移行オブジェクトの処理順序をガイドするSequence Information Viewが導入されました。

Clean Core戦略と拡張レベルモデル

SAPが推進するClean Core戦略は、移行プロジェクトの設計方針に大きな影響を与えています。移行時のアドオンの「残す/捨てる/作り替える」判断において、拡張レベルモデル(Level A〜D)が基準として活用されています。

  • Level A(SAP推奨)
    SAP BTP上のSide-by-Side拡張またはABAP Cloudによるon-stack拡張。リリース済みAPIのみを使用する。

  • Level B〜D
    段階的にレガシーなカスタマイズを含む。Dが最もレガシー度が高い。

Greenfieldでの再構築時にClean Coreを徹底すれば、将来のアップグレードやイノベーション適用がスムーズになります。Brownfieldの場合でも、コンバージョン後にLevel Aへ段階的に移行するロードマップを描くことが推奨されています。

RISE with SAPとGROW with SAP

RISE with SAPは、大規模・カスタマイズ環境向けのパッケージとして、S/4HANA Cloud Private Editionへの移行を支援します。ECC保守の2027年問題に対し、Transition Optionによる2033年までの延長保守オプションも提供されています。

一方、GROW with SAPは、中堅企業・成長企業向けにS/4HANA Cloud Public Editionへの迅速な導入を支援するパッケージです。事前構成済みの業界シナリオを活用し、短期間でのGreenfield導入を実現します。

JouleとAI駆動のカスタムコード移行

2026年は、JouleによるAI支援がSAP移行プロジェクトに本格的に適用される年になっています。Custom Code Migration(CCM)ツールでは、レガシーABAPコードの分析・Clean Coreパターンへの変換提案・fit-to-standard分析をAIが支援します。

具体的には、次のような機能が2026年に拡充されています。

  • レガシーカスタムコードに対するClean Core変換提案の自動生成

  • コードレベルでのfit-to-standard分析(標準機能で代替可能かの判定)

  • Jouleによるコード補完・ユニットテスト生成で、アドオン作り替え工数を削減

SAP Business AIは移行後の業務にも活用されており、財務クロージングの効率化、調達プロセスの合理化、サプライチェーン計画の強化などの領域で導入が進んでいます。

移行タイムラインの現状

SAP ERP 6.0 EHP6〜8の標準保守は2027年末で終了し、延長保守は2030年末まで提供されますが追加費用が発生します。さらにTransition Option(2031〜2033年)を活用すれば、SAP管理のプライベートクラウド環境でECCを延長運用することも可能です。

PreciselyとASUGの2025年調査によると、2026年末までに約64%の企業がS/4HANAへの移行を完了または移行中とされています。一方で、約4分の1の企業は2027年以降の移行完了を見込んでおり、延長保守やTransition Optionを活用して移行スケジュールに余裕を持たせています。

早期に移行を完了した企業はClean Coreの恩恵を受け、SAP Business AIやJouleなどの最新イノベーションをいち早く活用できる優位性があります。移行後のAI活用を見据えるなら、構想策定の段階でClean Coreの拡張設計と合わせてBTP上のAI基盤構築も視野に入れておくと、稼働後の価値創出が早まります。ERP×AIの最新トレンドもあわせてご覧ください。


移行が完了したその先に、AI活用の備えを

S/4HANAへの移行を成功させた企業が次に直面するのは、「この新しい基盤をどう活かすか」という問いです。Clean Coreの恩恵を最大化するには、標準化されたプロセスの上にAIエージェントを配置し、判断と実行を自動化する設計が有効です。

AI Agent Hubは、移行後のSAP環境からMicrosoft FabricのZero ETLでデータを仮想統合し、経費精算・請求書受領・フロー判定などの業務をAIエージェントが自動実行するエンタープライズAI基盤です。Teamsからエージェントを呼び出す統一UIにより、移行後のシステム変更に伴うユーザー教育コストも抑えられます。

AI総合研究所は、SAP移行後のデータ活用とAI業務自動化の設計を支援しています。無料の資料で、移行後に取り組むべきAI活用のステップをご確認ください。

SAP移行後のAI業務自動化を設計

AI Agent Hub

S/4HANAの標準基盤をAIが活かす

S/4HANAへの移行で整備したClean Core基盤を、AIエージェントによる業務自動化に発展。経費精算・請求書処理・フロー判定の自動化設計を無料資料でご確認いただけます。

まとめ

本記事では、SAP移行の代表的な3方式(Greenfield・Brownfield・Selective)の特徴と向き不向き、アドオン棚卸し・データ移行・カットオーバーなど移行プロジェクト特有の論点、費用と期間の考え方、そしてカゴメ・アスクルなどの実名事例を解説しました。

SAP移行は、既存資産と制約を踏まえて最適な落としどころを設計するプロジェクトです。方式選択は技術の問題ではなく、「業務をどこまで変えるか」の経営判断であり、その判断を上流で固めた企業が移行に成功しています。

2026年現在、S/4HANA 2025のリリース、Clean Core拡張レベルモデルの定着、JouleによるAI駆動のカスタムコード移行の実用化など、移行プロジェクトを支える環境は着実に進化しています。まずは現行システムの健康診断から始め、自社のアドオン本数・データ量・業務刷新のレベル感を確認したうえで、現実的な移行シナリオを2〜3案に絞り込むことが第一歩です。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

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