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SAPとは?ERPの基本からS/4HANA、2027年問題、キャリアまでを徹底解説

この記事のポイント

  • SAPは、ドイツに本社を置くソフトウェア企業「SAP SE」が提供するビジネスソフトウェア群の総称であり、世界190カ国以上、43万社以上の企業に導入されている。
  • SAPの中核をなすERP(Enterprise Resource Planning)システムは、企業の基幹業務を統合管理し、業務プロセスの標準化とデータのリアルタイム統合を実現する。
  • 競合製品であるOracle ERP CloudやMicrosoft Dynamics 365と比較した際、SAPの強みは、大規模で複雑な基幹業務における圧倒的な実績と業務プロセスの網羅性にある。
  • ERPの導入により、企業は経営資源の最適化、業務プロセスの効率化、そしてデータドリブンな意思決定を実現できる。
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

「SAP」という言葉は、ビジネスシーンやIT業界で頻繁に耳にするキーワードの一つです。しかし、それが何を指すのか正確に説明するのは難しいかもしれません。SAPは単なる特定の製品名ではなく、企業の経営を根幹から支える、巨大で多岐にわたる概念の総称なのです。
この記事では、SAPについて全く知識がない初心者の方から、導入を検討している企業の担当者、さらにはSAP関連のキャリアを目指す方まで、あらゆる層の読者を対象としています。SAPの全体像を一枚の地図のように理解できるよう、その基本から最新動向、キャリアパスに至るまで、網羅的かつ体系的に解説します。

目次

SAPとは?~世界標準のビジネスソフトウェア~

なぜSAPは世界中の大企業で使われているのか?

競合製品との比較:Oracle, Microsoft Dynamics 365との違い

すべての基本:「ERP」とは何か?

ERPの目的:「経営資源の統合」と「業務プロセスの標準化」

ERPがないとどうなる?:部門最適の弊害

SAP導入のメリットと課題

導入のメリット

導入のデメリット(課題)

SAPの中核製品:SAP S/4HANA

SAP S/4HANAとは?:次世代のインテリジェントERP

旧製品「SAP ERP(ECC)」との違い

SAPの機能単位「モジュール」とは?主要モジュール一覧

SAPを支えるコア技術:ABAPとSAP Fiori

独自開発言語:ABAP (Advanced Business Application Programming)

最新のUX/UI:SAP Fiori

ERPだけじゃない!広範なSAPの製品・ソリューション群

中堅・中小企業向けERP:SAP Business One, Business ByDesign

業務領域特化型クラウドソリューション(LoB)

ビジネスを支える技術基盤とAI

避けて通れない「SAPの2027年問題」とは何か?

問題の本質:SAP ERP 6.0の標準保守サポート終了

【重要】EHPごとの段階的なサポート終了スケジュール

S/4HANAへの移行状況と、移行が進まない理由

S/4HANAへの移行アプローチ:グリーンフィールド、ブラウンフィールド

SAPの導入事例:各業界での活用ケース

製造業の導入事例:サプライチェーンの最適化

小売業の導入事例:リアルタイムな需要予測と在庫管理

金融機関の導入事例:高度なリスク管理とコンプライアンス対応

SAPの最新動向と将来性

クラウド移行の標準パッケージ「RISE with SAP」

ビジネスAI Copilot「SAP Joule」の業務統合

SAPに関わるキャリアと仕事内容

SAPコンサルタントとは?:企業の課題を解決する専門家

SAPエンジニアとは?:システムを構築・運用する技術者

SAP関連職種の年収と市場価値の高まり

SAPスキルを学習する方法

FAQ:SAPに関するよくある質問

Q1. SAPとS/4HANAの違いは何ですか?

Q2. 2027年問題は延長できますか?

Q3. 「アドオン」「カスタマイズ」とは何ですか?

Q4. SAPの読み方は?

まとめ:SAPは企業の変革を支える経営基盤

SAPとは?~世界標準のビジネスソフトウェア~

SAP(エスエイピー)とは、ドイツに本社を置くソフトウェア企業「SAP SE」の社名であり、同社が開発・提供するビジネスソフトウェア群の総称です。正式名称はSAP SE (Societas Europaea)で、1972年にドイツで設立されました。

SAP社は、企業の基幹業務(会計、販売、生産、人事など)を統合管理する「ERP(Enterprise Resource Planning)」システムの分野で世界最大のシェアを誇ります。現在では世界190カ国以上、43万社以上の企業に導入されており、グローバルな経営基盤の標準となっています。日本法人であるSAPジャパン株式会社は1992年に設立され、国内の多くの大手企業もSAPを利用しています。

SAPとは

なぜSAPは世界中の大企業で使われているのか?

SAPがグローバル企業に標準の経営基盤として選ばれ続けるのには、明確な理由があります。ここでは、その代表的な理由を3つのポイントに絞って紹介します。

  1. 業務プロセスの標準化: SAPのシステムには、世界中の優良企業のベストプラクティス(最も効率的な業務手順)が、あらかじめ豊富に組み込まれています。企業はSAPを導入することで、自社の業務プロセスをグローバル標準に合わせて最適化できます。

  2. データのリアルタイム統合: 会計、販売、生産、人事といった、従来は部門ごとに分断されがちだったデータを、単一のシステムに統合します。これにより、経営状況をリアルタイムで正確に把握し、迅速なデータドリブンな意思決定を可能にします。

  3. 拡張性と信頼性: 多言語・多通貨への対応はもちろんのこと、各国の複雑な法制度や商習慣にも対応できる柔軟性を備えています。企業の成長や海外展開に合わせてシステムを拡張できる高い信頼性が、グローバル経営の基盤として評価されています。

競合製品との比較:Oracle, Microsoft Dynamics 365との違い

ERP市場には、SAPの他にも強力な競合製品が存在します。ここでは、特に主要なライバルであるOracle社とMicrosoft社の製品との違いについて解説します。

  • Oracle ERP Cloud: データベース技術に定評のあるOracle社が提供。特に財務・会計領域で高い評価を得ており、クラウドERP市場でSAPと激しい競争を繰り広げています。

Oracle ERP Cloud
出典:Oracle ERP

  • Microsoft Dynamics 365: Office 365やAzureといったMicrosoft製品群との高い親和性が最大の武器です。CRMからERPまでをカバーし、特に中堅企業市場で急速にシェアを伸ばしています。

Microsoft Dynamics 365
出典:Microsoft Dynamics 365

これらの競合製品と比較した際、SAPの強みは、製造業を中心とした大規模で複雑な基幹業務における圧倒的な実績と、それに裏打ちされた業務プロセスの網羅性にあると言えるでしょう。


すべての基本:「ERP」とは何か?

SAPを深く理解するためには、その中核をなす概念である「ERP」を知ることが不可欠です。ここでは、ERPが企業の経営にどのような価値をもたらすのかを解説します。

ERPの目的:「経営資源の統合」と「業務プロセスの標準化」

ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略称で、日本語では「企業資源計画」と訳されます。その名の通り、企業経営に不可欠な「ヒト・モノ・カネ・情報」といった全ての資源を、単一のシステムで統合的に管理し、会社全体の視点から最適化するための考え方や仕組みを指します。

ERPシステムを導入すると、これまで部門ごとに個別管理されていた販売、在庫、生産、会計、人事などのデータがリアルタイムで連携します。これにより、経営層は会社全体の状況を正確に把握し、データに基づいた的確な経営判断を下せるようになります。

ERPがないとどうなる?:部門最適の弊害

もしERPが存在しなければ、各部門はそれぞれ独自のシステムやExcelなどで業務を管理することになります。例えば、営業部門は顧客管理システムを、生産部門は生産管理システムを、経理部門は会計システムを個別に利用する、といった状態です。

このような「部門最適」の状態は、一見効率的に見えても、企業全体としては多くの問題を生み出します。

  • データの分断: 全社横断でのデータ分析が困難になり、経営の実態が見えにくくなります。

  • 業務の非効率: 部門間のデータ連携が手作業になり、二重入力の手間や情報のタイムラグが発生します。

  • 意思決定の遅延: 経営層が正確な情報をリアルタイムで得られず、判断のスピードが鈍化します。

ERPは、こうした弊害を解消し、「全体最適」な企業経営を実現するための強力な経営基盤なのです。


ERPで一元管理


SAP導入のメリットと課題

SAPを導入することで企業は何を得られるのでしょうか。ここでは、そのメリットを解説すると同時に、導入の際に直面する現実的なデメリット(課題)についても、公平な視点で解説します。

導入のメリット

SAPを導入することで、企業は経営基盤を強化し、競争優位性を高めるための多くのメリットを得ることができます。代表的なメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • リアルタイムな経営状況の可視化:
    会社全体のヒト・モノ・カネの動きがリアルタイムで把握でき、迅速で正確な経営判断が可能になります。

  • グローバル標準の業務プロセス導入:
    世界の優良企業のベストプラクティスが組み込まれており、業務の標準化と効率化を図ることができます。

  • 内部統制の強化とコンプライアンス遵守:
    業務プロセスがシステムによって統制されるため、人的ミスや不正のリスクが低減し、内部統制の強化につながります。

これらのメリットは相互に関連しあい、データに基づいた俊敏な企業経営を実現します。

導入のデメリット(課題)

一方で、SAPの導入は大規模な投資と変革を伴うため、事前に把握しておくべきデメリットや課題も存在します。特に以下の3点は、多くの企業が直面する共通の課題と言えるでしょう。

  • 高額な費用:ライセンス体系の複雑さとコスト構造:
    SAPの導入・運用には高額な費用がかかる傾向があります。特にオンプレミス版では、初期のライセンス費用に加えて年間の保守費用が発生します。
    クラウド版はサブスクリプション型で初期費用を抑えられますが、継続的な利用料が必要です。ライセンス体系も複雑なため、専門家の支援なしに最適な契約を結ぶのは容易ではありません。

  • 導入プロジェクトの長期化と複雑性:
    業務プロセスの見直しから、システムの設計・構築、データ移行、従業員へのトレーニングまで、導入には1年以上の期間と多くの工数を要する大規模なプロジェクトとなることが一般的です。

  • 専門知識を持つSAP人材の不足:
    SAPの導入・運用には、業務知識とITスキルの両方を備えた専門人材が不可欠です。しかし、国内ではこうした人材が慢性的に不足しており、人材の確保や育成が大きな課題となっています。


SAPの中核製品:SAP S/4HANA

現在のSAPの製品ポートフォリオの中で、最も中核に位置するのが次世代ERP「SAP S/4HANA」です。ここでは、その特徴と関連技術について詳しく見ていきましょう。

SAP S/4HANAとは?:次世代のインテリジェントERP

SAP S/4HANA(エスフォーハナ)は、従来のSAP ERP製品(ECC 6.0など)の後継となる、第4世代のビジネススイートです。その最大の特徴は、超高速データベースである「SAP HANA」上でしか動作しないように設計されている点にあります。

SAP HANAの能力を最大限に活用することで、膨大な取引データをリアルタイムで処理・分析できます。さらに、AIや機械学習といった最新技術を組み込み、需要予測や業務自動化などのインテリジェントな機能を提供することが可能です。

SAP S4/HANAとSAP HANAは名称が似ており混同されがちですが役割が明確に異なります。詳しくは下記で解説しているので、複雑なSAP周辺の知識をしっかり整理しておきましょう。

SAP HANAとは?料金体系・S/4HANAとの違い・導入メリットを解説

旧製品「SAP ERP(ECC)」との違い

SAP S/4HANAは、旧製品であるSAP ERP Central Component (ECC)と比較して、主に以下の点で大きく進化しています。

  • データベース: 従来の様々なデータベースから、インメモリデータベースであるSAP HANAに一本化されました。

  • データモデル: テーブル構造が大幅にシンプルになり、データ容量を効率的に圧縮できます。

  • UI/UX: PC中心の複雑な画面(SAP GUI)から、スマートフォンやタブレットでも直感的に操作できるモダンなUI(SAP Fiori)へと刷新されました。

  • 機能: リアルタイム分析機能が標準で組み込まれており、意思決定の迅速化を支援します。

SAPの機能単位「モジュール」とは?主要モジュール一覧

SAPのERPは、企業の多岐にわたる業務に対応するため、「モジュール」と呼ばれる機能単位の集合体で構成されています。企業は自社の業務内容に応じて、必要なモジュールを選択して導入します。

以下に、SAP S/4HANAの代表的なモジュールをリストアップしました。

モジュール略称 正式名称 担当業務領域
FI (Financial Accounting) 財務会計 企業の財務諸表作成など、社外報告向けの会計を担当
CO (Controlling) 管理会計 部門別の原価計算や収益性分析など、社内管理向けの会計を担当
SD (Sales and Distribution) 販売管理 受注、出荷、請求といった販売プロセス全般を管理
MM (Materials Management) 在庫購買管理 原材料や資材の購買、在庫管理、入出庫管理などを担当
PP (Production Planning and Control) 生産計画/管理 生産計画の立案から製造指図、実績報告までを管理

これらのモジュールが相互に連携し、データが一元的に管理されることで、ERPシステムは成り立っています。


SAPを支えるコア技術:ABAPとSAP Fiori

SAPの広範なアプリケーション群は、長年にわたり培われてきた独自の技術基盤の上に成り立っています。ここでは、SAPシステムを理解する上で欠かせない、開発言語である「ABAP」と、ユーザーインターフェースである「SAP Fiori」という2つのコア技術について解説します。

独自開発言語:ABAP (Advanced Business Application Programming)

ABAP(アバップ)とは、SAPのアプリケーション開発に特化して作られた、SAP独自のプログラミング言語です。1980年代から存在する歴史の長い言語で、企業の複雑なビジネスロジックを安定して実装するために最適化されています。

SAP ERPの時代から、企業の要件に合わせて機能を追加開発する「アドオン」は、このABAPを用いて行われてきました。S/4HANAの時代になってもその中心的な役割は変わらず、クラウド環境やインメモリデータベース(SAP HANA)の性能を最大限に引き出すための新しい文法が追加されるなど、進化を続けています。

最新のUX/UI:SAP Fiori

sap fioriの画面イメージ
出典:SAP Fiori

SAP Fiori(フィオーリ)は、従来の複雑な画面(SAP GUI)に代わる、SAPアプリケーションのための新しいユーザーエクスペリエンス(UX)デザインの考え方であり、その考え方に基づいて開発されたUI(ユーザーインターフェース)群を指します。イタリア語で「花」を意味するその名の通り、美しく直感的なデザインが特徴です。

Fioriは、PC、タブレット、スマートフォンなど、あらゆるデバイスで一貫した操作性を提供することを目指しています。役割ベースで設計されており、ユーザーは自分に必要な情報や機能だけにアクセスできるため、業務効率が大幅に向上します。現在のSAP S/4HANAでは、このSAP Fioriが標準のUIとなっています。

▼SAP Fioriについてはこちらで詳しく解説しています▼
SAP Fioriとは?S/4HANA時代の新UI/UXを機能やメリットと共に徹底解説


ERPだけじゃない!広範なSAPの製品・ソリューション群

SAPの提供価値は、中核となるERPだけではありません。企業のあらゆる業務をカバーする、広大な製品エコシステムも大きな強みです。これらは業務領域特化型の「LoBソリューション」や、それらを支える技術基盤によって構成されています。

中堅・中小企業向けERP:SAP Business One, Business ByDesign

SAPは大企業向けというイメージが強いですが、中堅・中小企業の成長を支援するためのERPも提供しています。代表的な製品は以下の2つです。

  • SAP Business One: 比較的小規模な企業向けに、会計、販売、在庫管理など、ビジネスに必要な基本機能をワンパッケージで提供するソリューションです。

sap business oneの画面イメージ
出典:SAP Buisiness One

  • SAP Business ByDesign: クラウドネイティブなERPとして設計されており、より複雑な業務にも対応できる柔軟性が特徴です。

sap business bydesignの画面イメージ
出典:SAP Buisiness ByDesign

これらの製品により、SAPは企業の規模を問わず、その成長段階に応じたソリューションを提供しています。

業務領域特化型クラウドソリューション(LoB)

ERPが企業の「基幹」を支えるのに対し、特定の業務領域の課題解決に特化したクラウドソリューションは、SAPのビジネスにおいてますます重要性を増しています。これらはS/4HANAと連携させることで、企業全体のDXを加速させます。

ここでは、代表的なLoBソリューションをいくつか紹介します。

  • 間接材購買・調達管理(SAP Ariba): 世界最大級のB2Bネットワークを通じて、企業の購買プロセスを電子化し、コスト削減と業務効率化を実現します。

  • 出張・経費精算管理(SAP Concur): 出張申請から経費精算、請求書管理までをクラウドで一元管理し、従業員と経理部門の双方の負担を軽減します。

  • 人材管理(HCM / SAP SuccessFactors): 採用、人材育成、人事評価、給与計算といった人事関連業務を統合的に管理し、戦略的なタレントマネジメントを支援します。

  • 顧客体験(CX / SAP Customer Experience): 営業、マーケティング、eコマース、サービスといった顧客接点全体のデータを統合し、一貫した優れた顧客体験の提供を支援します。

これらの専門的なソリューションを組み合わせることで、企業は自社のビジネスモデルに最適なIT環境を構築することが可能です。

ビジネスを支える技術基盤とAI

上記のアプリケーション群は、SAPが提供する強力な技術基盤やAI機能によって、その価値をさらに高めています。

技術基盤(SAP Business Technology Platform / BTP)
SAP BTPは、SAPアプリケーションの統合、拡張、データ分析を行うためのクラウドプラットフォームです。いわば、SAPソリューション全体の「OS」のような役割を担い、企業のデータ活用や独自のアプリケーション開発を支援します。

▼SAP BTPについての詳細はこちら▼
SAP BTPとは?DXの鍵「Keep the Core Clean」を支える技術基盤を徹底解説

ビジネスAI(SAP Business AI):
SAPは、自社のアプリケーションにAIを組み込むためのサービス群を「SAP Business AI」として提供しています。これには、自然言語でシステムを操作できるAIアシスタント「Joule」や、請求書の自動読み取りといった特定の業務を自動化する「AI Business Services」などが含まれます。

▼SAP Business AIについての詳細はこちら▼
SAP Business AIとは?機能、Jouleとの関係、料金体系を徹底解説

このように、SAPは単体のアプリケーションだけでなく、それらを連携させ、拡張し、賢くするための技術基盤まで含めて、包括的なソリューションを提供しているのが特徴です。


避けて通れない「SAPの2027年問題」とは何か?

SAPを語る上で最も重要なトピックの一つが「2027年問題」です。これがなぜ単なるシステム保守の終了に留まらない、大きな経営課題とされているのか、その本質を解説します。

問題の本質:SAP ERP 6.0の標準保守サポート終了

「2027年問題」とは、多くの企業で現在稼働している基幹システム「SAP ERP 6.0」の標準保守サポートが、2027年末に終了することを指します。サポートが終了すると、システムのセキュリティ更新や法改正への対応プログラムが提供されなくなり、企業は深刻な事業継続リスクに直面する可能性があります。

【重要】EHPごとの段階的なサポート終了スケジュール

ただし、「2027年」という数字だけが一人歩きしていますが、正確には利用しているバージョン(EHP: Enhancement Package)によってサポートの期限は異なります。この点を正しく理解することが重要です。

EHPバージョン 標準保守終了日 延長保守終了日
EHP 0-5 2025年12月31日 (延長保守なし)
EHP 6 以上 2027年12月31日 2030年12月31日

上の表が示すように、EHP 0-5を利用している企業は、より早く期限を迎えるため、特に早急な対応が求められます。EHP 6以上の場合でも、2028年以降は高額な延長保守費用が必要となるため、多くの企業が2027年までを一つの目処として、後継製品であるSAP S/4HANAへの移行を計画しています。

S/4HANAへの移行状況と、移行が進まない理由

最新の調査報告によると、SAP ERPを利用する国内企業の多くが、まだS/4HANAへの移行を完了していません。その背景には、移行を阻むいくつかの大きな課題が存在します。

  • 高額なコスト: 新しいハードウェアの導入やライセンス費用、移行プロジェクト自体に多額の投資が必要となります。

  • 専門人材の不足: S/4HANAへの移行プロジェクトを主導できる経験豊富なコンサルタントやエンジニアが、市場で圧倒的に不足しています。

  • プロジェクトの長期化: 業務プロセスの見直しやデータ移行、アドオン(独自開発機能)の改修など、移行には1年以上の大規模なプロジェクトが必要となるケースも少なくありません。

これらの複合的な課題から、多くの企業が移行の必要性を認識しつつも、具体的な着手に踏み切れていないのが現状です。

S/4HANAへの移行アプローチ:グリーンフィールド、ブラウンフィールド

SAP S/4HANAへの移行には、大きく分けて2つの代表的なアプローチがあります。

  1. グリーンフィールド: 既存のシステムやデータを引き継がず、まっさらな状態(Greenfield)からS/4HANAを新規で導入する方式です。業務プロセスを抜本的に見直し、最新のベストプラクティスを導入したい企業に適しています。

  2. ブラウンフィールド: 既存のSAP ERPのデータや設定(カスタマイズ)を引き継ぎながら、S/4HANAへバージョンアップ(コンバージョン)する方式です。現行の業務プロセスを可能な限り維持しつつ、コストを抑えて移行したい場合に選択されます。

実際には、この2つを組み合わせたハイブリッド型のアプローチが取られることも多く、自社の状況に合わせた最適な移行シナリオの策定がプロジェクトの成否を分けます。


SAPの導入事例:各業界での活用ケース

実際にSAPを導入している企業が、どのようにビジネス上の課題を解決しているのか。ここでは、業界別の具体的な活用ケースを紹介します。

製造業の導入事例:サプライチェーンの最適化

ある大手自動車部品メーカーは、世界中に点在する生産拠点と販売拠点の情報をSAP S/4HANAで統合しました。これにより、各拠点の在庫状況や生産進捗をリアルタイムで可視化。グローバルでの需要変動に合わせた生産調整を迅速に行える体制を構築し、過剰在庫の削減と納期遵守率の向上を同時に実現しています。

小売業の導入事例:リアルタイムな需要予測と在庫管理

ある大手スーパーマーケットチェーンは、SAP S/4HANAと分析ソリューションを組み合わせています。POSデータや天候、地域のイベント情報などをリアルタイムで分析し、店舗ごと・商品ごとの精緻な需要予測を実施。自動発注や最適な在庫配置を実現した結果、品切れによる販売機会の損失と、廃棄ロスの両方を大幅に削減しました。

金融機関の導入事例:高度なリスク管理とコンプライアンス対応

ある大手銀行では、SAPのソリューションを活用して、膨大な金融取引データをリアルタイムで分析しています。これにより、不正取引の検知やマネーロンダリング対策(AML)を強化。また、刻々と変わる各国の金融規制にも迅速に対応できるコンプライアンス基盤を構築し、経営の健全性を高めています。


SAPの最新動向と将来性

進化を続けるSAPの最新トレンドを紹介します。クラウドへのシフトとAIの活用が、企業のDXをどのように変えていくのかを解説します。

クラウド移行の標準パッケージ「RISE with SAP」

「RISE with SAP」は、企業がS/4HANAへ移行し、クラウド中心のインテリジェントエンタープライズへと変革するために必要なツール、サービス、インフラを一つのパッケージとして提供するサブスクリプションサービスです。

これは単にS/4HANA Cloudのライセンスを提供するだけではありません。業務プロセスの分析・改善ツールや、クラウドインフラ(AWS, Azure, GCPなどから選択可能)の利用権も含まれます。企業はSAPとの単一契約で、複雑なクラウド移行をシンプルかつ計画的に進めることが可能になります。この「RISE with SAP」は、現在のSAPのクラウド戦略の中心に位置づけられています。

RISE with SAP
出典:RISE with SAP

ビジネスAI Copilot「SAP Joule」の業務統合

SAP J0ule
出典:SAP Joule

「Joule(ジュール)」は、SAPのクラウドソリューション全体に組み込まれた、生成AIアシスタント(Copilot)です。ユーザーは自然言語(日本語にも対応)で質問や指示を出すだけで、必要な情報を検索したり、レポートを作成したり、業務トランザクションを実行したりできます。

例えば、「来月の関東エリアにおける製品Aの売上予測レポートを作成して」と話しかけるだけで、Jouleが関連データを分析し、瞬時にレポートを提示してくれます。将来的には、「Joule Studio」を通じて企業が独自のAIアシスタントを開発できるようになることも計画されており、業務の自動化と効率化を大きく前進させる技術として期待されています。

近年ではあらゆるサービスやシステムがAIとは密接な関係を持っており、切っても切れない関係となってきています。
SAPを知る上でも、使われているAI技術について情報を得ておくことは非常に重要です。
下記の記事から是非「SAP Joule」についてもしっかり把握しておきましょう。

SAP Jouleとは?ビジネス向けAI Copilotの機能・使い方・料金を解説


SAPに関わるキャリアと仕事内容

高い専門性が求められるSAP関連の職種は、IT業界の中でも人気のキャリアパスの一つです。ここでは代表的な職種と、求められるスキル、そして年収の目安を紹介します。

SAPコンサルタントとは?:企業の課題を解決する専門家

SAPコンサルタントは、企業の経営課題や業務上の問題をヒアリングし、SAPの導入や活用を通じてそれを解決に導く専門家です。担当する業務領域(財務会計、販売管理など)に関する深い知識と、SAPシステムの知識、そして顧客と円滑にコミュニケーションをとる能力が求められます。

SAPエンジニアとは?:システムを構築・運用する技術者

SAPエンジニアは、SAPコンサルタントが描いた設計図に基づき、実際にシステムの構築や設定(カスタマイズ)、アドオン開発(ABAPプログラミング)を行う技術者です。システムの安定稼働を支える運用・保守も重要な役割となります。深い技術的知識と論理的思考力が求められます。

SAP関連職種の年収と市場価値の高まり

SAP関連の職種は、その専門性の高さから、一般的なIT職種と比較して高い年収水準にあります。経験やスキルにもよりますが、若手で600万円以上、経験豊富なシニアコンサルタントやプロジェクトマネージャーになると1200万円を超えることも珍しくありません。

特に現在は「2027年問題」を背景に、S/4HANAへの移行プロジェクトが急増しており、SAPコンサルタントやエンジニアは深刻な人材不足の状態にあります。そのため、SAP関連のスキルを持つ人材の市場価値は、今後ますます高まっていくと予想されます。

SAPスキルを学習する方法

SAPの専門スキルを身につけるには、以下のような方法があります。

  • SAP社が提供する公式トレーニングを受講する
  • SAP認定資格を取得して知識を体系的に証明する
  • オンライン学習プラットフォームや書籍で独学する
  • SAP導入を行っているコンサルティングファームやIT企業に就職し、実務経験を積む

FAQ:SAPに関するよくある質問

この記事の本文で紹介しきれなかった、SAPに関するよくある質問とその回答をまとめました。

Q1. SAPとS/4HANAの違いは何ですか?

A. SAPは企業名であり、同社が提供する製品全体のブランド名でもあります。一方、S/4HANAは、そのSAP社が提供する多くの製品の中の、中核となる最新世代のERP(基幹業務システム)製品を指します。

Q2. 2027年問題は延長できますか?

A. SAP ERP 6.0、EHP 6以上のバージョンを利用している場合に限り、標準保守が終了する2027年末以降、有償の延長保守サービスを契約することで最大2030年末までサポートを延長することが可能です。ただし、EHP 0-5の場合は2025年末で完全にサポートが終了し、延長はできません。

Q3. 「アドオン」「カスタマイズ」とは何ですか?

A. 「カスタマイズ」は、SAPに標準で用意されている設定機能(パラメータ)を調整し、企業の業務に合わせてシステムの動きを変えることです。一方、「アドオン」は、標準機能だけでは業務要件を満たせない場合に、ABAP言語を使って独自の機能を追加開発することを指します。アドオンはシステムのバージョンアップを複雑にする要因となるため、極力減らすことが推奨されます。

Q4. SAPの読み方は?

A. 「エスエイピー」とアルファベットで読むのが公式な読み方です。一部で使われるドイツ語読みの「ザップ」ではありません。

まとめ:SAPは企業の変革を支える経営基盤

本記事では、SAPという広大なテーマについて、その基本概念であるERPから、主力製品のS/4HANA、社会的な課題となっている2027年問題、そして多様なソリューション群やキャリアパスに至るまで、多角的に解説しました。

SAPは、単なるソフトウェアパッケージではありません。それは、世界中の優良企業の知見が凝縮された業務プロセスの標準モデルであり、企業のあらゆる経営資源をリアルタイムに統合し、データに基づいた意思決定を可能にする経営基盤そのものです。

「2027年問題」への対応は、多くの企業にとって避けては通れない課題ですが、それは同時に、旧来の業務プロセスを見直し、デジタル時代に即した俊敏な経営体制へと変革を遂げる絶好の機会でもあります。この記事が、複雑なSAPの世界を理解するための一助となれば幸いです。

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