この記事のポイント
複数SAPシステムのデータサイロ化に悩む企業は、BDCのデータプロダクトで統合基盤の立ち上げを加速できる
2026年1月以降Datasphere・SAC新規契約はBDC経由に一本化。既存BTPEA/CPEA契約者は契約期間中利用可だが、次回更新時にBDCへの移行計画が必要
Capacity Unit課金で Datasphere・SAC・Databricksの配分を柔軟に変更でき、段階導入でTCOを抑制できる

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
SAP Business Data Cloud(SAP BDC)は、すべてのSAPデータとサードパーティデータを統合し、ビジネスAIを加速させるフルマネージドSaaS基盤です。
2026年1月からDatasphereとAnalytics Cloudの新規契約はBDC経由に一本化され、SAPのデータ・分析戦略の中核として急速に存在感を増しています。
「Datasphereを単体で使い続けられるのか」「BDCに移行するとコストはどう変わるのか」——こうした疑問を持つ企業担当者は少なくありません。
本記事では、SAP BDCの基本概念から主要機能、2026年最新動向、料金・ライセンス体系、導入メリットと検討ポイントまでを体系的に解説します。
目次
SAP DatasphereやSAP Analytics Cloudとの違い
SAP Business Data Cloud導入のメリットと検討ポイント
SAP Business Data Cloudの2026年最新動向
Seamless PlanningとAnalytics Cloudの進化
SAP Business Data Cloudとは
SAP Business Data Cloud(SAP BDC)は、すべてのSAPデータとサードパーティデータを統合・管理し、AIが活用しやすい形式でデータを供給するフルマネージドSaaSソリューションです。
2025年2月にSAPが発表したこのソリューションは、従来のデータウェアハウスやデータレイクの枠を超え、ビジネスAIを加速させる信頼性の高いデータ基盤として位置付けられています。

登場した背景
企業がAIを活用してビジネス価値を生み出すには、次のような課題がありました。
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データサイロ化
S/4HANA、SuccessFactors、Aribaなど複数のSAPシステムと、Salesforce、Snowflakeなどの非SAPシステムにデータが分散している
-
データ品質・ガバナンスの問題
AIモデルの学習に使えるクオリティのデータが整備されていない。データの出自や信頼性が不明なまま分析や意思決定に使われている
-
AI活用の複雑さ
データサイエンティストがデータ取得・前処理に時間を費やし、AIモデル開発に集中できない
こうした課題は、SAPシステムを複数導入している大企業ほど深刻です。たとえばS/4HANAの財務データ、SuccessFactorsの人事データ、Aribaの購買データがそれぞれ独立して存在し、全社横断の分析やAI活用に着手できないケースは珍しくありません。SAP Business Data Cloudは、「信頼できるデータでビジネスAIを加速する」というビジョンのもと、これらの課題を包括的に解決するために開発されました。
SAPデータ・AI戦略における位置付け
SAP Business Data Cloudは、SAPのデータ・AI戦略の中核を担う統合基盤です。以下の表で、関連製品との役割分担を整理します。
| 製品・サービス | 役割 |
|---|---|
| S/4HANA、SuccessFactors等 | 業務データの発生源(トランザクション処理) |
| SAP Business Data Cloud | データ統合・管理・AI活用基盤(統合レイヤー) |
| SAP Datasphere | データファブリック・セマンティック管理(BDCのコアコンポーネント) |
| SAP Analytics Cloud | ビジュアル分析・ダッシュボード(BDCのコアコンポーネント) |
| SAP Databricks | 高度なML/AIモデル開発・予測分析(BDCの拡張コンポーネント) |
| SAP Joule | 生成AIデジタルアシスタント |
BDC本体にはDatasphere・SAC・BW・managed SAP Databricksが含まれており、これらを一つのサブスクリプション内で統合的に利用できます。一方、Snowflake・Google BigQuery・Microsoft FabricなどはBDC Connectを通じて接続する外部システムであり、BDCサブスクリプションに内包されるわけではない点に注意が必要です。
SAP DatasphereやSAP Analytics Cloudとの違い
「DatasphereやAnalytics Cloudを既に使っているが、BDCとは何が違うのか」という疑問は多く見られます。両者の関係を整理します。
| 比較軸 | Datasphere / SAC単体 | SAP Business Data Cloud |
|---|---|---|
| 提供形態 | BTPベースのクラウドサービス(個別契約) | フルマネージドSaaS(SAP管理) |
| データプロダクト | なし(自社でモデル構築) | SAP標準のデータプロダクトを事前提供 |
| Intelligent Applications | なし | Finance / Spend / Supply Chain / Revenue Intelligence等 |
| Databricks統合 | 別途契約が必要 | BDC内にネイティブ統合 |
| ハイパースケーラー連携 | 個別設定 | BDC Connectでゼロコピー連携 |
| ナレッジグラフ | なし | HANA Cloudナレッジグラフと統合 |
| 新規契約 | 2026年1月以降、BTPEA/CPEA/PAYG新規不可 | 新規契約の唯一のパス |
端的に言えば、Datasphereはデータモデリング・統合を担う「エンジン」であり、BDCはそのエンジンにデータプロダクト・Intelligent Applications・AI統合・ハイパースケーラー連携を加えた「完成車」です。2026年1月以降、Datasphere・SACの新規契約はBDC経由に一本化されたため、これから導入する企業はBDCの全体像を理解した上で計画を立てる必要があります。
主な特徴
SAP Business Data Cloudの最大の特徴は、次の3点です。
-
フルマネージドSaaS
インフラ管理、アップデート、セキュリティパッチなどをSAPが管理し、企業はデータ活用に集中できる
-
ビジネスコンテキストを持つデータプロダクト
SAP標準のデータモデル(データプロダクト)が事前定義されており、「売上」「在庫」「人材」などのビジネス概念がすぐに利用可能
-
AI/生成AIとのネイティブ統合
Databricks、SAP Jouleとの統合により、データ取得から分析、AI活用までをシームレスに実行できる
これらの特徴により、従来はデータ基盤構築に数ヶ月〜1年を要していた企業でも、データプロダクトを活用することで初期構築の負荷を大幅に下げられます。
SAP Business Data Cloudの主な機能
SAP Business Data Cloudは、データ統合からAI活用まで、包括的な機能を提供します。
ここでは、実務で押さえておくべき主要機能を整理します。

データプロダクト
SAP Business Data Cloudの中核機能が、データプロダクトです。
データプロダクトとは、SAP標準で提供される、ビジネスプロセスごとに最適化されたフルマネージドのデータモデルです。
-
S/4HANAの財務データ
総勘定元帳、債権・債務、原価計算など -
SAP Aribaの支出データ
購買依頼、発注、請求書、サプライヤー情報など -
SAP SuccessFactorsの人材データ
従業員情報、学習履歴、パフォーマンス評価など -
サプライチェーンデータ
在庫、生産計画、出荷、品質管理など
データプロダクトのメリットとして、データモデルを一から設計する必要がなくすぐに利用開始できること、SAP標準のビジネスロジック・計算式が組み込まれておりデータの一貫性・信頼性が確保されること、そしてSAPが数百のデータプロダクトを提供していることが挙げられます。
データプロダクトにより、データ基盤構築の初期コスト・期間を大幅に削減できます。
なお、2026年前半にはData Product StudioのGA(一般提供)が予定されています。Data Product Studioは、ビジュアルツールとSQLベースの変換を組み合わせてカスタムデータプロダクトを作成・管理できるワークスペースです。バージョン管理やライフサイクル管理にも対応しており、SAP標準のデータプロダクトに加えて企業固有のカスタムデータプロダクトを公開できるようになります。
Intelligent Applications
SAP Business Data Cloudは、事前定義された分析アプリケーションであるIntelligent Applications(旧称Insight Apps)を提供します。
2026年4月時点で、以下のIntelligent Applicationsが公開されています。

| アプリケーション | 対象領域 | 主な機能 | 状況 |
|---|---|---|---|
| Finance Intelligence | CFO・財務 | AIによるキャッシュフロー予測、流動性リスク検知、Moody's信用データ統合 | 提供中 |
| Spend Intelligence | 調達・購買 | 支出分類の統合ビュー、AI分析によるコスト削減機会の特定、source-to-pay連携 | 制限付きパブリックプレビュー |
| Supply Chain Intelligence | SCM・オペレーション | 外部シグナル(天候・規制・市場)とSAP Business Networkデータの統合、需給最適化 | 制限付きパブリックプレビュー |
| Revenue Intelligence | 営業・マーケティング | 顧客行動とバックオフィスデータの統合、アカウント優先順位の特定 | 制限付きパブリックプレビュー |
| People Intelligence | HR・人事 | 人員構成・報酬・スキルのインサイト、SuccessFactorsデータ連携 | 提供中 |
| Cloud ERP Intelligence Private | 経営全般 | 製造・SCM・契約会計のシミュレーション、サステナビリティ目標追跡 | 提供中 |
Intelligent Applicationsの特徴は、業種・業務ごとに最適化された事前定義済みダッシュボード、予測分析・異常検知などの組み込みAIモデル、そして分析結果を基にしたシナリオプランニング・予算策定の計画機能です。加えて、Accenture、Deloitte、PwCなどのパートナーがBDC上に独自のIntelligent Applicationsを構築しており、エコシステムが拡大しています。
Intelligent Applicationsにより、「データから意思決定まで」の時間を大幅に短縮できます。財務部門を例にとると、従来はデータ収集・集計に数日を要していたキャッシュフロー分析を、Finance IntelligenceのAIモデルがリアルタイムで実行し、流動性リスクの早期検知を可能にします。
AI/機械学習統合
SAP Business Data Cloudは、AI/機械学習との統合が強力です。データの準備からモデル開発、推論実行、ビジネスアクションまでを一貫して実行できる点が、単なるBI基盤との大きな違いです。
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SAP Databricks統合
SAP DatabricksがBDCにネイティブ統合されており、高度な機械学習モデル開発、ビジネスデータでトレーニングされたAIモデル作成、生成AIアプリケーション開発をシームレスに実行できる。BDC Connect for Databricksは2025年10月にGAされている
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Joule(生成AIアシスタント)
SAPの生成AIアシスタントであるJouleがBDCと統合されており、自然言語でのデータクエリ(「今月の売上トップ10顧客は?」など)、レポート・ダッシュボードの自動生成、部門横断的なワークフロー加速が可能
-
AIエージェント
SAP Business AIのAIエージェントが意思決定を支援する。異常値の自動検知・アラート、推奨アクション提示(「この在庫は発注すべき」など)、自動レポート生成といった、人間とAIの協働による意思決定を実現
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HANA Cloudナレッジグラフ
SAP HANA Cloudのメタデータからナレッジグラフを自動生成し、テーブル間のリレーションシップやビジネスコンテキストを構造化する。AIエージェントがビジネスデータを正確に理解するための基盤として機能し、MCP(Model Context Protocol)を通じて非構造化データへのアクセスも可能
特にDatabricks統合は、ゼロコピーでBDCのデータプロダクトを直接参照できるため、需要予測・在庫最適化・異常検知などの高度な分析をデータ移動なしに実行できます。
ハイパースケーラー・データプラットフォーム統合
SAP Business Data Cloudは、BDC Connectを通じて主要なハイパースケーラーやデータプラットフォームとゼロコピーで双方向連携できます。2026年4月時点での対応状況を以下にまとめます。
| プラットフォーム | BDC Connect | 状況 |
|---|---|---|
| AWS / Google Cloud / Azure | インフラ基盤 | BDC稼働環境として利用可能 |
| Databricks | BDC Connect for Databricks | 2025年10月GA |
| Snowflake | SAP Snowflake + BDC Connect for Snowflake | SAP Snowflake: 2026年Q1 GA。BDC Connect: 2026年H1 GA予定 |
| Google BigQuery | BDC Connect for Google BigQuery | 2026年H1 GA予定 |
| Microsoft Fabric | BDC Connect for Microsoft Fabric | 2026年Q3 GA予定 |
BDC Connectの特徴は、データをコピーせずにメタデータとセマンティクスを共有する「ゼロコピー連携」です。これにより、既存のクラウド投資を活かしたまま、SAP Business Data Cloudを導入できます。たとえば、Snowflakeで構築済みのデータパイプラインがある企業は、BDC ConnectでSAPのデータプロダクトをゼロコピーでSnowflakeに公開し、既存の分析環境から直接利用できます。
データガバナンス・セキュリティ
企業全体でデータを活用する際に不可欠な、ガバナンス機能も提供されます。
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データカタログ・リネージュ
データの所在・系譜を可視化し、信頼性を確保 -
アクセス制御
ロールベース・行レベル・列レベルでのきめ細かなアクセス管理 -
データマスキング
個人情報などの機密データを自動的にマスキング -
監査ログ
誰が・いつ・どのデータにアクセスしたかを記録
これらにより、GDPR・個人情報保護法などのコンプライアンス要件にも対応できます。
SAP Business Data Cloudの活用シーン
SAP Business Data Cloudは、企業のさまざまなデータ活用課題に対応できます。
ここでは、代表的な活用シーンを整理します。

ビジネスAIの加速
最も注目されるのが、ビジネスAIの開発・展開を加速する用途です。
例えば、需要予測AIモデルの構築では、以下のデータを統合できます。
- SAP S/4HANAの販売実績データ
- SAP Aribaの購買データ
- 外部の市場データ(天候、経済指標など)
をSAP Business Data Cloudで統合し、Databricksで需要予測モデルを構築。予測結果をIntelligent Applicationsで可視化し、在庫最適化・生産計画に活用します。
従来は、データサイエンティストがデータ収集・前処理に数週間かかっていた作業が、データプロダクトにより数日で完了します。
全社横断データ分析
複数のSAPシステム・非SAPシステムにまたがるデータを統合分析できます。
例えば、全社収益性分析では以下を組み合わせます。
- Finance Intelligence:財務データ分析
- Spend Intelligence:コスト構造分析
- Revenue Intelligence:売上・顧客分析
これらを組み合わせることで、製品別・顧客別・拠点別の収益性を統合的に分析し、経営判断を支援します。
リアルタイム意思決定
データファブリックとAIを組み合わせ、リアルタイムな意思決定を実現します。
例えば、サプライチェーンリスク管理では、Supply Chain Intelligenceで在庫・供給リスクをリアルタイム監視し、AIエージェントが異常を検知して自動アラートを発信、Jouleに「代替サプライヤーの提案は?」と質問して即座に候補を取得するといった、人間とAIが協働したリアルタイム対応が可能になります。
セルフサービスBI・データ民主化
業務部門が自らデータを分析できる環境を整備します。
セルフサービスBIのポイントは以下の通りです。
- データプロダクトにより、「売上」「在庫」などの定義が標準化され、部門間でデータの解釈が統一される
- Intelligent Applicationsの事前定義ダッシュボードで、IT部門の支援なしに分析開始できる
- Jouleによる自然言語クエリで、SQLやプログラミング不要でデータ取得可能
「データのガバナンス」と「業務部門の自律性」を両立できます。
グローバル展開・M&A後のデータ統合
グローバル企業やM&A後の企業で、複数のERPシステムが混在するケースでも有効です。
例えば、M&A後の統合分析では、買収元企業のSAP S/4HANAと、買収先企業のOracle ERPやSalesforceのデータをSAP Business Data Cloudで統合し、統一されたグローバルレポート・ダッシュボードを構築できます。
SAP BWの近代化
SAP BW 7.5のメインストリーム保守は2027年に終了します。この期限を前に、BW環境の近代化をどう進めるかは多くの企業にとって喫緊の課題です。
BDCはBW近代化の受け皿として設計されており、主に3つのアプローチがあります。

-
BW Bridgeによる延命(2040年までサポート)
Datasphere BW Bridgeに既存のBWシステムをリフト&シフトし、メインストリーム保守を延長する。既存クエリやレポートをそのまま動かせるため、短期的なリスクが最も低い
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BDCへのリフト&シフト
BW BridgeをBDC上で稼働させ、データプロダクトやIntelligent Applicationsと段階的に統合する。SAPが推奨するアプローチで、既存投資を活かしつつBDCの新機能を順次利用できる
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クラウドネイティブへの全面移行
BWへの依存を完全に断ち切り、BDCのデータプロダクト・ナレッジグラフ・AI統合をフル活用する。最もモダンなアプローチだが、既存のBWオブジェクトの再設計が必要になるため期間とコストがかかる
BW保守期限が迫っている企業は、まずBW Bridgeで延命しながらBDCのデータプロダクトを並行検証し、段階的に移行する計画が現実的です。
SAP Business Data Cloud導入のメリットと検討ポイント
SAP Business Data Cloudを導入する際のメリットと、検討すべきポイントを整理します。

導入のメリット
BDCの導入で得られる主なメリットは以下の5点です。
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データ基盤構築期間の大幅短縮
データプロダクトが事前定義されているため、従来数ヶ月〜1年かかっていたデータモデル設計・構築の初期負荷を大幅に軽減できる
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AIモデル開発の加速
データ取得・前処理がデータプロダクトで自動化され、データサイエンティストがAIモデル開発に集中できる
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信頼性の高いデータ基盤
SAP標準のビジネスロジック・ガバナンスが組み込まれており、データの一貫性・信頼性が確保される
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フルマネージドによる運用負荷削減
インフラ管理・アップデート・セキュリティパッチをSAPが担当し、IT部門の運用負荷が削減される
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既存クラウド投資の活用
AWS、Azure、Google Cloud上で稼働するため、既存のハイパースケーラー契約・スキルを活用できる
導入検討時のポイント
導入を検討する際に特に注意すべき点を整理します。
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データ戦略の明確化
どのビジネス課題を解決するか、どのデータプロダクト・Intelligent Applicationsを利用するか、AI活用のロードマップはどうか、といったデータ・AI戦略の全体像を描くことが重要
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段階的な導入計画
フェーズ1として特定部門(財務、購買など)のデータプロダクトから開始し、フェーズ2でIntelligent Applicationsを展開、フェーズ3でAI/機械学習モデル開発へと進む段階的アプローチが推奨される
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既存SAP製品との関係整理
既にDatasphereやSACを利用している場合、BDCへの移行パス、既存投資の引き継ぎ、並行運用期間を計画する必要がある。DatasphereとSACはBDCのコアコンポーネントなので投資が無駄になるわけではないが、2026年1月以降のBTPEA/CPEA/PAYG新規契約ではBDC経由が必須になっている点に留意
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スキル・組織体制の準備
BDCを活用するには、データエンジニア(データプロダクト管理)、データアナリスト(Intelligent Applications活用)、データサイエンティスト(AI/MLモデル開発)といったデータ人材の確保・育成が必要
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コスト試算
Capacity Unit(CU)ベースの課金モデルのため、データ容量・コンピュート・利用サービスごとのCU消費を見積もり、ROIが合うかを評価する必要がある。詳細は後述の料金セクションを参照
導入が向いている企業
次のような企業は、SAP Business Data Cloud導入のメリットが大きいと言えます。
- 複数のSAPシステム(S/4HANA、SuccessFactors、Aribaなど)を利用
- AI/機械学習を本格的にビジネスに活用したい
- データサイロ化が課題で、全社横断分析を実現したい
- データ基盤構築を短期間・低リスクで進めたい
- 既にAWS、Azure、Google Cloudを利用している
逆に、SAPシステムを利用していない企業や、データ活用ニーズが限定的な企業では、より軽量なBIツールやデータプラットフォームも検討の余地があります。
導入事例
SAP Business Data Cloudの導入事例を紹介します。
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Döhler(食品・飲料)
データサイロ化を解消し、AI・機械学習のユースケースに取り組む基盤をBDCで構築。SAPとサードパーティのデータを統合し、イノベーション創出の基盤として活用している
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ZEISS(精密光学)
SAP HANA CloudとDatasphereを活用し、リアルタイムでのデータ抽出・統合を実現。BDCの前身となるデータファブリック基盤の先行事例として、全社横断のデータガバナンス強化に取り組んでいる
DöhlerはBDCの直接導入事例、ZEISSはBDCの前身であるDatasphere・HANA Cloud基盤の先行事例です。いずれもデータサイロ化の解消と全社横断でのデータ活用という共通課題に取り組んでいます。
SAP Business Data Cloudの2026年最新動向
SAP Business Data Cloudは2025年2月の発表以降、急速に機能拡充とエコシステム拡大が進んでいます。ここでは、2026年時点での主要な動向を整理します。

ライセンス体系の一本化
2026年1月1日以降、DatasphereとSACは新規のBTPEA・CPEA・PAYGサブスクリプションの対象サービスから除外されました。これにより、新規契約ではBDC経由での利用が必要です。既存契約者は契約期間中は引き続き利用可能ですが、契約更新時にはBDCへの移行が前提となります。詳細な課金モデルは後述の料金セクションで解説します。
Data Product Studioとナレッジグラフ
2026年前半の主要なアップデートとして、Data Product StudioのGAとHANA Cloudナレッジグラフの拡張が挙げられます。
Data Product Studioは、ビジュアルツールとSQLベースの変換を組み合わせてカスタムデータプロダクトを作成・管理できるワークスペースです。メタデータカタログとの連携、バージョン管理、ライフサイクル管理に対応しており、SAP標準データプロダクトだけでは足りない企業固有のデータモデルを構築・公開できます。
HANA Cloudナレッジグラフは、SAP HANA Cloudのメタデータからテーブル間のリレーションシップを自動的にグラフ構造で生成します。AIエージェントがビジネスデータの文脈を正確に理解するためのセマンティックレイヤーとして機能し、MCP(Model Context Protocol)を通じた非構造化データへのアクセスも可能です。
Seamless PlanningとAnalytics Cloudの進化
SAP Analytics CloudがDatasphereをストレージレイヤーとして使用するSeamless Planning機能がGAされています。この統合により、データの永続化と計画ロジックがより緊密に連携し、SACはモデリング・シミュレーション・可視化のフロントエンドとして機能します。
また、SACではHorizon Themeと呼ばれる新デザインが導入され、個人のKPIウォッチリストを作成できるMy Metrics機能も追加されています。なお、2026年Q2以降、SACの一部のレガシーなレポート作成・計画アプリケーション方式が利用不可となる予定のため、既存SACユーザーは移行計画の確認が必要です。
SAP BTPとの統合強化とTabular AI
SAP Buildとの初期統合により、データプロダクトをアプリケーションに直接埋め込んだり、自動化や拡張シナリオで活用したりすることが可能になっています。SAP Business AIのAIエージェントとの連携も強化されており、異常検知・アラートの自動化、推奨アクションの自動提示、定型レポートの自動生成といった機能が拡充されています。
さらに、SAP AI Coreとの統合によるTabular AI(構造化データ向けの予測・異常検知)が導入され、Transformerベースの基礎モデルSAP-RPT-1がHANA Cloudにネイティブ統合されています。需要予測、在庫最適化、財務フォーキャストといった構造化データの分析をAIモデルで自動化できるようになっており、Databricksでのカスタムモデル開発と組み合わせることで、エンタープライズAIの実用的な基盤が整いつつあります。
SAP Business Data Cloudの料金とライセンス体系
SAP Business Data Cloudの料金は、Capacity Unit(CU)ベースのサブスクリプション課金です。ここでは、課金モデルの構造と、既存Datasphere/SACユーザーの移行パスを整理します。

Capacity Unit課金の仕組み
BDCはサブスクリプション型のライセンスモデルで、契約時に一定数のCapacity Unit(CU)を購入します。CUは、BDC内の各コンポーネントに対してストレージ・コンピュートリソースを割り当てるための統一指標です。
各コンポーネントのCU消費は以下のように異なります。
| コンポーネント | CUの消費基準 |
|---|---|
| SAP Datasphere | Data Lake使用量、ストレージ、メモリ等 |
| SAP Analytics Cloud | ライセンスタイプ・ライセンス数に基づく |
| SAP Databricks | ストレージ、サーバーレスSQLコンピュート、Object Storeリクエスト等。割当クォータを超えた場合は実消費ベースで課金 |
| BDC Connect(Snowflake/BigQuery等) | リージョン間データ転送量(GB)+処理リクエスト数(1ブロック=2,500 APIコール) |
BDCの大きな特徴は、購入したCUの配分を柔軟に変更できる点です。たとえば、初期はDatasphereに多くのCUを割り当ててデータ基盤構築に注力し、運用が安定したらSACやDatabricksへ配分をシフトするといった段階的な運用が可能です。
具体的なCU数と単価はSAPとの個別契約で決まるため、公開価格表は存在しません。SAP公式のCapacity Unit Estimatorを使って、想定ワークロードに基づくCU見積もりを事前に算出できます。
既存Datasphere/SACユーザーの移行パス
2026年1月1日以降、DatasphereとSACの新規BTPEA・CPEA・PAYGサブスクリプションは不可になっています。既存ユーザーへの影響と移行パスは以下の通りです。

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既存BTPEA/CPEA契約者
契約期間中は現行のクラウドクレジットでDatasphere・SACを引き続き利用可能。ただし契約更新時にはBDCサブスクリプションへの切り替えが前提
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既存契約のBDCへの移行
既存契約をBDCに「リワイヤリング」(契約の付け替え)する移行パスが用意されている。DatasphereとSACはBDCのコアコンポーネントなので、既存の設定やデータモデルはそのまま引き継げる
-
SAC PCEのCU移行
SAC Public Cloud Edition(PCE)は、ユーザーベースのライセンスからCapacity Unitベースの課金に移行している。既存のPCEライセンスを持つ企業は、BDCへの移行時にCU換算での見積もりが必要
ライセンス変更の影響が大きいのは、これからDatasphere・SACを新規導入する企業です。BDCのCU課金モデルで全体コストを試算し、データプロダクトやIntelligent Applicationsをどこまで活用するかを含めたROI評価が不可欠です。既存ユーザーは契約更新のタイミングを見据えて、段階的にBDCの新機能(データプロダクト、ナレッジグラフ、Intelligent Applications等)を検証しておくことを推奨します。
SAPデータ統合の先に、AIが業務を動かす基盤がある
SAP Business Data Cloudでデータ統合基盤を整備した企業が次に直面するのは、「統合したデータを誰がどう業務に活かすか」という問題です。データが整っていても、業務アクションが人手のままでは統合の価値を最大化できません。
AI Agent Hubは、Fabric OneLakeを含むデータ仮想統合基盤の上に、AIエージェントが経費精算・請求書処理・承認フローなどの業務を自動実行するエンタープライズAI基盤です。BDCやDatasphereで整備されたSAPデータに加え、Dynamics 365やSalesforceのデータもZero ETLで横断活用し、Teams上から業務を完結させます。すべて自社Azureテナント内で動作するため、データガバナンスの要件も満たします。
AI総合研究所は、SAPデータ統合基盤を活かしたAI業務自動化を支援しています。資料で、データ統合からAIエージェント実行までのアーキテクチャをご確認ください。
SAPデータ統合をAI業務自動化に発展
統合データ × AIエージェント
BDCで統合したSAPデータとサードパーティデータを、AIエージェントが業務に直結。経費精算・請求書処理・承認フローを自動実行するエンタープライズAI基盤です。
まとめ
SAP Business Data Cloudは、SAPデータとサードパーティデータを統合し、データプロダクト・Intelligent Applications・AI統合によってビジネスAIを加速させるフルマネージドSaaS基盤です。本記事の内容を3点に集約します。
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2026年1月以降、Datasphere・SACの新規契約はBDC経由に一本化された。これからデータ分析基盤を構築する企業にとって、BDCは避けて通れない選択肢
既存BTPEA/CPEA契約者も契約更新時にはBDCへの移行が前提となるため、早い段階でBDCの全体像と自社のデータ戦略の整合を確認しておく必要がある
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データプロダクトとIntelligent Applicationsにより、データ基盤構築の立ち上げを加速し、AIモデル開発に集中できる環境が整う
Finance Intelligence、Supply Chain Intelligenceなど業務特化型のIntelligent Applicationsが順次プレビュー公開されており、2026年後半以降のGA拡大に向けてPoC環境での検証を始める好機
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Capacity Unit課金でDatasphere・SAC・Databricksの配分を柔軟に変更でき、段階導入でTCOを最適化できる
CU Estimatorで想定ワークロードの見積もりを行い、フェーズ1のデータプロダクト構築から段階的に投資を拡大するアプローチが現実的
RISE with SAPやS/4HANA Cloudへの移行を進めている企業は、移行計画の中にBDCを位置付けることを推奨します。まずは自社のSAPシステム構成を棚卸しし、どのデータプロダクトが利用可能か、既存のDatasphere/SAC契約の更新時期はいつかを確認するところから始めてください。









