この記事のポイント
Microsoft製品を既に活用している企業なら、SAP on AzureがSAPクラウド移行の第一候補
インフラ設計の自由度を重視するならSAP on Azure(IaaS)、運用負荷の最小化を優先するならRISE with SAP
横河電機(レスポンス半減・コスト3割減)や花王(ANF大規模稼働)など国内大手の移行実績が豊富
Azure Hybrid Benefit・Reserved Instancesの組み合わせでオンプレミス比TCO 30%削減も現実的
2026年はCopilot-Joule双方向連携とMv3 VMのGA拡大で、AI統合とインフラ性能の両面が大幅強化

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
SAP on Azureは、Microsoft Azureのクラウド基盤上にSAPシステムを構築・運用する形態です。
RISE with SAPと並ぶ主要なクラウド移行先であり、「インフラ設計は自社主導で行いたい」企業に選ばれています。
ECCの標準保守終了(2027年)が目前に迫るなか、オンプレミスの運用コスト増やハードウェア老朽化に直面している企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、SAP on Azureの基本概念からアーキテクチャパターン、RISE with SAP・AWSとの違い、移行の進め方、料金構造、導入事例、2026年最新動向まで、実務で押さえるべき情報を整理します。
SAP on Azureとは
SAP on Azureは、Microsoft Azureのクラウド基盤(IaaS)上に、SAPシステムを構築・運用する形態を指します。
オンプレミスで運用していたSAP ECC、S/4HANAなどを、Azureの仮想マシン・ストレージ・ネットワークサービスを使ってクラウド上に移行し、柔軟性・拡張性を高めることが主な目的です。
「オンプレミスのサーバーリプレースが迫っているが、RISE with SAPへの全面移行には踏み切れない」「Azure上で稼働しているシステムが他にもあり、SAPもAzure基盤に統合したい」——そうした状況に直面している企業にとって、SAP on Azureは有力な選択肢です。

位置付け
SAPのクラウド移行には、大きく次のような選択肢があります。
| 選択肢 | 概要 |
|---|---|
| オンプレミス継続 | 自社データセンターでの運用を継続 |
| SAP on Azure(IaaS) | Azure上に仮想マシンを構築し、SAPを運用(本記事のテーマ) |
| RISE with SAP | SAPマネージドのクラウドERP基盤 |
| S/4HANA Cloud | SaaSとして提供されるS/4HANA(RISE with SAPの一部またはスタンドアロン) |
SAP on Azureは、「インフラはクラウド化するが、SAP自体の運用は自社・パートナーでコントロールする」という中間的な選択肢です。OS・ネットワーク・バックアップ戦略を自社の要件に合わせて設計できるため、業界固有のセキュリティ要件や段階的な移行計画を持つ企業に適しています。
RISE with SAPとの違い
よく比較されるRISE with SAPとの違いを以下の表で整理します。
| 観点 | SAP on Azure(IaaS) | RISE with SAP |
|---|---|---|
| インフラ運用 | 自社 or パートナーが設計・運用 | SAPマネージドサービスとして提供 |
| SAP運用 | 自社 or パートナーが担当 | 一部がSAPマネージドに含まれる |
| 設計の自由度 | OS・ネットワーク・バックアップを自由に設計可能 | 標準構成が前提、カスタマイズは制限される |
| 契約形態 | Azure利用料 + SAPライセンスを個別管理 | サブスクリプション一括契約 |
| 適した企業 | インフラを自社設計したい、既存資産を活かしたい | 運用負荷を減らし、標準化を進めたい |
インフラ設計の自由度を重視するならSAP on Azure、運用負荷の最小化と標準化を優先するならRISE with SAPが合理的な選択です。なお、RISE with SAPのインフラとしてAzureを選択することも可能で、その場合はSAP on AzureのIaaS管理をSAPに委託する形になります。
AWSとの違い
SAP on Azureを検討する際、AWSとの比較も重要な論点です。以下に主要な観点を整理します。
| 観点 | SAP on Azure | SAP on AWS |
|---|---|---|
| SAPとの連携 | MicrosoftとSAPの戦略的パートナーシップ(1993年〜)。Copilot-Joule双方向連携 | AWSとSAPのパートナーシップ(2008年〜)。専用インスタンスの歴史が長い |
| Microsoft製品統合 | Entra ID・Power BI・Teamsとネイティブ統合 | 別途コネクタや設定が必要 |
| ライセンス活用 | Azure Hybrid Benefitで既存Windows Serverライセンスを転用可能 | 独自のライセンス持ち込みプログラムあり |
| インフラ安定性 | 可用性ゾーン+リージョン間DR構成 | Nitro Systemによるハードウェアオフロード。公開実績では障害発生頻度がやや少ない傾向 |
| 国内リージョン | 東日本・西日本 | 東京・大阪 |
| SAP HANA認定VM | Mv3シリーズ(最大約32TB) | X2idn/U7in等(最大約32TB) |
既にMicrosoft 365やAzure ADを全社展開している企業であれば、SAP on Azureを選ぶことでシングルサインオンやPower BIダッシュボードとの統合がスムーズに進みます。一方、マルチクラウド戦略を採用している企業や、SAP以外のワークロードをAWSに集約している場合は、SAP on AWSも有力な選択肢です。
SAP on Azureのメリット
SAP on Azureを選択する主なメリットを整理します。Azureネイティブサービスとの統合、インフラ設計の柔軟性、既存ライセンスの活用、グローバル展開の4つが主要なポイントです。

Azureネイティブサービスとの統合
Azureの豊富なクラウドサービスと組み合わせることで、SAPの機能を大幅に拡張できます。
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Microsoft Entra IDとの統合
シングルサインオン、多要素認証によるセキュリティ強化。2024年10月以降、Azure管理操作にはMFA(多要素認証)が必須化されており、SAP環境でも統一的なID管理が実現します
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Azure AI・機械学習サービス
Azure Machine LearningとSAPデータを連携し、需要予測や異常検知を実装可能。2026年にはCopilot-Joule連携が本格化し、Microsoft 365上からSAPのビジネスデータにシームレスにアクセスできるようになっています
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Power BI・Microsoft 365統合
SAPデータをPower BIで可視化、Teamsと連携した業務改善。経営ダッシュボードのリアルタイム更新や、Teams上でのSAP承認ワークフロー完結が可能です
-
Azure DevOps
SAP開発・運用のCI/CDパイプライン構築。ABAPコード変更の自動テストやトランスポート管理の自動化に活用できます
こうした統合は、SAP単体では実現できない業務改善を可能にします。特にMicrosoft製品を全社的に導入済みの企業にとって、同一テナント内でSAPデータとMicrosoft 365が連携する利点は大きく、部門間のデータサイロ解消にも貢献します。
柔軟なインフラ設計
IaaS環境として自由に設計できるため、細かな要件に対応可能です。
- ネットワーク構成(VPN、ExpressRoute、プライベートエンドポイント)の柔軟な設計
- OS・ミドルウェアレベルでのカスタマイズ
- バックアップ・DR戦略の自社設計
- 既存オンプレミス環境とのハイブリッド構成
金融・製造業など業界固有の厳格なセキュリティ要件がある場合や、既存オンプレミス資産と段階的に統合していく必要がある場合に、IaaS環境としての自由度が活きてきます。RISE with SAPの標準構成では対応できない要件を持つ企業にとって、この柔軟性は決定的なメリットです。
既存Microsoftライセンスの活用
既存のMicrosoftライセンス資産を活用することで、移行コストを抑えられます。
-
Azure Hybrid Benefit
既存のWindows ServerライセンスをAzure上で利用し、コスト削減。Microsoftの公式情報では、従量課金と比較して最大80%の削減が可能とされています(Windows Server VMの場合)
-
SAP HANAライセンスのBYOL(Bring Your Own License)
既存ライセンスをクラウドに持ち込み、新規購入コストを抑制
Windows Serverのライセンスを複数保有している企業にとって、Azure Hybrid BenefitはSAP on Azure移行の経済的ハードルを大幅に下げる要素です。後述する日本発条の事例では、Reserved Instancesとの組み合わせでTCO 30%削減を実現しています。
グローバル展開の迅速化
Azureは世界60以上のリージョンに展開しており、グローバル拠点への迅速な展開が可能です。
- 各国のデータレジデンシー要件に対応したリージョン選択
- リージョン間レプリケーションによるDR構成
- グローバル拠点からの低レイテンシアクセス
アジア・欧州・北米に拠点を持つ製造業が各地域でSAPインスタンスを展開する際、Azureの各リージョンを活用することで、現地の法規制に準拠しながら統一的なSAP基盤を構築できます。国内では東日本・西日本の2リージョンが利用可能で、Azure Center for SAP Solutionsも東日本リージョンに対応しています。
SAP on Azureの代表的なアーキテクチャパターン
SAP on Azureには、要件に応じた複数のアーキテクチャパターンがあります。以下の4パターンを理解しておくことで、自社の可用性要件・予算・BCP方針に合った構成を選定できます。

シングルインスタンス構成
最もシンプルな構成で、開発・検証環境や小規模本番環境に適しています。単一の仮想マシン上にSAPアプリケーション + HANAデータベースを配置し、Azure Premium SSDを使用したストレージとAzure Backupによる自動バックアップを組み合わせます。ユーザー数が限定的な環境や、本番移行前の検証フェーズに向いています。
高可用性(HA)構成
本番環境で一般的な、可用性を高めた構成です。アプリケーション層は複数VMによる冗長構成にロードバランサーを配置し、データベース層はHANA System Replication(HSR)による同期レプリケーションとPacemakerクラスタによる自動フェイルオーバーを構成します。可用性ゾーン(Availability Zones)を活用した物理的分離も可能で、99.9%以上の可用性が求められるミッションクリティカルな業務に適しています。
ディザスタリカバリ(DR)構成
別リージョンにDR環境を構築し、災害対策を強化する構成です。プライマリリージョンにHA構成の本番環境を配置し、セカンダリリージョンにDR用の待機環境を用意します。データベース層はHANA System Replication(HSR)によるレプリケーションを基本とし、アプリケーションサーバー層のDRにはAzure Site Recoveryを活用します。定期的なDR訓練・切り替えテストを実施します。金融・医療など規制要件が厳しい業界や、事業継続性(BCP)が最重要課題の企業に適しています。
ハイブリッドクラウド構成
オンプレミスとAzure間でデータ連携・ワークロード分散を行う構成です。ExpressRouteによるオンプレミス-Azure間の専用線接続を行い、一部のワークロード(分析、開発)をAzure側に配置します。Azure Arcによるハイブリッド管理も可能です。段階的なクラウド移行を進める企業や、データガバナンス上一部データをオンプレミス保持する必要がある企業に適しています。
以上の4パターンのうち、多くの企業は開発環境をシングルインスタンス構成で構築し、本番環境はHA構成またはDR構成を採用します。段階的にクラウド化を進める場合は、まずハイブリッド構成から始め、ノウハウが蓄積された段階でHA/DR構成へ移行するアプローチが現実的です。
SAP on Azure移行の進め方
オンプレミスからSAP on Azureへの移行には、技術面・組織面の両方で検討すべきポイントがあります。ここでは移行方式の選択から運用体制の構築まで、実務で押さえるべき論点を整理します。

移行方式の選択
SAP移行には、大きく3つのアプローチがあります。
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リフト&シフト(Lift & Shift)
既存SAPをそのままAzure上に移行します。短期間・低コストで移行可能ですが、クラウドのメリットを十分活かしきれない面があります。ECCのまま移行する場合はこの方式が多く、S/4HANAへのコンバージョンは後続プロジェクトとして実施します
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リビルド/リアーキテクト
S/4HANAへのコンバージョンと同時にAzure移行します。クラウドネイティブな設計に最適化でき、移行期間・コストは増大しますが長期的なメリットは大きくなります
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ハイブリッド移行
段階的に一部ワークロードをAzureに移行します。リスクを抑えながら徐々にクラウド化できます
自社の状況(ECC or S/4HANA、残存ライセンス、投資余力)に応じた選択が重要です。詳細な方式比較はSAP移行の解説記事で整理しています。
サイジング・パフォーマンス設計
Azure上でのSAPパフォーマンスを確保するため、適切なサイジングが必要です。考慮すべき要素として、SAPS(SAP Application Performance Standard)に基づいたVM選択、データ量・圧縮率・将来の拡張を考慮したHANAメモリサイジング、Premium SSD v2・Ultra Diskなどワークロードに応じたストレージ性能、アプリケーション層-DB層間のネットワーク帯域確保があります。
SAP Quick Sizerで必要なSAPS値を算出し、Azureの認定VM・ストレージガイダンスに基づいて構成を選定することが推奨されます。
セキュリティ・コンプライアンス設計
クラウド移行に伴い、セキュリティ設計を見直す必要があります。主な検討項目として、ネットワーク分離(NSG、ASG、Azure Firewallの活用)、暗号化(保存時暗号化、転送時暗号化)、アクセス制御(Azure RBAC、Microsoft Entra ID統合)、監査ログ・脅威検知(Azure Monitor、Microsoft Sentinel)、データレジデンシー(どのリージョンにデータを配置するか)があります。
特に、個人情報保護法やGDPRなど法規制への準拠を確認することが重要です。2025年10月にGAとなったMicrosoft Sentinel for SAPのエージェントレスデータコネクタを活用すれば、SAP環境のセキュリティ監視を迅速に導入できます。
運用体制と段階的な移行ステップ
Azure移行では運用体制とスキルセットも変わります。Azure管理スキル(Portal、CLI、PowerShell)、SAPとAzureの統合知識、Infrastructure as Code(Terraform、Bicep)、クラウドコスト最適化ノウハウが必要になります。

移行は段階的に進めることを推奨します。
- 開発環境を移行 Azure運用の基礎スキル習得、パフォーマンス・セキュリティ設計の検証
- 非本番環境を移行 本番相当のデータ量でのパフォーマンステスト、DR訓練・切り替え手順の確立
- 本番環境を移行 ノウハウが蓄積された段階で、リスクを抑えて実施
パートナー選定では、「SAPには詳しいがAzureには不慣れ」「Azureには詳しいがSAPには不慣れ」なパートナーは避け、両方の知見を持つパートナーを選ぶことが重要です。SAP on Azure導入実績のあるパートナー一覧がMicrosoft公式サイトで公開されています。
導入判断で詰まる論点

SAP on Azureの導入を検討する際、判断に迷いやすいポイントを整理します。
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RISE with SAPとの選択
運用を含めてSAPに任せたい場合はRISE、インフラの自由度を維持したい場合はIaaS。ただしRISE with SAPのインフラとしてAzureを選択することも可能なため、「RISE + Azure」という折衷案もあります
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ECC移行とS/4HANAコンバージョンの同時実施
同時に行えば移行は1回で済みますが、プロジェクトの複雑性とリスクが増大します。ECCの保守期限(標準2027年、延長2030年)に余裕がある場合は、まずリフト&シフトでAzureに移行し、その後S/4HANAへコンバージョンする2段階方式も有効です
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既存カスタムコード(アドオン)の扱い
オンプレミスで蓄積したABAPアドオンをそのまま移行するか、ABAP Cloudの範囲に収めてクリーンコア化するかは、SAP移行プロジェクトで最も議論が紛糾するテーマの一つです。SAPのCustom Code Migration(CCM)ツールで影響分析を行い、段階的に整理するアプローチが現実的です
SAP on Azureの導入事例

SAP on Azureは国内外の大手企業で導入実績があります。以下に代表的な事例を整理します。
| 企業名 | 業種 | 規模 | 主な効果 |
|---|---|---|---|
| 横河電機 | 製造業(計測機器) | 45カ国・17,000人 | レスポンス約半減、コスト約3割削減 |
| 花王 | 消費財 | グローバル200〜300名規模のプロジェクト | ANF大規模稼働でDB Restore数時間→20〜30分 |
| 日本発条 | 製造業(ばね) | SAPフルモジュール | TCO 30%削減、DR構成実現 |
| Medline | ヘルスケア(医療用品) | 売上$25B超 | SAPワークロード性能80%以上向上 |
各事例の詳細を見ていきます。
横河電機
横河電機は、世界45カ国のグループ69社・17,000人以上が利用するSAP ERPをAzureに移行しました。オンプレミス環境のリソース枯渇によるパフォーマンス低下と、サーバー・OS・データベースのサポート終了が迫る中、10時間以内という極めて短いダウンタイム枠で移行を完了。業務影響ゼロを実現しながら、レスポンスタイムの約半減とコスト約3割削減を達成しています。
花王
花王は、SAP S/4HANAへの移行と同時にAzure基盤を採用し、Azure NetApp Files(ANF)を日本初の大規模で本番稼働させました。ANFのスナップショットクローン機能により、従来は数時間を要していたDB Backup移動が不要となり、HANA DBのRestore作業が約20〜30分で完了するようになりました。アクセンチュアと200〜300名規模で推進したグローバルプロジェクトです。
日本発条
日本発条は、SAP ERPのフルモジュールをAzureへ移行し、DR構成を備えながらTCO 30%削減を実現しました。コスト削減の具体的な手法として、3年契約のReserved Instances活用、開発機・品証機の従量課金、ストレージのSSD/HDD使い分け、年次のストレージ容量最適化を組み合わせています。
Medline
Medlineは売上$25B超のヘルスケアサプライチェーンリーダーです。SAPワークロードをAzureに移行した結果、主要トランザクションのパフォーマンスが80%以上向上し、IDoc処理も50%以上高速化しました。平均レスポンスタイムは約60%短縮され、注文処理の高速化とサプライチェーンの信頼性向上に直結しています。
これらの事例に共通するのは、段階的な移行アプローチとAzureネイティブサービス(ANF、RI、Cost Management等)の積極活用です。「移行したらオンプレミスと同等」ではなく、クラウドならではの仕組みを活用して初めてコスト削減・性能向上の両立が実現しています。
SAP on Azureの料金とコスト最適化
SAP on Azureの料金は、「Azure利用料」と「SAPライセンス」の2軸で構成されます。ここでは料金の構造とコスト最適化のポイントを整理します。

料金を構成する要素
SAP on Azureの総コストは、大きく以下の3要素で決まります。
| 要素 | 内容 | 変動要因 |
|---|---|---|
| Azureインフラ費用 | VM(コンピューティング)、ストレージ、ネットワーク | VMサイズ、稼働時間、ストレージ種別・容量 |
| SAPライセンス費用 | S/4HANA、各モジュールのライセンス | ユーザー数、モジュール数、BYOL可否 |
| 運用・管理コスト | 監視、バックアップ、パッチ適用、パートナー費用 | 運用体制、自動化の度合い |
Azureインフラ費用のうち、最も大きな割合を占めるのがVMコストです。SAP HANA認定VMは、M系列(Mシリーズ)が中心で、メモリ容量に応じて価格が大きく変動します。2026年4月時点では、Mv3 High Memory(6〜16TB)とMv3 Very High Memory(最大約32TB)が最新世代です。
具体的なVM単価はリージョン・OS・契約形態によって異なるため、Azure料金計算ツールで見積もることを推奨します。
コスト最適化の実践
Azure上でSAPを運用する際のコスト最適化ポイントを整理します。
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Reserved Instances(RI)
1年・3年契約で従量課金から大幅に割引。本番環境のように常時稼働するVMには必須の選択肢です
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Azure Hybrid Benefit
既存のWindows Serverライセンスをクラウドに転用。Linux環境でもSUSE/Red Hatのサブスクリプション持ち込みが可能です
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開発・検証環境の停止
夜間・休日に非本番環境を停止し、稼働時間を削減。Azure Automationでスケジュール化できます
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ストレージ階層化
ホットデータはPremium SSD、ウォームデータはStandard SSD、コールドデータはAzure Blob Storage(クールティア)に配置。過去データのアーカイブだけでも大幅なコスト削減が見込めます
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Azure Cost Management活用
コスト分析ダッシュボードで部門別・リソース別の消費を可視化し、予算アラートを設定。不要リソース(未使用ディスク、古いスナップショット)の定期削除も重要です
日本発条の事例では、RI(3年)+従量課金の使い分け+ストレージ最適化の組み合わせで、DR構成を追加しながらTCO 30%削減を実現しています。「移行して終わり」ではなく、月次でのコストレビューと四半期ごとのサイジング見直しを継続することが、長期的なコスト最適化の鍵です。
料金見積もりの進め方
SAP on Azureの料金見積もりは、以下の手順で進めます。
- 現行環境の棚卸し 現在のSAPS値、HANAメモリ使用量、ストレージ容量、ネットワーク帯域を把握する
- VMサイジング SAP Quick Sizerで必要なSAPS値を算出し、Azureの認定VM・ストレージガイダンスに基づいて最適な構成を選定する
- Azure料金計算ツールで見積もり 算出したVMサイズ・ストレージ・ネットワーク構成をもとに、従量課金/RI/Azure Hybrid Benefitの各パターンで試算する
- 現行TCOとの比較 ハードウェア更新費用、データセンター維持費、人件費を含めた総所有コストで比較する
Azure料金体系の詳細解説も参考にしてください。
SAP on Azureの2026年最新動向

SAP on Azureの環境は、MicrosoftとSAPのパートナーシップ深化に伴い、急速に進化しています。SAP TechEd 2025(2025年11月)で発表された内容を中心に、主要な最新動向を整理します。
Microsoft CopilotとSAP Jouleの双方向連携
SAP TechEd 2025で発表された最大のアップデートとして、Microsoft CopilotとSAP Jouleの双方向エージェント間通信が実現しました。Microsoft 365上でSAPのビジネスデータにシームレスにアクセスし、経費精算・出張予約・ポリシー確認などをCopilot上から直接操作できるようになります(2026年後半に一般提供予定)。
加えて、Azure API ManagementにMCP(Model Context Protocol)が統合され、SAP ODataサービスをMCPサーバーとしてCopilot Studioから利用可能になっています。
Azure Mv3 VMシリーズのGA拡大
SAP HANA向けの最新インフラとして、Mv3シリーズが段階的にGAとなっています。
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Mv3 High Memory(6〜16TB) 2024年9月にGA。Mv2比で最大40%のスループット向上、Azure BoostによりPremium SSDへのスループットが2倍、ネットワークスループットも25%向上
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Mv3 Very High Memory(最大約32TB) 最大1,792 vCPU、200Gbpsのネットワーク帯域に対応。第4世代Intel Xeon(Sapphire Rapids)搭載で、公開クラウドとして初めて約1TB〜約32TBまでの全レンジでHANA認定VMを提供
Microsoft Sentinel for SAPの強化
SAP向けのセキュリティ監視として、エージェントレスのMicrosoft Sentinel for SAPデータコネクタが2025年10月にGAとなりました。従来のコンテナ型データコネクタでは導入に数日〜数週間を要していましたが、SAP Integration Suiteを通じた簡素化されたオンボーディングにより、初回ログ到着までの時間が数時間に短縮されています。S/4HANA Cloud Public Edition向けのSentinelアドオン(プレビュー)も提供されており、12年間のログ保持によるNIS2・DORA等のコンプライアンス対応も可能です。
Microsoft Entra IDによるSAP ID管理
Microsoft Entra IDは、SAPのアイデンティティガバナンスを強化する新機能を提供しています。OAuth 2.0サポートの追加、SAP IAG(Identity Access Governance)統合のプレビューが含まれます。SAP Access Controlとの統合・移行シナリオについては今後の進化対象として検討が進められています。
Azure Center for SAP SolutionsとSDAFの拡張
Azure Center for SAP Solutions(ACSS)は、AzureポータルからSAPシステムのライフサイクルを統合管理するネイティブサービスです。東日本リージョンを含む27以上のリージョンで利用可能で、SAP環境のデプロイ・監視・運用をAzureポータルに一元化できます。
SAP Deployment Automation Framework(SDAF)はHANA System Replicationを使用したスケールアウト高可用性アーキテクチャに対応し、GitHub Actionsサポートも追加されました。SAP Testing Automation Framework(STAF)もPacemakerクラスタのオフライン検証に対応し、高可用性テストが強化されています。
同じAzure基盤でAIエージェントも動かすメリット
SAP on Azureを選択する企業にとって、同じAzureテナント内でAIエージェントも稼働させられることは大きな利点です。基幹データの移動なしにAIが業務を自動実行でき、ネットワーク遅延やセキュリティ境界の問題を根本から回避できます。
AI Agent Hubは、Azure Managed Applicationsとして顧客テナント内に構築されるエンタープライズAI基盤です。SAP on Azure環境のデータをMicrosoft Fabricで仮想統合し、経費精算・請求書処理・承認フロー判定などの業務をAIエージェントが自動実行します。エージェントの実行ログと権限管理は専用ダッシュボードで一元管理でき、外部にデータが出ない設計を維持したままAI活用を進められます。
AI総合研究所は、Azure環境でのSAP運用とAIエージェント導入の両面を支援しています。無料の資料で、SAP on Azure環境に最適なAI活用の設計をご確認ください。
Azure上でSAPとAIエージェントを統合
同一テナント内でデータ移動なしに自動化
SAP on Azureの基盤上に、AIエージェントによる経費精算・請求書処理・承認フローの自動実行を追加。Azure Managed Applications設計で基幹データが外部に出ないAI基盤の全体像を無料資料でご確認いただけます。
まとめ
本記事では、SAP on Azureの基本概念からメリット、アーキテクチャパターン、移行の進め方、料金構造、導入事例、2026年最新動向までを解説しました。
SAP on Azureは、インフラのクラウド化と運用の柔軟性を両立させたい企業にとって有力な選択肢です。特にMicrosoft製品を全社的に活用している企業にとって、Entra ID・Power BI・Copilotとの統合メリットは他のクラウドプラットフォームにない強みとなります。
2026年現在、Copilot-Joule連携やMv3 VMの段階的GA、Sentinel for SAPの強化など、AI活用とセキュリティの両面で環境が急速に整いつつあります。ECCの標準保守終了(2027年)を控え、クラウド移行の検討はもはや先送りが難しい段階に入っています。
まずは現行環境の棚卸しとSAP Quick Sizerでのサイジングから着手し、開発環境のパイロット移行でAzure運用のノウハウを蓄積するところから始めてみてください。RISE with SAPとの使い分けやSAP 2027年問題への対応と合わせて、自社に最適なSAPクラウド移行戦略を設計することが重要です。






