この記事のポイント
RISE with SAPをBTaaSとしての位置付けで理解できる
従来のオンプレSAP・SAP on Azureとの違いが整理できる
契約・料金モデルとTCOの考え方の勘所が分かる
向いている企業・慎重に検討すべき企業像を把握できる
導入検討フェーズで押さえるべきステップをイメージできる

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
RISE with SAPは、S/4HANA Cloudとクラウドインフラ、運用サービス、プロセス変革ツールを一体で提供する「Business Transformation as a Service(BTaaS)」です。従来のオンプレSAPや単純なSAP on Azure構成とは、契約モデルや責任分界、標準プロセス前提の変革アプローチが大きく異なります。本記事では、RISE with SAPの概要と構成要素、他の選択肢との違い、メリット・デメリットや向いている企業像、検討時に押さえるべきステップまでを整理し、自社にとって採用すべき選択肢かを見極めるための視点を解説します。
目次
Business Transformation as a Serviceとしての位置付け
SAP Business Technology Platform(BTP):拡張・連携・統合の土台
SAP Business Network関連サービス:社外との接続ポイント
「バンドル」の発想:ライセンス・保守・インフラ・一部運用をまとめて契約
2. インフラ運用負荷の軽減と可用性・セキュリティ水準の底上げ
3. 継続アップデートによる最新機能・イノベーションへのアクセス
RISE with SAPが向いている企業・向いていない企業
RISE with SAP導入を検討するうえでのステップ(概要)
RISE with SAPとは何か(定義とコンセプト)
RISE with SAPは、SAPが提供する 「Business Transformation as a Service(BTaaS)」 をコンセプトとしたサービス群です。
単にS/4HANAをクラウドで提供するだけではなく、基幹システムのクラウド移行・標準化・運用・継続的な変革支援までを、1つのサブスクリプション契約にまとめたパッケージ として位置付けられています。
従来は、次のような要素をそれぞれ別々に検討・契約するのが一般的でした。
- SAPライセンス(S/4HANAなどアプリケーション)
- インフラ(オンプレサーバーやIaaSクラウド)
- 運用・監視・バックアップなどの基盤運用
- 業務プロセスの見直しやテンプレート設計
- 拡張開発・周辺システム連携の基盤
RISE with SAPでは、これらのうち「クラウド上のS/4HANA」「インフラ」「一部の運用・監視」「プロセス変革支援ツール」「拡張基盤」などをあらかじめパッケージ化し、SAP主導の一体サービスとして提供するのが特徴です。

RISE with SAPが解決しようとしている課題
RISE with SAPの背景には、次のような企業側の課題があります。
- ECCなど旧来のオンプレSAPからS/4HANAへ移行したいが、インフラ・ライセンス・運用・プロジェクト設計がバラバラで、全体像が描きにくい
- 単なる「リフト&シフト」ではなく、業務プロセスの標準化・システムのシンプル化 まで含めて変革したい
- クラウドの運用やセキュリティを自社だけで担うには負荷が大きく、一定のレベルを標準サービスとして確保したい
こうしたニーズに対して、RISE with SAPは次のような方向性で応えようとしています。
- SAPが主導する標準アーキテクチャとサービス範囲を提示し、「どこまでをサービスとして任せられるか」を明確にする
- プロセスマイニングやベンチマークなどのツールを含め、移行と同時に業務プロセスを見直すための仕掛け を提供する
- 基盤運用・監視の一部をサービス側に寄せることで、企業のIT部門が「環境維持」から「変革・改善」に時間を割けるようにする
Business Transformation as a Serviceとしての位置付け
従来の「ソフトウェアライセンス販売」や「クラウド環境の貸し出し」と違い、RISE with SAPは “システム刷新そのもの+その後の継続的な変革” をサービスとしてまとめる ことを狙っています。
- 単なるS/4HANA導入プロジェクトではなく、その後のアップデートや標準プロセスへの追随までを含めて、長期的な枠組みで捉える
- インフラや運用を含めたサービス境界を明確にし、「どこから先を自社が担うのか」を設計しやすくする
- 将来的なAI・アナリティクス活用や、周辺クラウドサービスとの連携を見据え、SAP Business Technology Platform(BTP)などの拡張基盤とセットで考える
このように、RISE with SAPは「S/4HANAをどう動かすか」という技術論にとどまらず、クラウド時代にSAPを使って経営や業務をどう変えていくかをパッケージ化したサービス と捉えると整理しやすくなります。
RISE with SAPを構成する主な要素
RISE with SAPは、1つの製品ではなく 複数のコンポーネントをまとめたサービスパッケージ です。
ここでは、全体を理解するうえで押さえておきたい主要要素と、その役割を整理します。

RISE with SAPの全体構成イメージ
まず、主な構成要素と役割を一覧で整理します。
| 要素 | 主な役割 |
|---|---|
| S/4HANA Cloud | 基幹業務を担う中核ERP(Public / Private Edition) |
| Business Process関連ツール群 | 現行プロセスの可視化・ベンチマーク・改善検討の支援 |
| SAP Business Technology Platform(BTP) | 拡張開発・ワークフロー・連携・統合の基盤 |
| SAP Business Network関連 | サプライヤ・物流・資材など外部パートナーとのネットワーク連携 |
| インフラ/マネージドサービス | ハイパースケーラー上のIaaS+監視・バックアップなどの基盤運用 |
以下で、それぞれの役割をもう少し具体的に見ていきます。
S/4HANA Cloud:RISEの中核となるERP
RISE with SAPの中心にあるのが S/4HANA Cloud です。
財務・販売・購買・在庫・生産・プロジェクト・人事など、基幹業務を担うアプリケーション群で、クラウド前提のアーキテクチャとHANAインメモリDBを採用しています。
S/4HANA Cloudには一般的に次のようなエディションがあります。
- Public Edition:
標準プロセスとSaaS的な運用を前提とした構成。アドオンはBTPなど外部拡張が中心。 - Private Edition:
既存のECCからのコンバージョンや、ある程度のカスタマイズを前提とした構成。
RISE with SAPでは、このS/4HANA Cloudのいずれかを中核に据えつつ、後述のサービスを組み合わせて提供します。
ビジネスプロセス変革ツール群:現状把握と標準化の支援
RISE with SAPには、業務プロセスの可視化・分析・ベンチマーク を支援するツール群が含まれます。
代表的な機能イメージは以下の通りです。
- 既存システムのトランザクションログをもとに、実際の業務フローを可視化する
- 同業他社やベストプラクティスと比較して、ボトルネックや例外処理の多い箇所を特定する
- S/4HANA標準プロセスに寄せるときのギャップを整理する
これにより、「そのままの業務を新システムに載せ替える」のではなく、
移行と同時にプロセスを整理・標準化するための材料 を提供する役割を担います。
SAP Business Technology Platform(BTP):拡張・連携・統合の土台
RISE with SAPでは、標準機能だけではカバーしきれない拡張や連携 を担う基盤として、SAP Business Technology Platform(BTP)が重要な位置を占めます。
BTPでは例えば次のようなことを実現します。
- 拠点固有の業務フローや画面を、コアERPに手を入れずに拡張アプリとして実装する
- SAPと他クラウドサービス(Salesforce、Microsoft 365 など)とのAPI連携を集約する
- ローコード/ノーコードでの小規模アプリやワークフローを素早く構築する
- データ統合・分析・AIサービスと連携し、ERPデータを活用した高度な業務を実現する
ポイントは、S/4HANA本体はできるだけ“クリーン”に保ち、拡張はBTP側に寄せる という設計思想です。
これにより、将来のアップグレードやRISEサービスの継続利用に耐えやすい構造を作れます。
SAP Business Network関連サービス:社外との接続ポイント
RISE with SAPでは、必要に応じて SAP Business Network 系のサービスもあわせて利用します。
これは、社内の基幹業務だけでなく、サプライヤ・物流会社・設備ベンダーなどとの取引プロセスをデジタルにつなげるためのネットワークです。
- 購買・調達でのサプライヤ接続
- ロジスティクスや輸送ステータスの共有
- 設備やアセットのライフサイクル情報の共有
といった領域で、「自社のERPの外側」にあるプレイヤーとのやり取りをオンラインで標準化する役割を果たします。
すべての企業がフル活用するわけではありませんが、サプライチェーン全体を見える化して最適化したい企業 にとって重要な要素です。
インフラ/マネージドサービス:クラウド基盤と運用の土台
最後に、RISE with SAPの土台となるのが クラウドインフラとマネージドサービス です。
実際のS/4HANA Cloudは、Azure・AWS・GCPなどのハイパースケーラー上に構築され、その上にSAPの運用・監視サービスが載る構成になります。
ここでのポイントは次の通りです。
- 物理サーバーの調達・OSパッチ・バックアップなど、インフラ層の運用負荷をサービス側に寄せられる
- 可用性・セキュリティレベル・バックアップポリシーなどが、あらかじめ一定水準で標準化されている
- 顧客側は、アプリケーション設定やプロセス設計により多くのリソースを割ける
どこまでをRISEのマネージド領域とし、どこからを自社やパートナーが担うかは、契約内容やアーキテクチャ設計次第です。
インフラを自前で細かく作り込むのではなく、「サービスとしての土台」を前提にSAPを設計する──それがRISE with SAPの大きな発想転換と言えます。
従来のSAP導入や他の選択肢との違い
RISE with SAPを理解するうえで重要なのは、「何が新しいのか」「従来構成とどこが違うのか」 を整理することです。
ここでは、従来のオンプレ/IaaS型のSAPや、S/4HANA Cloud単体利用との違いを、契約モデルと責任分界の観点からまとめます。

従来のオンプレ/IaaS型SAPとの違い
従来は、SAPを導入する際に次のような要素を別々に契約・設計するケースが一般的でした。
- SAPライセンス(S/4HANAや周辺製品)
- サーバー・ストレージ・ネットワーク(オンプレ or IaaS)
- OS・DBの運用、バックアップ、監視
- アプリケーション運用・ジョブ管理
- 業務プロセスの設計・標準化支援
これに対して、RISE with SAPは 「クラウド上のS/4HANA+インフラ+一部運用+変革支援ツール」を、1つのサブスクリプションに束ねたモデル です。
イメージを簡単に比較すると、次のようになります。
| 観点 | 従来のオンプレ/IaaS型SAP | RISE with SAP |
|---|---|---|
| 契約 | ライセンス/インフラ/運用を個別に契約 | SAP主体の単一サブスクリプション契約 |
| インフラ運用 | 自社 or インフラベンダーが個別に設計・運用 | ハイパースケーラー基盤+SAPマネージドサービスが前提 |
| プロセス変革支援 | コンサルやSIごとに別途アサイン | プロセス分析・ベンチマーク等のツールがパッケージに含まれる |
| アップグレード/変革の前提 | プロジェクトごとに個別検討 | 継続アップデートと標準プロセス前提での変革が組み込み済み |
ポイントは、インフラとアプリ、変革支援の一部までを「サービス側の標準」としてまとめていることです。
その分、自由度は下がる面もありますが、「何を誰に任せるか」が明確になりやすくなります。
S/4HANA Cloud単体利用との違い
S/4HANA Cloud自体は、RISE with SAPの有無にかかわらず存在する“製品” です。
一方、RISE with SAPは、S/4HANA Cloudを中核にしつつ その周辺のサービスを束ねた “パッケージ” という位置付けになります。
整理すると、次のような関係になります。
- S/4HANA Cloud単体
- ERPアプリケーションとしての機能が主役
- インフラ・運用・変革支援ツールなどは、別途組み合わせて設計する前提
- RISE with SAP
- S/4HANA Cloudに加えて、BTP・プロセス分析ツール・Business Network・マネージドサービスなどを組み合わせた「サービスメニュー」
- 契約や責任範囲が、一定のパターンとしてあらかじめ定義されている
そのため、S/4HANA Cloud単体を採用する場合は、
- どのクラウド基盤に載せるのか
- 運用・監視・バックアップを誰がどこまで担うのか
- プロセス変革・拡張開発の基盤をどう用意するのか
を個別に設計する必要があります。
RISE with SAPでは、これらの設計パターンの一部があらかじめ「サービスとして組み上がっている」点が大きな違いです。
SAP on AzureなどIaaS構成との違い
「SAP on Azure」のように、ハイパースケーラー上にSAPを構築するアプローチとRISE with SAPは、同じ“クラウド上のSAP”でも責任分界が異なる点が重要です。
-
SAP on Azure(一般的なIaaS構成の例)
- Azure上に仮想マシンやDBを構築し、その上にSAPを導入
- インフラ設計・OS/DB運用・一部アプリ運用を、自社やインフラパートナーが担う
- SAPライセンスは別途契約し、保守契約も別管理になることが多い
-
RISE with SAP
- ハイパースケーラーの基盤は使うものの、SAP側がサービスとしてインフラ+S/4HANA Cloud+マネージド運用をまとめて提供
- 「どこまでをRISEの範囲とし、どこから先を自社・パートナーが担うか」が、サービス設計の中で定義される
- ライセンス・保守・一部インフラコストがサブスクリプションとして統合される
つまり、どのクラウドを使うか だけでなく、
- インフラからアプリまでのどの層をサービスとして任せるのか
- 契約窓口をどこまで一本化したいのか
といった観点で、RISE with SAPとSAP on Azureを比較することになります。
RISE with SAPの契約・料金モデルのポイント
RISE with SAPは、「いくらか?」よりも 「何に対して支払うモデルなのか」 を理解することが重要です。
ここでは、個別見積もり前の段階で押さえておきたい基本的な考え方を整理します。

サブスクリプション型:ユーザー数と利用範囲がベース
RISE with SAPは、従来のような「永続ライセンス+年間保守」ではなく、サブスクリプション型の料金モデル が基本です。
一般的には、次のような要素の組み合わせで料金が決まります。
- 利用ユーザー数・ユーザータイプ(フルユーザー/限定ユーザーなど)
- 利用する業務領域・モジュールの範囲(FI、SD、MM、生産、プロジェクトなど)
- エディション(Public / Private)、国・拠点数などのスコープ
- 契約期間(年契約/複数年契約)やSLA水準 など
カタログ価格表というよりは、要件を踏まえた個別見積もり が前提となるため、「何ユーザーで、どこまでの業務を、どの国・拠点で使うのか」を整理してからベンダーに相談する流れが一般的です。
「バンドル」の発想:ライセンス・保守・インフラ・一部運用をまとめて契約
従来のオンプレ/IaaS型では、
- アプリケーションライセンス
- 年間保守(サポート)
- インフラ(サーバー・ストレージ・ネットワーク)
- OS・DBのサポート
- 一部の基盤運用
を 別々に契約・支払い する形が一般的でした。
RISE with SAPでは、これらのうち相当部分が 「1つのサブスクリプション料金に束ねられる」 のが特徴です。
- S/4HANA Cloud利用権
- 標準サポート/アップデート
- クラウドインフラ利用(ハイパースケーラー上のIaaS)
- 監視・バックアップなどのマネージドサービスの一部
- 一部のツール(プロセス分析・BTPの基本枠など)
などがパッケージとして含まれ、「どの項目にいくら払っているか」を細かく分解するよりも、“RISEパッケージとしての総額” を見ながらTCOを考える ことになります。
初期投資とランニングコストのバランス
オンプレミスやIaaS構成と比較すると、RISE with SAPは一般に次のような傾向があります。
- サーバーやストレージの 初期投資を抑えられる 一方で、サブスクリプションとしての ランニングコストが継続的に発生 する
- インフラ更改やハードウェアの増設といった、将来の追加投資イベントは小さくなるが、サブスクリプション費用を前提とした 中長期のTCO試算 が必要になる
- ライセンス・保守・インフラをバラバラに最適化する余地は小さい一方で、「クラウド標準のプロセスと運用モデルに乗ることで、組織全体のコスト構造を見直す」発想が重要になる
そのため、単純に「月額×ユーザー数」だけで高い/安いを判断するのではなく、
- 既存オンプレ環境の更改費用・運用費用
- 自社で維持しているインフラ要員・運用要員のコスト
- 将来のアップグレード・バージョンアッププロジェクトの負担
といった要素を含めた 総コスト観点での比較 が欠かせません。
見積もり時に整理しておくべき論点
実際にベンダーから見積もりを取得する前に、少なくとも次の点は社内で整理しておくとスムーズです。
- 対象とするユーザー数と、そのロール(承認のみ/入力主体/分析主体など)
- 対象とする業務プロセスの範囲(会計だけなのか、販売・購買・在庫・生産まで含めるのか)
- Public Edition と Private Edition のどちらを軸に検討するか
- 既存ライセンス資産やインフラ資産をどう扱うか(活かすのか、割り切るのか)
- SAP on Azure など、他のクラウド構成との比較軸(コストだけでなく責任分界・自由度も含めて)
RISE with SAPは「一見すると高く見える」こともありますが、サービスとして含まれる範囲と、自社側で抱えなくてよくなるコストを冷静に棚卸ししたうえで比較する ことが重要です。
RISE with SAPのメリットとデメリット・注意点
RISE with SAPを検討するうえでは、クラウド移行のメリットだけでなく、サービスとしての前提条件や制約 も含めて整理しておく必要があります。このセクションでは、代表的なメリットとデメリット・注意点を対比しながらまとめます。
主なメリット
1. 標準プロセスを軸にした業務のシンプル化
RISE with SAPは、S/4HANA Cloudの標準プロセスを前提とした設計になっており、プロセス分析ツールやベンチマークもセットで活用できます。
- 旧来のカスタマイズだらけのECCから、「なるべく標準に寄せた業務」に移行しやすい
- 拠点・グループ会社ごとにバラバラだった運用を、グローバルテンプレートに統一しやすい
- 標準機能をベースにした業務設計にすることで、将来のアップグレードや追加展開を見据えやすくなる
「現状維持のまま載せ替える」のではなく、標準プロセスへの寄せ方を検討する枠組みが最初から用意されている ことが大きなポイントです。
2. インフラ運用負荷の軽減と可用性・セキュリティ水準の底上げ
クラウドインフラとマネージドサービスがパッケージに含まれることで、インフラ層の運用負荷を大きく減らせます。
- サーバー調達・OSパッチ適用・バックアップ・監視といった作業をサービス側に寄せられる
- ハイパースケーラーのデータセンターを前提に、高い可用性・セキュリティ水準を標準で確保しやすい
- DR構成やスケールアウト/スケールアップの検討が、従来よりも選択肢として取りやすくなる
その結果、社内のIT部門は 「インフラを守ること」から「業務やデータ活用の改善」に時間を振り向けやすくなる という効果が期待できます。
3. 継続アップデートによる最新機能・イノベーションへのアクセス
SaaSに近いモデルで提供されるため、S/4HANA本体や周辺サービスのアップデートが継続的に行われます。
- 法改正や会計基準変更への対応を、長期プロジェクトではなく継続アップデートで吸収しやすい
- SAPが提供する新機能(インサイト系機能、エンベデッドAI、業種別機能など)にアクセスしやすくなる
- 将来的なAI・アナリティクスサービスとの連携も、BTPを通じて取り込みやすい設計にできる
「導入時点で最新」ではなく、運用を続けながら最新状態に近い形を維持する 前提で設計することが求められます。
4. 契約・ベンダー窓口の一本化によるガバナンス向上
RISE with SAPでは、ライセンス・インフラ・一部運用・ツール群などが、SAP側のサービスとして束ねられます。
- 障害発生時や性能問題が起きた際の問い合わせ窓口が整理される
- 契約やSLAの管理対象が減り、IT統制・内部統制の観点でも説明しやすくなる
- グローバルで共通の契約枠組みを使うことで、拠点追加やロールアウトも計画しやすい
複数ベンダー間で責任範囲の押し付け合いになるリスクを抑え、「誰がどこまで担うのか」を契約上も明確にしやすい 点は大きな利点です。
デメリット・注意点
1. 高度なカスタマイズやレガシーな独自要件との相性
RISE with SAPは、標準プロセス前提のサービスであり、「重いアドオン」や「オンプレ前提の独自拡張」にそのままフィットしない場合があります。
- 既存ECCで大量のZテーブル・Zトランザクションを抱えている場合、そのまま移行するのは難しい
- コア部分をできるだけクリーンにし、拡張はBTP側で実装する設計への切り替えが必要になる
- 「現行システムをそのままクラウドに載せたい」という発想とは相性が良くない
移行前に、どこまでを標準プロセスに寄せ、どこから先を拡張でカバーするか を冷静に整理することが欠かせません。
2. 既存ライセンス・インフラ資産との兼ね合い
すでにオンプレミスでSAPライセンスやインフラを保有している企業にとっては、RISE with SAPへの切り替え時に次のような論点が生まれます。
- 既存の永続ライセンスや保守契約をどこまで活かせるのか
- データセンターやサーバー設備を自社で保有している場合、その投資をどう位置付け直すか
- 他システムも同じ基盤上で動いている場合、SAPだけRISEに切り出すことで構成が複雑にならないか
単にRISE with SAPの見積もり額だけを見るのではなく、既存資産の残存価値とライフサイクル を含めた全体設計が必要です。
3. ベンダーロックインとハイパースケーラー選択の自由度
RISE with SAPでは、クラウド基盤として複数のハイパースケーラーが選択肢として用意されますが、インフラレイヤーも含めてSAPサービスの枠組みの中に入るため、次のような点に注意が必要です。
- インフラ部分の設計・運用に、自社やインフラベンダーが直接タッチできる範囲が限定される
- ハイパースケーラー側のサービスを自由に組み合わせるのではなく、RISEの前提に沿って使うことが基本になる
- 「将来的に別のクラウドへ移りたい」「SAP以外のワークロードと一体で最適化したい」といった戦略との整合性を確認する必要がある
RISE with SAPを採用することで、SAPまわりの自由度と引き換えに、標準化とサービスレベルを得る という構図になることを理解しておきましょう。
4. 組織側のプロセス変革・標準化へのコミットが不可欠
最後に、RISE with SAPは「入れれば勝手に業務が良くなる」タイプのサービスではありません。
むしろ、組織側が標準プロセスと継続的な変革にコミットできるかどうかが成否を分けます。
- 標準プロセスと現行業務とのギャップを冷静に受け止め、どこまで合わせるかを意思決定できるか
- IT部門だけでなく、事業部門・海外拠点を巻き込んだガバナンス体制を構築できるか
- 導入後もアップデートや機能追加に合わせて業務・教育・マニュアルを更新し続けられるか

RISE with SAPは、技術的なクラウド移行と同じくらい、組織としての変革力が求められる選択肢 です。
メリット・デメリットを踏まえ、「自社の文化や体制に合うかどうか」を見極めることが重要になります。
RISE with SAPが向いている企業・向いていない企業
ここまで見てきたように、RISE with SAPは「クラウド移行パッケージ」であると同時に、標準プロセス前提の変革サービスでもあります。
そのため、どんな企業にも一律で向くソリューションではなく、相性の良いパターン/慎重に検討すべきパターン がはっきり分かれます。
RISE with SAPが向いている企業
グローバル拠点やグループ会社を含めて標準化したい企業
海外拠点や関連会社ごとに業務フローやシステムがバラバラになっている場合、RISE with SAPの「標準プロセス+グローバルテンプレート」は大きな武器になります。
共通のテンプレートを軸にしつつ、BTP側で必要な拡張を行うことで、「コアは共通・周辺はローカル対応」という構造を作りやすくなります。
老朽化したECC/オンプレSAPから、クラウド前提に切り替えたい企業
オンプレミスのECCや古いハードウェアを抱えており、次の更改タイミングで一気に刷新したい企業にも適しています。
インフラ更改・OS/DBのライフサイクル対応といった作業をサービス側に寄せることで、IT部門は業務プロセスとデータ活用により多くの時間を割くことができます。
インフラ運用を自前で抱えるよりも、“サービスとして任せたい”企業
データセンター運用や仮想基盤の運用に専任チームを置くことが難しい、あるいは今後スリム化していきたい企業にとって、RISE with SAPのマネージドモデルは相性が良い選択肢です。
クラウド基盤・監視・バックアップの基本的な枠組みをサービス側に寄せることで、社内のIT組織は「環境維持」から「変革・改善」へ役割をシフトしやすくなります。
継続アップデートと新機能活用を前提に、システムを“生かし続けたい”企業
法改正対応や新機能の取り込みを、数年ごとの大規模プロジェクトではなく、継続的なアップデートで吸収していきたい企業にもRISEは向いています。
標準プロセスとアップデートサイクルに合わせて組織側も変わり続ける前提を置けるなら、最新の機能群(エンベデッドAIや業種別機能など)を活かしやすくなります。
RISE with SAPを慎重に検討すべき企業
オンプレ前提の重いカスタマイズ資産をどうしても維持したい企業
自社独自の業務要件を長年かけてアドオンで実現してきた場合、そのままの形でRISEに載せることは難しくなります。
コアERPをクリーンに保ち、拡張はBTP側に寄せる設計に切り替える準備ができない場合は、SAP on Azureなど別構成も含めて慎重に比較検討する必要があります。
既存のデータセンターやインフラ投資を長期的に活用したい企業
自社データセンターを戦略的な資産として位置づけている、あるいは既存のハードウェア投資をまだ十分に回収できていない企業では、RISEへの切り替えによって「既存インフラの使い道」が課題になります。
SAP以外のシステムも含めたインフラ最適化の絵を描いたうえで、RISEを採用するのか、IaaS上のSAP構成を選ぶのかを検討すべきケースです。
クラウド基盤を細かく作り込みたいインフラ志向の企業
ハイパースケーラーの機能を自社で組み合わせ、ネットワークやセキュリティ、監視基盤まで細かく設計・運用したい企業にとっては、RISEの標準化された枠組みが窮屈に感じられることがあります。
「SAP以外のワークロードも含めたクラウド共通基盤を、自社主導で作り込みたい」という戦略が強い場合は、SAP on Azureなどの構成と比較したうえで、どこまでをサービスに任せるかを見極める必要があります。
標準プロセスへの寄せ方について、組織として意思決定できていない企業
最後に、RISE with SAPにおいて最も重要なのは、標準プロセスと現行業務とのギャップをどう扱うかを、経営・現場を巻き込んで決められるかどうか です。
「現場ごとの要望をすべて満たすこと」を優先し続ける文化が強く、標準化やプロセス統一に踏み込めない場合、RISEのメリットを活かしきれず、中途半端な結果に終わるリスクがあります。

このように、RISE with SAPは 「クラウド上でSAPを動かす仕組み」というだけでなく、「自社のIT戦略と組織文化にフィットするかどうか」で評価すべきサービス です。
次のセクションでは、この前提を踏まえたうえで、RISE with SAP導入を検討するときのステップをコンパクトに整理していきます。
RISE with SAP導入を検討するうえでのステップ(概要)
ここでは、詳細な導入手順ではなく、「検討フェーズで何を整理しておくべきか」 に絞ってステップを整理します。
SAP導入プロジェクトそのものの進め方は別記事で深掘りするとして、ここではRISE特有の論点にフォーカスします。

1. 現行環境・契約・カスタマイズ資産の棚卸し
最初のステップは、RISEの是非を議論する以前に、今のSAPまわりを客観的に見える化すること です。
- 利用中のSAP製品(ECC、S/4、周辺システム)のバージョン・モジュール
- 自社データセンター/IaaS上のインフラ構成と契約状況
- ABAPアドオン・Zテーブル・外部インターフェースの数や重要度
- 現在の保守契約・ライセンス形態、サポート期限
ここでの目的は、「どれくらい“そのまま”クラウドに持ち込めない前提なのか」「どこまでが更新期を迎えているのか」を明らかにし、RISEを検討する必要性と緊急度 を社内で共有することです。
2. RISE with SAP適合性のアセスメントとシナリオ比較
次に、RISEを選ぶかどうかを判断するための選択肢比較の枠組みを作ります。
以下のシナリオは並べて検討することが一般的です。
- オンプレミスでの継続(最小限のアップグレード/更改)
- IaaS上の「SAP on Azure」等への移行
- RISE with SAP(Public / Private Edition 等)
それぞれについて、
- 初期投資と5〜10年スパンのTCO
- 標準プロセスへの寄せやすさ・変革インパクト
- インフラ運用・アプリ運用の責任分界
- グローバル展開や他クラウド活用との整合性
といった観点で評価軸を揃え、「RISEを採用する/しない」ではなく、「複数シナリオの中での位置付け」として判断できるようにします。
3. パートナー選定と役割・責任分界の明確化
RISE with SAPは、SAPだけで完結するわけではなく、導入パートナーやインフラ/運用パートナーとの分業前提 のサービスです。
検討フェーズの早い段階で、次のような論点を整理しておくと、後の齟齬を減らせます。
- SAP(RISE)側が担う範囲と、導入パートナーが担う範囲
- 自社IT部門が責任を持つレイヤー(アプリ運用、ジョブ、権限設計、ヘルプデスク等)
- 障害発生時・性能問題発生時のエスカレーションルート
- グローバルロールアウト時の支援体制(各リージョンでのサポート窓口など)
RISEを「ブラックボックスなフルアウトソース」と捉えるのではなく、“どのレイヤーをサービスに寄せ、どのレイヤーで自社の強みを活かすか” を設計する作業 が重要になります。
4. 社内体制・ガバナンスの設計と合意形成
最後に、RISEを採用するかどうかの判断と並行して、社内側の体制とガバナンスの描き方 を検討します。
- 経営層・事業部門を含めたステアリングコミッティの設置
- 標準プロセスへの寄せ方を意思決定できる場とルール(例:例外承認プロセス)
- IT部門と業務部門の役割分担(要件定義・テスト・定着化支援)
- 導入後のアップデート対応・継続改善を担うチームの位置付け
RISE with SAPは、技術的にはクラウド移行の一形態に見えますが、実態としては 「標準プロセス+継続アップデートを前提とした運用モデルへの組織変革」 を伴います。
そのため、検討フェーズのうちから、システム構成と同じレベルで“組織側の構成”も設計する ことが、導入成功の前提条件になります。
まとめ|RISE with SAPを検討するときの着眼点
本記事では、RISE with SAPの構成要素や導入パターン、適合する企業の特徴について解説しました。RISE with SAPは単なるクラウド移行ではなく、標準化・継続アップデート・変革支援を一体で推進するサービスパッケージ です。
導入検討の際は、「どこまで標準プロセスに寄せるか」「インフラ運用をどこまで委託するか」「既存資産をどう整理するか」といった観点から、オンプレやIaaS構成を含めた複数シナリオを比較することで、自社に最適なロードマップが描けます。詳細な構成や導入要件はSAP公式サイトをご確認ください。






