この記事のポイント
ECC保守終了(2027年問題)でS/4HANA移行が避けられないなら、RISE(Private Edition)かGROW(Public Edition)かの選択はFit to Standard率とアドオン資産量で判断すべき
FUEライセンスは契約期間中の削減が原則不可。見積もり前にユーザー数×ロール×対象業務を定量化し、Advanced/Core/Self-serviceの構成比を固めておくことが交渉の前提
2025年4月のパッケージ再編でCloud ERP Privateに統合された。SAP Buildなど一部AI対応機能は含まれるが、旧Premium Plus相当の機能はアドオン化されたため、総コスト評価時は追加費用も含めて試算すべき

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
RISE with SAPは、S/4HANA Cloudとクラウドインフラ、運用サービス、プロセス変革ツールを一体で提供する「Business Transformation as a Service(BTaaS)」です。
2025年4月には新しい「SAP Cloud ERP Private」パッケージが発表され、商流とパッケージ構成が見直されました。SAP Buildなど一部のAI対応機能は引き続き含まれる一方、旧Premium Plusの一部機能はアドオン化されています。
本記事では、RISE with SAPの概要と構成要素、GROW with SAPとの違い、FUEライセンスモデル、2026年のFPS01リリースやTransition Option条件まで体系的に解説します。
RISE with SAPとは
RISE with SAPは、SAPが提供する「Business Transformation as a Service(BTaaS)」をコンセプトとしたサービス群です。単にS/4HANAをクラウドで提供するだけではなく、基幹システムのクラウド移行・標準化・運用・継続的な変革支援までを1つのサブスクリプション契約にまとめたパッケージとして位置付けられています。
従来は、以下のような要素をそれぞれ別々に検討・契約するのが一般的でした。
- SAPライセンス(S/4HANAなどアプリケーション)
- インフラ(オンプレサーバーやIaaSクラウド)
- 運用・監視・バックアップなどの基盤運用
- 業務プロセスの見直しやテンプレート設計
- 拡張開発・周辺システム連携の基盤
RISE with SAPでは、これらのうち「クラウド上のS/4HANA」「インフラ」「一部の運用・監視」「プロセス変革支援ツール」「拡張基盤」などをあらかじめパッケージ化し、SAP主導の一体サービスとして提供するのが特徴です。2027年問題(ECC保守終了)を控え、S/4HANAへの移行を迫られている企業にとって、RISEは移行と変革を同時に進めるための選択肢の1つです。

RISE with SAPが解決する課題
RISE with SAPの背景には、以下のような企業側の課題があります。
- ECCなど旧来のオンプレSAPからS/4HANAへ移行したいが、インフラ・ライセンス・運用・プロジェクト設計がバラバラで全体像が描きにくい
- 単なる「リフト&シフト」ではなく、業務プロセスの標準化・システムのシンプル化まで含めて変革したい
- クラウドの運用やセキュリティを自社だけで担うには負荷が大きく、一定のレベルを標準サービスとして確保したい
こうしたニーズに対して、RISE with SAPは以下の方向性で応えます。
- SAPが主導する標準アーキテクチャとサービス範囲を提示し、「どこまでをサービスとして任せられるか」を明確にする
- プロセスマイニングやベンチマークなどのツールを含め、移行と同時に業務プロセスを見直すための仕掛けを提供する
- 基盤運用・監視の一部をサービス側に寄せることで、企業のIT部門が「環境維持」から「変革・改善」に時間を割けるようにする
BTaaSとしての位置付け
従来の「ソフトウェアライセンス販売」や「クラウド環境の貸し出し」と違い、RISE with SAPはシステム刷新そのものとその後の継続的な変革をサービスとしてまとめることを狙っています。
- 単なるS/4HANA導入プロジェクトではなく、その後のアップデートや標準プロセスへの追随までを含めた長期的な枠組みで捉える
- インフラや運用を含めたサービス境界を明確にし、「どこから先を自社が担うのか」を設計しやすくする
- 将来的なAI・アナリティクス活用や周辺クラウドサービスとの連携を見据え、SAP BTPなどの拡張基盤とセットで考える
RISE with SAPの構成要素
RISE with SAPは1つの製品ではなく、複数のコンポーネントをまとめたサービスパッケージです。以下の表で主要要素と役割を整理しました。

| 要素 | 主な役割 |
|---|---|
| S/4HANA Cloud | 基幹業務を担う中核ERP(Public / Private Edition) |
| Business Process関連ツール群 | 現行プロセスの可視化・ベンチマーク・改善検討の支援 |
| SAP BTP | 拡張開発・ワークフロー・連携・統合の基盤 |
| SAP Business Network関連 | サプライヤ・物流・資材など外部パートナーとのネットワーク連携 |
| インフラ/マネージドサービス | ハイパースケーラー上のIaaS+監視・バックアップなどの基盤運用 |
以下でそれぞれの役割を解説します。
S/4HANA Cloud
RISE with SAPの中心にあるのがS/4HANA Cloudです。財務・販売・購買・在庫・生産・プロジェクト・人事など、基幹業務を担うアプリケーション群で、クラウド前提のアーキテクチャとHANAインメモリDBを採用しています。
S/4HANA Cloudには主に以下のエディションがあります。
-
Public Edition
標準プロセスとSaaS的な運用を前提とした構成。アドオンはBTPなど外部拡張が中心。
-
Private Edition
既存のECCからのコンバージョンや、ある程度のカスタマイズを前提とした構成。
RISE with SAPではこのS/4HANA Cloudのいずれかを中核に据えつつ、後述のサービスを組み合わせて提供します。
ビジネスプロセス変革ツール群
RISE with SAPには、業務プロセスの可視化・分析・ベンチマークを支援するツール群が含まれます。代表的な機能は以下のとおりです。
- 既存システムのトランザクションログをもとに実際の業務フローを可視化する
- 同業他社やベストプラクティスと比較して、ボトルネックや例外処理の多い箇所を特定する
- S/4HANA標準プロセスに寄せるときのギャップを整理する
「そのままの業務を新システムに載せ替える」のではなく、移行と同時にプロセスを整理・標準化するための材料を提供する役割です。
SAP BTP
RISE with SAPでは、標準機能だけではカバーしきれない拡張や連携を担う基盤としてSAP BTPが重要な位置を占めます。BTPでは以下のようなことを実現します。
- 拠点固有の業務フローや画面を、コアERPに手を入れずに拡張アプリとして実装する
- SAPと他クラウドサービス(Salesforce、Microsoft 365など)とのAPI連携を集約する
- ローコード/ノーコードでの小規模アプリやワークフローを素早く構築する
- データ統合・分析・AIサービスと連携し、ERPデータを活用した高度な業務を実現する
S/4HANA本体はできるだけ「クリーン」に保ち、拡張はBTP側に寄せるという設計思想(Keep the Core Clean)が重要です。
SAP Business Network
必要に応じてSAP Business Network系のサービスも活用します。社内の基幹業務だけでなく、サプライヤ・物流会社・設備ベンダーなどとの取引プロセスをデジタルにつなげるためのネットワークです。
- 購買・調達でのサプライヤ接続
- ロジスティクスや輸送ステータスの共有
- 設備やアセットのライフサイクル情報の共有
サプライチェーン全体を見える化して最適化したい企業にとって重要な要素です。
インフラとマネージドサービス
RISE with SAPの土台となるのがクラウドインフラとマネージドサービスです。S/4HANA CloudはAzure・AWS・GCPなどのハイパースケーラー上に構築され、その上にSAPの運用・監視サービスが載る構成になります。
- 物理サーバーの調達・OSパッチ・バックアップなどのインフラ層の運用負荷をサービス側に寄せられる
- 可用性・セキュリティレベル・バックアップポリシーなどがあらかじめ一定水準で標準化されている
- 顧客側はアプリケーション設定やプロセス設計により多くのリソースを割ける
どこまでをRISEのマネージド領域とし、どこからを自社やパートナーが担うかは、契約内容やアーキテクチャ設計次第です。
RISE with SAPと従来構成の違い
RISE with SAPを理解するうえで重要なのは、従来構成と何が違うのかを整理することです。

従来のオンプレ/IaaS型SAPとの違い
以下の表で従来構成との主な違いを整理しました。
| 観点 | 従来のオンプレ/IaaS型SAP | RISE with SAP |
|---|---|---|
| 契約 | ライセンス/インフラ/運用を個別に契約 | SAP主体の単一サブスクリプション契約 |
| インフラ運用 | 自社 or インフラベンダーが個別に設計・運用 | ハイパースケーラー基盤+SAPマネージドサービスが前提 |
| プロセス変革支援 | コンサルやSIごとに別途アサイン | プロセス分析・ベンチマーク等のツールがパッケージに含まれる |
| アップグレード | プロジェクトごとに個別検討 | 継続アップデートと標準プロセス前提での変革が組み込み済み |
インフラとアプリ、変革支援の一部までを「サービス側の標準」としてまとめている点が最大の違いです。自由度は下がる面もありますが、「何を誰に任せるか」が明確になりやすくなります。
S/4HANA Cloud単体利用との違い
S/4HANA Cloud自体はRISE with SAPの有無にかかわらず存在する「製品」です。一方、RISE with SAPはS/4HANA Cloudを中核にしつつその周辺のサービスを束ねた「パッケージ」という位置付けです。
S/4HANA Cloud単体を採用する場合は、どのクラウド基盤に載せるのか、運用・監視・バックアップを誰がどこまで担うのか、プロセス変革・拡張開発の基盤をどう用意するのかを個別に設計する必要があります。RISE with SAPではこれらの設計パターンの一部があらかじめ「サービスとして組み上がっている」点が大きな違いです。
SAP on AzureなどIaaS構成との違い
「SAP on Azure」のようにハイパースケーラー上にSAPを構築するアプローチとRISE with SAPは、同じ「クラウド上のSAP」でも責任分界が異なります。
SAP on Azureでは仮想マシンやDB構築からインフラ設計・OS/DB運用を自社やインフラパートナーが担います。RISE with SAPではSAP側がサービスとしてインフラ+S/4HANA Cloud+マネージド運用をまとめて提供し、ライセンス・保守・一部インフラコストがサブスクリプションとして統合されます。
「どのクラウドを使うか」だけでなく、インフラからアプリまでのどの層をサービスとして任せるのか、契約窓口をどこまで一本化したいのかという観点で比較することになります。
GROW with SAPとの違い

RISE with SAPと並んで検討されるのがGROW with SAPです。両者はS/4HANA Cloudの異なるエディションを中心に据えた別パッケージであり、対象企業やカスタマイズの自由度が異なります。
| 比較軸 | RISE with SAP | GROW with SAP |
|---|---|---|
| 中核エディション | S/4HANA Cloud Private Edition | S/4HANA Cloud Public Edition |
| 主な対象 | 大企業・ECC既存顧客 | 中堅中小企業・新規SAP導入 |
| カスタマイズ | アドオン・Zプログラムの移行が可能 | 標準プロセス前提。拡張はin-app / developer extensibilityとBTP side-by-sideを使い分け |
| ECCデータ移行 | コンバージョン方式で過去データを引き継げる | 過去の明細データの直接移行は不可 |
| 導入期間の目安 | 6〜18か月 | 最短4週間(業界テンプレート活用時) |
| インフラ選択 | Azure / AWS / GCPから選択 | SAP管理のマルチテナント環境 |
導入判断で詰まりやすいのは、「自社のアドオン資産をどこまで引き継ぐか」と「標準プロセスにどこまで寄せられるか」の2軸です。Fit to Standard(標準機能への業務適合率)が高い部門はGROWで十分ですが、重いアドオンを抱える部門はRISEのPrivate Editionが前提になります。グローバル展開する企業では、本社はRISE、海外小規模拠点はGROWという使い分けも現実的な選択肢です。
RISE with SAPの契約・料金モデル
RISE with SAPは「いくらか」よりも「何に対して支払うモデルなのか」を理解することが重要です。

サブスクリプション型の料金モデル
RISE with SAPは従来のような「永続ライセンス+年間保守」ではなく、サブスクリプション型の料金モデルが基本です。マルチイヤー契約が一般的で、以下の要素の組み合わせで料金が決まります。
- 利用ユーザー数・ユーザータイプ(フルユーザー/限定ユーザーなど)
- 利用する業務領域・モジュールの範囲(FI、SD、MM、生産、プロジェクトなど)
- エディション(Public / Private)、国・拠点数などのスコープ
- SLA水準とマネージドサービスの範囲
カタログ価格表というよりは要件を踏まえた個別見積もりが前提となるため、ベンダーに相談する前に「何ユーザーで、どこまでの業務を、どの国・拠点で使うのか」を整理しておくことが重要です。
FUEライセンスモデル

RISE with SAPのライセンスはFUE(Full Use Equivalent)という独自の指標で計算されます。FUEは利用の深さに応じてユーザーをカテゴリ分けし、少ないFUE数で多くのユーザーをカバーできる仕組みです。
| ユーザータイプ | FUE換算 | 利用範囲の目安 |
|---|---|---|
| Advanced use | 1ユーザー = 1 FUE | 業務のフル操作(経理・購買・生産など) |
| Core use | 5ユーザー = 1 FUE | 承認・照会・限定的な入力操作 |
| Self-service use | 30ユーザー = 1 FUE | 従業員セルフサービス(経費申請・勤怠など) |
最低購入FUE数はオファー条件やエディションによって異なるため、見積もり時に確認が必要です。契約期間中のFUE削減は原則できないため、Advanced/Core/Self-serviceの構成比を慎重に設計する必要があります。既存のオンプレミスライセンスからの移行では、未使用ライセンスのコンバージョンクレジットを交渉できるケースもあるため、現行の保守費用を含めた総コストで比較するのが実務的です。
バンドルの発想
RISE with SAPでは、S/4HANA Cloud利用権、標準サポート/アップデート、クラウドインフラ利用、監視・バックアップなどのマネージドサービスの一部、プロセス分析ツール・BTPの基本枠などがパッケージとして含まれます。
個々の項目にいくら払っているかを細かく分解するよりも、「RISEパッケージとしての総額」を見ながらTCOを考えることになります。ただし、2025年4月のパッケージ再編で旧Premium Plusの一部機能がアドオン化されたため、SAP Business AIの高度な機能など追加費用が発生する項目を総コストに含めて評価する点に注意が必要です。
初期投資とランニングコストのバランス
オンプレミスやIaaS構成と比較すると、RISE with SAPは初期投資を抑えられる一方で、サブスクリプションとしてのランニングコストが継続的に発生します。
単純に「月額×ユーザー数」だけで判断するのではなく、既存オンプレ環境の更改費用・運用費用、自社で維持しているインフラ要員のコスト、将来のアップグレードプロジェクトの負担といった要素を含めた総コスト観点での比較が欠かせません。
見積もり時に整理しておくべき論点
実際にベンダーから見積もりを取得する前に、少なくとも以下の点は社内で整理しておくとスムーズです。
- 対象とするユーザー数とそのロール(承認のみ/入力主体/分析主体など)
- 対象とする業務プロセスの範囲(会計だけなのか、販売・購買・在庫・生産まで含めるのか)
- Public EditionとPrivate Editionのどちらを軸に検討するか
- 既存ライセンス資産やインフラ資産をどう扱うか
- SAP on Azureなど他のクラウド構成との比較軸(コストだけでなく責任分界・自由度も含めて)
RISE with SAPのメリットと注意点
RISE with SAPを検討するうえでは、クラウド移行のメリットだけでなく、サービスとしての前提条件や制約も含めて整理しておく必要があります。
標準プロセスを軸にした業務のシンプル化
RISE with SAPはS/4HANA Cloudの標準プロセスを前提とした設計になっており、プロセス分析ツールやベンチマークもセットで活用できます。拠点・グループ会社ごとにバラバラだった運用をグローバルテンプレートに統一しやすく、将来のアップグレードや追加展開を見据えた業務設計が可能です。
インフラ運用負荷の軽減
クラウドインフラとマネージドサービスがパッケージに含まれることで、サーバー調達・OSパッチ適用・バックアップ・監視といった作業をサービス側に寄せられます。その結果、社内のIT部門は「インフラを守ること」から「業務やデータ活用の改善」に時間を振り向けやすくなります。
継続アップデートによる最新機能へのアクセス
SaaSに近いモデルで提供されるため、法改正や会計基準変更への対応を継続アップデートで吸収しやすくなります。SAPが提供する新機能(インサイト系機能、エンベデッドAI、Jouleなど)にもアクセスしやすい設計です。
契約・ベンダー窓口の一本化
ライセンス・インフラ・一部運用・ツール群などがSAP側のサービスとして束ねられるため、障害発生時の問い合わせ窓口が整理され、契約やSLAの管理対象が減ります。
RISE with SAP導入時の注意点
一方で、以下の注意点も把握しておく必要があります。
-
高度なカスタマイズとの相性
標準プロセス前提のサービスであり、重いアドオンやオンプレ前提の独自拡張にそのままフィットしない場合がある。「現行システムをそのままクラウドに載せたい」という発想とは相性が良くない。
-
既存資産との兼ね合い
既存の永続ライセンスや保守契約、データセンターやサーバー設備を保有している場合、RISEへの切り替え時にこれらの投資をどう位置付け直すかが論点になる。
-
ベンダーロックインと自由度
インフラレイヤーもSAPサービスの枠組みに入るため、ハイパースケーラー側のサービスを自由に組み合わせるのではなくRISEの前提に沿って使うことが基本になる。
-
組織側の変革コミット
RISE with SAPは「入れれば勝手に業務が良くなる」タイプのサービスではない。標準プロセスと現行業務とのギャップを冷静に受け止め、IT部門だけでなく事業部門・海外拠点を巻き込んだガバナンス体制の構築が不可欠。
2027年問題に伴うECC保守終了が迫る中、「とりあえずRISE」で決めてしまう企業が少なくありません。しかし、アドオン資産が多い企業がRISEのPrivate Editionに移行しても、Clean Core化が進まなければ将来のアップデートで再び改修コストが膨らみます。移行前にアドオンの棚卸しとFit to Standard率の定量化を済ませ、「標準に寄せる部分」と「BTPで拡張する部分」を明確にしたうえで契約に進むことを推奨します。

RISE with SAPが向いている企業・向いていない企業
RISE with SAPはどんな企業にも一律で向くソリューションではなく、相性の良いパターンと慎重に検討すべきパターンがはっきり分かれます。
RISE with SAPが向いている企業
-
グローバル拠点やグループ会社を標準化したい企業
海外拠点や関連会社ごとに業務フローがバラバラの場合、「標準プロセス+グローバルテンプレート」で「コアは共通・周辺はローカル対応」の構造を作りやすい。
-
老朽化したECC/オンプレSAPからクラウドに切り替えたい企業
インフラ更改・OS/DBのライフサイクル対応をサービス側に寄せることで、IT部門は業務プロセスとデータ活用に集中できる。
-
インフラ運用をサービスとして任せたい企業
データセンター運用に専任チームを置くことが難しい企業にとって、マネージドモデルは相性が良い。
-
継続アップデートでシステムを最新状態に保ちたい企業
法改正対応や新機能の取り込みを数年ごとの大規模プロジェクトではなく継続的に行いたい企業に適している。
RISE with SAPを慎重に検討すべき企業
-
重いカスタマイズ資産を維持したい企業
コアERPをクリーンに保ちBTP側に拡張を寄せる設計への切り替えが難しい場合、SAP on Azureなど別構成も含めて比較検討が必要。
-
既存のデータセンター投資を長期活用したい企業
SAP以外のシステムも含めたインフラ最適化の絵を描いたうえで判断すべきケース。
-
クラウド基盤を自社で細かく作り込みたい企業
RISEの標準化された枠組みが窮屈に感じられる可能性がある。
-
標準プロセスへの寄せ方を組織として意思決定できていない企業
「現場ごとの要望をすべて満たすこと」を優先し続ける文化が強い場合、RISEのメリットを活かしきれないリスクがある。

RISE with SAPの2026年最新動向

2025年4月から2026年にかけて、RISE with SAPのパッケージ体系と提供機能に大きな変更がありました。
Cloud ERP Privateへのリブランド
2025年4月に、RISE with SAPの3段階パッケージ(Base / Premium / Premium Plus)が廃止され、「SAP Cloud ERP Private」という新パッケージが発表されました。「RISE with SAP」という名称は、特定のパッケージではなくSAPのERP近代化プロセス全体を指すプログラム名称として引き続き使われています。
新パッケージにはSAP BuildやSAP HANA CloudなどAI対応の開発機能が引き続き含まれています。一方、旧Premium Plusに含まれていたSAP Datasphereなど一部の高度な機能はアドオンとして別途購入する形に変更されています。パッケージ構成の見直しに伴い契約条件の細部も変動しているため、見積もり時には旧契約との差分を確認することが重要です。
FPS01(2026年3月リリース)の主要機能
SAP Cloud ERP PrivateのFPS01(Feature Pack Stack 01)が2026年3月にリリースされ、AI・データ・アプリケーションの3軸で機能強化が行われています。
-
Change Record Management Agent for R&D
変更記録の影響範囲をAIが自律的に分析する新しいエージェント。R&D領域での変更管理の工数削減を狙う。
-
Multistage Intercompany Sales and Stock Transfer
複数の法的エンティティにまたがる企業間販売・在庫移転を自動オーケストレーションする機能。グローバルサプライチェーンの透明性とコンプライアンス確保に寄与する。
-
Jouleの会話型AI
契約検索や定型業務の操作をJouleの会話インターフェースで実行できるようになった。将来的にはエージェント間連携(Agent-to-Agent)も計画されている。
Transition Optionの条件

ECC既存顧客向けに、2031〜2033年の移行期間をカバーする「SAP ERP, Private Edition, Transition Option」が用意されています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 対象システム | ECC on SAP HANAのみ(他DB非対応) |
| 最低システムサイズ | 2 TB以上 |
| 移行期限 | 2030年12月31日までにSAP ERP Private Editionへ移行完了 |
| 必須プラン | Max Success Plan(2026年1月GA)との併用が必要 |
| 2025年中の契約 | 2031年移行時のアップリフトなし(1:1移行) |
| 2026年中の契約 | 2031年移行時に標準20%のアップリフト適用 |
2025年中に契約すればアップリフトなしで移行できるのに対し、2026年契約では20%の追加費用が発生する設計です。ECCを運用中で2027年問題への対応がまだ進んでいない企業は、Transition Optionの活用可否を早い段階で確認しておくべきです。
導入事例
RISE with SAPの採用はグローバルで広がっており、2026年には以下のような事例が公表されています。
-
FCバイエルン・ミュンヘン
オンプレミスのSAP環境をSAP Cloud ERP Privateに移行し、クラブ経営と組織運営のデジタル基盤を刷新。SAPとの長期パートナーシップの一環として2026年3月に発表されました。
-
キトークロスビー
グローバル製造業としてCloud ERP変革を推進し、複数拠点のERP統合と業務プロセス標準化をRISE with SAPで実現しています。
RISE with SAP導入検討のステップ
ここでは「検討フェーズで何を整理しておくべきか」に絞ってステップを整理します。

現行環境の棚卸し
最初のステップは、今のSAPまわりを客観的に見える化することです。利用中のSAP製品のバージョン・モジュール、インフラ構成と契約状況、ABAPアドオン・Zテーブル・外部インターフェースの数や重要度、保守契約・ライセンス形態、サポート期限を整理し、RISEを検討する必要性と緊急度を社内で共有します。
適合性アセスメントとシナリオ比較
RISEを選ぶかどうかを判断するための選択肢比較の枠組みを作ります。オンプレミスでの継続、IaaS上の「SAP on Azure」等への移行、RISE with SAP(Private Edition)、GROW with SAP(Public Edition)の各シナリオについて、初期投資と5〜10年スパンのTCO、標準プロセスへの寄せやすさ、インフラ運用の責任分界、グローバル展開との整合性といった観点で評価します。
パートナー選定と責任分界の明確化
RISE with SAPはSAPだけで完結するわけではなく、導入パートナーやインフラ/運用パートナーとの分業が前提です。SAP側が担う範囲、導入パートナーが担う範囲、自社IT部門が責任を持つレイヤー、障害発生時のエスカレーションルートを早い段階で整理します。
社内体制・ガバナンスの設計
RISEを採用するかどうかの判断と並行して、社内側の体制とガバナンスの描き方を検討します。経営層・事業部門を含めたステアリングコミッティの設置、標準プロセスへの寄せ方を意思決定できるルール、導入後のアップデート対応・継続改善を担うチームの位置付けが重要です。
RISE/GROWの検討と並行してSAP導入の全体設計も進めるのが実務的です。特にFit to Standard率の算出はRISE/GROW選択の判断材料になるため、アセスメントフェーズで優先的に着手すべきタスクです。
クラウド移行の先にあるAI業務自動化を見据えるなら
RISE with SAPでクラウド基盤を整えたあとの次の課題は、その基盤上のデータを使って業務そのものを変えることです。経費精算・請求書処理・承認フローなど、クラウド化しても手作業が残るバックオフィス業務は、AIエージェントの導入余地が大きい領域です。
AI Agent Hubは、SAP Concurやfreee会計、Dynamics 365と連携し、AIエージェントがバックオフィス業務を自動実行するエンタープライズAI基盤です。RISEで移行したS/4HANA環境のデータにFabric OneLakeを通じてアクセスし、Teams上から呼び出すだけで業務が完結します。Azure Managed Applicationsとして自社テナント内で動作するため、RISEで確保したセキュリティ基準を崩すことなくAI活用を開始できます。
AI総合研究所は、Microsoft MVP / Solution Partner認定パートナーとしてSAPクラウド環境でのAI活用を支援しています。無料の資料で、AI Agent Hubのアーキテクチャと導入プロセスをご確認ください。
クラウドSAPのデータをAI業務自動化へ
RISE移行後のAI活用設計
S/4HANA Cloud環境のデータを活かし、経費精算・請求書処理・承認フローをAIエージェントが自動実行。自社テナント内で完結するセキュアなAI基盤です。
まとめ
RISE with SAPは、S/4HANA Cloudとクラウドインフラ、運用サービス、プロセス変革ツールを一体で提供する「Business Transformation as a Service」です。本記事の内容を3点に要約します。
-
RISE vs GROWの選択はFit to Standard率とアドオン資産で決まる
Private Edition(RISE)はECCデータの引き継ぎとカスタマイズが可能で大企業向け。Public Edition(GROW)は標準プロセス前提で中堅中小向け。自社のFit to Standard率を定量化することが選択の出発点
-
2025年4月のパッケージ再編で料金構造が変わった
3段階パッケージがCloud ERP Privateに統合。SAP Buildなど一部AI機能は含まれるが、旧Premium Plus相当の高度な機能はアドオン化。FUEライセンスの構成比と追加費用を含めた総コストで評価すべき。Transition Optionは2025年中契約ならアップリフトなし、2026年契約で20%増
-
FPS01(2026年3月)でAIエージェントとグローバル機能が強化
Change Record Management AgentやMultistage Intercompany機能が追加。Jouleの会話型AIも実用段階に入り、S/4HANAの標準機能として活用可能
SAP BTPによる拡張開発についてはSAP BTPの解説記事を、SAP導入の全体像については導入ガイドもあわせてご覧ください。






