この記事のポイント
Azure Monitorはメトリックとログを用いてAzureリソースを包括的に監視
パフォーマンスモニタリング、インフラ正常性監視、ログ管理などの主要機能を提供
一元化された監視体系と迅速な問題検出が可能だが、学習コストとデータ管理コストに注意が必要
従量課金制を採用し、データ量と保持期間に応じて料金が発生
他のAzureサービスとの連携により、より高度なクラウド監視ソリューションの構築が可能

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Azure Monitorは、単なる「監視」ツールから、システムの内部状態を深く理解するための「Observability(可観測性)プラットフォーム」へと大きな進化を遂げました。
本記事では、2025年の最新状況に基づき、Azure Monitorの新たな全体像を解説します。
業界標準である「OpenTelemetry」のネイティブサポートや、コンテナ監視のデファクトスタンダード「Prometheus」のマネージドサービス提供など、オープンソースとの連携を大幅に強化。従来のメトリックとログに加え、「分散トレーシング」を組み合わせた3本柱で、複雑なクラウドネイティブアプリケーションの問題を迅速に解決する方法を紹介します。
この記事を読めば、Azure環境における最新のObservabilityを実現し、システムの安定性とビジネスの成功に貢献するための具体的な知識を得られるでしょう。
Azureの基本知識や料金体系、利用方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
➡️Microsoft Azureとは?できることや各種サービスを徹底解説
Azure Monitorとは
Azure Monitorは、Microsoft Azureが提供する、クラウドネイティブアプリケーションやインフラの健全性を深く理解するための、包括的な「Observability(可観測性)」プラットフォームです。
従来の「監視(Monitoring)」がシステムの外部から状態を測る(例:CPU使用率が90%を超えた)ものだとすれば、「Observability」はシステム内部のデータ(メトリック、ログ、トレース)から、未知の問題を含め「なぜそうなったのか」を問い、理解する能力を指します。
2025年現在、Azure Monitorは業界標準であるOpenTelemetryを全面的に採用し、特定のベンダーにロックインされることなく、あらゆる環境からObservabilityデータを収集・分析するオープンなプラットフォームへと進化しています。

Azure Monitorの構造 (参考:Microsoft Learn)
Observabilityを支える3つの柱
Azure Monitorは、Observabilityの基本となる3種類のデータ(テレメトリ)を収集・分析します。
メトリック (Metrics)
CPU使用率やネットワークトラフィックなど、一定間隔で収集される数値データです。リソースのパフォーマンスや傾向を把握し、事前に定義した閾値(しきいち)に基づいてアラートを発報するのに適しています。「何が起きているか(What)」を素早く知るためのデータです。
ログ (Logs)
アプリケーションのイベントログやアクセスログなど、特定のイベント発生時に記録される構造化されたテキストデータです。Log Analyticsワークスペースに集約され、強力なクエリ言語KQL (Kusto Query Language) を使って、問題の詳細な原因調査やセキュリティ監査に利用されます。「なぜ起きたか(Why)」の調査に不可欠です。
トレース (Traces)
マイクロサービスアーキテクチャなどで、ユーザーのリクエストが複数のサービスをどのように経由して処理されたかを追跡するデータです。各処理の親子関係や所要時間が可視化され、パフォーマンスのボトルネック特定や、分散システムにおけるエラーの根本原因分析に絶大な効果を発揮します。「どこで問題が起きているか(Where)」を特定します。
Azure Monitorの主要機能とオープン標準への対応
Azure Monitorは、Observabilityを実現するために、オープン標準を取り込んだ多様な機能を提供します。
Application Insights (アプリケーションのObservability)
アプリケーションのパフォーマンスと利用状況を深く理解するための機能群です。OpenTelemetryをネイティブにサポートしており、開発者は使い慣れたオープンソースのライブラリを使って、コードを数行変更するだけで、詳細なトレースやカスタムメトリックを収集できます。これにより、パフォーマンスのボトルネック特定やエラーの根本原因分析が迅速に行えます。
インフラストラクチャの正常性監視
仮想マシン、コンテナ、ネットワークなど、インフラ全体の健全性を監視します。特にコンテナ環境(AKSなど)に対しては、デファクトスタンダードであるPrometheusのためのフルマネージドサービスを提供。既存のPrometheus資産を活かしながら、大規模なメトリック収集と分析をAzure上で簡単に行うことができます。
Log Analytics (ログデータ管理)
Azureリソース、アプリケーション、オンプレミスサーバーなど、あらゆるソースからのログを一元的に集約し、分析するための強力なエンジンです。KQLという高度なクエリ言語を使い、膨大なログデータから必要な情報を瞬時に引き出すことができます。
アラートとアクション
メトリックやログ、トレースのデータに基づき、柔軟な条件でアラートを定義できます。異常を検知した際に、メールやSMSでの通知はもちろん、WebhookやAzure Functionsを呼び出して、修復アクションを自動化することも可能です。
可視化 (ブック、ダッシュボード)
収集したデータを、対話形式で分析できる「ブック」や、定常的に監視するための「Azure ダッシュボード」を使って可視化します。これにより、複雑なシステムの状況を直感的に把握できます。
Azure Monitorのメリット
オープン標準による柔軟性と移植性
OpenTelemetryやPrometheusといった業界標準を全面的に採用しているため、特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」を回避できます。開発者は既存のスキルセットを活かせ、将来的に他のプラットフォームへ移行する際の障壁も低くなります。
統合されたObservability体験
メトリック、ログ、トレースがAzure Monitor内でシームレスに連携しています。例えば、アラートでパフォーマンスの低下(メトリック)を検知し、そこから関連するリクエスト(トレース)を特定、さらにそのリクエストに関する詳細なエラー情報(ログ)にドリルダウンする、といった横断的な分析が容易です。
データ駆動型の意思決定
収集された豊富なデータと高度な分析機能を活用することで、システムのパフォーマンス改善やコスト最適化、ユーザー体験の向上といった意思決定を、勘ではなくデータに基づいて行う文化を醸成します。
Azure Monitorのデメリットと考慮点
学習要件
Azure Monitorを最大限に活用するには、様々な技術要素の学習が必要です。ログ分析のためのKQL、コンテナ監視のためのPromQL、アプリケーション計装のためのOpenTelemetryの概念など、習得すべき知識は多岐にわたります。
コスト管理の複雑性
料金は主に収集・保持するデータ量に基づく従量課金制ですが、Prometheusマネージドサービスなど、コンポーネントごとに異なる課金モデルが存在します。監視対象が増えるとデータ量も増大するため、どのデータをどれくらいの期間保持するか、コストを意識した戦略的な設計が不可欠です。
【関連記事】
➡️Azureの料金計算ツールの利用方法!基本機能や円表示の手順を解説
Azure Monitorの料金体系
Azure Monitorの料金は、複数の要素から構成される従量課金制が基本です。
- Log Analytics / Application Insights: データを取り込んだ量 (GB単位) と、保持期間 (GB/月単位) に応じて課金されます。一定の無料枠が毎月提供されます。
- Prometheus マネージドサービス: 収集されたサンプル数、保存されるデータ量、実行されるクエリの量に基づいて課金されます。
- アラートルールと通知: 作成したアラートルールの数や、送信した通知(メールは無料枠あり、SMSや音声通話は有料)の量に応じて課金されます。
- データのエクスポート: データを外部のストレージなどにエクスポートする際にも料金が発生します。
大規模な環境では、事前にデータ量を予約して割引を受ける「容量予約」プランも選択可能です。
詳細な料金体系は、Microsoftの公式ドキュメントをご参照下さい。
Azure Monitorの価格(Microsoft公式)
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まとめ
Azure Monitorは、単なる監視ツールから、OpenTelemetryやPrometheusといったオープン標準を核に据えた、先進的なObservabilityプラットフォームへと進化しました。
メトリック、ログ、トレースの3本柱を統合的に扱うことで、複雑なクラウドネイティブシステムの「なぜ」を深く理解し、迅速な問題解決を可能にします。学習コストや料金管理といった側面もありますが、その強力な分析能力とオープン性は、システムの信頼性を高め、ビジネスの成長を支える上で不可欠なツールと言えるでしょう。










