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SAP Jouleとは?ビジネス向けAI Copilotの機能・使い方・料金を解説

この記事のポイント

  • SAP Jouleは、SAPのクラウドソリューションに組み込まれた生成AIアシスタントであり、自然言語での対話を通じて業務を支援する。
  • JouleはChatGPTのような大規模言語モデルを活用しつつ、SAPのリアルタイムなビジネスデータと連携して回答を生成する点で差別化されている。
  • Jouleの導入により、従業員の生産性向上、SAPソリューションの活用度向上、迅速な意思決定文化の醸成など、多くのビジネスメリットが得られる。
  • JouleはSAP Business AIの中核をなす存在であり、SAP BTP上のGenerative AI Hubを通じて複数のAIモデルにアクセスできる。
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

SAPのクラウドソリューションを利用している、または導入を検討している多くの企業にとって、「Joule(ジュール)」は今後無視できない重要なキーワードとなります。Jouleは、SAPが提供する最新のビジネスAIアシスタントであり、私たちの働き方を根底から変える可能性を秘めています。
この記事では、SAP Jouleがこれまでのチャットボットと何が違うのか、具体的な業務でどのように役立つのか、そしてその裏側にある技術や導入方法に至るまで、その全貌を分かりやすく解説します。

SAP Jouleとは?~日常業務のためのAIアシスタント~

SAP Joule とは
出典:SAP Joule

SAP Joule(ジュール)とは、SAPが提供する様々なクラウドソリューションに横断的に組み込まれた、自然言語で対話できる生成AIアシスタント(Copilot)です。

ユーザーは、まるで賢い同僚に話しかけるように「〇〇を教えて」「〇〇をして」と指示するだけで、複雑なSAPのシステムから必要な情報を引き出したり、定型業務を実行したりすることが可能です。

MicrosoftのCopilotについて知っておくことでJouleについてさらに深くイメージすることができます。
まだMicrosoft Copilotについてあまり分からないという方は以下の記事もぜひご覧ください。

Microsoft Copilot(Bing AI)とは?できることや使い方、料金体系を徹底解説

Jouleを一言で言うと:「SAP版Copilot」

Jouleを最もシンプルに理解するなら、iPhoneにおける「Siri」のSAP版と考えると分かりやすいでしょう。

これまでのシステムは、ユーザーがメニューの場所や操作方法(専門的なトランザクションコードなど)を覚えて、システムに合わせる必要がありました。
しかしSAP Jouleは、システム側がユーザーの「話し言葉」を理解し、業務をサポートしてくれるため、これまでとは比べ物にならないほどユーザー体験を大きく向上させることができます。

ChatGPTと何が違うのか?:「ビジネスデータ」との連携

JouleはChatGPTのような汎用的な大規模言語モデル(LLM)の能力を活用していますが、決定的な違いが一つあります。それは、SAPアプリケーション内のリアルタイムな「ビジネスデータ」と連携して回答を生成する点です。

ChatGPTをはじめとした一般的なAIがインターネット上の不確かな情報源から回答を生成する可能性があるのに対し、Jouleは自社の売上データ、人事情報、サプライチェーンの状況といった、具体的で信頼できる社内データに基づいて応答します。これにより、ビジネスの現場でそのまま活用できる、業務に即した信頼性の高いアウトプットが可能になります。

なぜ今Jouleが重要なのか?~SAPがAIアシスタントを提供する理由~

SAPがJouleを提供する背景には、多くの企業が抱える生産性向上の課題と、複雑なエンタープライズシステムの現実があります。

複雑なSAP操作の簡素化

SAPは非常に高機能ですが、その反面、全ての機能を使いこなすのは専門家でも容易ではありません。ある調査では、多くの従業員がSAPシステムが持つ機能の10%程度しか活用できていないとも言われています。

Jouleは、この「活用の壁」を取り払う役割を担います。ユーザーは複雑で専門的なトランザクションコードやメニュー構造を覚える必要がなくなり、「会話」するだけで必要な業務を実行できるようになります。

従業員の生産性向上と意思決定の迅速化

Jouleは、レポート作成やデータ検索といった日常的なタスクを自動化することで、従業員を単純作業から解放します。これにより、従業員はより戦略的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。

また、経営層や管理職は、必要な時に必要なデータを即座に入手できるため、データに基づいた迅速な意思決定が可能になり、ビジネスチャンスを逃しません。

Joule導入のメリットと注意点

Jouleを導入することで企業は大きなメリットを得られますが、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかの注意点も存在します。

導入のメリット

Jouleを導入することで、企業は従業員の生産性を向上させ、データ活用の文化を醸成できます。代表的なメリットは以下の通りです。

  • 全従業員の生産性向上: レポート作成や情報検索などの定型業務を自動化し、従業員が付加価値の高い仕事に集中できる時間を創出します。

  • SAPソリューションの活用度向上: 専門家でなくても高度な機能を使えるようになり、高額なIT投資のROI(投資対効果)を最大化します。

  • データに基づいた迅速な意思決定文化の醸成: 経営層から現場まで、誰もが必要なデータに即座にアクセスできる環境を実現します。

これらのメリットは、結果として企業全体の競争力強化に繋がります。

導入時の注意点

一方で、AIを業務に導入する際には、技術的な側面だけでなく、運用面での準備も不可欠です。

  • AIが出力する情報の正確性の確認: Jouleは高い精度を誇りますが、最終的な意思決定の前に、出力された情報が正しいかを人間が確認するプロセスは依然として重要です。

  • 従業員へのAI活用トレーニング: Jouleを効果的に使いこなすためのプロンプト(指示)の出し方など、従業員向けのトレーニングやガイドラインの整備が求められます。

  • 機密情報の取り扱いに関するガイドライン策定: AIとの対話において、どの範囲までの情報を扱うべきか、社内ルールを明確にしておく必要があります。

これらの注意点を踏まえ、計画的に導入を進めることが成功の鍵となります。

Jouleで何ができる?部門別ユースケース

Jouleの真価は、具体的な業務シーンでどのように活用できるかにあります。単なる質疑応答だけでなく、「要約」「分類」「生成」「実行」といった多様なタスクに対応します。

ここでは、部門ごとの典型的なユースケースを、対話形式の指示例と共に、以下の表にまとめました。

部門 具体的なユースケース(指示の例) Jouleが提供する価値
人事 (SuccessFactors) 「この職務要件に合う候補者を社内からリストアップし、偏見のない面接質問案を作成して」 採用プロセスの迅速化と公平性の確保
営業 (Sales Cloud) 「A社の過去の購買履歴を要約し、アップセルの提案メール案を作成して」 営業活動の高度化と効率化
購買 (Ariba) 「納期遅延のリスクがある発注を特定し、サプライヤーへの督促メール案を作成して」 サプライチェーンリスクの早期検知と低減
開発・エンジニアリング 「販売オーダーを取得するABAPコードのサンプルを生成して」「このコードをリファクタリングして」 開発工数の削減と品質向上
財務 (S/4HANA Cloud) 「第3四半期の地域別売上トップ5を棒グラフで表示して」 専門家でなくても迅速なデータ分析が可能に

このように、Jouleは様々な部門の日常業務に溶け込み、具体的なアクションを支援することで、企業全体の生産性を向上させます。

Jouleを支える技術とアーキテクチャ

Jouleの利点は、単に優れたAIモデルを使っているだけではありません。SAPのビジネスデータと安全に連携するための、独自のアーキテクチャに基づいています。

SAP Business AIの中核としてのJoule

Jouleは、SAPのAI戦略である「SAP Business AI」の中核をなす存在です。SAP Business AIは、JouleのようなAIアシスタントだけでなく、請求書読み取りなどのAI部品や、開発者向けのAI基盤までを含む、包括的なAIサービスの総称です。JouleはこれらのAI機能と連携し、組織横断的な業務効率化を実現します。

SAP Jouleを深く理解するためにはSAP Business AIの理解も必要になってきます。こちらで詳しく解説しているので気になる方はぜひ併せてお読みください。

SAP Business AIとは?機能、Jouleとの関係、料金体系を徹底解説

技術基盤「SAP BTP」と「Generative AI Hub」

SAP BTP
出典:SPA Business Technology Platform

Jouleの頭脳は、SAP Business Technology Platform (BTP)の上で稼働しています。特に「Generative AI Hub」という機能が重要です。

Generative AI Hubは、単一のAIモデルに依存するのではなく、OpenAI (ChatGPT)、Meta (Llama 2)、Cohere、Aleph Alphaなど、複数のベンダーが提供する最先端の大規模言語モデル(LLM)へのアクセスが可能です。これにより、Jouleは常にタスクに最適なAIエンジンを選択して利用できる、高い柔軟性と拡張性を確保しています。

▼SAP BTPについての詳細はこちら▼
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Jouleの信頼性:ビジネスデータに基づいた回答生成(Grounding)

Jouleがビジネスで信頼できる最大の理由は、「グラウンディング(Grounding)」と呼ばれる技術にあります。ユーザーからの質問を受け取ると、JouleはまずSAPシステム内の関連データを検索し、その事実情報に基づいて回答を生成します。

この仕組みにより、AIがもっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」のリスクを大幅に低減し、自社のビジネスコンテキストに沿った精度の高いアウトプットを実現できるのです。

エコシステムの連携:Microsoft Copilot等との協調

SAPは、Jouleを単独のAIアシスタントとしているわけではなく、他の主要なAIツールとの連携も進めています。実際に、Microsoft Teams上でCopilotに質問をすると、JouleがバックグラウンドでSAPシステムからデータを取得して回答するといったデモンストレーションも公開されています。

これにより、ユーザーは使い慣れたツールからSAPの能力をスムーズに引き出すことが可能なのです。

Jouleの導入方法とライセンス

Jouleはどのように利用を開始できるのでしょうか。現在の提供状況と、今後のライセンス体系に関する情報を解説します。

現在の提供状況:主要クラウド製品への順次組み込み

Jouleは、新しい独立した製品として販売されるのではなく、対象となるSAPのクラウドソリューションへの段階的な統合(ロールアウト)が進められています。

全てのクラウド製品ですぐに利用できるわけではないため、自社が利用中の製品が対象かどうかは、SAPの公式ロードマップ等で確認する必要があります。

特に、クラウド移行の標準パッケージである「RISE with SAP」を利用している企業では、Jouleが標準機能として順次利用可能になっています。

料金体系:既存ライセンスへのバンドルと将来の展望

現時点では、Jouleの基本機能は対象となるクラウド製品のライセンスに含まれ、追加費用なしで提供されています。しかし、SAPは将来的に、より高度な機能を提供するための有償オプションを計画しています。

その中核となるのが「Joule Studio」です。これは、企業が独自のAIエージェントを開発・拡張するためのツールであり、専門家でなくても業務特化型のAIアシスタントを構築できるようになる可能性があります。こうした高度な機能は、将来的にプレミアム(有償)ライセンスとして提供されると見られています。

SAP Jouleに関わるキャリアと求められるスキル

JouleのようなビジネスAIの登場は、コンサルタントやエンジニアの役割にも変化をもたらします。今後求められるスキルセットについて考察します。

業務プロセスの自動化・最適化スキルの重要性

AIが定型業務を代行するようになると、SAPコンサルタントや業務担当者には、単にシステムを設定するだけでなく、「AIをどのように活用すれば、業務プロセス全体を最も効率化できるか」をデザインする能力が、より一層求められるようになります。

開発者支援(Joule for Developers)

Jouleはビジネスユーザーだけでなく、技術者の生産性向上にも大きく貢献します。「Joule for Developers」機能により、ABAPコードの補完・テスト生成・リファクタリングなど、開発業務を大幅に効率化できます。この領域のスキルを持つエンジニアは、非常に高い市場価値を持つことになるでしょう。

FAQ:SAP Jouleに関するよくある質問

Jouleに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. Jouleは日本語に対応していますか?

A. はい、Jouleは日本語を含む複数の言語に対応しています。自然な日本語で質問や指示を出すことが可能です。

Q2. データのセキュリティは安全ですか?

A. はい。Jouleとの対話データや、JouleがアクセスするSAPシステム内のデータは、すべてお客様が契約しているSAPのテナント(仮想的な専用領域)内で安全に処理されます。これらのデータが、外部の汎用AIモデルの学習に利用されることはありません。

Q3. Jouleはオンプレミス版のSAP ERPでも使えますか?

A. いいえ。現在のところ、JouleはSAPの最新のクラウドソリューション向けに提供されており、旧来のオンプレミス版SAP ERP(ECC 6.0など)では利用できません。

まとめ:JouleはSAPの操作性を変革するゲームチェンジャー

本記事では、SAPのビジネスAIアシスタント「Joule」について、その基本機能から具体的な活用例、技術的な背景までを網羅的に解説しました。

Jouleは、単なるチャットボットではありません。それは、企業の心臓部であるSAPの複雑なシステムと、現場で働く従業員との間に立つ、賢い「通訳」のような存在です。

これまで専門家しか引き出せなかったSAPの深い価値を、すべての従業員が会話を通じて引き出せるようになる。Jouleは、企業の生産性を根底から変革する可能性を秘めた、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

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