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SAP Business AIとは?機能、Jouleとの関係、料金体系を徹底解説

この記事のポイント

  • SAP Business AIは、SAPが提供するアプリケーションおよびプラットフォーム全体に組み込まれたビジネス特化型のAI機能の総称である。
  • SAP Business AIは、Relevant(関連性)、Reliable(信頼性)、Responsible(責任)の3つの原則に基づいて設計されている。
  • SAP Business AIは、AIアシスタント(Joule)、AIサービス(AI Business Services)、AI基盤(AI Foundation)の3つの階層で構成されている。
  • それぞれの階層は異なるユーザー層と目的に対応し、連携することで包括的なAI活用を実現している。
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

デジタルトランスフォーメーションが加速する現代において、AI(人工知能)はビジネス成長に不可欠な要素となりつつあります。SAPもまた、AIを自社のソリューションに深く統合する戦略を強力に推進しており、その中核をなすのが「SAP Business AI」です。
しかし、その全体像は広く、JouleやBTPといった関連用語との関係性も複雑で、理解が難しいと感じる方も多いでしょう。
この記事では、SAPのAI戦略に関心を持つビジネスリーダーやIT担当者の方々に向けて、SAP Business AIの基本理念から、具体的な機能を提供する3つの階層コンポーネント、導入方法に至るまで、その全貌を体系的に解説します。

SAP Business AIとは?~ビジネスに組み込まれた実践的AI~

SAP Business AIとは
出典:SAP|SAP Business AI

SAP Business AIとは、SAPが提供するアプリケーション、およびそれを支えるプラットフォーム全体に組み込まれた、ビジネス特化型のAI機能の総称です。

これは特定の製品を示すものではなく、SAPが展開する製品群全体をより賢く運用するための包括的な戦略と技術体系を指します。
特徴は、AIを強調すること自体が目的ではなく、企業の業務プロセスに組み込み、実際に役立つ成果を生み出すことに主軸を置いている点です。

▼SAP Business AIを提供しているSAPについての詳細はこちらをご覧ください▼
SAPとは?ERPの基本からS/4HANA、2027年問題、キャリアまでを徹底解説

SAPのAIにおける3つの原則

SAPは、ビジネスにおけるAI活用において、以下の3つのRを基本原則として掲げています。

  • Relevant(関連性): AIが、常にユーザーの業務内容やビジネスの文脈に関連した、意味のある結果を提供すること。

  • Reliable(信頼性): AIが、企業の正確なデータに基づいて、常に信頼できる、一貫した結果を提供すること。

  • Responsible(責任): AIが、倫理基準やデータプライバシーを遵守し、責任ある形で利用されること。

この3原則が、SAP Business AIのすべての機能の設計思想となっています。

Jouleとの関係:Business AIは「能力」、Jouleは「アシスタント」

「SAP Business AI」と、「Joule」の関係は、JouleがSAP Business AIの強力な「能力」を活用してユーザーと対話する「窓口」または「アシスタント」と理解すると分かりやすいでしょう。

SAP Business AIが提供するデータ分析やプロセス自動化といった様々なAIの力を、Jouleという対話インターフェースを通じて、すべての従業員が簡単に引き出せるようになります。

SAP Business AIのメリットと導入時の注意点

SAP Business AIを導入することで、企業はどのような価値を得られるのでしょうか。そのメリットと、AIをビジネスに導入する上での注意点を解説します。

メリット:生産性向上、イノベーション創出、意思決定の高度化

  • 生産性向上: 請求書処理やレポート作成といった定型業務を自動化し、従業員をより創造的な業務にシフトさせます。

  • イノベーション創出: 顧客データや生産データをAIで分析することで、新しいサービスのアイデアや、業務改善のヒントを発見できます。

  • 意思決定の高度化: 経営層は、AIによる需要予測やリスク分析の結果に基づき、よりデータドリブンで精度の高い意思決定を行えるようになります。

注意点:データ品質の重要性、AI倫理とガバナンス

AIはデータから学習するため、入力されるデータの品質が、AIの出力品質を直接左右します。不正確なデータや古いデータからは、誤った分析結果しか生まれません。AI導入を成功させるには、まず社内のデータ整備(データマネジメント)が不可欠です。

また、AIの判断プロセスがブラックボックスにならないよう透明性を確保することや、個人情報の取り扱いに配慮するなど、AI倫理と企業としてのガバナンス体制を確立することも極めて重要です。

SAP Business AIの全体像:3つの階層コンポーネント

SAP Business AIは、ユーザー層や目的に応じて、大きく3つの階層で構成されています。この全体像を理解することが、SAPのAI戦略を把握する鍵となります。

階層 ターゲットユーザー 役割 / 概要
AIアシスタント 全従業員 AIとの対話を行う「顔」「接客係」。自然言語でSAPの機能を実行する。
AIサービス 業務担当者・開発者 すぐに使えるAIの「機能部品」。特定の業務プロセスにAIを組み込む。
AI基盤 開発者・IT部門 独自のAIを開発・運用する「工場と道具」。高度な要件に対応する。

これら3つの階層が連携することで、SAPはあらゆるレベルのAI活用ニーズに応えています。以下、各階層について詳しく見ていきましょう。

【第1階層】AIアシスタント:SAP Joule

SAP Jouleのイメージ画像
出典:SAP|SAP Joule

ユーザーが最も直接的に触れることになるのが、AIアシスタントの「Joule」です。
Jouleは、SAP Business AIの機能をどのように日々の業務へ取り込み、実際の作業に役立てるのかを具体的に示す存在です。

自然言語によるSAP操作の実現

Jouleの最も大きな価値は、複雑なSAPの操作を自然言語での対話に置き換える点にあります。ユーザーはトランザクションコードを覚える必要なく、「〇〇のレポートを作成して」と指示するだけで、Jouleが背後にあるSAP Business AIの能力を使ってタスクを実行します。

部門別ユースケース

Jouleは、人事管理から財務、開発に至るまで、様々なSAPのクラウドソリューションに組み込まれ、各部門の業務を支援します。

部門 具体的なユースケース(Jouleへの指示例)
人事 「この職務要件に合う候補者を社内からリストアップして」
営業 「A社の過去の購買履歴を要約し、アップセルの提案を作成して」
財務 「第3四半期の地域別売上トップ5をグラフで表示して」
開発 「販売オーダーを取得するためのABAPコードを補完して」

SAP Jouleについては下記でさらに詳しく解説しています。
SAP Jouleとは?ビジネス向けAI Copilotの機能・使い方・料金を解説

【第2階層】AIサービス:SAP AI Business Services

特定のビジネスプロセスを自動化・高度化するために、あらかじめSAPが用意したAIの「機能部品」がAI Business Servicesです。これを活用することで、企業はAI開発の専門知識がなくても、短期間でAIを業務に取り入れることができるようになります。

具体的なサービス例

AI Business Servicesには、以下のような実用的なサービスが含まれています。

  • Document Information Extraction: PDF形式の請求書や注文書をアップロードするだけで、AIが支払先、金額、品目といったデータを自動で読み取り、システムに登録します。

  • Data Attribute Recommendation: 新しい商品マスタを登録する際に、商品説明文をAIが分析し、適切な商品カテゴリや属性を推測して入力候補を提示します。

【第3階層】AI基盤:SAP AI Foundation(BTP上)

既製のAIサービスでは満たせない、企業独自の高度な要件に応えるのが、開発・運用基盤であるSAP AI Foundationです。これは、SAPの技術基盤であるSAP Business Technology Platform (BTP)上で提供されます。

AI Foundation
出典:AI Foundation

独自のAIモデルを開発・運用するための「SAP AI Core」

SAP AI Coreは、企業が独自に開発したAIモデルや、オープンソースのAIモデルを、SAPのシステム環境で安定して稼働させるための実行基盤です。AIモデルのトレーニング、デプロイ、そして本番環境での監視といった、AIのライフサイクル全体を管理する機能を提供します。

複数LLMへアクセスする窓口「Generative AI Hub」

Generative AI Hubは、SAP Business AIの柔軟性を象徴する機能です。これは、OpenAI (ChatGPT)、Microsoft Azure OpenAI、Cohere、Aleph Alpha、Meta (Llama 2/3)など、様々なベンダーが提供する最先端の大規模言語モデル(LLM)へのアクセスを一元管理する、中立的な窓口の役割を果たします。

これにより、企業は特定のAIモデルに縛られることなく、自社の目的に最も適したAIエンジンを選択して利用できます。

AIプロジェクトを一元管理する「SAP AI Launchpad」

SAP AI Launchpadは、企業内で利用されている様々なAIモデルやプロジェクトを、一つの画面で管理・監視するためのダッシュボードです。これにより、IT部門はAIの利用状況やパフォーマンスを可視化し、企業全体のAI活用を統制(ガバナンス)することが可能になります。

SAP Business AIの導入方法と料金体系

SAP Business AIはどのように導入し、どのようなコストがかかるのでしょうか。その提供形態とライセンスの考え方について解説します。

提供形態:「RISE with SAP」などを通じた組み込み提供

SAP Business AIの多くの機能は、独立した製品として販売されるのではなく、SAP S/4HANA Cloudや各種LoBソリューションといった、既存のクラウド製品に組み込まれる形で提供されます。
ただし、利用可能になる時期は製品ごとに異なり、順次展開(ロールアウト)されるため、自社で利用したい機能がいつ提供されるかは、SAPの公式ロードマップで確認することが重要です。

特に、SAPのクラウド移行パッケージである「RISE with SAP」や「GROW with SAP」を契約している企業は、Jouleをはじめとする多くのAI機能を標準機能として利用できるケースが増えています。

料金体系の考え方:CPEAクレジットとライセンスバンドル

SAP Business AIの料金体系は、機能によって異なります。

  • Jouleや基本的な組み込みAI: 多くは対象となるクラウド製品のライセンスに**バンドル(同梱)**されており、追加費用なしで利用できます。

  • AI Business ServicesやAI Foundation: これらのより専門的なサービスは、多くの場合、**CPEA (Cloud Platform Enterprise Agreement)**という従量課金モデルの契約を通じて利用します。これは、あらかじめ購入した「クレジット」を、サービスの利用量に応じて消費していく仕組みです。

FAQ:SAP Business AIに関するよくある質問

SAP Business AIに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. SAP Business AIはオンプレミス環境で使えますか?

A. いいえ。SAP Business AIの主要な機能は、SAPの最新のクラウドソリューションとBTP上で提供されるため、原則としてクラウド環境での利用が前提となります。旧来のオンプレミス版ERPでは利用できません。

Q2. データのセキュリティとプライバシーはどのように保護されますか?

A. SAP Business AIは、企業のデータがお客様自身のテナント(仮想的な専用領域)内で安全に処理されるように設計されています。お客様のデータが、外部の汎用AIモデルの学習データとして利用されることはありません。

Q3. 過去の「SAP Leonardo」とは何が違うのですか?

A. 「SAP Leonardo」は、かつてSAPが提供していたIoTやAIといった先進技術のブランド名です。現在はその役割を終え、Leonardoが目指した機能は、より具体的で実用的な形で「SAP Business AI」や「SAP BTP」上の個別のサービスとして提供されています。Business AIは、Leonardoの時代よりもさらにビジネスプロセスに深く統合されている点が大きな違いです。

まとめ:SAP Business AIは「使えるAI」を目指す戦略の総称

本記事では、SAP Business AIの全体像を、その基本理念から3つの階層コンポーネント、そして導入方法に至るまで、体系的に解説しました。

SAP Business AIは、単に最新のAI技術を並べたものではありません。それは、AIアシスタントの「Joule」を窓口とし、企業のあらゆる業務プロセスにAIを深く組み込むことで、すべての従業員がその恩恵を受けられるように設計された、ビジネス現場で「実際に使えるAI」を目指す包括的な戦略の総称なのです。

この戦略を理解することは、今後のSAPソリューションの活用、ひいては企業のDX推進の方向性を考える上で、極めて重要と言えるでしょう。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

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