この記事のポイント
ID同期の2大ツール「Entra Connect(サーバー同期)」と「Cloud Sync」を比較解説
シンプルな同期には「Cloud Sync」、複雑な要件には「Connect V2」が基本
サポートが終了した旧バージョン(V1)からの移行が必須である点を警告
シングルサインオンやID管理簡素化といったハイブリッドIDの共通メリットを説明
同期状態を監視する「Connect Health」にはEntra ID P1以上のライセンスが必要

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
オンプレミスActive DirectoryとクラウドIDの連携は、ハイブリッド環境の根幹をなす重要な課題です。
現在、マイクロソフトはこの課題に対し「Microsoft Entra Connect (サーバー同期)」と、より新しい「Microsoft Entra Cloud Sync」という2つの主要なソリューションを提供しています。
この記事では、単にEntra Connectを解説するだけでなく、これら2つのツールの違いを明確に比較し、あなたの組織の要件に最適なのはどちらかを判断するための情報を提供します。
旧バージョン(V1)のサポートが終了した今、V2へのアップグレードやCloud Syncへの移行は多くの管理者にとって喫緊の課題です。この記事を参考に、自社のID管理戦略を最新化し、セキュリティと効率性を向上させましょう。
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目次
Microsoft Entra Connectとは(旧 Azure AD Connect)
Microsoft Entra Connect と Cloud Sync の比較
Microsoft Entra Connectとは(旧 Azure AD Connect)
Microsoft Entra Connectは、オンプレミスのActive Directory (AD) とクラウドのMicrosoft Entra IDを統合し、ハイブリッドなID環境を実現するためのソリューションです。
2025年現在、このソリューションは主に2つのツールで構成されています。
- Microsoft Entra Connect (サーバー同期 / V2): 従来から提供されている、多機能でカスタマイズ性の高いサーバーベースの同期ツール。
- Microsoft Entra Cloud Sync: より新しく、軽量なエージェントを使用するクラウドマネージドな同期ツール。
主な役割は、ユーザーやグループといったIDオブジェクトをオンプレミスとクラウドの間で同期することで、従業員はどちらの環境でも同じ認証情報(シングルサインオン)を使えるようになります。
IT管理者にとっては、どちらのツールを選ぶかが、ID管理の効率性と将来の拡張性を左右する重要な判断となります。
【関連記事】
→Microsoft Entra ID(Azure AD)とは?機能やAzure ADとの違いを解説

Microsoft Entra Connectのアイコン
Microsoft Entra Connect と Cloud Sync の比較
組織のID管理を成功させる鍵は、この2つのツールの違いを理解し、適切な方を選択することです。
| 特徴 | Microsoft Entra Connect (サーバー同期 / V2) | Microsoft Entra Cloud Sync |
|---|---|---|
| アーキテクチャ | オンプレミスに同期サーバーが必要 | 軽量なエージェントをオンプレミスに導入 |
| 管理 | 同期サーバー上で管理 | クラウド(Entraポータル)から管理 |
| 主な用途 | 複雑な要件、大規模な組織 | シンプルな同期、小〜中規模組織 |
| 対応シナリオ | ・パスワードハッシュ同期 ・パススルー認証 ・フェデレーション(AD FS) ・デバイス同期(Hybrid Join) ・パスワードライトバック |
・パスワードハッシュ同期 ・複数のオンプレミスADフォレストからの同期 |
| 非対応シナリオ | - | ・デバイス同期 ・パススルー認証 ・フェデレーション(AD FS) |
結論として、シンプルなユーザー・グループ同期が目的で、管理を簡素化したい場合は「Cloud Sync」が第一候補となります。一方で、デバイスの同期やAD FS連携など、より高度で複雑な要件がある場合は、依然として「Connect (サーバー同期)」が必要です。
ハイブリッドID同期のメリット
どちらのツールを選択しても、オンプレミスとクラウドのIDを同期することで、管理者と利用者の両方に共通のメリットがあります。
利用者側のメリット
- シングルサインオン(SSO)
利用者は、オンプレミスとクラウドの両方のリソースに対して、同じ認証情報でアクセスできます。これにより、複数のパスワードを覚える必要がなくなり、生産性が向上します。
- 一貫したユーザーエクスペリエンス
オンプレミスとクラウドがシームレスに統合されているため、利用者はどこからでも一貫した操作性を享受できます。
管理者側のメリット
- ID管理の簡素化
オンプレミスのADでユーザー管理を行えば、その変更が自動的にクラウドに反映されるため、二重管理の手間が省けます。
セキュリティとコンプライアンスの向上
多要素認証(MFA)や条件付きアクセスポリシーなど、Microsoft Entra IDの高度なセキュリティ機能を、オンプレミスから同期されたユーザーに一律で適用できます。
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料金プランについて
Microsoft Entra Connect (サーバー同期) と Cloud Sync の同期機能自体は、Microsoft Entra IDのライセンスエディション(Free, P1, P2)を問わず、無料で利用できます。

*参考:Microsoft
ただし、オンプレミスのIDインフラ(同期サーバーやAD FS)の状態を監視するためのMicrosoft Entra Connect Healthを利用するには、以下のいずれかのライセンスが必要です。
- Microsoft Entra ID Premium P1
- Microsoft Entra ID Premium P2
Connect Healthは、同期エラーの特定やパフォーマンス監視に非常に有効なツールのため、安定した運用を目指す場合はPremium P1以上のライセンスの導入を強く推奨します。
実装と監視
ハイブリッドID環境を適切に実装し、運用を監視することは、安定したサービス提供のために不可欠です。
実装のポイント
- 要件定義とツール選択
まず自社の要件(デバイス同期は必要か、AD FS連携は必要か等)を洗い出し、「Connect (サーバー同期)」と「Cloud Sync」のどちらが適切かを判断します。
- 入念な計画
同期する組織単位(OU)や属性、同期スケジュールなどを事前に計画します。
- 段階的な展開
いきなり全ユーザーを対象にせず、テスト用のOUや少人数のパイロットグループから同期を開始し、問題がないことを確認してから範囲を拡大します。
- バックアップと復元
特にConnect (サーバー同期) を利用する場合、不測の事態に備えて、同期サーバーの構成情報のエクスポートなどのバックアップ計画を用意します。
監視ツール:Microsoft Entra Connect Health
Microsoft Entra Connect Healthは、オンプレミスのIDインフラの健全性を監視し、問題の検出と解決を支援するクラウドサービスです。
主な機能は以下の通りです。
- 同期エラーの検出・レポート
同期プロセスで発生したオブジェクトレベルのエラーを特定し、解決策に関するガイダンスを提供します。
- パフォーマンス監視
同期サーバーのCPUやメモリ使用率、同期のレイテンシなどを監視し、パフォーマンスの問題を特定します。
- アラート
同期サービスが停止した場合や、重要なエラーが発生した場合に、管理者に通知します。
Microsoft Entra Connect Healthを活用することで、管理者は同期サービスの安定運用と迅速な問題解決を実現できます。
まとめ
本記事では、Microsoft EntraのハイブリッドID同期ソリューションについて解説しました。従来の「Microsoft Entra Connect (サーバー同期)」に加え、新しい「Cloud Sync」が登場したことで、企業は自社のニーズに合った最適なツールを選択できるようになりました。
- シンプルな同期や管理の容易さを求めるならCloud Sync
- デバイス同期やAD FS連携など高度な要件があるならConnect V2
という使い分けが重要です。また、旧バージョン(V1)はサポートが終了しているため、最新バージョンへの移行は必須です。
どちらのツールを選んでも、シングルサインオンやID管理の簡素化といったメリットを享受できます。適切なツールを選択・実装し、Connect Healthで監視することで、安全で効率的なハイブリッドIT環境を実現できるでしょう。










