この記事のポイント
Azure Functionsは、イベントをトリガーにコードを実行するサーバーレスコンピューティングサービス
.NET開発では、最新の.NETバージョンが利用でき、依存関係の競合がない「分離ワーカーモデル」が推奨される
複数の関数を連携させる「Durable Functions」により、複雑なステートフルワークフローを構築可能
新しい「Flex Consumption Plan」は、従量課金のコスト効率とPremiumプランの高度な機能を両立
2025年にはAI連携を強化するAzure SQLトリガーや、Python 3.13、Java 21など最新言語のサポートが追加

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
Azure Functionsは、.NET分離ワーカーモデルやDurable Functionsといったアーキテクチャの進化、そしてFlex Consumptionという新しい料金プランの登場により、単なるイベント駆動ツールから、高度なワークフローを構築するためのプラットフォームへと進化しています。
本記事では、Azure Functionsの基本から、.NET開発者が知るべきプログラミングモデルの選択、複雑なワークフローを実現するDurable Functionsのパターン、そして4つの料金プランの比較まで、2025年現在の最新情報を基に専門家が徹底解説します。
これからAzure Functionsを始める方、そして既存のアプリケーションのアーキテクチャを見直したい方にとって、必見の内容です。
Azure Functionsとは
Azure Functionsは、マイクロソフトのAzureクラウドプラットフォーム上で動作するサーバーレスコンピューティングサービスです。
このサービスは、「関数」という小さなコードの単位でプログラムを実行することを可能にします。開発者はサーバーのセットアップやOSのアップデート、セキュリティパッチの適用といったインフラ管理をAzureに任せ、ビジネスロジックの実装に集中できます。

Azure Functions画像
Azure Functionsの最大の特徴は、イベント駆動型である点です。HTTPリクエスト(APIの呼び出し)、データベースの変更、メッセージキューへの新しいメッセージの追加、タイマー(定時実行)など、様々な「イベント」をきっかけ(トリガー)として、自動的にコードが実行されます。
需要の増減に応じてコンピューティングリソースが自動的にスケール(増減)し、基本的にリソースを使用した分だけ料金を支払うため、コスト効率に優れています。これにより、開発者はインフラを意識することなく、迅速にビジネス価値を創出できます。
.NETプログラミングモデルの選択:分離ワーカーモデルとは
Azure Functionsを.NETで開発する際、現在2つのプログラミングモデルが存在します。これは開発の進め方や将来のメンテナンス性に大きく影響するため、両者の違いを理解し、適切なモデルを選択することが極めて重要です。
In-Processモデル vs 分離ワーカーモデル
結論から言うと、これから新しいプロジェクトを始める場合、マイクロソフトは「分離ワーカーモデル(Isolated Worker Model)」の利用を強く推奨しています。
| 観点 | In-Processモデル (旧) | 分離ワーカーモデル (新・推奨) |
|---|---|---|
| プロセスの関係 | Functionsの実行プロセス内でコードが動く | Functionsの実行プロセスとは別のプロセスでコードが動く |
| .NETバージョン | Functionsランタイムに固定 (LTS版のみ) | 自由に選択可能 (最新の.NET 8や、LTSでないバージョンも可) |
| 依存関係 | ランタイムと共有。ライブラリのバージョン競合リスクあり | 完全に分離。競合のリスクなし |
| 起動と設定 | Startup.cs を使用 |
標準的な Program.cs を使用 (ASP.NET Coreに近い) |
| サポート | 2026年11月10日にサポート終了予定 | 今後のAzure Functions for .NETの標準 |
In-Processモデルは、従来から提供されているモデルで、パフォーマンス面で僅かな利点がありますが、Functionsの実行ランタイムと同じプロセスで動作するため、利用できる.NETのバージョンが制限されたり、他のライブラリとの依存関係で競合が発生したりする課題がありました。
一方、分離ワーカーモデルは、その名の通り、実行ランタイムとは別のプロセスで.NETコードが動作します。これにより、ライブラリの競合を心配することなく、.NET 8のような最新のフレームワークを自由に利用できます。また、プログラムの起動処理も標準的な.NETアプリケーションに近いため、多くの.NET開発者にとって馴染みやすいモデルと言えるでしょう。
サポート終了が明言されていることからも、特別な理由がない限り、新規開発では分離ワーカーモデルを選択することが、将来を見据えた賢明な判断となります。
複雑なワークフローを実現する「Durable Functions」
Azure Functionsは個々の関数をイベント駆動で実行するのに適していますが、複数の関数を連携させて、順次実行、並列実行、人間の承認を待つ、といった複雑な処理フロー(ワークフロー)を構築するには、**Durable Functions(持続的な関数)**という拡張機能を利用します。
Durable Functionsとは
Durable Functionsは、サーバーレス環境で「ステートフル(状態を持つ)」なワークフローをコードで定義できるようにするフレームワークです。通常、サーバーレス関数はステートレス(状態を持たない)ですが、Durable FunctionsはAzure Storageを利用して関数の実行状態を自動的にチェックポイントとして保存・管理(オーケストレーション)してくれます。
これにより、開発者は複雑な状態管理の仕組みを自前で実装することなく、信頼性の高いワークフローを構築できます。
代表的なアプリケーションパターン
Durable Functionsには、複雑なワークフローを簡単に実現するための、いくつかの実証済みアプリケーションパターンが用意されています。
-
関数チェーン (Function Chaining)
一連の関数を特定の順序で次々に実行する最も基本的なパターンです。「関数Aの出力」を「関数Bの入力」として渡し、処理を繋げていきます。注文処理(在庫確認→決済→発送通知)のような、一連のシーケンシャルなタスクに適しています。 -
ファンアウト/ファンイン (Fan-out/Fan-in)
大量のタスクを並列で一斉に実行(ファンアウト)し、すべてのタスクの完了を待ってから、その結果を集約する(ファンイン)パターンです。大量の画像のサムネイル作成や、データのバッチ処理など、全体の処理時間を短縮したい場合に非常に有効です。 -
非同期HTTP API (Async HTTP APIs)
完了までに時間のかかる処理(例:動画のエンコード、AIモデルの学習)をHTTPリクエストで開始させるパターンです。クライアントは即座に「状態確認用のURL」を受け取り、そのURLを定期的にポーリングすることで、処理の進捗状況を確認し、完了後に結果を取得できます。 -
監視 (Monitor)
特定の条件が満たされるまで、定期的に処理を実行するパターンです。例えば、「外部APIのエンドポイントを定期的に叩き、特定のステータスコードが返ってくるまで待つ」といった、外部の状態変化を監視するワークフローに適しています。 -
人間との対話 (Human Interaction)
ワークフローの途中で、人間の承認や入力を待って処理を一時停止させるパターンです。例えば、経費申請ワークフローで、上司が承認するまで次のステップに進まない、といったシナリオで利用されます。タイムアウトを設定し、一定時間応答がない場合にエスカレーション処理を行うことも可能です。
Azure Functionの料金プラン
Azure Functionsには、ワークロードの特性や予算に応じて選択できる、主に4つのホスティングプランが提供されています。2024年に新しく登場した「Flex Consumption Plan」により、選択肢の幅がさらに広がりました。
4つの料金プランの比較
各プランの特徴と最適なユースケースを以下の表にまとめます。
| 機能 | 従量課金プラン (Consumption) | Flex Consumptionプラン (New!) | Premiumプラン | App Serviceプラン |
|---|---|---|---|---|
| 課金モデル | 実行ベースの完全従量課金 | 実行ベースの従量課金 | インスタンス確保+実行ベース | App Serviceプランに準拠 |
| スケール | イベントに応じて自動 | 高速なイベントに応じて自動 | 高速(常時ウォーム状態) | 手動または自動 |
| コールドスタート | あり | 軽減(常時準備インスタンス可) | なし(常時ウォーム状態) | なし(常時起動) |
| VNet統合 | ✕ サポート対象外 | ✓ サポート | ✓ サポート | ✓ サポート |
| インスタンスメモリ | 固定 (1.5GB) | 選択可能 (512MB〜) | 選択可能 | 選択可能 |
| 最大実行時間 | 10分(デフォルト5分) | 制限なし(設定可能) | 制限なし(デフォルト30分) | 制限なし |
| OS | Windows, Linux | Linuxのみ | Windows, Linux | Windows, Linux |
| 最適なシナリオ | 開発、小規模API、軽量なタスク | VNet統合が必要な従量課金ワークロード | 高トラフィックな本番API | 既存App Serviceリソースの活用 |
各プランの選択ガイド
-
従量課金プラン (Consumption Plan)
最もシンプルで低コストなプランです。リクエストがない時は料金が一切かからず、開発やテスト、トラフィックの少ないAPIなどに最適です。ただし、VNet統合ができない、コールドスタートが発生するといった制約があります。 -
Flex Consumptionプラン
従量課金プランのコスト効率と、Premiumプランの高度な機能を両立させた新しいプランです。従量課金でありながらVNet統合が可能な点が最大の特徴で、プライベートなリソースにアクセスする必要があるサーバーレスアプリケーションに最適です。また、「常時準備状態のインスタンス」を設定することでコールドスタートを軽減できます。 -
Premiumプラン
コールドスタートを完全に排除し、常にインスタンスをウォーム状態に保つ必要がある、高トラフィックな本番環境のAPIなどに適しています。VNet統合や長い実行時間など、エンタープライズ向けの機能が充実していますが、その分、最低料金が発生します。 -
App Serviceプラン
既にWeb AppsなどでApp Serviceプランを利用しており、その余剰リソースを有効活用したい場合に適しています。VMと同じ感覚でリソースを管理できますが、サーバーレスのメリットである自動スケールや従量課金の恩恵は受けにくくなります。
2025年の最新動向:AI連携と新機能
2025年現在、Azure FunctionsはAIアプリケーションのバックエンドとしての役割を強化しており、最新の言語サポートも積極的に行われています。
-
AIエージェントのツールとしての活用
Azure AI Foundryで構築されたAIエージェントが、特定のタスクを実行するための「ツール」としてAzure Functionsを呼び出す、という連携が強化されています。これにより、サーバーレス関数をAIの「手足」として活用できます。 -
Azure SQLトリガーの登場
データベースのテーブルに行が追加・更新されたといった変更をトリガーとして、関数を実行できるようになりました。これは、最新のデータでAIの知識ベースを更新するRAG(検索拡張生成)アーキテクチャなどで非常に有用です。 -
最新言語のサポート
Python 3.12および3.13、Java 21といった、主要プログラミング言語の最新バージョンがサポートされ、開発者は最新の言語機能やパフォーマンス改善の恩恵を受けられます。 -
新しいSDK型バインディング
従来のトリガー・バインディングよりも高機能でパフォーマンスが向上した、新しいSDKベースのバインディングがプレビュー提供されています。これにより、大規模なBlobの操作などがより効率的に行えるようになります。
Azure Functionのセキュリティとコンプライアンス
Azure Functionsは、マイクロソフトのクラウドインフラストラクチャに構築されているため、エンタープライズレベルのセキュリティとコンプライアンス基準を満たしています。
Azure Funcitonのセキュリティ
Azure Functionsは、開発者にセキュリティを組み込んだ設計を奨励し、サービス自体もセキュアなプラットフォームとして提供されます。関数へのアクセスは、「Azure Active Directory」や「OAuthプロバイダー」などを通じて、安全に制御することができます。
また、HTTPSを通じた暗号化接続や、Azure Key Vaultの統合による秘密情報の管理も支援されています。
Azure Funtionのコンプライアンス
Azure FunctionsはGDPR、HIPAA、ISOなど、広範囲の規制に遵守しており、特定の業界や地域における法的要求を満たすことができます。マイクロソフトは定期的なセキュリティ監査を行い、セキュリティコンプライアンスの証明を提供しています。これにより、顧客データの保護と組織のリスク低減に対する信頼性が確保されます。
関連記事
➡️Azureのセキュリティ対策を徹底解説!主要機能や製品、導入事例も
Azure Functionのよくある質問 (FAQ)
Azure Functionsに関心を持つ多くの開発者やITプロフェッショナルは、その機能、設定、および運用に関してさまざまな疑問を持っているかと思われます。
以下に、Azure Functionsに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1: Azure Functionsのプログラミングモデルとは何ですか?
A1: Azure Functionsはイベント駆動型のプログラミングモデルを採用しています。これは、特定のイベントが発生したときに自動的にコードがトリガーされて実行される仕組みを指します。トリガーとなるイベントの種類には、HTTPリクエスト、タイマー、データベースの変更、キューメッセージなどがあります。
Q2: サーバーレスとは何を意味しますか?
A2: サーバーレスアーキテクチャでは、開発者はサーバーの管理やインフラストラクチャの運用について考慮する必要がなく、コードの実装に集中できます。クラウドプロバイダーがインフラストラクチャの管理を行い、アプリケーションのスケーリングやメンテナンスを自動的に処理します。
Q3: Azure Functionsでサポートされているプログラミング言語はどれですか?
A3: Azure Functionsは、C#、JavaScript、Python、Java、PowerShell、TypeScriptなど、複数のプログラミング言語をサポートしています。これにより、様々な開発者が既存のスキルとツールを活用して、機能を構築することができます。
Q4: Azure Functionsのセキュリティを確保するにはどうすればいいですか?
A4: Azure Functionsでは、関数レベルでの認証機能を提供しており、HTTPS経由でのアクセスや、Azure Active Directoryなどの認証プロバイダーを統合することが可能です。また、機密情報についてはAzure Key Vaultを使用して安全に管理することが推奨されます。
Q5: Azure Functionsでは、どのようにコストを管理するのですか?
A5: Azure Functionsでは、使用したリソースに応じて料金が発生します。具体的な料金モデルはホスティングプランによって異なりますが、Azureポータル上でリアルタイムのリソース使用状況を監視することができ、Azureの予算管理ツールを使用してコストの予算を設定することが可能です。
まとめ
本記事ではAzure Functionsについて解説しました。とても便利な機能であり、使う頻度も高いこの機能を知るきっかけになれば幸いです。
AI総合研究所ではクラウドでの開発、相談を無料で行っています。ご気軽にご相談ください。












