この記事のポイント
NVIDIA Reflexは、ゲームの入力遅延を最小限に抑える技術
Reflex 2では、さらに低遅延化とリアルタイム応答性の向上が実現
対応GPUはGeForce RTX 20シリーズ以降、ゲームも多数対応
ゲーム以外でも、VRやAR、AIアプリケーションでの応用が期待される
NVIDIA Reflexは、ゲーム体験の向上だけでなく、AIやVR/AR分野でも活用可能

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
競技性の高いFPSやアクションゲームでは、プレイヤーのマウス操作やキーボード入力と、画面上の反応との間に生じる“わずかな遅延”が、プレイの快適さや勝敗に大きく影響します。
NVIDIA Reflexは、このような入力遅延(レイテンシ)を最小限に抑えるために開発されたNVIDIA独自の低遅延技術です。
2025年にはさらに進化した「Reflex 2」も登場し、リアルタイム応答性の新たな標準となりつつあります。
本記事では、NVIDIA Reflexの仕組みや効果、Reflex 2の最新情報、対応GPU・ゲーム、さらにはゲーム以外での応用可能性まで、総合的にわかりやすく解説します。
NVIDIA Reflexとは?入力遅延を最小限に抑える技術
NVIDIA Reflexとは、ゲーム中の操作入力から画面表示までの「システム遅延(レイテンシ)」を最小限にするすためのテクノロジーです。CPUとGPUの処理タイミングを最適化し、フレームキューを削減することで、特にFPS(ファーストパーソンシューティング)やeスポーツタイトルといったゲーミング用途で大きな効果を発揮します。
ゲームでの遅延を低減
通常のゲームプレイでは、プレイヤーの操作が「入力デバイス(マウスやキーボード) → CPU処理 → GPU描画 → モニター表示」という流れで反映されます。 この過程で数十ミリ秒の遅延が蓄積されます。この一連のプロセスにおけるボトルネックを最小化し、操作と画面の同期性を高めることで、より直感的な操作感を実現します。
なぜ入力遅延が発生するのか? 映像を描画する流れの中のボトルネック
ゲームにおける入力遅延の原因を理解するには、映像を描画する一連の処理の仕組みを知る必要があります。
以下に、一般的なゲームの描画処理フローを示します。
処理段階 | 内容 | 遅延要因 |
---|---|---|
①入力受付 | マウス・キーボードの操作を検知 | ポーリングレート制限 |
②ゲーム論理計算 | キャラクター移動、物理演算など | CPU処理負荷 |
③描画コマンド生成 | CPUがGPUに送る描画命令を作成 | フレームキューの蓄積 |
④GPU レンダリング | 実際の画面描画処理 | GPU処理負荷 |
⑤モニター表示 | 完成したフレームを画面に出力 | リフレッシュレート制限 |
特に問題となるのが「フレームキュー」と呼ばれる現象です。CPUが次々とフレームを準備する一方で、GPU処理が追いつかない場合、描画待ちのフレームが蓄積されます。
この状態では、プレイヤーの最新の操作が反映されるまでに複数フレーム分の遅延が発生してしまいます。
NVIDIA Reflex(初代)の仕組みと効果
初代NVIDA Reflexは、CPUとGPUの処理を同期し、フレームキューを事実上ゼロに近づけることで遅延を削減します。
具体的には、GPUがフレームの描画を完了するまでCPUが次のフレーム準備を待機し、常に最新の入力情報を反映できる状態を維持します。
Reflexプラットフォームの3つの要素
Reflexは単一の技術ではなく、以下の3つの要素から構成される総合的なプラットフォームです。
-
Low Latency Mode(低遅延モード)
- ゲームエンジンに組み込まれるAPI
- ドライバレベルでフレームキューを制御
- 「On」「On + Boost」の2段階設定が可能
-
Latency Analyzer(遅延分析機能)
- G-SYNC対応360Hzモニターとの連携
- マウス内蔵センサーによるエンドツーエンド遅延測定
- リアルタイムでの遅延値表示
-
G-SYNC + 高リフレッシュレート
- 可変リフレッシュレート同期
- ティアリング(画面分割)を排除
- レンダリング完了直後のフレーム表示
設定オプションの違い
以下に、Reflexの設定オプションとその効果をまとめた表を示します。
設定 | 効果 | 推奨シーン |
---|---|---|
Off | 標準の描画処理 | 遅延を気にしない場合 |
On | フレームキューを削減 | 競技プレイ全般 |
On + Boost | CPUクロック低下を防止 | CPU負荷が高いゲーム |
Reflex 2とは?Frame Warp技術による次世代低遅延
Reflex 2
NVIDIA Reflex 2は、2025年のCESで発表された次世代低遅延技術で、最大75%の遅延削減を実現する革新的なアプローチを採用しています。
初代Reflexがフレームキューの最適化に焦点を当てていたのに対し、「Frame Warp(フレームワープ)」という全く新しい技術が導入されています。
Reflex(初代)との違い
初代Reflexは、CPUの処理タイミングを最適化し、レンダリングキュー(描画待ち行列)を排除することで遅延を削減していました。具体的には、CPUとGPUの処理を同期化し、フレームをGPUに渡す直前にマウス入力を取り込むことで、より“最新の意図”が反映された描画が可能になります。
初代Reflexは主にGPUがボトルネックとなる環境で効果を発揮していましたが、Reflex 2はCPUとGPUの両方が高負荷状態でも遅延削減効果を維持できる設計となっています。
以下に初代ReflexとReflex 2の違いをまとめた表を示します。
項目 | Reflex(初代) | Reflex 2 |
---|---|---|
アプローチ | CPU処理タイミングの最適化 | GPU描画後のフレーム補正 |
入力反映タイミング | レンダリング開始前 | フレーム完成後〜表示直前 |
想定シナリオ | GPUボトルネック時 | CPU/GPU両方が飽和する環境 |
技術的特徴 | フレームキュー削減 | Frame Warp + AI予測補完 |
Reflex 2の中核技術:Frame Warp
Frame Warp技術の仕組み
Frame Warpは、GPUが描画したフレームを、CPUが計算した最新のカメラ位置に基づいて“ワープ=変形”することで、表示直前に補正する仕組みです。これにより、実際のマウス操作により近い視点から描かれたフレームをユーザーに提示できます。
処理の流れは以下のとおりです:
- 通常のフレーム描画: ゲームエンジンがGPUで通常どおりのフレームを生成
- 最新の入力を取得: CPUが表示直前のマウス・キーボード入力を取得
- カメラ位置の再計算: 新しい入力に基づいてカメラの位置・角度を再計算
- フレーム表示: 補正されたフレームをディスプレイに表示
この処理は数百マイクロ秒という極めて短時間で実行されるため、ゲームの描画パフォーマンスにほとんど影響を与えません。
AI予測インペイント技術による穴埋め処理
フレームワープによってピクセルが再配置されると、 視野角の変化により画面の一部に空白(ホール)が発生する場合があります。Reflex 2では、この問題を解決するためにAI予測インペイント技術を採用しています。
インペイント処理では以下の情報を活用します:
- 前フレームのカラー情報:色の連続性を保つ
- 深度データ:3D空間での位置関係を維持
- カメラ履歴:視点移動の傾向を予測
- AI予測アルゴリズム:自然な補完を実現
この技術により、プレイヤーには違和感のない滑らかなフレーム更新として認識されます。
実証された性能向上データ
以下に、公式発表された遅延削減効果をまとめた表を示します。
ゲームタイトル | GPU | 標準遅延 | Reflex 2適用後 | 削減率 |
---|---|---|---|---|
The Finals | RTX 5070 | 56ms | 14ms | 75% |
VALORANT | RTX 5090 | - | 3ms未満(@800FPS) | - |
一般的なFPS | RTX 5080 | 80ms | 20ms | 75% |
特にThe Finalsでは、4K解像度・最高設定という重い処理環境でも大幅な遅延削減を実現しており、Reflex 2の実用性の高さが示されています。
Reflexを実際に試すには?VALORANTでの体験方法
フォートナイトでの活用
「NVIDIA Reflexの効果を実感してみたい」と考えている方にとって、最も手軽な方法が無料FPSゲーム『VALORANT(ヴァロラント)』を使った体験です。
VALORANTはRiot Gamesが提供する人気オンライン対戦ゲームで、初代NVIDIA Reflexに正式対応しています。
VALORANTが体験に適している理由
VALORANTがReflex体験に最適な理由は以下のとおりです:
- 完全無料: Riotアカウントの作成のみで利用可能
- 軽量設計: 中程度のスペックのPCでも快適に動作
- 公式eスポーツ採用: 競技レベルでの遅延最適化が重要
- 明確な体感差: ON/OFF切り替えで効果を実感しやすい
- 高フレームレート対応: 800FPS超の環境でもReflex効果を確認可能
設定手順の詳細
VALORANTでReflexを有効化する手順は以下のとおりです:
-
ドライバ更新
- GeForce Game Ready Driverを最新版(555以降)に更新
- NVIDIA GeForce Experienceから自動更新も可能
-
ゲーム設定
- VALORANTを起動し、右上の⚙マークをクリック
- 「設定」→「ビデオ」→「Graphics Quality」に移動
- 「NVIDIA Reflex Low Latency」項目を探す
-
Reflex設定の選択
- 「Off」:標準状態(比較用)
- 「On」:基本的な低遅延化
- 「On + Boost」:CPUクロック安定化付き
体感できる効果の具体例
Reflexを有効化すると、以下のような変化を体感できます:
- エイム精度の向上:マウス操作と照準移動の同期性が高まる
- 反応速度の改善:敵発見から射撃開始までの時間短縮
- 操作感の向上:視点移動やピーク撃ちでの「キレ」の向上
- 追従性の改善:動く標的への照準追従がスムーズになる
Reflex2 の対応要件と展開予定
NVIDIA Reflex 2を利用するには、以下のハードウェア要件を満たす必要があります。
GPU要件
- 必須:NVIDIA GeForce RTX 50シリーズ(Blackwell世代)
- 将来対応予定:RTX 40/30シリーズへの拡張を検討中
- 非対応:GTX シリーズ、RTX 20シリーズ以前
その他の要件
- OS:Windows 10/11(64bit版)
- ドライバ:Game Ready Driver 555以降
- メモリ:8GB以上推奨
- CPU:Intel Core i5-8400 / AMD Ryzen 5 2600以降
対応ゲームタイトルの現状と予定
以下に、Reflex 2の対応状況をまとめた表を示します。
対応状況 | ゲームタイトル | 開発会社 | 対応時期 |
---|---|---|---|
対応済み | The Finals | Embark Studios | 2025年1月 |
対応予定 | VALORANT | Riot Games | 2025年Q2 |
検討中 | Fortnite | Epic Games | 未定 |
検討中 | Apex Legends | Respawn Entertainment | 未定 |
検討中 | Counter-Strike 2 | Valve | 未定 |
NVIDIAは今後、Reflex 2 SDKを広く公開し、より多くのeスポーツタイトルでの実装を促進する予定です。
技術的制約と将来展望
現在のReflex 2には以下の制約があります:
- GPU制限:RTX 50シリーズのみ対応
- ゲーム対応:開発会社側での実装が必要
- 処理負荷:Frame Warp処理による軽微なGPU負荷増加
しかし、これらの制約は技術の成熟とともに段階的に解決される見込みです。特にGPU対応範囲の拡大は、ユーザーベースの拡大に直結するため、NVIDIA側でも優先的に取り組まれています。
ゲーミング以外への応用可能性
NVIDIA Reflexの技術思想である「入力と表示の遅延最小化」は、ゲーミング分野を超えて様々な領域での応用が期待されています。
XR(AR/VR)分野での活用
NVIDIA CloudXRとの連携により、以下の改善が期待されます:
- VR酔いの軽減:頭部動作と映像表示の同期性向上
- 没入感の向上:手の動きと仮想オブジェクトの反応速度改善
- 遠隔VR:5G/Wi-Fi経由でもケーブル接続並みの応答性実現
産業用途での展開
以下に、Reflex技術が応用可能な産業分野をまとめた表を示します。
分野 | 応用例 | 期待される効果 |
---|---|---|
遠隔医療 | 手術支援ロボットの操作 | 精密操作の安全性向上 |
設計・CAD | リアルタイム3Dモデリング | 設計効率の向上 |
教育 | デジタルペンタブレット | 手書き入力の自然さ改善 |
放送 | ライブ配信での映像処理 | 低遅延・高画質配信の両立 |
他のNVIDIA技術との連携効果
Reflexは単独で動作するだけでなく、他のNVIDIA技術と組み合わせることで相乗効果を発揮します。
DLSS 4との連携
- Frame Generationで高フレームレート実現
- Reflexで生成フレームの遅延も最小化
- 高画質と低遅延の両立
G-SYNC技術との統合
- 可変リフレッシュレート同期
- ティアリング排除と低遅延の両立
- Frame Warp後のフレーム即座表示
NVIDIA Broadcastとの協調
- AI背景除去・ノイズ除去処理
- 配信品質向上と遅延最小化の両立
これらの分野では、わずかな遅延がユーザー体験や安全性、精度に大きく関わるため、Reflexのような“操作即応性”の技術が今後ますます重要になります。
Reflex技術と他のNVIDIAリアルタイム系技術の連携
NVIDIAは、Reflex以外にもリアルタイム性を重視した技術群を展開しています。たとえば:
- NVIDIA CloudXR:クラウド上で生成したXR映像を低遅延で転送する
- NVIDIA Omniverse:3D設計をリアルタイムで共同編集できるプラットフォーム
- RTX Video:動画再生中の高画質補正と応答性の向上
これらはいずれも、「入力 → 処理 → 出力」の流れをいかに速く・正確に行うかという観点でReflexと共通しており、Reflexの技術思想がゲーミングを超えて広がっていることを示しています。
将来的には、Reflexと同等の低遅延技術が、ゲーミング以外の産業用途にもソフトウェアSDKやAPIとして提供される可能性があります。とくに、AIアシストや遠隔制御が進む分野では、「どれだけ正確に・早く・意図通りに操作が伝わるか」が、UXの根幹をなす時代です。
まとめ 操作と表示の未来を切り開く革新技術
NVIDIA Reflexは、ゲーミング体験を根本から変革する技術です。初代Reflexによるフレームキュー最適化から、Reflex 2のFrame Warp技術では、革新的な進化を遂げています。
特に競技性の高いeスポーツ分野では、数ミリ秒の差が勝敗を分ける世界であり、Reflexのような低遅延技術は今や必須の要素となっています。プロゲーマーの多くがReflex対応環境を標準装備としていることからも、その実用性と効果の高さが証明されています。
さらに注目すべきは、この技術がゲーミングの枠を超えて、XR、遠隔医療、リアルタイム設計など、あらゆる「即応性」が求められる分野への応用可能性を秘めていることです。デジタル技術がより深く日常生活に浸透する中で、Reflexが提供する「操作の即座反映」という価値は、ますます重要性を増していくでしょう。
RTX 50シリーズをお持ちの方はReflex 2の最新体験を、そうでない方も無料のVALORANTで初代Reflexの効果を、ぜひ一度体感してみてください。