この記事のポイント
Grok Code Fastは、エージェントコーディングにおける速度と応答性を追求して設計された高速・経済的なAIモデル
TypeScript, Python, Java, Rustなど多様な言語に対応し、新規プロジェクト構築からバグ修正まで対応
入力$0.20/1Mトークンからの低コストな料金体系と、プロンプトキャッシュによる高速化が特徴
GitHub CopilotやCursorなどの主要開発ツールと連携し、期間限定で無料で利用可能
性能を最大化するには、明確なコンテキストと目標を与え、エージェントタスクとして利用することが推奨される

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
「AIのコーディング支援は便利だけど、複雑な指示を出すと応答が遅くて作業が止まってしまう…」「もっとキビキビ動いて、コストも安いモデルはないの?」
2025年8月28日、イーロン・マスク氏率いるxAIは、こうした開発者の悩みに応える新しいAIモデル「Grok Code Fast」をオープンソースとして発表しました。
これは単なるコード生成AIではありません。AIが自らツールを呼び出しながら思考を繰り返す「エージェントコーディング」のワークフローに特化し、圧倒的な速度と経済性を両立させた、全く新しいコンセプトのモデルです。
本記事では、この「Grok Code Fast」について、公式発表された情報に基づき、その全貌を徹底的に解説します。モデルの核心的な特徴から、驚異的なパフォーマンス、料金体系、そしてGitHub Copilotなど主要ツールでの使い方まで、詳しくご紹介します。
目次
Grok Code Fast1の設計思想:開発者のための「機敏な」ソリューション
多様な言語に対応する汎用性(A versatile programmer)
Grok Code Fast1を最大限に活用するプロンプトエンジニアリング
API経由でエージェントを構築する開発者向けのベストプラクティス
Grok Code Fastの今後の展望:数日単位での改善とマルチモーダルへの進化
Grok Code Fast1とは?
Grok Code Fastは、xAIが2025年8月28日に発表した、コーディングに特化した新しい大規模言語モデルです。
その最大の特徴は、単にコードを生成するだけでなく、AIが自ら推論し、ツールを呼び出し、結果を評価するというループを高速に繰り返す「エージェントコーディング」のワークフローに最適化されている点です。
なぜ「高速な」コーディングAIが必要だったのか?
今日のAIモデルは非常に強力ですが、特にこのエージェント的なワークフローにおいては、その応答速度が「もどかしいほど遅い」と感じられることが少なくありませんでした。
xAIのエンジニアたちは、自身がエージェントコーディングツールのヘビーユーザーであるからこそ、この課題を痛感していました。そこで、日々の開発作業に最適化された、より機敏で応答性の高いソリューションとしてGrok Code Fastは開発されました。
Grok Code Fast1の設計思想:開発者のための「機敏な」ソリューション
Grok Code Fastは、全く新しいモデルアーキテクチャから構築されています。プログラミング関連のコンテンツを豊富に含んだデータで事前学習を行い、さらに実際のプルリクエストやコーディングタスクを反映した高品質なデータで微調整されています。
特に、開発者が日常的に使うツール(grep, terminal, file editingなど)の扱いに習熟しており、普段お使いのIDE(統合開発環境)内ですぐに馴染むように設計されているのが特徴です。
Grok Code Fast1の3つの特徴
Grok Code Fastが多くの開発者にとって魅力的な選択肢となる理由を、「速度」「汎用性」「経済性」という3つの明確な特徴に分けて解説します。
圧倒的なスピード
Grok Code Fastの際立った特徴である「速度」は、単なるスペック上の数値ではありません。xAIは、モデルの応答性を高めるために、複数の革新的な技術を開発・投入しています。
推論速度を劇的に向上させる革新技術
xAIの推論・スーパーコンピューティングチームは、モデルの応答速度を劇的に加速させるための革新的な技術を複数開発しました。
これにより、ユーザーがAIの思考トレースの最初の段落を読み終える前に、AIが既に何十ものツールを呼び出している、というユニークな応答性を実現しています。
90%以上のヒット率を誇る「プロンプトキャッシュ最適化」
特に、後述するローンチパートナーのツールと連携して使用する場合、プロンプトキャッシュの最適化により、定期的に90%以上のキャッシュヒット率を達成します。
これにより、一度処理した内容に近いタスクは、さらに高速に処理されます。
多様な言語に対応する汎用性(A versatile programmer)
Grok Code Fastの汎用性は、対応言語の広さと、こなせるタスクの幅広さという2つの側面で示されます。
得意なプログラミング言語
Grok Code Fastは、ソフトウェア開発スタック全体で非常に高い汎用性を持ち、特に以下の言語を得意としています。
- TypeScript
- Python
- Java
- Rust
- C++
- Go
新規プロジェクト構築からバグ修正まで対応
ゼロからプロジェクトを構築する、既存のコードベースに関する質問に答える、あるいは特定のバグを精密に修正するなど、開発者が日常的に行うプログラミングタスクを、最小限の監督で完了させることができます。

Grok Code Fastで生成された「バトルシミュレーター」の例。Cursorでの作業方法を変えるほどの速度であると評価されています。(参考:xAI)

Grok Code FastによるUIデザイン生成の例。アイデアからモックアップまでを1分以内に行える速度が示されています。(参考:xAI)
Grok Code Fast1の性能評価
モデルの性能評価において、xAIは公開ベンチマークと、実際の開発者による人間評価を組み合わせる、総合的なアプローチを採用しています。これは、ベンチマークのスコアだけでは測れない「実世界での使いやすさ」を重視しているためです。
パフォーマンス比較:速度とコストで他モデルを凌駕
以下のグラフデータが示す通り、Grok Code Fastは他の主要なコーディングAIモデルと比較して、出力価格あたりの処理速度(トークン/秒)で優れたパフォーマンスを発揮します。

主要AIモデルとの性能比較グラフ。Grok Code Fastは、出力価格あたりの処理速度(TPS)で優れたポジションにあることが示されています。(参考:xAI)
SWE-Benchでのスコアとベンチマークの限界
実世界のソフトウェアエンジニアリングの問題を解決する能力を測るSWE-Benchにおいて、Grok Code Fastは**70.8%**という高いスコアを記録しました。
一方でxAIは、こうしたベンチマークは有益であるものの、特にエージェントコーディングにおけるエンドユーザーの体験といった、実世界のソフトウェアエンジニアリングのニュアンスを完全には反映していない、とも指摘しています。
xAIが重視する「人間による日常タスクでの評価」
xAIは、モデルのトレーニングを導く上で、経験豊富な開発者が日常的なタスクにおけるモデルのエンドツーエンドのパフォーマンスを評価する「人間による評価」を重視しています。
その結果、Grok Code Fastは、プログラマーによって「日常的なコーディングタスクにおいて高速で信頼性が高い」と評価されるモデルに仕上がっていると言えます。
Grok Code Fast1の使い方と料金
Grok Code Fastを実際に利用するための具体的な方法は、主に2つあります。どちらの方法を選ぶかによって、現在の料金体系が異なります。
主要な開発ツールで無料体験する(期間限定)
現在、最も手軽にGrok Code Fastを試す方法は、xAIが提携している主要な開発ツール(ローンチパートナー)を通じて利用することです。
この方法では、期間限定でGrok Code Fastを無料で利用できます。
- 対応ツール一覧:
- GitHub Copilot
- Cursor
- Cline
- Roo Code
- Kilo Code
- opencode
- Windsurf

*ローンチパートナーのロゴ一覧 (参考:xAI)
普段お使いのツールが対応していれば、追加の費用なく、すぐにその速度と性能を体験することが可能です。
xAI API経由で利用する(有料)
より柔軟な利用や、独自のコーディングエージェントを自社製品に組み込みたい開発者向けに、xAIは公式APIを提供しています。
こちらのAPI利用は有料となり、以下の料金が適用されます。
| トークン種別 | 料金(100万トークンあたり) |
|---|---|
| 入力 | $0.20 |
| 出力 | $1.50 |
| キャッシュ入力 | $0.02 |
APIを利用する場合は、xAI Cloud ConsoleからAPIキーを取得して利用を開始できます。
Grok Code Fast1を最大限に活用するプロンプトエンジニアリング
Grok Code Fastは非常に高性能ですが、その能力を最大限に引き出すには、モデルの特性を理解した上でプロンプト(指示)を工夫することが重要です。
公式のプロンプトエンジニアリングガイドに基づき、具体的なヒントを、「一般開発者向け」と「API利用開発者向け」の2つの視点から紹介します。
一般開発者向けのベストプラクティス
IDE等のツールを通じてGrok Code Fastを利用する際には、従来のモデルとは少し異なる対話の仕方を意識することで、より良い結果を得られます。公式ガイドでは、特に以下の4つの原則が強調されています。
必要なコンテキストを提供する
多くの場合、コンテキストとして使用する特定のコードを選択して具体的にする方が、モデルはタスクに集中しやすくなります。関連するファイルパスやプロジェクト構造を指定し、無関係なコンテキストは避けてください。
- 避けるべき例(コンテキスト不足):
エラー処理を改善して。
これでは、どのファイルに、どのようなエラー処理を追加すれば良いのかAIには分かりません。
- 推奨される例(コンテキストを提供):
私のエラーコードは @errors.ts で定義されています。それを参照して、@sql.ts でクエリを作成している箇所に、適切なエラー処理とエラーコードを追加してください。
具体的なファイル名を指定することで、AIは的確にタスクを遂行できます。
明確な目標と要件を設定する
目標と、解決してほしい問題を具体的に定義することが重要です。詳細で具体的なクエリは、パフォーマンスの向上に繋がります。
- 避けるべき例(曖昧なプロンプト):
フードトラッカーを作成して。
どのような機能を持つトラッカーなのか、AIは推測するしかありません。
- 推奨される例(詳細なプロンプト):
食品を入力すると、1日あたりのカロリー消費量の内訳を様々な栄養素で割ったものを示すフードトラッカーを作成してください。概要だけでなく、高レベルの傾向も把握できるようにしましょう。
具体的な要件を伝えることで、期待に近い成果物が得られます。
プロンプトを継続的に改良する
Grok Code Fastは非常に高速かつ低コストなため、前例のないスピードでアイデアを試すことができます。最初の出力が完璧でなくても、失敗点を指摘したり、コンテキストを追加したりして、迅速かつコスト効率よくプロンプトを改良していくことが推奨されます。
- 改良プロンプトの例:
前のアプローチでは、メインスレッドをブロックする可能性のあるI/O負荷の高いプロセスが考慮されていませんでした。非同期ライブラリを使うのではなく、イベントループをブロックしないように独自のスレッドで実行してください。
具体的な問題点を指摘し、改善の方向性を示すことで、AIはより良い解決策を提案できます。
ワンショットのQ&Aではなく、エージェントタスクを割り当てる
Grok Code Fastは、ツールを駆使して大量のコードをナビゲートし、答えを見つけ出す「エージェントスタイル」のタスクに最適化されています。単純な質疑応答には、より大規模なGrok 4モデルの方が適しています。
-
あまり推奨されない使い方(ワンショットQ&A):
ReactのuseEffectフックの仕組みを教えて。これはGrok 4のようなモデルの方が得意なタスクです。
-
推奨される使い方(エージェントタスク):
このリポジトリ全体を調べて、useEffectの依存配列が空になっているコンポーネントをすべてリストアップし、無限ループを引き起こす危険性がないか確認して。
ファイル検索(grep)やコード分析といった複数のツールを駆使する必要がある、まさにGrok Code Fastが得意とするタスクです。
API経由でエージェントを構築する開発者向けのベストプラクティス
xAI APIを利用して独自のコーディングエージェントを構築する開発者向けに、公式ドキュメントではパフォーマンスを最大化するための、より技術的な指針が示されています。
ネイティブツール呼び出しを使用する
Grok Code Fastはネイティブツール呼び出しを念頭に設計されており、ファーストパーティサポートを提供しています。パフォーマンスが低下する可能性があるXMLベースのツール呼び出しの代わりに使用することが推奨されます。
詳細なシステムプロンプトを与える
モデルが認識すべきタスク、期待、エッジケースなどを説明する、よく書かれた詳細なシステムプロンプトは、パフォーマンスに大きな違いをもたらします。
キャッシュヒットを最適化する
Grok Code Fastの高速性はキャッシュヒットに支えられています。エージェントタスクでは、プロンプトの接頭辞(プレフィックス)の大部分が同じままであるため、キャッシュから自動的に取得され、推論が高速化されます。
Grok Code Fastの今後の展望:数日単位での改善とマルチモーダルへの進化
Grok Code Fastは一度きりのリリースではなく、今後も継続的に改善されていくモデルファミリーです。
xAIは、「ソニック(sonic)」というコードネームでこのモデルを先行リリースし、コミュニティからのフィードバックを元に複数の改良版を既に展開しています。
数日単位での迅速なアップデート提供
xAIは、今後もGrok Code Fastに一貫したアップデートを提供し、改善が「数週間ではなく数日単位」で届けられることに注力すると述べています。
開発中の新バリアント
既に、以下のような機能をサポートする新しいバリアントがトレーニング中です。
- マルチモーダル入力
- 並列ツール呼び出し
- 拡張されたコンテキスト長
【詳細】Grok Code Fastのモデルカードから見る技術的背景と安全性
より深く技術的な詳細を知りたい読者向けに、公式の「モデルカード」から、モデルの構造や安全性に関する評価の要点を抜粋して紹介します。
参考:Grok Code Fast 1 Model Card (xAI)
モデルの構造とトレーニング
Grok Code Fastは、コーディングに焦点を当てたデータで事前学習された後、様々なコーディングタスクやツール使用のデモンストレーション、そして安全ポリシーに従った正しい拒否行動のデータでポストトレーニングされています。
安全性評価(悪用可能性、欺瞞、デュアルユース能力)
Grok Code Fastは、Grok 4と同様のアプローチで安全性評価が実施されています。
その結果、特に生物・化学兵器やサイバー攻撃に繋がるようなデュアルユース(軍事・民生両用)能力については、Grok 4よりも弱いことが確認されており、悪意のある使用や制御不能に陥るリスクは低いと結論付けられています。
ChatGPT活用でお困りの方へ
まとめ
本記事では、xAIが発表した新しいコーディングAI「Grok Code Fast」について、その核心から使い方、将来性までを徹底的に解説しました。
最後に、この記事の要点をまとめます。
- Grok Code Fastは、エージェントコーディングにおける「速度」と「応答性」を追求してゼロから設計された、高速かつ経済的なAIモデルです。
- 圧倒的な速度、多様な言語に対応する汎用性、そして**$0.20/1Mトークンから**という低コストな料金体系を両立しています。
- GitHub CopilotやCursorといった主要な開発ツールと連携し、期間限定で無料で利用できます。
- 性能を最大限に引き出すには、明確なコンテキストと具体的な目標を与え、エージェントタスクとして利用することが推奨されます。
Grok Code Fastは、特にエージェントコーディングの文脈で「速度」と「コスト」の課題を解決する強力な選択肢です。ぜひ、パートナーツールでの試用やAPI利用を通じて、その驚異的な応答性を体験してみてください。





