この記事のポイント
SAP HANA Cloudの定義と位置付けを理解できる
オンプレミスHANAとの違いと移行のメリットが分かる
主要なサービス構成とアーキテクチャを把握できる
料金体系とTCO試算のポイントが分かる
移行戦略と導入時の検討事項を整理できる

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
SAP HANA Cloudは、SAPのインメモリデータベース「SAP HANA」をクラウド上で提供するフルマネージドサービスです。オンプレミス版HANAと比較して、インフラ運用負荷の軽減・柔軟なスケーリング・最新機能への迅速なアクセスといったメリットがある一方で、料金体系やデータガバナンス、既存資産との統合など、検討すべきポイントも多く存在します。本記事では、SAP HANA Cloudの基本概念から、オンプレミス版との違い、サービス構成、料金モデル、移行時の検討ポイント、実際の活用シーンまで、導入検討に必要な情報を体系的に整理します。
目次
SAP HANA Cloud, SAP HANA database
SAP Datasphere(旧SAP Data Warehouse Cloud)
SAP HANA Cloudとは何か(定義と位置付け)
SAP HANA Cloudは、SAPのインメモリデータベース「SAP HANA」をクラウド上で提供するフルマネージドサービス です。
従来のオンプレミス環境で構築・運用していたHANAデータベースを、パブリッククラウド基盤上でサービスとして利用できる形態として提供されています。

SAP HANAとは
まず前提として、SAP HANAそのものについて簡単に整理します。
SAP HANA(High-performance ANalytic Appliance) は、SAPが開発したインメモリデータベース管理システムです。
従来のディスクベースのデータベースと異なり、データをメモリ上に保持することで、超高速なデータ処理・分析を実現 します。
主な特徴は次の通りです。
- インメモリ処理による高速性
データをメモリ上に展開するため、ディスクI/Oのボトルネックがなく、リアルタイムに近いデータ処理が可能 - トランザクション処理と分析処理の統合
OLTP(オンライントランザクション処理)とOLAP(オンライン分析処理)を同一基盤で実行できる - 列指向データストレージ
列単位でのデータ圧縮・処理により、大量データの集計・分析を高速化 - 組み込み分析・機械学習機能
データベース内部で予測分析・機械学習処理を実行できる
このSAP HANAを 「オンプレミスで構築・運用する形態」から「クラウド上でサービスとして利用する形態」に発展させたもの が、SAP HANA Cloudです。
SAP HANA Cloudの提供形態
SAP HANA Cloudは、主要なパブリッククラウドプロバイダー上で提供されます。
- Microsoft Azure
- Amazon Web Services (AWS)
- Google Cloud Platform (GCP)
これらのクラウド基盤上に、SAPがマネージドサービスとしてHANAデータベースを展開し、ユーザーは インフラ運用をSAP/クラウドプロバイダーに任せながら、データベース機能を利用する ことができます。
SAP HANA Cloudの位置付け
SAP HANA Cloudは、単なる「HANAのクラウド版」にとどまらず、SAPのクラウド戦略における中核的なデータ基盤 として位置付けられています。
- S/4HANA Cloudのデータベース層
RISE with SAPやS/4HANA Cloud環境では、HANA Cloudがデータベースとして採用される - SAP BTPのデータストア
SAP Business Technology Platform(BTP)上でのアプリケーション開発・データ統合において、データ永続化層として利用される - マルチクラウド・ハイブリッドクラウドのデータハブ
複数のクラウド環境やオンプレミス環境のデータを統合・分析する基盤として機能する
つまり、SAP HANA Cloudは 「単体のデータベースサービス」というよりも、SAP全体のクラウドエコシステムの土台を支える基盤 として捉える必要があります。
SAP HANA Cloudの主要な機能とサービス構成
SAP HANA Cloudは、複数のサービス・機能を組み合わせた統合データプラットフォームです。
ここでは、主要なコンポーネントとその役割を整理します。

SAP HANA Cloud, data lake
SAP HANA Cloud, data lake は、大量の構造化データ・半構造化データを低コストで保存・処理するためのデータレイク機能です。
主な特徴
- 大容量データの格納
ホットデータ(頻繁にアクセスするデータ)はHANAインメモリDBに、コールドデータ(過去データ・アーカイブ)はdata lakeに格納することで、コストを最適化 - 柔軟なデータ形式
CSV、Parquet、ORC、JSON など、多様なファイル形式に対応 - 分析ワークロードのオフロード
HANA本体の負荷を抑えつつ、大規模な分析・機械学習処理を実行できる
data lakeは、「リアルタイム性は不要だが、大量の履歴データを保持・分析したい」 といったニーズに応える機能です。
SAP HANA Cloud, SAP HANA database
SAP HANA Cloud, SAP HANA database は、HANA Cloudの中核となるインメモリデータベースです。
主な機能
- トランザクション処理
S/4HANA、SAP BTPアプリケーションなどのバックエンドデータベースとして機能 - リアルタイム分析
インメモリ処理による高速集計・分析クエリの実行 - 組み込みAI・機械学習
Predictive Analysis Library(PAL)、Automated Predictive Library(APL)など、データベース内部でのAI処理 - 空間データ処理
地理情報・位置情報を扱う空間データベース機能 - グラフデータベース機能
ネットワーク分析・関係性分析を行うグラフデータベース機能
オンプレミス版HANAと同等の機能を、クラウド上でサービスとして利用できます。
SAP Datasphere(旧SAP Data Warehouse Cloud)
SAP Datasphere は、HANA Cloudと統合されたデータウェアハウス・データ統合サービスです。
主な役割
- 複数のデータソース(SAP、非SAP、クラウド、オンプレミス)からデータを取り込み・統合
- セマンティックレイヤー(ビジネスロジック層)を構築し、データの意味付け・ガバナンスを一元管理
- BI・分析ツール(SAP Analytics Cloud、Tableau、Power BIなど)へのデータ提供
HANA Cloudと組み合わせることで、「データの保管・処理(HANA Cloud)」と「データの統合・意味付け(Datasphere)」を一体で運用 できます。
スケーリング・高可用性機能
クラウド環境ならではの柔軟性として、次のような機能が提供されます。
- 垂直スケーリング(スケールアップ)
メモリ・CPU容量を動的に増減させ、ワークロードに応じたサイジング調整が可能 - 水平スケーリング(スケールアウト)
複数ノードを追加して、並列処理能力を拡張 - 自動バックアップ・リカバリ
定期的な自動バックアップと、ポイントインタイムリカバリによるデータ保護 - レプリケーション・HA構成
複数リージョンへのレプリケーションや、高可用性構成の自動構築
こうした機能により、インフラ運用の負担を抑えながら、ビジネス要件に応じた柔軟な環境構築 が可能になります。
オンプレミスHANAとSAP HANA Cloudの違い
SAP HANA Cloudへの移行を検討する際には、オンプレミス版HANAと何が違うのか を明確に理解する必要があります。

運用モデルの違い
最も大きな違いは、誰がインフラ運用を担うか です。
| 観点 | オンプレミスHANA | SAP HANA Cloud |
|---|---|---|
| インフラ調達 | サーバー・ストレージを自社調達 or データセンター契約 | クラウド基盤上でサービスとして提供 |
| OS・DB運用 | 自社 or 運用ベンダーが担当 | SAPマネージドサービスとして提供 |
| バックアップ・パッチ適用 | 自社でスケジュール管理・実施 | 自動バックアップ・パッチ適用が標準で提供 |
| スケーリング | ハードウェア増設・構成変更が必要 | 管理画面から動的にスケールアップ/アウト可能 |
| 高可用性・DR構成 | 自社設計・構築が必要 | サービスとして提供されるHA/DRオプションを選択可能 |
SAP HANA Cloudでは、インフラ層の運用負荷が大幅に軽減される 一方、カスタマイズや細かなチューニングの自由度は制限される 点に注意が必要です。
料金モデルの違い
オンプレミスとクラウドでは、コスト構造が大きく異なります。
| 観点 | オンプレミスHANA | SAP HANA Cloud |
|---|---|---|
| 初期投資 | サーバー・ライセンスの一括購入 | 初期投資は最小限(サブスクリプション型) |
| ランニングコスト | 保守費用・データセンター費用 | 従量課金 or サブスクリプション費用 |
| 容量変更時のコスト | ハードウェア追加購入が必要 | オンデマンドでスケーリング、即座に反映 |
| TCO試算の考え方 | 5〜10年スパンの減価償却を含めた試算 | 月額コスト×利用期間での試算 |
オンプレミス環境では初期投資が大きく、クラウドでは 「使った分だけ払う」従量制モデル になるため、利用パターンによってコスト優位性が変わります。
機能・性能の違い
基本的なHANA機能はオンプレミスとクラウドで共通ですが、次のような違いがあります。
SAP HANA Cloudで追加される機能
- マルチクラウド・ハイブリッド連携
複数のクラウド環境・オンプレミス環境とのデータ連携がサービスとして提供される - 最新機能への迅速なアクセス
クラウドサービスとして継続的にアップデートされるため、新機能をいち早く利用できる - データレイク統合
data lake機能がネイティブに統合され、ホット・コールドデータの最適配置が容易
オンプレミスHANAの方が柔軟性が高い領域
- OS・ネットワーク層のカスタマイズ
クラウド版では標準構成が前提となり、細かなOS設定やネットワーク構成の自由度は制限される - 特殊なハードウェア構成
専用アプライアンスや、超大容量メモリ構成など、特殊要件への対応はオンプレミスの方が柔軟
移行を検討する際は、「サービスとしての利便性」と「カスタマイズの自由度」のトレードオフ を冷静に評価する必要があります。
SAP HANA Cloudの料金体系とトータルコスト試算のポイント
SAP HANA Cloudの料金体系は、従量課金モデル が基本です。
ここでは、料金の考え方と、TCO試算時に押さえるべきポイントを整理します。
基本的な課金要素
SAP HANA Cloudの料金は、主に次の要素で決まります。

1. コンピュートリソース(vCPU・メモリ)
- 利用するvCPU数とメモリ容量に応じた課金
- インスタンスサイズ(Small、Medium、Largeなど)を選択し、それに応じた料金が発生
- 使用時間単位での従量課金(時間単位 or 月単位)
2. ストレージ容量
- データ保存容量に応じた課金
- HANA databaseのストレージと、data lakeのストレージで料金体系が異なる
- 一般的に、data lakeストレージの方が単価は安い
3. バックアップストレージ
- 自動バックアップの保存容量に応じた課金
- 保存期間・世代数によってコストが変動
4. データ転送料金
- クラウドプロバイダー間のデータ転送(Egress料金)
- 同一リージョン内であれば転送料金は発生しないか、低額
5. 追加機能・オプション
- レプリケーション機能、高可用性構成、マルチリージョン展開などのオプション料金
従量課金 vs サブスクリプション
SAP HANA Cloudでは、利用パターンに応じて次のような料金プランが選択できます。
| プランタイプ | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 従量課金(Pay-as-you-go) | 使った時間・容量に応じて課金。柔軟性が高い | 開発・検証環境、需要が変動する用途 |
| 年間契約(Subscription) | 一定期間・容量をコミットすることで、単価を抑える | 本番環境、安定稼働が見込まれる用途 |
| RISE with SAPバンドル | S/4HANA CloudやBTPと一体でHANA Cloudが含まれる | SAP全体のクラウド移行を検討している場合 |
特に、RISE with SAPを採用する場合は、HANA Cloudがパッケージの一部として含まれる ため、個別に契約するよりもトータルコストを抑えられるケースがあります。
トータルコスト試算時に考慮すべきポイント
オンプレミスHANAからHANA Cloudへの移行を検討する際、単純な月額料金だけで比較すると 「クラウドの方が高い」 と見えることがあります。
しかし、次のような要素を含めた 総コストで評価する必要があります。
クラウド移行で削減できるコスト
- ハードウェア調達・更改費用
- データセンター利用料・電力費用
- OS・DB運用要員のコスト
- バックアップ・パッチ適用作業のコスト
- アップグレード・バージョンアッププロジェクトのコスト
クラウド移行で新たに発生するコスト
- 月額サブスクリプション費用
- データ転送料金
- クラウド運用スキル習得・体制構築のコスト
- 既存システムとのネットワーク接続コスト(専用線など)
特に、「運用要員のコストをどこまでクラウド側に寄せられるか」 がTCO削減の鍵になります。
見積もり取得時の整理事項
ベンダーから見積もりを取得する際には、次の点を整理しておくとスムーズです。
- 利用するワークロード規模
データ量、同時接続ユーザー数、処理頻度など - 稼働時間パターン
24時間365日稼働なのか、業務時間のみなのか - 高可用性・DR要件
どの程度の可用性が必要か、災害対策をどこまで求めるか - 既存ライセンス資産の有無
オンプレミスHANAライセンスをクラウドに持ち込めるか(BYOL: Bring Your Own License)
これらを踏まえて、3〜5年スパンでのTCO比較 を行うことが推奨されます。
SAP HANA Cloud移行時の検討ポイント
オンプレミスHANAからHANA Cloudへの移行は、単なる「場所の移動」ではなく、運用モデル・アーキテクチャ・データ管理の在り方を見直す機会 です。
ここでは、移行時に押さえるべき検討ポイントを整理します。
移行パターンの選択
HANA Cloud移行には、大きく次のようなパターンがあります。

1. リフト&シフト(Lift & Shift)
既存のHANAデータベースを、そのままクラウド上に移行する方法です。
メリット
- アプリケーション側の改修が最小限
- 移行期間・コストを抑えやすい
デメリット
- クラウドネイティブな機能を活かしきれない
- オンプレミス時代の設計をそのまま引き継ぐため、非効率な部分が残る
2. リファクタリング(Refactoring)
クラウド移行と同時に、データモデルやアーキテクチャを見直す方法です。
メリット
- data lake活用、マルチクラウド連携など、クラウドの利点を最大化できる
- レガシーな設計を整理し、将来の拡張性を高められる
デメリット
- アプリケーション改修が必要になる場合がある
- 移行期間・コストが増大しやすい
3. ハイブリッド構成
一部のデータ・ワークロードはオンプレミスに残し、一部をクラウドに移行する方法です。
メリット
- 段階的な移行が可能
- 規制・セキュリティ要件により、オンプレミス保持が必要なデータに対応できる
デメリット
- オンプレミスとクラウドの両方を運用する複雑性
- データ同期・ネットワーク接続の設計が必要
移行戦略は、自社の業務要件・IT成熟度・投資余力 を踏まえて選択します。
データガバナンスとセキュリティ
クラウド移行では、データの保管場所・アクセス管理が変わるため、ガバナンスの見直しが必要です。
検討すべき論点
- データレジデンシー(データ保管場所)
国・地域によるデータ保管規制に対応できるリージョンを選択 - 暗号化・アクセス制御
保存データの暗号化、転送データの暗号化、ロールベースアクセス制御の設計 - 監査ログ・コンプライアンス
誰がいつどのデータにアクセスしたかのログ取得・監査体制 - 個人情報保護規制への対応
GDPR、個人情報保護法などへの準拠
特に、機密性の高いデータをクラウドに移行する場合は、セキュリティ設計を入念に行う 必要があります。
ネットワーク設計・接続方式
オンプレミス環境や他クラウドサービスとの接続をどう設計するかも重要です。
代表的な接続方式
- インターネットVPN
低コストだが、帯域・安定性に制約がある - 専用線接続(ExpressRoute、Direct Connectなど)
高速・安定だが、コストが高い - ハイブリッドクラウド統合基盤
SAP BTPやクラウドプロバイダーのハイブリッド接続サービスを活用
特に、リアルタイム性が求められるトランザクション処理や、大量データ転送が発生する分析ワークロード では、専用線接続が推奨されます。
運用体制・スキルの見直し
クラウド移行により、IT部門の役割が変わります。
従来の役割
- サーバー・ストレージの調達・運用
- OS・DBのパッチ適用・バックアップ管理
クラウド移行後の役割
- クラウドサービスの設定・監視
- データモデル・クエリ最適化
- ビジネス部門との連携強化
そのため、次のような対応が必要になります。
- クラウド運用スキル(Azure、AWS、GCPの管理スキル)の習得
- HANA管理者の役割シフト(インフラ寄り → データ活用・最適化寄り)
- 外部パートナーとの役割分担の再設計
「インフラ運用の負担が減る」≠「IT部門の仕事が減る」 であり、むしろ 「データ活用・ビジネス価値創出」に時間を割けるようになる という前向きな捉え方が重要です。
SAP HANA Cloudの主な活用シーン
SAP HANA Cloudは、さまざまなユースケースで活用されています。
ここでは、代表的な活用シーンを紹介します。

S/4HANA Cloudのデータベース基盤
最も標準的な用途が、S/4HANA CloudのバックエンドDB としての活用です。
- RISE with SAPやS/4HANA Cloud環境では、HANA Cloudが標準のデータベースとして採用される
- ERPデータをインメモリで高速処理し、リアルタイムな在庫照会・売上分析などを実現
- S/4HANAのアップデートと連動して、HANA Cloudも継続的に最新化される
この構成では、アプリケーション(S/4HANA)とデータベース(HANA Cloud)がセットで提供される ため、個別に構築・運用する手間が省けます。
データウェアハウス・分析基盤
既存の業務システム(SAP、非SAP問わず)からデータを集約し、分析基盤として活用するパターンです。
- オンプレミスのECC、Salesforce、Webログなど、複数のデータソースを統合
- HANA Cloudのインメモリ処理で、大量データの集計・分析を高速実行
- SAP Analytics CloudやTableau、Power BIと連携し、ダッシュボード・レポートを提供
この構成では、HANA Cloud + SAP Datasphere を組み合わせて、データ統合・クレンジング・セマンティックレイヤー構築を行うケースが多くあります。
リアルタイムデータ処理・IoT分析
製造業・物流業などで、IoTセンサーデータをリアルタイム処理する用途にも適しています。
- 工場の設備センサー、物流トラックのGPSデータなどを継続的に取り込み
- HANA Cloudのストリーム処理・時系列分析機能でリアルタイム監視
- 異常検知・予測保全のアラートをリアルタイムに発信
この構成では、HANA CloudのStreaming機能やPredictive Analysis Library(PAL) を活用します。
アプリケーション開発基盤(SAP BTP連携)
SAP BTP上でカスタムアプリケーションを開発する際の、データストアとして活用されます。
- BTP上のFioriアプリ、ローコードアプリのバックエンドDBとしてHANA Cloudを採用
- ODataサービス経由でデータ取得・更新を行い、疎結合なアーキテクチャを実現
- BTPのAI/機械学習サービスと連携し、予測・推奨機能を組み込む
この構成では、S/4HANAコア部分はクリーンに保ち、拡張機能はBTP+HANA Cloudで実装する という設計思想が推奨されます。
ハイブリッドクラウド・マルチクラウド統合
オンプレミスと複数のクラウド環境にまたがるデータを統合する「データハブ」としての活用も増えています。
- オンプレミスのECC、Azure上のSalesforce、AWS上の分析ツールなど、異なる環境のデータをHANA Cloudに集約
- データ仮想化(Data Virtualization)機能により、物理的な移動なしにデータを統合参照
- グローバル拠点のデータを一元管理し、全社横断のレポーティングを実現
この構成では、ネットワーク設計・データガバナンス・セキュリティ設計 が特に重要になります。
SAP HANA Cloud導入を成功させるためのポイント
最後に、SAP HANA Cloud導入を成功させるために押さえておきたい実務のポイントをまとめます。

1. 「何のためにクラウド化するのか」を明確にする
クラウド移行は手段であり、目的ではありません。
- コスト削減が目的なのか、俊敏性向上が目的なのか
- インフラ運用負荷軽減が狙いなのか、最新機能活用が狙いなのか
目的が曖昧なまま移行すると、「クラウドに移行したが、期待した効果が得られない」 という事態に陥ります。
2. オンプレミス資産の棚卸しと「持ち込まない」判断
既存のHANA環境をそのままクラウドに持ち込むのではなく、「何を持ち込み、何を捨てるか」を整理 します。
- 使われていないテーブル・データを整理する
- レガシーなカスタマイズ・アドオンを見直す
- データアーカイブ戦略を策定し、過去データをdata lakeに移行する
移行をきっかけに、システムをスリム化・最適化する ことが重要です。
3. クラウドネイティブな機能を積極的に活用する
単なるリフト&シフトではなく、クラウドならではの機能を活用します。
- data lakeでのコスト最適化
ホット・コールドデータの適切な配置 - 自動スケーリングの活用
需要に応じた柔軟なリソース調整 - マルチリージョン展開
グローバル拠点への展開を迅速化
これらを活用することで、「クラウドに移行して良かった」と実感できる効果 が得られます。
4. 段階的な移行戦略を描く
すべてを一度にクラウド化するのではなく、段階的なアプローチを検討します。
第1フェーズ:開発・検証環境の移行
- まずは開発環境をクラウドに移行し、運用ノウハウを蓄積
第2フェーズ:分析ワークロードの移行
- 本番データへの影響が少ない分析用途から移行
第3フェーズ:本番トランザクション処理の移行
- 最も重要な本番環境を、ノウハウが蓄積された段階で移行
こうした段階的アプローチにより、リスクを抑えながら確実に移行を進める ことができます。
5. パートナー・ベンダーの選定を慎重に行う
SAP HANA Cloud移行は専門性が高いため、適切なパートナーの力を借りることが重要です。
パートナー選定のポイント
- HANA Cloudの導入実績・認定資格の有無
- クラウドプロバイダー(Azure、AWS、GCP)との連携実績
- 移行後の運用サポート体制
- SAP BTP、SAP Datasphereなど周辺サービスとの統合ノウハウ
特に、「オンプレミスHANAには詳しいが、クラウドには不慣れ」なベンダー に依頼すると、クラウドの利点を活かしきれないリスクがあります。
まとめ|SAP HANA Cloudは「DBのクラウド化」以上の価値がある
SAP HANA Cloudは、単なる「HANAのクラウド版」にとどまらず、SAP全体のクラウド戦略における中核的なデータ基盤 です。
改めて整理すると、SAP HANA Cloud導入検討で押さえるべきポイントは次の通りです。
- オンプレミスHANAとの違いを正しく理解する
運用モデル・料金体系・機能の違いを踏まえて、自社に合うかを判断 - TCOは5〜10年スパンで評価する
月額料金だけでなく、運用コスト・更改コスト・機会損失を含めた総合評価 - 移行戦略は段階的に描く
一度に全てを移行するのではなく、リスクを抑えた段階的アプローチ - クラウドネイティブな機能を活用する
data lake、自動スケーリング、マルチクラウド連携など、クラウドの利点を最大化 - データガバナンス・セキュリティ設計を入念に行う
データ保管場所・暗号化・アクセス制御を、規制・セキュリティ要件に沿って設計
SAP HANA Cloudは、「インフラ運用の負担を減らし、データ活用・ビジネス価値創出に時間を割く」 ための強力な選択肢です。
自社のIT戦略・データ戦略を踏まえて、適切な導入シナリオを描いていくことが求められます。






