この記事のポイント
リスキリングは新しい職業や大幅なスキル変化に対応するために必要なスキルを獲得するプロセス
リカレント教育やアップスキルとは異なり、リスキリングは成長産業への労働移動を目的とする
リスキリングの4ステップ(人材像定義→教育プログラム→実施→実践活用)と企業事例を紹介
人材開発支援助成金やリスキリング支援事業など2026年最新の助成金・支援制度を解説

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展やAIの普及に伴い、企業にはこれまで以上に高度なスキルセットが求められています。そこで注目されているのが「リスキリング」です。リスキリングとは、新しい職業に就くため、あるいは現在の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得するプロセスです。
本記事では、リスキリングの定義からリカレント教育・アップスキルとの違い、企業にとってのメリット・デメリット、実施の4ステップ、国内外の事例、そして2026年最新の助成金・支援制度まで詳しく解説します。
目次
リスキリングとは

リスキリング(Re-skilling)とは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。必要とされるスキルの変化は、主に産業構造の変化やテクノロジーの進歩によって生じています。
DXの進展に伴い、AIやロボティクスなどの先進技術が普及する中、リスキリングは企業が競争力を保つために不可欠な戦略となっています。この取り組みにより、従業員は時代に即したスキルにシフトし、変化する労働市場での市場価値を高めることが可能になります。
リスキリングとリカレント教育・アップスキルの違い
リスキリングは、「リカレント教育」や「アップスキル」とは異なる概念です。以下の表でそれぞれの違いを整理しました。
| 項目 | リスキリング | リカレント教育 | アップスキル |
|---|---|---|---|
| 目的 | 成長産業への労働移動 | 個人の関心に基づく学習 | 現在の職務のスキル向上 |
| 主体 | 企業 | 個人 | 個人・企業 |
| 学習内容 | まったく新しい分野 | 必ずしも職業に直結しない | 既存スキルのアップデート |
| 特徴 | なくなる職業から成長産業への移動 | 反復的・定期的な学習 | 現職の高度化 |
リカレント教育は個人の関心を中心とした反復学習であり、必ずしも職業に直結する必要はありません。一方、リスキリングはなくなる職業から成長産業に労働移動するための学習であり、実施責任は企業にあります。
アップスキルは現在の職務をさらに高度にすることや既存のスキルをアップデートすることを指します。リスキリングはまったく新しい分野について学ぶことを意図しており、この点で大きく異なります。
リスキリングが注目される理由

リスキリングが世界的に注目されるきっかけとなったのは、世界経済フォーラムによる2020年1月のダボス会議です。この会議で、第四次産業革命に対応するために2030年までに10億人にリスキリングの機会を提供する「リスキリング革命」が立ち上げられました。
2026年現在、リスキリングの重要性はさらに高まっています。生成AIの急速な普及により、従来の業務が大きく変化しつつあり、AIを活用できる人材の需要が急増しています。IPAの「DX動向2025」でも、日本企業の85.1%がDX推進人材の不足を感じており、社内でのリスキリングを通じたデジタル人材の育成が急務となっています。
企業がリスキリングに取り組むメリット

リスキリングは、企業にとって以下のようなメリットをもたらします。
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人材不足問題への対応
リスキリングプログラムを通じて社内から新たなスキルを持つ人材を育成することで、外部人材の採用コストを削減し、既存の従業員にキャリアアップの機会を提供できます。
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従業員のエンゲージメント向上
継続的な学習と発展の機会を提供することで、従業員の仕事に対する満足度とモチベーションが高まり、生産性と企業への忠誠心の向上につながります。さらに、自ら学習するモチベーションの高い人材を育成でき、組織全体のイノベーション力が強化されます。
企業がリスキリングに取り組むデメリット

一方で、リスキリングにはデメリットも存在します。
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コストと時間の負担
企業はトレーニングプログラムや新しい技術の導入に投資する必要があり、その間に従業員が通常の業務から離れることで、短期的には業績が低下する可能性があります。
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学習の困難さとモチベーション維持
新しいスキルの習得は容易ではなく、個々の従業員の学習能力や適応力には差があります。リスキリングが強制的に感じられる場合にはモチベーションの低下につながることもあるため、従業員が必要性を理解し、自ら学びたいと感じる環境づくりが重要です。
これらのデメリットを認識した上で適切な戦略を採用することで、企業と従業員の双方にとって有益な結果をもたらすことが可能です。
リスキリングを進めるための4ステップ

リスキリングを効果的に進めるためには、以下の4ステップで段階的に取り組む必要があります。
ステップ1:事業戦略に基づいた人材像・スキルを定める
リスキリングの第一歩は、企業の長期的な戦略と目標を明確にし、その上で必要とされるスキルや人材像を特定することです。業界の動向、将来の技術発展予測、競合他社の動きなども考慮に入れ、従業員が目指すべき具体的なスキルセットを明らかにします。
ステップ2:教育プログラムを決める
人材像や必要なスキルが定義されたら、それを身に付けるための効果的な教育プログラムを選定します。オンラインコース、ワークショップ、セミナーなど、さまざまな教育手法が検討されます。学習スタイルや従業員の能力レベルに合わせて柔軟な学習オプションを設けることが重要です。
ステップ3:社員に取り組んでもらう
社員がプログラムに積極的に参加するための環境づくりが重要なステップです。コミュニケーションの充実、キャリアアップのインセンティブ、学習支援の環境整備が効果的です。社員が自身の成長と組織への貢献を実感できるよう工夫しましょう。
ステップ4:リスキリングの成果を実践で活かす
学んだスキルを実際の業務で活かすことが不可欠です。プロジェクトベースの業務割り当て、ローテーションプログラムなどを通じて、学習効果の定着と実務への応用を図ります。社員がリスキリングで得た知識や技能を実践で研鑽し続けられるサポート体制を整えましょう。
リスキリングの導入事例

実際に行われているリスキリングの事例を紹介します。
日立製作所
日立製作所では、従業員のスキル向上とキャリア開発を支援するために多岐にわたる教育プログラムを導入しています。オンライン学習プラットフォームの提供や社内カンファレンス、勉強会を通じた知識共有を積極的に行っています。
さらに、これらのリスキリング教育サービスは株式会社日立アカデミーを通じて外部企業向けにも提供されており、多くの企業が利用しています。
三菱商事
総合商社である三菱商事は、全社員向けIT・デジタルリテラシー講座を設置し、デジタル人材育成のためのリスキリングを推進しています。
さらに、社員がキャリア形成やリスキリングのために最長2年間休職できる制度を導入しており、リスキリングを促進する環境が整っています。
リスキリングの助成金・支援制度

リスキリングには多くのコストがかかるため、国や自治体が提供する助成金・支援制度を活用することが重要です。以下に2026年現在利用可能な主要な制度を紹介します。
経済産業省の支援制度
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リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
キャリア相談対応、リスキリング講座の受講、転職支援までを一体的に提供する制度です。講座の受講費用の2分の1相当額(上限40万円)が助成され、転職後1年間継続就業する場合は追加で5分の1相当額(上限16万円)が助成されます。
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高等教育機関における共同講座創造支援事業
デジタル分野の人材育成のため、大学等で共同講座を運営する費用について3000万円を上限に補助するプログラムです。
厚生労働省の支援制度
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人材開発支援助成金
労働者の職業訓練に対して、訓練経費や賃金の一部を助成する制度です。「事業展開等リスキリング支援コース」では、中小企業の経費助成率が最大75%に拡大されています(2025年改正)。このコースは2026年度までの期間限定の助成金です。 -
教育訓練給付制度
資格取得のための講座や大学・大学院の受講・修了時に費用の一部が支給される制度です。専門実践教育訓練では受講費用の最大70%(年間上限56万円)が支給されます。
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まとめ
リスキリングについて、以下の3点が重要です。
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リスキリングはDX時代の企業戦略として不可欠
生成AIの普及やDXの進展により、必要なスキルが大幅に変化しています。リスキリングを通じて社内人材を育成することは、人材不足の解消と組織の競争力維持に直結します。
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4ステップで段階的に進める
事業戦略に基づく人材像の定義から始め、教育プログラムの選定、社員の参加促進、実践での活用まで、段階的に取り組むことが成功の鍵です。
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助成金・支援制度を積極的に活用する
人材開発支援助成金やリスキリング支援事業など、国が提供する助成金・支援制度を活用することで、リスキリングにかかるコスト負担を大幅に軽減できます。特に「事業展開等リスキリング支援コース」は2026年度までの期間限定であるため、早期の活用を検討しましょう。





