この記事のポイント
ECC(EHP 6以降)の標準保守は2027年末終了。延長保守は+2%で2030年末まで、Private Edition Transition Optionで2033年末まで延命可能だが、いずれも恒久策ではない
S/4HANA移行はBrownfieldが期限内対応の現実解。業務刷新も狙うならGreenfield、選択的にデータ移行するならSelective Data Transition(Bluefield)を検討
各種報道では多くの国内ECCユーザーが未移行とされており、経験あるパートナーの逼迫が進む中、2026年中の構想着手が望ましい

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
SAP ERP 6.0(ECC)を利用している企業にとって、「SAPの2027年問題」は基幹システム戦略を見直す大きな転機です。
SAP Business Suite 7の標準保守が2027年末で終了し、延長保守(2030年末)やPrivate Edition Transition Option(2033年末)といった延命策はあるものの、いずれも恒久的な解決策ではありません。
本記事では、2027年問題の対象範囲とリスク、S/4HANA移行(Brownfield/Greenfield/Selective Data Transition)・他社ERP・延命策の比較、対応コストの目安、そして今から始めるべき検討ステップを体系的に解説します。
SAPの2027年問題とは
「SAPの2027年問題」とは、SAP ERPを含む「SAP Business Suite 7」系製品の標準保守が2027年末で終了することに伴う課題を指します。
特に、長年ECC 6.0を使い続けてきた企業にとっては、今後の基幹システム戦略を必ず見直さざるを得ない節目になります。
ポイントを整理すると、概ね次のようなイメージです。
- 対象はSAP ERP 6.0(ECC)、CRM 7.0、SRM 7.0、BW 7.5などを含むSAP Business Suite 7ファミリー
- 標準保守(メインストリーム)は2027年末まで提供
- その後は、追加コストを伴う**延長保守(〜2030年末を目安)**に移行
- 一方で、SAP S/4HANAやRISE with SAPなどの新世代製品は、この「2027年問題」の対象外
標準保守が終了すると、セキュリティ修正パッチや法改正対応(税制・インボイス・電子帳簿保存法など)が受けにくくなるほか、不具合発生時のサポートが限定的になり運用リスクや監査リスクが高まります。加えて、2027年に向けて世界中のSAPユーザーが一斉に移行を進めるため、パートナーや人材の不足が予想されます。
つまり「SAPの2027年問題」とは、2027年以降もECCなどの旧世代SAPを使い続けるのか、S/4HANAや他の選択肢に移行するのかを、限られた猶予期間の中で決めなければならない状況を指します。

次のセクションでは、どのシステム・バージョンが具体的に2027年問題の対象になるのかを、もう少し踏み込んで整理していきます。
2027年問題の対象システムとバージョン
まず押さえておきたいのは、**「2027年問題の対象は"SAPを使っている企業すべて"ではない」**ということです。対象になるのは、ざっくり言うと「SAP Business Suite 7世代のオンプレ製品」です。

代表的には次のような製品・バージョンが該当します。
- SAP ERP 6.0(いわゆるECC 6.0、各EHP含む)
- SAP CRM 7.0 / SAP SRM 7.0 / SAP SCM 7.0などの周辺コンポーネント
- SAP BW 7.5など Business Warehouseを含むスイート製品群
これらは「Business Suite 7ファミリー」として一括で取り扱われており、前述の通り標準保守は2027年末までとなっています。なお、EHP 0〜5が適用されているERP 6.0は2025年末で標準保守が終了しており、延長保守の対象外です。EHP 6以降を適用している環境のみが2027年末まで標準保守を受けられます。
一方で、次のようなケースは、いわゆる「2027年問題」の直接の対象ではありません。
- すでに**SAP S/4HANA(オンプレ・クラウド)**に移行済みの環境
- RISE with SAPを契約しており、S/4HANAベースのクラウドERPに移行済み
- ECCではなく、他社ERPや独自開発基幹システムのみを利用している企業
ただし、S/4HANAに移行済みだったとしても、旧ECC環境を参照用に残している場合や、BW 7.5や周辺の旧コンポーネントがまだ残っている場合、自社開発インターフェースや周辺システムが旧ECCを前提に動いている場合は、完全に無関係というわけではなく、「どこまで旧環境を残すか」を整理する必要があります。
実務的には、次のような観点で「自社が対象かどうか」をまず確認するのが出発点になります。
- 本番環境で稼働しているSAPのバージョン(ERP 6.0 / S/4HANAなど)
- ECCを使っている場合、そのEHPレベルとサポート契約の内容
- BW、CRM、SRM、SCMなどの旧コンポーネントの残存状況
- 旧環境とつながっているアドオン・周辺システムの有無
ここまでを整理すると、「自社は明確に2027年問題の対象」「一部コンポーネントのみ対象」「ほぼ影響なし」といった現在地が見えてきます。
次のセクションでは、そうした企業にとってなぜ2027年問題が"今から"の経営・ITテーマになるのかを整理していきます。
SAP 2027年問題が今からのテーマになる理由
SAPの2027年問題は、「あと数年あるから様子見でよい」テーマではありません。
基幹システムという性質上、検討開始が遅れるほど選択肢が狭まり、コストもリスクも増える構造になっています。
保守切れは「IT課題」ではなく「経営リスク」
標準保守が終わったシステムを使い続けると、セキュリティ脆弱性・法令対応・監査指摘など複数のリスクが同時に顕在化します(具体的なリスクシナリオは次セクション「放置した場合のリスク」で詳しく解説します)。
重要なのは、これが単なるIT部門の課題ではなく**「経営判断としてどこまでリスクを許容するか」が問われるテーマ**になる点です。保守切れの基幹システムを放置する経営判断そのものが、監査や投資家説明で問われる時代に入っています。
世界的に移行需要が集中しパートナーが逼迫する
2027年問題は、国内だけではなく世界中のECCユーザーが同じ期限に直面するテーマです。そのため、S/4HANAやERP移行の経験を持つコンサルタント・エンジニア、S/4HANA・RISE案件をこなせるSIパートナー、インフラ・クラウド基盤のリソースに対する需要が一気に高まることが予想されます。
検討・決裁が後ろ倒しになるほど、プロジェクト開始時期が「パートナーの空き待ち」になる、経験の浅い体制で妥協せざるを得ない、複数社で見積もっても条件が大きく変わらない、といった状況になりやすく、**「急いだから高くつく」**という悪循環に陥りがちです。
移行には「構想〜設計〜移行」の時間がかかる
SAP移行は、多くの企業にとって1〜2年で片が付くような小さな取り組みではありません。
- 現行システムの棚卸し(アドオン・インターフェース・データ量の把握)
- 業務プロセス/テンプレートの見直しレベルの合意
- 移行パターン(Greenfield/Brownfield/Selective)とロードマップの設計
- 実際の構築・テスト・データ移行・カットオーバー
といったステップを考えると、「検討開始から本番移行まで数年スパン」が前提になります。
このため、「まだプロジェクトを立ち上げなくてもいい」ではなく、**「今のうちに構想と現状診断を済ませておかないと間に合わない」**という時間軸で考える必要があります。
「様子見」を続けるほど選択肢が狭まる
2027年問題に対しては、S/4HANA・RISEへの移行だけでなく、他社ERPやドメイン特化ソリューションへのリプレース、期間限定の延命策(延長保守・第三者保守・機能縮小)、クラウド活用の度合いをどうするか(IaaS/PaaS/SaaS)といった複数の選択肢があります。
ただし、検討開始が遅れるほど「期間的に現実的な選択肢」が限られてしまい、本来は業務刷新も含めて検討したかったのに「とりあえず延命」に流れがちです。将来の再移行・再更改まで見据えた設計が難しくなるため、中長期の視点でみるとトータルコストがむしろ増えやすいのが実情です。

こうした理由から、SAPの2027年問題は「期限間際になったら考えるテーマ」ではなく、今のうちから構想と現状診断を進めるべき経営・ITテーマだと言われています。
次のセクションでは、放置した場合に想定されるリスクや負のシナリオを、もう少し具体的に整理していきます。
SAP 2027年問題を放置した場合のリスク
SAPの2027年問題は、「多少古いがまだ動いているシステム」の延長線で考えると危険です。
保守切れの基幹システムを持ち続けることは、次のような負のシナリオにつながりやすくなります。
セキュリティ・法令対応リスクの顕在化
標準保守が切れたシステムでは、新たな脆弱性に対する修正パッチが提供されない・限定的になるほか、税制改正や電子帳簿保存法対応など法令対応を自前で実装する必要が出てきます。監査や内部統制の観点で、「保守切れ環境の継続利用」が指摘される可能性が高まるため、特に会計・販売・在庫など財務報告に直結する領域で使っている場合は、経営・監査上のリスクとして無視できません。
運用負荷の増大とブラックボックス化
保守切れ環境を前提に、その場しのぎの対応を積み重ねていくと、次のような問題が発生します。
- 法令対応や不具合修正を「社内の特定メンバー頼み」で行う
- ベンダーからの標準サポートが期待できず、トラブル対応が属人化する
- ドキュメント整備が追いつかず、気付いたら誰も全体像を把握していない状態になる
こうした状況が続くと、運用コスト増+ブラックボックス化が進んでいきます。その結果、システム運用は何とか回っているものの誰も触りたがらない状態となり、新しい施策(データ活用・AI・他システムとの連携)も進まず、攻めにも守りにも動けない状態に陥りがちです。
突発トラブル時の事業継続リスク
基幹系システムでは、「普段は何とか動いている」状態でも、ハード故障・OS更新・ネットワーク更改などをきっかけにトラブルが顕在化することがあります。
保守切れ環境の場合、ベンダーサポート窓口に相談しても優先度が下がる・対応できないケースが増え、パッチや修正プログラムが存在せず影響範囲を限定した回避策しか取れない状況になります。最悪の場合、長時間の停止やデータ不整合が発生し、事業継続にインパクトが出る恐れがあります。
「あとからまとめて対応」のコスト増大
2027年問題を先送りし続けると、最終的に法令対応・運用対処・暫定改修が積み上がり移行前提の整理作業が肥大化します。「もう少し早く着手していれば選べた」移行オプションが取れなくなり、結果として移行プロジェクトの難易度とコストが高止まりする構図になりやすいのが現実です。

こうした負のシナリオを避けるためにも、「2027年問題があるから仕方なく移行する」という発想ではなく、リスクとコストを見極めたうえで、いつ・どこまで・どのように移行するかを自分たちで決めにいく視点が重要になります。
次のセクションでは、その前提として押さえておきたい代表的な対応方針(選択肢)を整理していきます。
SAP 2027年問題への対応方針
2027年問題に対しては、「S/4HANAに移行するか/しないか」の二択ではありません。
現実的には、次のような選択肢の組み合わせから、自社に合ったシナリオを設計していくことになります。

SAP S/4HANAへの移行を軸にする
最もオーソドックスなのが、S/4HANAを次期基幹システムの前提とする方針です。
- オンプレミス版のS/4HANAを自社データセンター/IaaS上に導入
- RISE with SAPを利用し、クラウド上のS/4HANA環境+運用サービスを一体で利用
といったパターンが代表例です。
S/4HANA移行を選ぶメリットは、既存のSAPノウハウやマスタ構造を活かしやすいこと、会計・販売・在庫など業務領域をまたいだ一貫した統合基盤を維持できること、将来的な拡張(SAP BTP・生成AI・業務テンプレート活用など)を見据えやすいことが挙げられます。
一方で、ライセンス・インフラ・移行プロジェクトを含めた投資規模は一定以上になるほか、ECC時代のアドオンや運用をどこまで見直すか、上流での設計負荷が高い点も踏まえ、**「どこまで業務を刷新したいか」「どれだけ標準に寄せられるか」**をセットで検討する必要があります。
S/4HANA移行の3つのアプローチ
S/4HANAへの移行を選択した場合、具体的な移行方式は大きく3つに分かれます。以下の表にそれぞれの特徴を整理しました。
| 方式 | 概要 | 期間の傾向 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| Brownfield(コンバージョン) | 既存ECCをS/4HANAに技術変換。設定・データ・カスタマイズを引き継ぐ | 3方式の中で最も短い傾向 | 期限が迫っている、業務プロセスの大幅変更は不要 |
| Greenfield(リビルド) | S/4HANAを新規構築し、業務プロセスをゼロベースで再設計する | 最も長くなる傾向 | 業務刷新(Fit to Standard)を本格的に進めたい |
| Selective Data Transition(市場ではBluefieldとも呼ばれる) | BrownfieldとGreenfieldの中間。残すデータ・プロセスと刷新する部分を選択的に切り分ける | 両者の中間 | 一部の業務は標準化、一部は既存プロセスを継続したい |
導入判断で詰まりやすいのが「BrownfieldとGreenfieldのどちらで始めるか」という論点です。2027年末の期限を考えると、Brownfieldの方が期間的に現実的ですが、ECC時代のアドオンや非標準カスタマイズをそのまま引き継ぐことになるため、移行後の保守コストが高止まりするリスクがあります。一方、Greenfieldは業務刷新の効果が大きい反面、Brownfieldより長期間を要する傾向があるため、2026年後半から着手する場合はタイムラインが厳しくなります。
現実的には、コア業務(会計・販売)はBrownfieldで期限内に移行し、周辺業務は段階的にGreenfieldで刷新するハイブリッドアプローチを取る企業も増えています。

他社ERPや領域特化ソリューションへのリプレース
もう一つの方向性として、SAPにこだわらず、他社ERPや領域特化型ソリューションへのリプレースを検討するパターンもあります。
- 経理・人事・CRMなど、領域ごとにSaaSを組み合わせる構成
- 特に海外展開や特定業種で強みのある他社ERPへの乗り換え
- 「基幹はミニマルなERP+周辺はSaaS」という構成へのシフト
などが代表例です。
この選択肢では「本当にSAPでなければならないのか」をゼロベースで見直せるほか、領域特化のSaaSやクラウドERPを活用することで初期導入までのスピードを上げられる可能性があります。ERPとSAPの違いを整理した上で、自社の業務要件に本当に必要な機能を見極めることが出発点になります。
一方で、現行のSAP主導のプロセスやインターフェースをほぼ作り直す前提になり、複数のベンダーやSaaSを束ねるアーキテクチャ・運用設計が新たな負荷になるという意味で、2027年問題対応だけを目的に選ぶにはハードルが高い選択肢でもあります。
ECC延命という現実解
現実的には、「当面はECCを延命しつつ、中長期では刷新する」というシナリオもよく検討されます。
- SAP公式の延長保守プログラムを契約して、2030年頃まで時間を稼ぐ
- サポート切れ後は、第三者保守ベンダーによるサポートに切り替える
- ECC上の機能を絞り込み、一部を周辺システムやSaaSに切り出して負担を軽くする
といったパターンです。
この方向性のメリットは、短期的な投資負荷を抑えつつ「今すぐの移行」を避けられること、既存プロセスを大きく変えずに当面の稼働継続が可能なことです。
一方で、延長保守や第三者保守には別種のコストと制約が発生します。結局いつかは刷新が必要であり「課題の先送り」に終わるリスクがあること、セキュリティ・法令対応・監査対応のリスクを完全にゼロにはできないことから、**「時間を買うための暫定策」なのか「中長期戦略として本気で採用するのか」**を整理することが重要です。
事業戦略・ITロードマップと紐づけたハイブリッド構成
実務的には、上記のどれか一つだけを選ぶというより、中核の会計・販売・在庫はS/4HANAに集約し、周辺の人事・CRM・ワークフローはSaaSにリプレースし、旧ECCは参照用に絞り込んだうえで数年間だけ延命する、といったハイブリッド構成になるケースが多くなります。
その際に重要なのは、自社の事業戦略(どの事業を伸ばしたいか・どこでグローバル展開するか)、データ戦略(どこに業務データを集約し分析やAIでどう活用するか)、ITロードマップ(基盤・ネットワーク・クラウド・セキュリティの整備計画)といった**"上位の戦略"にSAP 2027年問題をどう位置付けるか**という視点です。
次のセクションでは、これらの選択肢を前提に、2027年問題にどう向き合い、どのようなステップで検討〜行動に移していくかを、具体的なステップとして整理していきます。
SAP 2027年問題の2026年最新動向
2026年に入り、SAP 2027年問題をめぐる状況はさらに具体化しています。ここでは、2026年時点で把握しておくべき最新の保守期限と移行オプションを整理します。
保守期限の最新スケジュール
2026年2月時点で確定しているSAP Business Suite 7の保守期限は以下の通りです。
| 対象製品 | 標準保守終了 | 延長保守 | 条件 |
|---|---|---|---|
| SAP ERP 6.0(EHP 0〜5) | 2025年末(終了済み) | なし | 延長保守の対象外 |
| SAP ERP 6.0(EHP 6〜8) | 2027年末 | 2030年末まで | Enterprise/Standard Support、+2%コスト |
| SAP CRM / SRM / SCM 7.0 | 2027年末 | 2030年末まで | 同上 |
EHP 0〜5を適用しているERP 6.0の標準保守は2025年末に既に終了しています。この環境は延長保守の対象にもならないため、該当する企業は早急な対応が求められます。
EHP 6以降の環境については、現在の保守基準料金に2%を追加することで2030年末まで延長保守を受けられます。現時点でSAPが公表している保守・移行オプションは、標準保守(2027年末)・延長保守(2030年末)・Private Edition Transition Option(2031〜2033年末)までです。
SAP ERP Private Edition Transition Option(2033年まで)
大規模企業や複雑なシステム環境を持つ企業向けに、SAPはSAP ERP, private edition, transition optionを発表しています。これは2031年から2033年末までのECC稼働継続を可能にするサブスクリプション型オファリングです。
このオプションの主な条件を以下に整理します。
- 購入時期 2028年から購入可能
- 利用期間 2031年〜2033年末
- 前提条件 2030年末までにSAP ERP, private editionへ移行済みであること
- データベース SAP HANAのみサポート
- 必須プラン 2031年〜2033年の期間中はMax Success Planが必須
- 対象範囲 SAP ECCのみ(Business Suiteの他コンポーネントは対象外)
- 最小システムサイズ 2TB以上が必須(2025年8月の更新で明示)
- 価格 2026年にSAP ERP, private editionを契約した場合、2031年のTransition Option切替時に20%のアップリフトが発生(2025年末までの契約なら1:1移行が可能)
このオプションは「2027年に移行が間に合わない大規模企業に時間を提供する」位置づけであり、恒久的な延命策ではありません。2033年末までにSAP Cloud ERPまたはSAP Cloud ERP Privateへの移行を完了する前提で設計されています。

日本市場の現状
2026年時点の日本におけるSAP 2027年問題の状況は、業界各社の分析を総合すると以下のように整理されています。
- 各種調査・報道では、日本のSAP ECC導入企業数は約2,000社、S/4HANAへの移行を完了していない企業は相当数に上るとされている(日経クロステック等の報道、調査時期・定義により数値は異なる)
- S/4HANA導入コンサルティングが可能な国内ベンダーは限られており、需給ギャップが指摘されている
多くの国内ECCユーザーが未移行の状況で、SAP認定コンサルタントの需給ギャップは拡大しており、経験豊富なパートナーの確保は早い者勝ちの様相を呈しています。「まだ検討段階」という企業が2026年後半に一斉に動き出した場合、プロジェクト開始時期が2027年以降にずれ込み、標準保守切れの状態で移行作業を進めるリスクが現実味を帯びます。

SAP 2027年問題への検討・行動ステップ
2027年問題は「知識として理解する」だけでは意味がなく、いつまでに・何を決め・どこから動くかを具体化して初めてリスク低減につながります。ここでは、検討の初期段階で押さえておきたいステップを整理します。

現行SAP環境の棚卸し
最初に行うべきは、今のSAP環境を数字と事実で見える化することです。
- 利用中の製品・バージョン(ERP 6.0 / Business Suite 7コンポーネント / S/4HANA有無)
- アドオン本数・規模・担当モジュール(ざっくりでよいので分布を把握)
- インターフェース数と接続先(他システム/周辺SaaS/ファイル連携など)
- データ量と履歴の範囲(会計・販売・在庫など主要テーブル)
この段階では、「完全な台帳」を作ることよりも、移行の重さと複雑さのイメージを経営・業務と共有できるレベルを目指します。
「変えたいこと/変えたくないこと」を整理する
次に、2027年問題を単なる保守期限の話ではなく、事業・業務・ITの将来像と結びつけて議論します。
- このタイミングで刷新したい業務(会計プロセスの標準化、販売・在庫の見える化 など)
- 逆に、当面は大きく変えたくない業務や拠点
- データ活用・AI・クラウドなど、今後やりたいことの方向性
- 「これ以上はリスクを取りたくない」という制約(停止時間・予算・人員など)
ここで「業務刷新も含めて大きく変えるのか」「まずはリスク低減と延命を優先するのか」といった温度感のすり合わせを行っておくと、後のパターン検討がスムーズになります。
現実的なシナリオ案を2〜3個つくる
現状と方針が見えてきたら、社内でたたき台の移行シナリオを2〜3案つくることをおすすめします。
例としては、次のようなイメージです。
- 案A:主要会社はS/4HANA(RISE)へ移行し、旧ECCは参照用に限定して延命
- 案B:本社・中核事業はGreenfieldでS/4HANAに刷新し、他拠点は段階的にロールイン
- 案C:一定期間は延長保守でECCを延命し、その間にS/4HANA/他社ERPを比較検討
この時点では粗くて構いませんが、ざっくりのタイムライン(いつ検討開始/いつ稼働を目指すか)、概算の投資レンジ(数億〜数十億レベルのオーダー感)、業務変更のインパクトの大小といった比較軸を添えておくと、経営レベルでの議論がしやすくなります。
2027年から逆算したタイムラインを引く
2027年末(あるいは延長保守の期限)から逆算し、構想・現状診断フェーズ、パターン選定・RFP・ベンダー選定、詳細設計・構築・テスト、本番移行・安定化といったラフなタイムラインを引いておきます。
ここで「今から検討を始めてもギリギリ」なのか「まだ1〜2年ほど余裕がある」のか、といった感覚を共通認識にしておくことで、意思決定の優先度を経営レベルで上げることができます。
パートナー選定・RFP作成に進む
上記のステップを踏んだうえで初めて、どのパターン(S/4HANA前提か、他社ERPも含めるか)をRFPに盛り込むのか、どの領域をスコープイン/スコープアウトするのか、どの程度の経験と体制を持つパートナーが必要か、といった**「外部パートナーに投げるべきテーマ」**が明確になります。
逆に言えば、ここまでの整理を自社側で行わずにRFPだけ出すと、各社から出てくる提案の方向性がバラバラで比較しづらくなり、結局「安い・早い」に引っ張られて中長期で不利な選択をしがちです。
このように、SAPの2027年問題への対応は、現状診断 → 方針整理 → シナリオ案 → タイムライン → パートナー選定という流れで、段階的に進めることがポイントです。
もし現時点で「まだ構想フェーズにすら入っていない」という状態であれば、まず現行SAP環境のバージョンとアドオン本数を洗い出すことから始めてください。この棚卸しだけなら1〜2週間で完了でき、その結果が後のすべてのステップの起点になります。
SAP 2027年問題への対応にかかるコスト
2027年問題への対応を検討する上で避けて通れないのが、各選択肢にかかるコストの見通しです。個別の技術要素ではなく、基幹システム全体の移行・延命に関わる投資規模の話になるため、以下に主な費用要素を整理します。
延長保守・延命策のコスト
| 選択肢 | 追加コストの目安 | 期間 |
|---|---|---|
| 延長保守(SAP公式) | 現行保守基準料金の**+2%** | 2028年〜2030年末 |
| SAP ERP, private edition, transition option | 2026年契約の場合、2031年切替時に20%アップリフト | 2031年〜2033年末 |
| 第三者保守 | ベンダーにより大きく異なる | 契約次第 |
延長保守の+2%は保守料金に対する追加であり、例えば年間保守料が1億円の企業であれば年間200万円の追加負担です。一方、Private Edition Transition Optionの20%アップリフトはサブスクリプション料金に対する上乗せであり、契約規模によってはインパクトが大きくなります。いずれも「時間を買うための費用」であり、最終的にはS/4HANAまたは他のERP基盤への移行が前提となる点を踏まえておく必要があります。
S/4HANA移行のコスト
S/4HANA移行のコストは、企業規模・アドオン数・移行方式によって大きく異なりますが、業界一般に数億〜数十億円のオーダーとされています。
主な費用項目は以下のとおりです。
-
ライセンス費用
S/4HANAのオンプレミスライセンスまたはRISE with SAPのサブスクリプション費用。RISE契約の場合はインフラ・運用サービスが含まれるため、個別にIaaS費用を計上する必要はありません。
-
移行プロジェクト費用
コンサルティング・設計・構築・テスト・データ移行の人件費。Brownfieldの場合は比較的コンパクトですが、Greenfieldでは業務再設計を伴うため費用が膨らみやすくなります。
-
アドオン改修・廃止費用
ECC時代のアドオンをS/4HANA対応に改修する、またはSAP標準機能(SAP FioriベースのUI等)やBTP拡張に置き換える費用。アドオン本数が多い企業ほど、この費用が移行コスト全体の大きな割合を占めます。
-
トレーニング・チェンジマネジメント費用
SAP GUIからFiori UIへの操作変更に伴う現場教育、業務プロセス変更の定着支援。
コスト見積もりで注意すべきは、「移行プロジェクト費用」だけを見て判断しないことです。延命策で時間を稼いだ場合でも、その間の延長保守費用・暫定改修費用・将来の再移行費用を合算すると、早期に移行した場合のトータルコストを上回るケースは少なくありません。費用の詳細はSAPまたは認定パートナーへの確認を推奨します。

基幹システム刷新をAI活用の起点にするなら
2027年問題への対応は、単なるシステム更改ではなく、基幹データをどう活かすかを再設計するチャンスでもあります。S/4HANAやクラウドERPに移行して整備されたデータ基盤は、AIエージェントによる業務自動化の土台になります。
AI Agent Hubは、SAP ConcurやDynamics 365などの基幹システムと連携し、経費精算・請求書処理・承認フローといったバックオフィス業務をAIエージェントが自動実行するエンタープライズAI基盤です。Microsoft Fabric(OneLake)によるデータ仮想統合と、Teamsを入口とした統一UIにより、刷新後のERP環境で「データがあるのに手作業が減らない」状態を解消します。Azure Managed Applicationsとして自社テナント内で完結するため、基幹データのセキュリティ要件も満たします。
AI総合研究所は、600社以上のAI導入相談実績をもとに、ERP刷新後のAI活用設計を支援しています。無料の資料で、基幹データを活かしたAI業務自動化の全体像をご確認ください。
ERP刷新後のデータ活用をAIで自動化
基幹データをAIエージェントが業務に直結
S/4HANA移行で整備されたデータ基盤を活かし、経費精算・請求書処理・承認フローをAIエージェントが自動実行。自社テナント内で完結するセキュアなAI基盤です。
まとめ
本記事では、SAP 2027年問題の対象範囲とリスク、S/4HANA移行(Brownfield/Greenfield/Bluefield)・他社ERP・延命策の比較、対応コストの目安、そして今から始めるべき検討ステップを解説しました。
本記事の要点を以下の3点に整理します。
-
延命策は「時間を買う手段」であり、ゴールではない
延長保守(+2%で2030年末まで)やPrivate Edition Transition Option(2033年末まで)は猶予を提供しますが、いずれも恒久策ではありません。延命期間中にどこまで移行準備を進められるかが、トータルコストを左右します。
-
移行方式はBrownfieldを基本に検討し、業務刷新の範囲で使い分ける
2027年末の期限を考えると、3方式の中で最も短期間で完了する傾向のあるBrownfieldが現実的な第一選択です。業務プロセスの刷新も同時に進めたい場合はGreenfield、部分的に切り分けたい場合はSelective Data Transition(Bluefield)を組み合わせるハイブリッドアプローチが有効です。
-
2026年中の構想着手が望ましい
各種報道では多くの国内ECCユーザーが未移行とされており、パートナー・人材の逼迫は加速しています。2027年末から逆算すると、今からでも構想〜設計〜移行の全工程をこなすにはタイトなスケジュールです。
まずは現行SAP環境の棚卸し(バージョン・アドオン本数・インターフェース数の把握)から始め、自社にとって現実的なシナリオ案を2〜3個作成し、2027年から逆算したタイムラインを引いてみてください。






