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ERP×AIで意思決定はどう変わる?業務別ユースケースからデータ基盤、導入ステップを解説

この記事のポイント

  • ERPは、財務・人事・生産・販売などの基幹業務データを1つのデータベースで統合管理するシステムである。
  • 導入により、情報のリアルタイムな可視化が可能となり、迅速な経営判断(データドリブン経営)を支援する。
  • 業務プロセスの標準化により、部門間の連携がスムーズになり、全社的な業務効率化と生産性向上が実現する。
  • 近年は初期コストを抑えやすく、柔軟性の高い「クラウド型ERP」の導入が主流となっている。
坂本 将磨

監修者プロフィール

坂本 将磨

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Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

ERP(Enterprise Resource Planning)は「統合基幹業務システム」とも呼ばれ、企業の「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を一元的に管理・活用するための仕組みです。

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進において、ERPの重要性はますます高まっています。本記事では、ERPの基礎知識から、なぜ今ERPが必要とされているのか、導入による具体的なメリット、そしてオンプレミス型とクラウド型の違いまで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。

目次

ERPにおけるAI活用とは何か

従来のERPとAIの関係:レポート・分析中心から、予測・自動提案へ

「ERPにAIが組み込まれる」とは具体的にどういうイメージか

ERPにAIを組み合わせるメリット

① 意思決定のスピードと精度を同時に引き上げる

② 属人化していた“経験と勘”を、再現可能な形に落とし込める

③ データ活用の“最後の一歩”を埋められる

④ 現場負荷を増やさずに、業務標準化とガバナンスを進められる

⑤ ERP刷新の投資対効果を高めやすくなる

業務別に見るERPのAI活用ユースケース

財務・経理 × AI

需給計画・在庫・生産 × AI

販売・営業・顧客対応 × AI

人事・タレントマネジメント × AI

製造現場・IoT連携 × AI

生成AI・CopilotとERPを組み合わせる方法

チャットUIでERPデータを引き出すイメージ

レポート・会議資料・稟議ドラフトの自動生成

Copilot/チャットボットをERPの“フロントエンド”にする

自然言語指示から“アクション”につなげる

ERP×AIを支えるデータ基盤とアーキテクチャ

埋め込みAIと外部AIプラットフォーム連携の違い

データ品質・マスタ整備がAI精度に直結する理由

RAG/ナレッジ検索とERPデータの組み合わせ方

全体アーキテクチャをどう描くか

主要ERPベンダーのAI対応トレンド

グローバルERPベンダー:標準機能+Copilot+外部AI連携の三層構造へ

国産ERP・国産クラウドERP:業務特化型AIと生成AI連携の強化

ベンダー標準AIだけに依存しない選択肢も増えている

ERPのAI活用を小さく始める導入ステップ

ステップ1:目的と対象業務を1〜2個に絞る

ステップ2:データと業務フローの“現状”を確認する

ステップ3:PoCの設計(評価指標と時間軸を決める)

ステップ4:パイロット導入と現場の巻き込み

ステップ5:横展開と運用ルール・責任分担の明確化

ERP×AIでありがちな誤解・失敗パターン

1. 「AIを載せれば既存ERPがそのまま活きる」と期待しすぎる

2. PoCで精度だけを見て「成功/失敗」を判断してしまう

3. AI機能を増やしすぎて、現場が使いこなせなくなる

4. 現場を巻き込まずに“上からのAIプロジェクト”として進めてしまう

5. 運用・保守の責任分担を決めないままスタートしてしまう

まとめ:ERP×AIは“意思決定のアップグレード”

ERPにおけるAI活用とは何か

本記事では「ERPそのものの定義」ではなく、既存のERPにAIをどう組み合わせるかにフォーカスし内容を解説していきます。
ここでは、従来のERPとAIの関係を整理しつつ、「AI対応ERP」と呼べる状態をイメージできるようにしていきます。

ERPそのものの定義については以下で徹底解説していますので、まだ定義が曖昧な方は是非こちらをお読みください。

▼ERP徹底解説記事▼

ERPとは?仕組み・機能・導入メリットから提供形態・最新トレンドまでわかりやすく解説 | AI総合研究所

ERPとは、企業の業務とデータを一元管理する統合基幹システムです。定義や仕組み、導入メリット・デメリット、提供形態の違い、周辺システムとの役割分担、最新トレンドまでわかりやすく解説します。

https://www.ai-souken.com/sap-erp/erp-overview

従来のERPとAIの関係:レポート・分析中心から、予測・自動提案へ

従来のERPとAI対応ERPの関係
従来のERPとAI対応ERPの関係

これまでのERPは、「データを一元管理し、正しい数字を出すこと」が主な役割でした。
多くの企業で行われてきたことは、次のような流れです。

  1. ERPにトランザクションデータ(仕訳、受注、在庫、工数など)を蓄積する
  2. BIツールや帳票で集計・可視化する
  3. 集計結果を人が見て、判断や施策を考える

この世界観では、ERPはあくまで「正しいデータを出す箱」であり、判断そのものは人間がゼロから行う前提でした。

ここにAIが入ってくると、役割分担が次のように変わります。

  • 過去データやリアルタイムデータを元に、将来の数字やリスクを予測する(予測モデル)
  • パターンを学習し、「このケースではこう処理するのが妥当」と自動提案する(レコメンド)
  • 集計結果や明細の山を、自然言語で要約し、判断材料を整理して提示する(生成AI)

つまり、ERPは「正確な記録の箱」から、判断の質とスピードを底上げするための基盤へと立ち位置が変わっていきます。

「ERPにAIが組み込まれる」とは具体的にどういうイメージか

「AI対応ERP」と言っても、その実装パターンはいくつかに分かれます。
大きく見ると、次の3つのレイヤーで考えると整理しやすくなります。

AI対応ERPのイメージ
AI対応ERPのイメージ

  1. ERP標準機能としてのAI(埋め込みAI)

    • ERPベンダーがあらかじめ用意している、需要予測、異常検知、自動仕訳提案、最適在庫量の算出といった機能です。
    • 利用者は、ERPの画面上で「AIが計算した結果」をそのまま参照できます。
    • メリットは、実装・運用のハードルが低いことですが、一方で「提供されている機能の範囲内で使う」前提になるため、自由度は限定されます。
  2. 外部AIプラットフォームとの連携

    • Azureや各種クラウドAIサービス上で機械学習モデルや生成AIを動かし、
      ERPからデータを連携して分析・予測させるパターンです。
    • 例えば、ERPの販売実績データをクラウドに連携し、
      需要予測モデルを構築して、その結果を再度ERPや周辺システムに返すイメージです。
    • 埋め込みAIよりも、
      • モデルのチューニング
      • 社内固有データの追加
        といった柔軟な設計ができる分、データ基盤やMLOpsの設計が必要になります。
  3. 生成AI・CopilotとERPのAPI連携

    • ChatGPTのような生成AIや各種Copilotから、ERPのAPIを通じてデータを取得したり、処理を指示したりするパターンです。
    • ユーザーは「チャットに自然文で指示を出す」ことで、
      • 残業時間や原価の集計
      • 売上トレンドの分析
      • 特定顧客・製品の実績一覧
        などを呼び出せるようになります。
    • さらに、生成AIが
      • 会議用の資料案
      • 稟議書のドラフト
      • KPIレビューのサマリ
        といった「文章アウトプット」まで作成することで、
        ERPデータの活用が一気に身近になります。

実務的には、多くの企業が

1.まずは「ERP標準のAI機能」を試す
2.特定領域で外部AIとの連携やCopilot連携をスモールスタート
3.徐々に対象業務や利用者を広げていく

というステップを取ることになります。

この章では、「AI対応ERP」と聞いたときに、

  • 埋め込みAIなのか
  • 外部AIプラットフォームとの連携なのか
  • 生成AI・Copilot連携なのか

というレイヤーの違いを認識しておくことが、後続の検討をスムーズにするうえで重要になります。

ERPにAIを組み合わせるメリット

「ERP+AI」の議論では、どうしても“できることリスト”が先に立ちがちですが、導入の判断軸としては、従来のERPだけでは得られなかった価値がどこにあるかを押さえておくことが重要です。

一般的なERP導入メリット(データの一元管理、業務プロセスの標準化、内部統制の強化など)ではなく、ここではERPにAIを組み合わせたときに上乗せされる価値に絞って整理します。

ERPにAIを組み合わせるメリット

① 意思決定のスピードと精度を同時に引き上げる

従来のERPは「正しい数字を出す」ことには優れていても、そこから先の

  • どこに課題があるのか
  • 次に何をすべきか

といった解釈は、人がレポートを読み込みながら行う必要がありました。

AIを組み合わせることで、

  • 異常値やトレンドの変化を自動的に検知し、理由候補を提示する
  • 売上や利益の変動要因を、品目・拠点・顧客別に自動分解する
  • 決算・月次レポートを要約し、「押さえるべき3ポイント」を文章で示す

といった形で、数字から示唆までの距離が一気に縮まります。

これにより、

  • レポートを読む時間を減らし、議論や意思決定に時間を割ける
  • 現場だけでは気付きにくい「じわじわ進行する変化」を早期に把握できる

といった形で、経営・現場双方の判断の質とスピードを同時に引き上げることができます。

② 属人化していた“経験と勘”を、再現可能な形に落とし込める

ERPの画面には、入力のルールや承認フローは定義されていても、

  • 「このパターンの取引はこう処理した方が安全」
  • 「この条件が揃うときは、在庫を多めに持っておくべき」

といった、熟練者の“肌感覚”は埋め込まれていないことがほとんどです。

AIモデルに過去の判断と結果を学習させることで、

  • 仕訳の候補や在庫水準の提案として、熟練者の判断パターンを擬似的に再現する
  • 一部の判断をAIの提案に委ね、担当者は承認・例外対応に集中する

という形で、属人化していたノウハウを「提案機能」として組み込むことが可能になります。

もちろん、100%自動化を目指すのではなく、

  • AIの提案:第一案
  • 人の判断:最終決定

という役割分担にすることで、「判断の質を落とさずに生産性を上げる」バランスを取りやすくなります。

③ データ活用の“最後の一歩”を埋められる

「ERP+BIまでは整備したが、現場には思ったほど使われていない」という話は珍しくありません。理由を分解すると、多くの場合は次のようなものです。

  • レポートが多すぎて、どれを見ればよいか分からない
  • 集計結果を解釈して次のアクションに落とすのが難しい
  • 数字を見ても、言葉として現場に伝えにくい

生成AI・Copilotをフロントに置くと、

  • 「こういう観点で知りたい」と自然文で聞けば、関連性の高い指標・グラフを提示してくれる
  • 数字の差異や傾向を、文章で要約してくれる
  • レポートや会議資料のドラフトまで自動生成してくれる

といった形で、「見る・理解する・伝える」の障壁を下げることができます。

結果として、

  • BIやレポートの利用者層が広がる
  • 現場からの問いかけが増え、データ活用のサイクルが回りやすくなる

という、“データ活用が組織文化として根付くかどうか”の部分に効いてきます。

④ 現場負荷を増やさずに、業務標準化とガバナンスを進められる

ERPを導入・刷新するときに必ずと言って良いほど出てくる問題が、

  • 入力負荷が増える
  • 現場の手順が変わる
  • エラーや問い合わせが一時的に増える

といった、短期的な負担の問題です。

AIをうまく組み合わせると、

  • 入力時に「よくあるミス」をリアルタイムで指摘する
  • 過去の類似ケースを参照して、入力値の妥当性をチェックする
  • 複雑な操作や検索条件を、チャットでの指示に置き換える

ということもできるようになり、標準化・ガバナンスの強化と現場負荷の抑制を両立しやすくなります。

特に、「グループ会社が多く業務ルールのばらつきが大きい」「拠点ごとに独自運用が残っている」といった組織では、「AIによるガイド・チェック」を組み込むことで“現場を締め付ける”のではなく“支援しながら標準化する”方向に舵を切りやすくなります。

⑤ ERP刷新の投資対効果を高めやすくなる

最後に、AIはERPそのものを置き換えるものではなく、ERP投資のレバレッジを高める存在と捉えるのが現実的です。

  • 既にERPを導入している企業では、蓄積済みのトランザクションデータをAI学習に活用しやすい
  • 新たにERPを導入・刷新する企業では、最初から「AIで活用する前提」を織り込んだデータ設計ができる

その結果、

  • 「単にシステムを入れ替えただけ」で終わらず、意思決定や業務プロセスの質向上まで踏み込める
  • 経営層に対しても、ERP刷新のROIを説明しやすくなる

という効果が期待できます。


AI総合研究所では、AIの活用によりERPの入力や承認を自動化し、バックオフィス業務を変革する支援を実施しています。

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業務別に見るERPのAI活用ユースケース

業務別に見るERPのAI活用ユースケース

「ERP×AIで何ができるのか」を一番イメージしやすいのは、業務単位で見ることです。
ここでは、代表的な業務領域ごとに、AIがどこに入り込みやすいかを整理します。

業務領域 主なAI活用イメージ
財務・経理 仕訳の自動提案、異常検知、CF予測、決算レポート要約
需給計画・在庫・生産 需要予測、在庫最適化、生産計画の自動提案
販売・営業・顧客対応 売上予測、受注確度予測、価格条件レコメンド、FAQ応答
人事・タレントマネジメント 離職リスク予測、スキル分析、配置・育成プラン示唆
製造現場・IoT連携 異常検知、予知保全、品質データとERP情報の突合せ

財務・経理 × AI

財務・経理は、数値データが多くルールも比較的明確な領域のため、AIとの相性が良い代表例です。

  • 日常仕訳では、勘定科目や税区分の候補をAIが自動提案し、担当者は「承認する/修正する」に集中できます。
  • 売掛・買掛の消し込みや、経費精算の内容チェックも、過去パターンを学習させることで自動化の範囲を広げられます。
  • 月次・四半期・年次決算では、ERPに蓄積された実績からキャッシュフローや利益の見通しを予測し、
    「どの勘定科目がブレているか」「どの事業・拠点が要注意か」を自動で洗い出すことも可能です。

さらに生成AIを組み合わせると、決算サマリや経営会議向けレポートのドラフトをERPデータから自動生成し、財務担当者はストーリーとメッセージの磨き込みに専念できるようになります。

需給計画・在庫・生産 × AI

需給計画や在庫管理では、「読み違え」が直接コストや欠品リスクにつながるため、AIによる予測が効果を発揮します。

  • 過去の販売実績、季節性、キャンペーン情報などを元に、将来の需要をAIが予測し、品目別の必要在庫量を提示します。
  • 需給バランスに加え、リードタイムや生産能力も加味した上で、「どの工場で、いつ、どれだけ作るか」の生産計画案を自動で作ることもできます。
  • サプライヤーの納期遅延や輸送リスク情報を取り込めば、「どの品目がいつ欠品しそうか」というアラートを早めに出すことも可能です。

従来は担当者の経験とExcelに頼っていた需給調整を、ERPに蓄積されたトランザクションデータとAIモデルによって、より再現性のあるプロセスに変えていくイメージです。

販売・営業・顧客対応 × AI

ERPとCRM/SFAを組み合わせている場合、販売・営業領域でもAI活用の余地が広がります。

  • 受注確度や売上予測は、案件の属性・過去の商談履歴・顧客の購入パターンなどを学習させることで、精度の高いスコアリングが可能になります。
  • 見積条件や値引き率についても、「過去にどのような条件で受注/失注したか」を踏まえた価格・条件のレコメンドを提示できます。
  • アフターサービスや問い合わせ対応では、ERP上の出荷履歴・保守契約情報と連携し、生成AIがFAQやトラブルシューティングの回答案を作成することで、オペレーターの負担を減らすことができます。

ここでは「営業担当やカスタマーサポートの判断をAIが置き換える」のではなく、過去データに基づく示唆を即座に出し、人が最終判断するスタイルが現実的です。

人事・タレントマネジメント × AI

人事領域では、ERPの人事・給与・勤怠データと、評価・スキル情報を組み合わせることで、AIの活用余地が広がります。

  • 勤怠・残業時間・異動履歴・評価結果などを元に、「離職リスクの高い人材」を早期に検知するモデルを構築できます。
  • 社員ごとのスキルセット・経験値と、今後必要になるスキル要求を突き合わせて、「どの部署にどの人を配置するか」「どんな研修を優先するか」の示唆をAIが出すことも可能です。
  • 採用では、過去に活躍している社員の属性と応募者情報を比較し、「活躍確度の高い候補者」をスコアリングするといった使い方もあります。

こうした活用を進めるうえでは、バイアスや公平性といったガバナンスも重要になるため、AIの結果をそのまま自動意思決定に使うのではなく、「意思決定を支援する材料」として位置づける設計が求められます。

製造現場・IoT連携 × AI

製造現場では、MESやPLC、各種センサーからのデータとERP情報を組み合わせることで、もう一段踏み込んだAI活用が可能になります。

  • 設備の稼働ログ・温度・振動などのデータから、故障の予兆を検知し、保全タイミングを最適化する「予知保全」は典型例です。
  • 品質検査データと、生産条件・原材料ロット・作業者情報を突き合わせることで、不良率の高まりそうな条件を事前に察知することもできます。
  • さらに、その結果をERPの生産・在庫計画にフィードバックすることで、「どのラインをいつ止めるか」「どのロットを優先的に使うか」といった意思決定を支援できます。

ここまで来ると、ERP単体ではなく、IoT・製造システム・データ基盤と一体で設計する“全体アーキテクチャ”の中にAIを組み込むイメージになります。


このように、ERPの各モジュールに対して

  • 「何を予測させるか」
  • 「どんな提案を出させるか」
  • 「人の判断をどこまで残すか」

を業務別に設計していくことが、ERPにおけるAI活用の出発点になります。

生成AI・CopilotとERPを組み合わせる方法

ここからは、機械学習モデルによる「予測」だけでなく、ChatGPTのような生成AIや各種Copilotを、ERPの“前段”に置いて使うパターンについて解説していきます。

チャットUIでERPデータを引き出すイメージ

生成AIとERPを組み合わせたときに、最初に効果を実感しやすいのが自然言語での問い合わせ窓口です。

たとえば、これまでは

  • BIダッシュボードを開く
  • 画面遷移や条件指定を覚える
  • 必要に応じてExcelに落として再加工する

といった手順が必要だったレポート確認が、次のような会話に置き換わります。

「直近3カ月の製品別粗利を、前年同月と比較して一覧にして」
「今月の受注が計画比で大きくブレている拠点はどこ?」
「この大口顧客の売上推移と、値引き率の推移を一緒に見せて」

生成AIは、ユーザーの自然文を

  • 「どのテーブル・どの条件でERPからデータを取るか」
  • 「どう集計・並び替えして返すか」

というクエリに変換し、結果を表・グラフ・サマリコメントとして返します。

チャットUIでERPデータを引き出すイメージ
チャットUIでERPデータを引き出すイメージ

ここで重要なのは、「ERPの画面操作を全員に覚えさせる」のではなく、「聞きたいことを自然文で投げればよい」状態を作ることです。
利用者層を広げやすくなり、「データを見に行く回数」そのものが増えていきます。

レポート・会議資料・稟議ドラフトの自動生成

もう一つ分かりやすいものが、ドキュメント生成のパターンです。

  • 月次の営業会議資料
  • 予算実績差異のレポート
  • 設備投資や在庫積み増しの稟議書ドラフト

など、ERPデータを元に作られる資料は少なくありません。生成AIとERPをつなぐと、次のようなフローが現実的になります。

  1. 生成AIがERPから必要なデータを取得し、集計・比較を実行する
  2. KPIや閾値に基づき、「どこが良く、どこが悪いか」をテキストで要約する
  3. PowerPointやWord形式のドラフトを生成し、人が仕上げを行う

レポート・会議資料・稟議ドラフトの自動生成イメージ
レポート・会議資料・稟議ドラフトの自動生成イメージ

これにより、「数字を集めて並べる作業」から、「数字の意味を考える作業」へのシフトが起きます。
特に、拠点別・事業別に似たような資料を大量に作っている企業ほど、効果が出やすい領域です。

Copilot/チャットボットをERPの“フロントエンド”にする

生成AIやCopilotを、ERPの手前に置くフロントエンドとして設計するパターンも増えています。

イメージとしては、

  • 利用者:Chatツールやポータル上でCopilotに話しかける
  • Copilot:
    • 質問の意図を理解する
    • 必要なデータをERPや周辺システムのAPIから取得する
    • 計算・要約・比較を行い、結果を返す

という役割分担です。

この構成にすると、

  • 普段はチャット画面しか開かない経営層・営業・現場担当者も
    • ERPの画面にログインすることなく
    • 「必要なときだけERPの中身にアクセスできる」
      という体験になります。

Copilot/チャットボットをERPの“フロントエンド”にする
Copilot/チャットボットをERPの“フロントエンド”にするイメージ

一方で、権限管理・監査ログ・参照範囲の制御は従来以上に重要になります。
Copilotから見える範囲がERPの権限を超えてしまうと情報漏えいリスクになるため、

  • 「誰が、どのロールで、どのデータにアクセスしてよいか」
  • 「生成AIにはどの粒度までデータを渡すか」

を明確に設計する必要があります。

自然言語指示から“アクション”につなげる

もう一歩進むと、生成AIは「見る」だけでなく「動かす」フロントエンドにもなり得ます。

たとえば、

「この得意先A社向けの、来月以降の発注見込みに合わせて生産計画を更新して」
「在庫がしきい値を下回りそうな品目の、補充発注案を作って」

といった指示に対して、

  1. 必要なデータを取得し、AIが下書きの計画や発注案を作る
  2. ユーザーに内容を提示し、「承認・修正」を受け付ける
  3. 承認された内容だけをERPに登録する

というワークフローを生成AIがオーケストレーションするイメージです。

ここでもポイントは、自動実行ではなく「AIによる案+人の承認」という2段構えにすることです。
完全自動化よりも、現場が心理的に受け入れやすく、誤った判断が行われたときの説明責任も取りやすくなります。

自然言語指示から“アクション”につなげる
自然言語指示から“アクション”につなげるイメージ

まとめると、生成AI・CopilotとERPを組み合わせるときの典型パターンは、

  • ERPデータの「問い合わせ窓口」としてのチャットUI
  • レポート・会議資料・稟議のドラフト生成
  • 自然言語指示をトリガーにした“半自動アクション”

という3つのレイヤーに整理できます。
このあと解説する「ベンダーのAI対応トレンド」や「データ基盤・アーキテクチャ」を理解する際も、自社がどのレイヤーから着手したいのかを意識しておくと、検討が進めやすくなります。


AI総合研究所では、AIの活用によりERPの入力や承認を自動化し、バックオフィス業務を変革する支援を実施しています。

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ERP×AIを支えるデータ基盤とアーキテクチャ

ERPにAIを組み合わせるとき、個別のユースケースより前に考えるべきなのがデータ基盤とアーキテクチャの設計です。
どれだけ高度なモデルを用意しても、データのつなぎ方や品質が悪ければ、期待した精度も運用性も得られません。

埋め込みAIと外部AIプラットフォーム連携の違い

ここでは、同じ「AI活用」でも、どこにデータが置かれ、誰が何を管理するのかという観点で整理します。

埋め込みAIと外部AIプラットフォーム連携の違い
埋め込みAIと外部AIプラットフォーム連携の違い

1. データの滞留場所と連携コスト

  • 埋め込みAI(ERP標準機能)

    • 取引データやマスタは、基本的にERPのデータベースの中だけで完結します。
    • AIもその内部データを前提に動くため、追加のDWHやデータレイクがなくても利用できます。
    • 逆に言えば、「ERP以外のデータ(CRM、IoT、Webログなど)」を絡めた高度な分析には向きません。
  • 外部AIプラットフォーム連携

    • ERPからデータを一度外の基盤(DWH/データレイク)に出す前提になります。
    • その代わり、他システムのデータも同じ基盤に集約できるため、
      「ERP+他システム」を跨いだ分析や予測が可能になります。
    • 連携頻度(バッチ/準リアルタイム)やデータ粒度の設計が、精度とコストに直結します。

2. モデルのオーナーシップとチューニング自由度

  • 埋め込みAIは、モデルの中身や学習のさせ方は基本的にベンダー側の管轄です。
    • 利用者はパラメータ調整や閾値設定程度にとどまり、「アルゴリズム自体を変える」ことはできません。
  • 外部AIプラットフォームでは、
    • モデルの種類選定(汎用モデル/自社学習モデル)
    • 特徴量設計や学習データの選び方
      を自社側でコントロールできます。
    • その分、MLOpsやモデルライフサイクル管理の仕組みを自前で用意する必要があります。

3. 権限管理・監査・ガバナンスの考え方

  • 埋め込みAIは、ERPの権限モデル(ロール・組織階層など)に素直に乗るのが強みです。
    • 「誰がどのデータを見られるか」「どの処理を実行できるか」は既存のERPルールに従います。
  • 外部AIプラットフォームでは、
    • データをコピーした時点で「ERP外にデータが増える」ことになるため、
      • マスキングや匿名化
      • 利用目的ごとのデータセット分割
      • ログ・監査証跡
        といったルールを別途定義する必要があります。
    • 特にLLMや生成AIを使う場合は、「どの粒度まで生データを渡すか」「回答にどこまで数値を含めてよいか」といった設計もガバナンスの一部になります。

4. どちらを優先すべきかの現実的な判断軸

  • 「まずAIの効果を体感したい」「追加の基盤投資を抑えたい」
    → 埋め込みAIを優先して、効果が出やすい領域から使ってみる
  • 「ERP以外のデータも含めて横断的に分析したい」「自社固有のモデルを育てたい」
    → データ基盤+外部AIプラットフォームを整備し、徐々に対象領域を広げていく

実務としては、

  • 日常業務に密着した“埋め込みAI”で現場の体感価値を出しつつ、
  • 並行して“外部AIプラットフォーム”を整備し、将来の高度なユースケースに備える

という二段構えで考えるのが現実的です。

データ品質・マスタ整備がAI精度に直結する理由

ERP×AIの議論で見落とされがちなのが、マスタとトランザクションの品質です。

AIモデルの精度は、元データの品質に強く依存します。具体的には次のような点がボトルネックになりがちです。

  • 同じ取引先でも、システムや拠点ごとに別コード・別名称で登録されている
  • 品目マスタに属性(カテゴリ、用途、仕様など)が十分に入っておらず、分析粒度が粗い
  • 仕訳や在庫取引に「その他」「調整」などの曖昧な区分が多い
  • 過去のデータ移行で、欠損や重複がそのまま残っている

この状態でAIに学習させると、

  • 似たものを別物として扱ってしまい、パターンが見えない
  • ノイズの多いデータをそのまま学習し、予測精度が出ない
  • モデルの結果に一貫性がなく、「なぜそうなったか」説明しづらい

といった問題が起こります。

逆に言えば、ERP導入・更改のタイミングは「AIを見据えたマスタ整備・コード統一」を進めるチャンスです。

  • 取引先・品目・勘定科目などのキー情報
  • 組織・拠点・プロジェクト・製品ラインなどの階層構造
  • 日付・ステータス・属性情報の扱い方

を、「AIに学習させる前提」で設計しておくことで、後からのモデル開発が格段にやりやすくなります。

RAG/ナレッジ検索とERPデータの組み合わせ方

最近の生成AI活用では、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)とERPデータを組み合わせるパターンも増えています。

イメージとしては、

  • ERPのトランザクションデータ・マスタデータ
  • 規程・マニュアル・設計書・FAQなどのドキュメント
  • 過去の問い合わせ履歴やナレッジ記事

を一つの「ナレッジ基盤」に乗せておき、生成AIがそこから必要な情報を検索して回答文を生成する、という構成です。

たとえば、次のような問いに対して、

「この取引先との取引条件と、過去1年のトラブル履歴をまとめて」
「この製品の原価構成と、関連する設計変更の履歴を教えて」

生成AIは、

  1. ERPから取引先・製品に関する数値データを取得し
  2. 文書管理システムから関連マニュアルや議事録を検索し
  3. 両者を踏まえた要約を文章で返す

という動きをします。

RAG/ナレッジ検索とERPデータの組み合わせ方
RAG/ナレッジ検索とERPデータの組み合わせ方

このとき重要になるのが、「どこまでをRAG側に持たせ、どこからをERP側の責任範囲とするか」です。

  • RAG側:テキスト情報の検索・統合・要約
  • ERP側:数値・トランザクションの正確性と更新のトリガー

と役割を分けておくことで、

  • 「AIが変な数字を作る」リスクを避けつつ
  • 「人が探すと時間がかかる情報の統合」をAIに任せる

というバランスを取りやすくなります。

全体アーキテクチャをどう描くか

最後に、ERP×AIを本格的に進める場合の、シンプルな構成イメージを整理しておきます。

全体アーキテクチャのイメージ
全体アーキテクチャのイメージ

  1. トランザクションレイヤー

    • ERP本体や周辺業務システム(CRM、MES、WMSなど)がここに該当します。
    • 役割は「正しいデータを記録・更新すること」と「業務プロセスを実行すること」です。
  2. データ基盤レイヤー

    • DWH/データレイク/データマートなど、分析・AI用にデータを集約・整形する層です。
    • ERPから定期・準リアルタイムでデータを連携し、他システムのデータも含めて統合します。
  3. AI・分析レイヤー

    • 機械学習モデル、LLM、RAG基盤などがここに乗ります。
    • 予測・最適化・異常検知・要約などを行い、結果をアプリケーション側に返します。
  4. アプリケーション/体験レイヤー

    • ERP画面の拡張機能、Copilot/チャットUI、レポート・ダッシュボード、ワークフローなどです。
    • ユーザーはこの層を通じて、AIの結果を見たり、AIに指示を出したりします。

この4層を意識しておくと、どの機能をERP標準で賄い、どこから先をデータ基盤+AI側に任せ、ユーザーにはどのレイヤーを見せるのか、といった設計の整理がしやすくなります。

重要なのは、最初から「完璧な全体図」を描こうとしないことです。
まずは1〜2のユースケースで小さく試しつつ、その結果を踏まえてデータ基盤やAPI、権限設計を少しずつ整えていくことから始めます。
その積み重ねが、数年後に「ERP×AIが当たり前になっている状態」への近道になります。

主要ERPベンダーのAI対応トレンド

ここでは、個別製品の細かな機能説明ではなく、どのタイプのERPベンダーが、AIをどう組み込もうとしているかという流れに絞って整理します。

グローバルERPベンダー:標準機能+Copilot+外部AI連携の三層構造へ

SAP・Oracle・Microsoft Dynamics365のようなグローバルERPベンダーは、共通して次の三層でAIを組み込んでいます。

グローバルERPベンダー:標準機能+Copilot+外部AI連携の三層構造へ
グローバルERPベンダーの構造

  1. ERP標準のAI機能(埋め込みAI)

    • 需要予測、在庫最適化、自動仕訳提案、異常検知などを、
      ERPの画面やレポートの中に「追加機能」として組み込む流れです。
    • 利用者から見ると、
      • “従来のレポートにAIによる予測列が増えた”
      • “入力画面にAIの推奨値が表示される”
        といった形で現れます。
  2. Copilot/アシスタントの提供
    ERPやCRM、オフィス製品の上に、チャットベースの「Copilot」を載せる動きです。 自然言語で

    「在庫リスクが高い品目を抽出して」
    「今月の粗利率が悪化している拠点の要因を教えて」

    といった問いを投げると、ERPのデータを引き出して要約・可視化してくれるレイヤーです。

    ここはまさに「ERP×生成AI」の顔になる部分で、各社がUI・連携範囲を急速に拡張している領域です。

  3. 外部AIプラットフォームとの深い連携

    • ERPベンダー自身、あるいは同じクラウド基盤上のAIサービス(LLM・MLサービスなど)と連携し、高度な需要予測・最適化・RAG(ナレッジ検索) を実装するための「土台」を提供しています。
    • 企業側は、
      • ERPからデータを安全に出し入れするコネクタ
      • 学習用データパイプライン
      • モデル実行基盤
        を組み合わせて、自社専用のAIワークロードを構築していく形になります。

この三層が揃うことで、

  • すぐに使い始められる「標準AI機能」
  • 利用者体験を変える「Copilot」
  • 競争優位を作る「自社専用AIモデル・ワークフロー」

という役割分担がはっきりしてきています。

国産ERP・国産クラウドERP:業務特化型AIと生成AI連携の強化

日本のERP・業務クラウドベンダーは、グローバル大手とは少し違う角度からAIを組み込み始めています。

国産ERP・国産クラウドERPの動向
国産ERP・国産クラウドERPの動向

  • まずは得意領域にAIをピンポイントで追加
    請求・入金照合の自動化、経費精算の内容チェック、見積の自動作成支援など、もともとそのベンダーが強かった業務領域にAIを足していく動きが目立ちます。
    「ERP全体にAI」というより、“看板モジュールにAIで差別化” するイメージです。

  • 国内商習慣に合わせた業務+AIの組み合わせ

    • 日本独自の帳票形式や承認フロー、税制などに合わせて、
      仕訳パターンの学習や、稟議書のドラフト生成などが実装されています。
    • 「AIで自動化したいけれど、日本式のやり方からは離れにくい」という企業には、ここがフィットしやすいポイントになります。
  • 生成AIとの連携機能を徐々に拡張

    • チャットボット経由での問合せ窓口や、レポート文章の自動生成など、
      生成AIを「フロント」に置く機能も増えています。
    • ただし、グローバル大手と比べると、
      “特定機能に絞ったAI連携から順に広げている” ケースが多いのが特徴です。

ベンダー標準AIだけに依存しない選択肢も増えている

各ベンダーのAI機能は年々充実してきていますが、実務の感覚としては、

  • 「標準AIだけで済ませる」か
  • 「標準AI+自社側のAI基盤」で組み合わせるか

という二択ではなく、その中間も含めたグラデーションで考える必要があります。

代表的な考え方としては次のようなものがあります。

  • 標準AIは“早く・広く”、自社AIは“深く・選択的に”

    • 汎用的な需要予測や自動仕訳などはベンダー標準に任せ、
      自社特有の業務ロジックや判断が絡む部分だけ、自社のAI基盤・モデルで補完するパターンです。
  • 生成AIフロントは共通化し、裏側のERPは複数連携

    • グループ内でERPが複数混在している場合でも、「ユーザーはCopilot/チャットから聞く」「バックエンドで複数ERPを叩く」という構成を取ることで、 段階的な統合や可視化を進めることができます。
  • ベンダーロックインを避けるためのAPI設計

    • 将来、ERPやAI基盤を入れ替える可能性も考慮して、「AIから見たときの“業務API”」を自社側で定義しておく、というアプローチも増えています。
    • こうしておくことで、
      • フロント側のCopilot/生成AI
      • バックエンドのERP
        のどちらかを刷新しても、全体を作り直さずにすむ余地が生まれます。

ベンダーごとのAIメニューは今後も増え続けるため、

  • 標準でどこまで任せるか
  • どこから先を自社のAI基盤でやるか

という“線引きの考え方”を持っておくことが、長期的な拡張性とガバナンスの両立につながります。

ERPのAI活用を小さく始める導入ステップ

ここでは、「ERP×AIをやりたいが、どこから手を付ければよいか分からない」という状況を想定し、現実的に取り組みやすいステップを整理します。ポイントは、最初から“全社DX”を狙わないことです。

ERPのAI活用を小さく始める導入ステップ
ERP×AI活用の導入ステップ

ステップ1:目的と対象業務を1〜2個に絞る

最初に決めるべきは、「どの業務で、何を良くしたいのか」です。

  • 月次決算の締め日を短縮したいのか
  • 在庫の過不足を減らしたいのか
  • 営業・現場向けのレポート作成時間を減らしたいのか

といった具合に、“困りごとベース”で目的を定義します。

そのうえで、

  • 対象モジュール(財務・在庫・販売・人事など)
  • 関わる部署・人数
  • 成果を測る指標(例:作業時間、リードタイム、誤差率など)

を1〜2テーマに絞ります。
この段階で「全社一括」を狙うと、要件が発散して前に進みにくくなります。

ステップ2:データと業務フローの“現状”を確認する

次に、選んだ業務に対して、AIを適用する前提条件を整理します。

  • 必要なデータがERP内に揃っているか
  • マスタやコード体系は、分析しやすい粒度で整っているか
  • 業務フローは、ある程度標準化されているか

もし、

  • 同じ意味のデータが複数システムに分散している
  • マスタが拠点ごとにバラバラ
  • 運用ルールが属人運用になっている

といった課題があれば、「AIの前に最低限の標準化・整理」を小さく実施した方が、後々のやり直しを防げます。

ステップ3:PoCの設計(評価指標と時間軸を決める)

いきなり本番リリースではなく、まずはPoC(概念実証)から始めるのが現実的です。

このときに決めておきたいのは次の3点です。

  • どの期間のデータを使うか(例:過去1年分、直近6カ月など)
  • どのようなアウトプットを出すか(予測値、スコア、提案コメントなど)
  • 成功とみなす基準(誤差率○%以内、作業時間△%削減など)

特に重要なのは、“人が比較・評価できる指標”を決めておくことです。
精度だけでなく、

  • 担当者から見て受け入れられる結果か
  • 運用に乗せたときの負担感はどうか

といった定性的な評価も、事前に観点を決めておくとPoCの振り返りがしやすくなります。

ステップ4:パイロット導入と現場の巻き込み

PoCで一定の手応えが得られたら、限定された部署・拠点でのパイロット導入に進みます。

このフェーズでは次のことに重点をおきます。

  • 実際の画面・チャット・レポートの形に落とし込む
  • 現場メンバーに使ってもらい、フィードバックを集める
  • 想定外の例外パターンや運用上の“つまずきポイント”を洗い出す

ここで大事なのは、「AIを使わせる」ではなく「一緒に育てる」スタンスを共有することです。

  • AIの提案が外れたケースを記録し、学習データの改善に生かす
  • UIやメッセージ文言を、現場が使いやすい言葉に調整する

といったサイクルを一度回しておくと、横展開した際の受け入れやすさが大きく変わります。

ステップ5:横展開と運用ルール・責任分担の明確化

パイロットで現実的な運用イメージが固まったら、対象拠点や業務範囲を広げるステージに入ります。

この段階では、

  • 誰がAIモデルやプロンプトの改善を担当するのか
  • どの頻度で精度をモニタリングし、見直しを行うのか
  • 異常な結果が出た場合、どこにエスカレーションするのか

といった「運用・ガバナンスの役割分担」を明文化することが重要です。

また、横展開の際は、

  • 各拠点・部署で微妙に異なる運用をどう吸収するか
  • ロールアウト順序(どこから導入するか)
  • 教育・トレーニングの方法(マニュアル、動画、ハンズオンなど)

も合わせて設計しておくと、“AIだけが浮いてしまう”導入を避けやすくなります。


このように、ERPのAI活用を進める際は、

  1. 目的と対象業務を絞る
  2. データと業務の現状を確認する
  3. PoCで筋の良さを見極める
  4. パイロットで現場と一緒に磨き込む
  5. 横展開と運用設計に落とす

というステップで進めることで、無理なく現場に根付かせることができます。

ERP×AIでありがちな誤解・失敗パターン

ERPにAIを組み合わせるとき、技術面よりも「期待の置き方」や「進め方」の誤解が原因でつまずくケースが少なくありません。ここでは、よく見られるパターンと、その背景・対策を整理します。

1. 「AIを載せれば既存ERPがそのまま活きる」と期待しすぎる

よくある誤解のひとつが、「AIを入れれば、今のERP環境をあまり変えずに一気に賢くしてくれる」という期待です。

実際には、AIの精度や効果は、

  • マスタの整合性(コード体系・階層構造)
  • データの抜け・重複・例外処理の多さ
  • 運用ルールのばらつき

といった「足元の設計・運用」に強く依存します。

ERP導入時に後回しになっていた課題がそのまま残っていると、AIを載せても期待通りには機能しません。
AI導入の検討をきっかけに、

  • コードやマスタの統一
  • 例外運用の棚卸し
  • データ品質の改善

といった“地ならし”に一定の時間とコストを割く前提を、経営層と共有しておく必要があります。

2. PoCで精度だけを見て「成功/失敗」を判断してしまう

もうひとつ多いのが、PoC(概念実証)を「精度コンテスト」で終わらせてしまうケースです。

  • 予測誤差が目標より少し悪かった
  • すべてのパターンに対応しきれなかった

といった理由だけで「実用化は難しい」と判断してしまうと、次のステップに進めません。

ERP×AIでは、精度と同じくらい、

  • 担当者が結果をどう受け止めるか(納得感・説明のしやすさ)
  • 現場の作業がどれだけ減るか(定量・定性)
  • 運用に乗せたときの保守負荷(調整のしやすさ)

といった観点も重要です。

PoCの設計段階で、

  • 精度の目標値
  • 業務インパクトの評価軸
  • 利用者のフィードバック観点

をセットで決めておくと、「精度だけで白黒をつける」失敗を避けやすくなります。

3. AI機能を増やしすぎて、現場が使いこなせなくなる

ERPベンダーやAI基盤側が提供するメニューが増えるほど、「せっかくなので、この機能もあの機能も使いたい」という発想になりがちです。ただし、ユーザー側の認知負荷には限界があります。

  • 似たようなレコメンドやアラートが複数の画面で出てくる
  • どの結果がどのロジックで出てきたのか分かりにくい
  • 「とりあえず無視して入力を進める」文化が定着してしまう

といった状態になると、せっかくのAI機能がかえって邪魔に感じられてしまいます。

AI機能を設計する際は、

  • 「日常的に使う機能」と「必要なときだけ使う機能」を分ける
  • 画面上のメッセージやボタンは、役割が明確になるように絞り込む
  • 最初のリリースでは“効くところ”に機能を集中させる

といった方針で、「効かせるポイントを選ぶ」ことが重要です。

4. 現場を巻き込まずに“上からのAIプロジェクト”として進めてしまう

ERP×AIは、どうしても経営・IT主導のテーマになりやすく、現場が「言われてから初めて聞いた」状態になることがあります。

この場合、

  • AIの結果に違和感があっても、フィードバックルートが分からない
  • 業務ルールの微妙な例外が、AI側に伝わらない
  • とりあえず従うが、いつの間にか元のやり方に戻っている

といったギャップが生まれがちです。

これを避けるには、

  • PoCやパイロットの段階から、実際の利用者を巻き込む
  • AIの結果をどう扱うかを現場と一緒に決める
  • 運用開始後も、改善要望を拾う場(レビュー会・窓口)を用意する

といった、「一方通行ではない導入プロセス」を設計することが欠かせません。

5. 運用・保守の責任分担を決めないままスタートしてしまう

最後に意外と見落とされがちなのが、運用フェーズの責任分担です。

  • モデルの精度が落ちてきたとき、誰が検知し、誰が対応するのか
  • プロンプトやルールを見直す権限はどこにあるのか
  • 新しい業務や商品が増えたとき、AIの設定をどう更新するのか

といった問いに対する答えを決めないまま本番運用を始めると、

  • 初期はうまく動いていたが、数カ月後に“ブラックボックス化”する
  • トラブル時の対応が属人化し、担当者が変わるたびにリスクが増える

という状況に陥りやすくなります。
ERP×AIを本当に“インフラ”として根付かせるには、

  • IT部門・業務部門・データ/AI担当の役割分担
  • 定期的な見直しサイクル(モニタリングと改善)
  • 変更管理のルール(誰が何をいつ変えたかを追える仕組み)

まで含めて設計しておくことが重要です。

こうした誤解・失敗パターンをあらかじめ共有し、「どこから小さく始め、どうやって育てるか」を合意したうえで進めることが、ERP×AIプロジェクトを“単発の施策”ではなく、継続的な取り組みにしていくための土台になります。

まとめ:ERP×AIは“意思決定のアップグレード”

ここまで見てきたように、ERPにAIを組み合わせることは、単に「新しい機能を足す」話ではなく、データにもとづく意思決定のあり方をアップグレードする取り組みと言えます。

ポイントを整理すると、ERP×AIは次のような狙いを持つプロジェクトです。

  • ERPに蓄積されたデータを、予測・提案・要約という形で“示唆”に変える
  • 熟練者の暗黙知や経験則を、AIによる提案機能として再現可能な形にする
  • レポート作成や資料作りにかかっていた時間を削り、議論と判断に時間を振り向ける
  • 現場を縛るのではなく、「入力・判断を支援するガイド」としてAIを組み込む

その一方で、

  • マスタやトランザクションの品質
  • データ基盤・アーキテクチャの設計
  • 現場の巻き込み方と、運用フェーズの責任分担

といった「足元の設計」を避けて通ることはできません。
AIだけを後付けしても、ERPで長年蓄積してきた課題が一気に解消されるわけではないからです。

現実的な進め方としては、

  1. まずは効果が見えやすい業務を1〜2個に絞る
  2. 埋め込みAIや生成AIフロントを使って、小さく試す
  3. データ品質やフローの課題が見えたら、そこから順に手を入れる
  4. 成功パターンをテンプレート化し、他の業務・拠点へ横展開する

というステップで、「AIを試す」から「AI前提で業務を設計する」状態に近づけていくイメージになります。

どのようなAI活用の絵を描き、自社の意思決定をどう変えていくのかを考えるうえで、本記事の内容が一つの土台になれば幸いです。


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監修者

坂本 将磨

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。

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