この記事のポイント
agents.mdは、AIコーディングエージェントにプロジェクトの技術仕様やルールを伝えるための「AI専用説明書」
人間向けのREADME.mdと役割を分離し、AI向けの具体的なコマンドや規約を集約
繰り返しの指示を不要にし、AIが生成するコードの品質と一貫性を向上させる
セットアップ、スタイル、テストなどのセクションに具体的なコマンドを記述するのが効果的
CursorやGitHub Copilotなどの主要ツールでサポートが始まっているオープンな仕様

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
「AIアシスタントへの指示が毎回バラバラ…」「チームでAIが生成するコードの品質が安定しない…」
AIとの協業が当たり前になる中で、このような新たな課題を感じてはいないでしょうか。これは、人間とAIの間の「共通言語」や「ルールブック」が存在しないために起こる問題です。
本記事では、この課題への解決策として注目されている「agents.md」について、その目的から具体的な書き方、そして主要ツールでの活用法までを徹底的に解説します。
この記事を読めば、AIとの開発ワークフローを体系的に改善し、チーム全体の生産性を向上させるための具体的な方法がわかります。
目次
agents.mdの基本コンセプト:「AIのためのプロジェクト説明書」
README.md / CONTRIBUTING.md / AGENTS.mdの役割の違い
なぜ今agents.mdが必要なのか?AIアシスタント普及後に出てきた新しい課題
READMEをAI向け情報で肥大化させると、人間にとって読みにくくなる
ツールごとの独自フォーマットが増え、メンテナンスが煩雑になる
READMEや既存ルールファイルとの関係と、二重管理を避ける書き方
モノレポや大規模プロジェクトでのagents.md運用パターン
セキュリティとガバナンス:agents.mdを「コードと同じ扱い」にする
【実践】agents.mdに対応する主なツールと使い方のイメージ
agents.md活用の実践ガイド:効果を高めるためのヒント
【導入チェックリスト】agents.mdを入れる前に確認したいポイント
agents.mdを取り巻くエコシステムと標準化動向(AAIF / MCP / goose)
AGENTS.mdとは
「AGENTS.md」は、AIコーディングエージェントがプロジェクトで作業する際に読むことを前提とした「AI専用のREADMEファイル」です。
人間の開発者に向けて書かれた「README.md」とは別に、AIに読ませることを目的として、ビルドコマンドやテスト手順、コーディング規約などをまとめておくためのフォーマットになっています。

現在は、CodexやGemini CLI、GitHub Copilot Coding Agent、Cursor、Devinなど、多数のAIコーディングエージェントがこの形式に対応しています。
特定のベンダーに閉じた仕様ではなく、AIエコシステム全体で共有されるオープンフォーマットである点が特徴です。
この章では、まず「agents.mdとは何か?」という素朴な疑問に答えつつ、「README.mdとの役割分担」や「どんな情報をAIに渡すと効果的か」という全体像を整理します。
agents.mdの基本コンセプト:「AIのためのプロジェクト説明書」
agents.mdのコンセプトはシンプルです。人間がプロジェクトに参加したときにREADME.mdを読むように、AIコーディングエージェントがプロジェクトに参加したときに最初に読むのがAGENTS.md、という位置づけです。
多くの対応エージェントは、リポジトリのディレクトリ構造をたどって、最も近い場所にあるAGENTS.mdの内容をコンテキストとして読み込みます。
その上で、ビルドやテスト、リント、デプロイといった作業を、プロジェクトのルールに沿って自律的に進めます。
ここで重要なのは、「AIに任せたいタスクを曖昧な日本語で伝える」のではなく、「実行してほしいコマンドや手順を具体的に書いておく」ことです。
README.md / CONTRIBUTING.md / AGENTS.mdの役割の違い

README.mdやCONTRIBUTING.mdと、AGENTS.mdの違いを整理しておくと、どこに何を書くべきかが見えやすくなります。
AGENTS.mdの位置づけをイメージしやすくするために、代表的なドキュメントとの関係を表にまとめます。
| ファイル名 | 主なターゲット | 目的 | 主な記載内容の例 |
|---|---|---|---|
| README.md | 人間(ユーザー・開発者) | プロダクトの概要・使い方を伝える | プロジェクト紹介、機能一覧、インストール手順、使用例 |
| CONTRIBUTING.md | 人間(コントリビューター) | 貢献ルールや開発フローを共有する | ブランチ運用方針、PRの出し方、レビュー方針、行動規範 |
| AGENTS.md | AIコーディングエージェント | AIが安全かつ効率的にタスクを実行するための指示 | ビルド/テストコマンド、ディレクトリ構造、禁止事項、PRルール |
上記のように、AGENTS.mdは既存のドキュメントを置き換えるものではなく、「AI向けの技術的な指示」を集約する役割を担います。
AGENTS.mdがカバーする情報

AGENTS.mdに何を書くべきか迷う場合は、「新しいメンバーが入ったときに口頭で伝えていること」を列挙してみると整理しやすくなります。
代表的な項目は次の通りです。
- プロジェクトの目的と、大まかなアーキテクチャ
- よく使うビルドコマンド・テストコマンド
- コーディングスタイル(Lintルール、フォーマッタ、命名規則など)
- 触ってほしくないディレクトリ・ファイル(変更禁止領域)
- セキュリティ上の禁止事項(秘密情報の扱い、外部サービスの利用など)
- PRの作り方、コミットメッセージのルール
これらをAGENTS.mdに集約しておくことで、エージェントは「プロジェクトの作法」を理解した上で作業を進められるようになります。
なぜ今agents.mdが必要なのか?AIアシスタント普及後に出てきた新しい課題
AIコーディングアシスタントが日常的な存在になるにつれて、「とりあえずチャットで指示すれば動いてくれる」段階から、「チームや組織としてどう運用するか」を考える段階に移行しつつあります。
この章では、その過程で顕在化してきた課題と、agents.mdがそれをどう解決しようとしているのかを整理します。

人ごと・ツールごとにバラバラな指示が飛び交う
1人でAIに指示を出している段階では、多少プロンプトが揺れてもあまり問題になりません。しかし、チーム全体でAIを使い始めると、次のような問題が起きやすくなります。
- 人によって指示の粒度や前提条件が異なり、生成されるコードの品質やスタイルがばらつく
- 同じバグ修正でも、エンジニアごとにAIへの頼み方が違い、再現性が低い
- プロジェクトの暗黙知がプロンプトの中に埋もれてしまい、引き継ぎが難しい
この状態が続くと、「AIは便利だけれど、チームとしての開発体験が不安定なまま」という感覚が残ります。
READMEをAI向け情報で肥大化させると、人間にとって読みにくくなる
一見すると、「AIに伝える情報をREADME.mdの中に書けばよいのでは?」と思いがちです。実際、AIの登場前から「開発者向けの注意事項」をREADMEに積み上げてきたチームも多いはずです。
しかし、AI向けに必要な情報は、人間向けのREADMEとは性質がやや異なります。
- 「実行してよい/してはいけないコマンド」の一覧
- 「このディレクトリは触らないでほしい」「この設定ファイルは必ず人間がレビューする」といった制約
- 既存テストの実行方法や、CI/CDのトリガー条件
これらを全てREADMEに詰め込むと、ファイルが長大になり、人間にとっての可読性が下がってしまいます。
ツールごとの独自フォーマットが増え、メンテナンスが煩雑になる
最近のAIツールは、それぞれ独自の「ルールファイル」や「プロジェクト構成ファイル」を持つようになっています。
例えば、Cursorの「.cursorrules」や、Claude Codeの「CLAUDE.md」、自作エージェント用の独自ファイルなどが挙げられます。
ツールが増えるたびに別々のフォーマットをメンテナンスしていると、次のような問題が発生します。
- どこを更新すれば正しいのか分からない
- ツールごとにルールが微妙にずれていく
- ルールの変更が人間とAIで共有されにくい
AGENTS.mdが目指している解決策

こうした課題に対して、AGENTS.mdが目指しているのは次のような整理です。
- 「AIに共有すべきルールや手順」は、プロジェクト共通の1枚(もしくは階層構造)に集約する
- AIツール側は、そのフォーマットを理解して読み込む実装を揃える
- READMEやツール固有の設定ファイルは「人間向け」「UIやキーバインドなどツール固有の挙動」に集中させる
こうした前提を踏まえると、AGENTS.mdは「あると便利な追加ドキュメント」ではなく、AIコーディングエージェントを前提に開発するチームにとっての標準装備として扱うのが現実的です。
AGENTS.mdの基本構造と書き方
ここからは、実際にAGENTS.mdを書く際の基本パターンを整理します。
すべてのプロジェクトで同じ構成にする必要はありませんが、最初の1枚として押さえておくと運用しやすいセクション構成があります。
最小構成のサンプル

AGENTS.mdに何を書けばよいか迷うときは、まず「AIが動くうえで最低限必要な情報」だけに絞ったひな型から始めるのがおすすめです。
下のサンプルでは、次の5つの要素だけを1枚にまとめています。
| セクション名 | 主な内容・役割 |
|---|---|
| Project overview | プロジェクトの役割と、使っている主な技術スタック(フロント/バックエンド/DBなど) |
| Setup commands | 依存関係のインストール、開発サーバーの起動、テスト実行といった基本コマンド |
| Code style | ESLint/Prettierなどのツール名と、型チェックの有無といったコードスタイル関連のルール |
| Testing | どのテストを、どのコマンドで実行するのか(ユニット/E2E などのざっくりした分担) |
| PR guidelines | PRタイトルの付け方や、「テストとLintを通してからレビュー依頼する」といった最低限の運用ルール |
【AGENTS.mdのサンプル】
# AGENTS.md
## Project overview
- This is a monorepo for our main web application and supporting services.
- Frontend: Next.js (TypeScript) / Backend: NestJS / DB: PostgreSQL.
## Setup commands
- Install dependencies: pnpm install
- Start dev server: pnpm dev
- Run tests: pnpm test
## Code style
- Use ESLint + Prettier (see .eslintrc and .prettierrc).
- TypeScript strict mode is enabled.
- Prefer functional components and hooks (React).
## Testing
- Run `pnpm test` before opening a PR.
- Integration tests live in `apps/web/tests/e2e`.
## PR guidelines
- PR title format: [app] Short description
- Run `pnpm lint` and `pnpm test` before requesting review.
このレベルでも、何もない状態と比べるとAI側の挙動はかなり安定します。
特に、ビルド・テストコマンドと、コードスタイルに関するルールは最初から入れておくことをおすすめします。
セクションごとの書き方のポイント
同じテンプレートでも、書き方次第でAIの振る舞いは大きく変わります。
ここでは、主要なセクションごとに押さえておきたいポイントを整理します。

Project overview:プロジェクトの前提を短くまとめる
このセクションでは、「AIにどこまでやらせたいか」「どの技術スタックで動いているか」を短くまとめます。
- フレームワークや言語(例:React / Next.js / Django / Spring Bootなど)
- モノレポか単体リポジトリか
- 本番環境・ステージング環境の大まかな区別
あまり詳しく書き込みすぎる必要はありません。要点だけ押さえた2〜5行程度で、「このプロジェクトは何をしているのか」を掴めるようにするのが目標です。
Setup commands:AIがそのまま実行できる形で書く
セットアップコマンドは、AIがそのままターミナルで実行できる形で書きます。
- シェルスクリプトではなく、1行ずつ実行できるコマンドを基本にする
- OS依存の差異(macOS / Linux / Windowsなど)がある場合は、コメントで補足する
- ローカル実行とCI上の実行でコマンドが違う場合は、どちらを優先すべきか明記する
「テストを実行してからPRを出してください」ではなく、「pnpm testを実行してください」と書くイメージです。
Code style:ツールとルールをセットで書く
Code styleでは、単に「きれいなコードを書いてください」と依頼するのではなく、次のような情報をセットで書きます。
- 採用しているLint/フォーマッタの種類(ESLint / Prettier / Ruff / Black など)
- 主なルール(例:セミコロンなし、シングルクォート、インデントは2スペース)
- 型チェックの有無(TypeScript strict / mypy など)
AIは、ファイルの内容だけでなく設定ファイルも参照しますが、AGENTS.mdに要点を書いておくと、プロンプトで逐一説明しなくても済むようになります。
Testing / PR guidelines:AIに任せたい「品質の線引き」を明示する
テストやPRに関するセクションは、「チームとしてどこまで品質を担保したいか」をAIに伝える場所です。
- 「単体テストがすべて通ること」
- 「最低限、変更箇所に対応するテストを1つ追加すること」
- 「Lintエラーを残したままPRを作成しないこと」
といったルールを、指示口調ではなく「普段人間同士で共有しているガイドライン」として書いておくと、エージェントはそれを目安に作業を進めます。
READMEや既存ルールファイルとの関係と、二重管理を避ける書き方
すでに多くのチームは、Cursor用の「.cursorrules」、Claude Code用の「CLAUDE.md」、自作エージェント用の独自設定ファイルなど、複数の「ルールファイル」を持っています。
この章では、それらとAGENTS.mdの関係を整理し、現実的な住み分け方を提案します。
代表的なルールファイルと役割の整理
まずは、よく見かけるファイルを一覧にして、ターゲットと役割を整理します。
| ファイル | ターゲット | 主な役割 | 備考 |
|---|---|---|---|
| README.md | 人間(ユーザー・開発者) | プロジェクトの概要・使い方 | OSSの標準的な入口 |
| CONTRIBUTING.md | 人間(コントリビューター) | 開発フローや貢献ルール | OSS文化の定番 |
| AGENTS.md | 複数ベンダー対応のAIエージェント | 共通ルール・コマンド・禁止事項 | ベンダーニュートラルなフォーマット |
| .cursorrules | Cursor | エディタ固有の振る舞い・プロンプト | UIや拡張機能と紐づく設定 |
| CLAUDE.md | Claude Code | Claude向けのプロジェクトルール | 現在も利用例あり |
| 自作エージェント用設定 | 特定のエージェント | そのエージェント独自の指示 | 仕様がばらばらになりがち |
AGENTS.mdは、あくまで「複数のエージェントが共通で読める土台」として位置づけるのがポイントです。
ツール固有のファイルは、キーバインドやUI、プラグイン設定など、「そのツールでの振る舞い」に近い部分に絞るとメンテナンスしやすくなります。
二重管理を避けるための実務的な指針
複数のファイルに似たような内容を書いてしまうと、更新漏れが起きやすくなります。
次のような分割ルールを決めておくと、二重管理のリスクを下げられます。
-
プロジェクト共通のルール(コーディング規約・ビルド/テストの基本方針)
→ AGENTS.mdに集約し、必要に応じてREADMEからリンクする
-
ツール固有のショートカットやUI設定
→ .cursorrulesやCLAUDE.mdなど、ツールごとのファイルに限定して書く
-
人間向けのハイレベルな説明やスクリーンショット
→ README.mdやドキュメントサイト側に任せる
こうしておくと、「ルールを変えるときはAGENTS.mdを更新する」「エディタを変えてもAGENTS.mdはそのまま活きる」という構造にできます。
モノレポや大規模プロジェクトでのagents.md運用パターン
モノレポや大規模なリポジトリでは、1枚のAGENTS.mdだけではカバーしきれないケースが増えていきます。この章では、「ルート+サブディレクトリごとのAGENTS.md」を組み合わせる運用パターンを整理します。
ルートとサブディレクトリに分ける基本戦略
AGENTS.mdに対応した多くのエージェント実装では、「編集中のファイルからディレクトリをさかのぼって、最も近いAGENTS.mdを探す」というアルゴリズムでコンテキストを取得します。
そのため、次のような構成が典型的です。
| 位置 | 役割・主な内容 |
|---|---|
| リポジトリルート | 全体に共通するルール(コーディング規約、PR方針、共通のビルド戦略) |
| apps/web/AGENTS.md | フロントエンド固有のルール(UI設計、CSS方針など) |
| apps/api/AGENTS.md | APIサーバー固有のルール(エンドポイント設計、エラー時の扱いなど) |
こうしておくと、AIは現在作業しているディレクトリに応じて、「全体ルール+サブプロジェクトのローカルルール」を組み合わせて判断できます。
OpenAI公式リポジトリの例をどう読むか
OpenAIのメインリポジトリでは、複数のAGENTS.mdが利用されていることが紹介されています。
これは、「プロジェクト全体の方針はルートで共有しつつ、各パッケージ固有のルールをローカルで上書きする」という典型的な使い方の一例です。
実際に自分のプロジェクトに適用する際は、次のようなステップが現実的です。
- まずルートに1枚用意する
- 実際にエージェントを使ってみて、「ここは別ルールにしたい」という場所が出てきたらサブディレクトリにAGENTS.mdを追加する
モノレポでは最初から完璧な構成を目指すのではなく、「ルート1枚 → 必要に応じて局所的に追加」という方針で少しずつ育てていくのが現実的です。
セキュリティとガバナンス:agents.mdを「コードと同じ扱い」にする
AGENTS.mdは単なるドキュメントファイルに見えますが、AIエージェントの振る舞いを事実上コントロールする「コードに近い存在」です。
誤った指示や過剰な権限を記述すると、意図しないファイル削除や外部サービスへのアクセスにつながる可能性もあります。
この章では、AGENTS.mdをセキュリティとガバナンスの観点からどう扱うべきかを整理します。

秘密情報を書かない・権限境界を明示する
まず前提として、「AGENTS.mdに秘密情報は書かない」という方針が重要です。
- APIキーやパスワードをそのまま埋め込まない
- 社外秘の情報は、別のセキュアなストア(秘密管理サービスなど)を使う
- 「本番環境に関する操作は人間の承認が必要」といったルールを書いておく
代わりに、「秘密情報は環境変数で渡す」「本番DBにはAI経由で直接アクセスさせない」といった権限境界をAGENTS.mdに明示します。
コードレビューや変更管理フローに含める
AGENTS.mdは、プロジェクトの振る舞いを変える可能性があるため、コードレビューの対象に含めることをおすすめします。
- AGENTS.mdの変更には、少なくとも1人以上のレビューを必須にする
- セキュリティチームやプラットフォームチームが、定期的に内容を点検する
- 「安全なコマンドの範囲」をチームで合意し、AGENTS.mdに反映しておく
こうすることで、「誰かが勝手にAIに危険な操作をさせる」リスクを抑えつつ、ガイドラインの変更履歴をGitで追跡できるようになります。
「信頼できるコンテキスト」としての扱い
一部のエディタやエージェント実装では、AGENTS.mdのような明示的なプロジェクトガイドを、ダウンロードフォルダのテキストや一時ログよりも「信頼できるコンテキスト」として優先的に読み込む設計になっています。
言い換えると、AGENTS.mdに書かれた指示は、実装によってはかなりの重みを持って解釈される可能性があるということです。
その分、セキュリティポリシーやコンプライアンス上の要件も、AGENTS.mdを通じてAIに伝える必要があります。
「どの環境までAIに任せてよいか」「どの操作は必ず人間が行うべきか」といった線引きを、短くてもよいので明文化しておくと安心です。
【実践】agents.mdに対応する主なツールと使い方のイメージ
AGENTS.mdは特定のベンダー専用のフォーマットではなく、複数のAIツールが共通して読めるよう設計されています。
この章では、代表的なツールを例に、「どのようにAGENTS.mdが利用されるか」を簡単に整理します。
代表的な対応ツールの分類
ツールごとの詳細仕様は公式ドキュメントを確認する必要がありますが、大まかには次のようなカテゴリで利用が進んでいます。
| カテゴリ | ツールの例 | AGENTS.mdの主な使われ方 |
|---|---|---|
| AI統合エディタ | Cursor、VS Code+拡張機能 など | プロジェクトルート/サブディレクトリのAGENTS.mdを自動検出し、近いものを優先して参照 |
| CLI系コーディングエージェント | Codex CLI、Gemini CLI、Aider など | 実行時にカレントディレクトリやリポジトリ構成を元にAGENTS.mdを読み込み、提案や自動修正に反映 |
| 自律型エージェント | Devin など | タスク実行前にAGENTS.mdを読み、どこまで自動化してよいか、どのテストを走らせるべきかを判断 |
AGENTS.mdを1枚用意しておけば、ツールを乗り換えたり併用したりしても、「プロジェクトルールの共有」という部分はそのまま活かせるのが利点です。
agents.md活用の実践ガイド:効果を高めるためのヒント
AGENTS.mdは、作って終わりにするとすぐに陳腐化してしまいます。この章では、日常の開発フローに溶け込ませながら、長く使い続けるための運用のヒントをまとめます。
具体的なコマンドを書く・曖昧表現を避ける
曖昧な指示より、AIがそのまま実行できる形のコマンドを書くほうが、再現性の高い挙動につながります。
- 「テストを実行してください」ではなく「pnpm test を実行してください」と書く
- 「Lintチェックを通してください」ではなく「pnpm lint を実行してください」と明記する
エージェントは自然言語の解釈も得意ですが、実務では「誤解の余地が少ない指示」のほうが安全で効率的です。
CI/CDパイプラインと連携して陳腐化を防ぐ
AGENTS.mdに記載されているコマンドは、可能な範囲でCI/CDパイプラインにも組み込むと、内容の陳腐化を防ぎやすくなります。
- CIで実行しているテストスクリプトと、AGENTS.mdに書いているテスト手順を揃える
- 新しいテストステップをCIに追加したときは、AGENTS.mdにも反映する
- 逆に、AGENTS.mdにしか書いていないコマンドがないかを定期的に確認する
「CIの定義が真実であり、AGENTS.mdはその読みやすいインターフェース」という関係を保つと、長期運用しやすくなります。
定期的な見直しとチームレビュー
プロジェクトが成長するにつれて、技術スタックや運用ルールも変わっていきます。AGENTS.mdも例外ではありません。
- 四半期に1回程度、「AGENTS.mdレビュー会」を開催する
- 新しく参加したメンバーに「読んで分かりづらかった点」をフィードバックしてもらう
- 使われなくなったコマンドやルールを削除し、ファイルをスリムに保つ
このように、「生きたドキュメント」として扱うことで、AIと人間の両方にとって使いやすい状態を維持できます。
よくあるアンチパターンと避け方
最後に、AGENTS.md運用でありがちなアンチパターンと、その避け方を簡単にまとめておきます。
-
何でもかんでもAGENTS.mdに詰め込み、巨大ファイルになる
→ プロジェクト共通ルールだけをAGENTS.mdに残し、詳細な手順やスクリーンショットは別ドキュメントに分離する。
-
ツール固有ファイルと内容がズレたまま放置される
→ 「ルールを変えるときはまずAGENTS.mdを更新し、その後必要なツール固有ファイルを追随させる」という順番をチームで決めておく。
-
本番操作系の危険なコマンドをそのまま書いてしまう
→ 本番系コマンドはAGENTS.mdに直接書かず、「人間が実行する前提の手順書」側に分離する。本番環境については「AIからは実行しない」と明示する。
【導入チェックリスト】agents.mdを入れる前に確認したいポイント
「これからAGENTS.mdを導入する」あるいは「既にあるが見直したい」チーム向けに、チェックリスト形式でポイントをまとめます。
導入時に押さえておきたい観点を、プロジェクト単位とチーム運用単位に分けて整理します。
最初の1枚を作るときのチェックリスト
以下は、初めてAGENTS.mdを作成する際に確認したい代表的な項目です。
- リポジトリのルートにAGENTS.mdを配置している
- プロジェクト概要(言語・フレームワーク・役割)が2〜5行で書かれている
- ビルド・テスト・Lintの主要コマンドが記載されている
- コーディングスタイル(LSP / Lint / フォーマッタ)の要点が書かれている
- 触ってほしくないディレクトリやファイルが明示されている
- コミットメッセージやPR作成の簡単なルールがある
- 秘密情報やパスワードなどが記載されていない
このチェックリストを満たしていれば、少なくとも「AIが勝手に動きすぎてしまう」「毎回同じことを説明し続ける」といった問題は軽減されます。
モノレポで導入するときの追加チェック
モノレポや大規模リポジトリで導入する場合は、次のような観点も追加で確認しておくと安心です。
- ルートのAGENTS.mdには「全体方針」や共通ルールだけを書き、各アプリ固有のルールはサブディレクトリ側に寄せている
- 「apps/web」や 「apps/api」など、アプリ単位でAGENTS.mdを分ける方針をチーム内で合意している
- ルートとサブディレクトリのAGENTS.mdで、矛盾したルールがないかを一度確認した
最初から理想的な階層を設計しようとするより、「まずルート1枚 → 必要に応じて分割」というステップで育てていくほうが現実的です。
チーム導入時に追加で確認したいポイント
チーム全体で本格的にAGENTS.mdを運用する場合は、次のような観点も加えて検討するとよいでしょう。
- AGENTS.mdの変更がコードレビューの対象になっている
- セキュリティやプラットフォームチームと、AGENTS.mdの扱いについて合意している
- MCPや内部ツールとの連携範囲が明示されている
- ツール固有の設定ファイル(.cursorrules / CLAUDE.mdなど)との役割分担が整理されている
- 四半期ごとなど、定期的な見直しタイミングが決まっている
この章のチェックリストは、そのまま社内Wikiや開発標準ドキュメントに転記して使うこともできます。
agents.mdを取り巻くエコシステムと標準化動向(AAIF / MCP / goose)
AGENTS.mdは単なる便利なテキストファイルではなく、エージェント技術の標準化を進める動きの一部として位置づけられています。
2025年には、Linux Foundation傘下で「Agentic AI Foundation(AAIF)」が設立され、OpenAIのAGENTS.md、Anthropicの「Model Context Protocol(MCP)」、Blockの「goose」が中核プロジェクトとして寄贈されました。
Agentic AI Foundation(AAIF)の概要
AAIFは、エージェント型AIシステムのためのオープンな標準を中立的な立場で育てていくことを目的とした団体です。設立にはOpenAI、Anthropic、Blockが関わり、Google、Microsoft、AWS、Bloomberg、Cloudflareなども支援企業として名を連ねています。
エージェントが実運用に耐える形で普及していくには、次のような部品がベンダーをまたいで相互運用できることが重要です。
- モデルとツールをつなぐ「プロトコル」
- プロジェクト側がルールやコンテキストを提示する「フォーマット」
- 実際にエージェントを組み上げる「フレームワーク」
AAIFは、その基盤となる標準群をオープンソースとして整備する枠組みと考えるとイメージしやすくなります。
MCP・gooseとの関係と役割分担
AGENTS.mdと並んで注目されている標準として、「Model Context Protocol(MCP)」と「goose」があります。
- MCP:AIモデルと外部ツール/データソースを安全に接続するためのプロトコル
- goose:複数のエージェントやツールを組み合わせてワークフローを構築するためのフレームワーク
- AGENTS.md:プロジェクト側からエージェントにルールやコンテキストを伝えるためのフォーマット
ざっくり整理すると、次のような分担になります。
- MCP:**「エージェントが何にアクセスできるか」**を定義する
- goose:**「エージェントがどの順番で何をするか」**を組み立てる
- AGENTS.md:**「特定のリポジトリやプロジェクトの中で、どう振る舞うべきか」**を伝える
AGENTS.md単体でもプロジェクト内でのAI活用を改善できますが、MCPやgooseと組み合わせることで、「ツール接続〜ワークフロー〜プロジェクトルール」までを一気通貫で設計しやすくなっていきます。
よくある質問(FAQ)
最後に、agents.mdに関してよく出てくる疑問をQ&A形式で整理します。詳細な仕様は公式ドキュメントを確認する必要がありますが、ここでは検討の入り口になる考え方をまとめます。
Q. AGENTS.mdは必須ですか?README.mdだけではだめですか?
A. 小規模な個人プロジェクトであれば、README.mdだけでも問題にならないケースは多いです。ただし、AIコーディングエージェントを日常的に使うようになると、「AIにだけ伝えたい情報」が増えます。
そのため、チーム開発やモノレポでは、「人間向け=README」「AI向け=AGENTS」という分担をしておいたほうが、中長期的には運用しやすくなります。
Q. 最低限どこまで書けば意味がありますか?細かく書く時間がありません。
A. すべてを最初から完璧に書く必要はありません。次の4点だけでも効果があります。
- プロジェクト概要(言語・フレームワーク・役割)を2〜3行で書く
- ビルドコマンドとテストコマンドを1行ずつ書く
- 採用しているLint/フォーマッタの名前を書く
- 触ってほしくないディレクトリやファイルを1セクションにまとめておく
このレベルでも、「毎回プロンプトで説明しなくてよいこと」が確実に増えます。
Q. MCPやサーバーサイドの設定と、AGENTS.mdはどこまで書き分けるべきですか?
A. MCPやサーバー側の設定は、「どのツールやAPIにアクセスできるか」を定義する領域です。一方、AGENTS.mdは「アクセス可能なツールを、プロジェクト内でどう使うか」を伝える場所と考えると整理しやすくなります。
- MCP:接続先・ツール・認証の設定
- AGENTS.md:そのツールを使って、どのコマンドやワークフローを実行してよいか
という分担を意識すると、設定が混ざりにくくなります。
Q. OSSリポジトリにAGENTS.mdを入れても問題ありませんか?
A. 一般的には、AGENTS.md自体を公開することは問題ありません。ただし、次の点に注意する必要があります。
- 社内専用の運用ルールや機密情報を書かない
- 外部のコントリビューターにも影響するルールを記載する場合は、READMEやCONTRIBUTINGとの整合性を取る
- 「社内エージェント専用の指示」と「OSSとしての方針」を分けたい場合は、別ブランチや内製リポジトリで管理することも検討する
OSSとしての透明性と、組織内の運用ルールのバランスをどこに置くかは、プロジェクトごとに判断が必要です。
まとめ:まずは「最小の1枚」から始める
本記事では、AIコーディングエージェント向けの新しいドキュメントフォーマットである「AGENTS.md」について、その背景、基本構造、既存ドキュメントとの関係、標準化動向、セキュリティ、導入の実務ポイントまでを整理しました。
最後に、要点を簡単に振り返ります。
- AGENTS.mdは、AIコーディングエージェントがプロジェクトで安全かつ効率的に動くための「AI専用README」です。
- README.mdやCONTRIBUTING.mdと役割を分けることで、人間向けのドキュメントを読みやすく保ちつつ、AI向けの技術的な指示を集約できます。
- モノレポでは、ルート1枚+必要に応じてサブディレクトリごとのAGENTS.mdを組み合わせる運用が現実的です。
- セキュリティやガバナンスの観点では、AGENTS.mdをコードと同じレベルでレビュー・変更管理の対象に含めることが重要です。
- 導入時は、まずルートに1枚のAGENTS.mdを置き、ビルド/テストコマンドと基本ルールを明文化するところから始めるのが現実的です。
AIコーディングエージェントの性能は今後も向上していきますが、プロジェクトのルールや期待値を明文化しない限り、アウトプットの品質は「その場その場のプロンプト」に左右され続けます。
今日できる一歩として、まずは自分のリポジトリに「最小構成のAGENTS.md」を1枚追加し、少しずつプロジェクトに合った形に育てていくことから始めてみてはいかがでしょうか。





