この記事のポイント
n8nのライセンスは、無料の「Sustainable Use License」と、特定の機能や再販向けの有料ライセンスに大別される
社内業務の自動化や、n8nに関するコンサルティング・サポート提供は無料で商用利用が可能
自社SaaSにn8nを組み込み、顧客自身の認証情報でデータ連携機能を提供する場合は、有料の「Embed License」が必須
n8nのホワイトラベル化やホスティング環境の再販も「Embed License」の対象
n8nは商用利用に制限があるため厳密にはオープンソースではなく、「fair-code」という思想に基づいたソースアベイラブルなソフトウェア

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入DX推進を支援。
「オープンソースの自動化ツールn8nをビジネスで使いたいけど、どこまでが無料で、どこからが有料なの?」「商用利用でライセンス違反にならないか不安…」
n8nは非常に強力なツールですが、そのライセンス体系は独自で、商用利用の可否について判断に迷う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、このn8nの商用利用について、3つのライセンス形態の違いから、具体的なOK/NG例までを徹底的に解説します。
無料で利用できる「内部ビジネス目的」の範囲、有料の「Embed License」が必要となるケース、そしてn8nが採用する「fair-code」という思想まで、詳しくご紹介します。
目次
① 無料で使える基本ライセンス:「Sustainable Use License」
② 特定のコードに適用される:「n8n Enterprise License」
③ 製品への組み込み・再販向けライセンス:「n8n Embed License」
5.自社アプリのバックエンド利用(自社認証情報のみを使用する場合)
ライセンス契約(n8n Embed License)が必須となる商用利用パターン
1.n8nを組み込み、ユーザー自身のデータ連携機能としてSaaSで提供する
n8nの商用利用|最初に理解すべき3つのライセンス形態
n8nの商用利用を考える上で、ライセンスの理解は不可欠です。
基本となる無料の「Sustainable Use License」、エンタープライズ機能向けの「Enterprise License」、そして組み込み・再販向けの「Embed License」。この3つの違いを正しく把握することが、最初のステップです。

① 無料で使える基本ライセンス:「Sustainable Use License」
n8nの大部分のソースコードは、この「Sustainable Use License」というライセンスの下で提供されています。
これは、n8nが2022年に作成した独自のライセンスで、個人利用や非商用利用、そして企業の「内部ビジネス目的」での利用を無料で許可するものです。多くの基本的な利用シーンはこのライセンスの範囲内でカバーされます。
② 特定のコードに適用される:「n8n Enterprise License」
このライセンスは、n8nのソースコードの中でも、ファイル名やディレクトリ名に「.ee.」(Enterprise Edition) が含まれる、特定の高度な機能やプロプライエタリなコードに適用されます。
通常のコミュニティ版をセルフホストで利用しているユーザーが直接このライセンスを意識する場面は少ないですが、n8nのライセンス体系の全体像を理解する上で重要な要素です。
これらの機能を利用するには、n8n社との間で別途エンタープライズ契約が必要となります。
参考:The n8n Enterprise License (the “Enterprise License”)
③ 製品への組み込み・再販向けライセンス:「n8n Embed License」
自社の製品やサービスにn8nを組み込んで顧客に提供したり、ホワイトラベル化して再販したりする場合には、「n8n Embed License」という商用契約が必要です。
これは、n8nの機能を自社ビジネスの中核として利用するためのライセンスと位置づけられています。
参考:n8n Embed
n8nの商用利用が可能な範囲
「Sustainable Use License」では、利用範囲が「内部ビジネス目的 (internal business purposes)」に限定されています。
これが具体的に何を指すのか、そして、どのようなケースが無料で許可されるのかを、公式の事例を元に詳しく解説します。
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1.社内業務の自動化(データ同期など)
最も代表的な許可される利用例は、自社の業務効率化です。
例えば、社内で利用しているCRMのデータを、n8nを使って社内のデータベースに同期するといった使い方は、完全に「内部ビジネス目的」の範囲内であり、無料で利用できます。
2.n8nに関するコンサルティングやサポートの提供
n8nに関する専門知識を活かして、他社のためにワークフローを構築したり、技術的なサポートを提供したりして対価を得ることは許可されています。
これはn8nの機能を再販するのではなく、自身の専門サービスを提供する行為と見なされるためです。
3.n8nの環境構築や保守サービスの提供
クライアント企業のためにn8nのサーバー環境を構築したり、その後のメンテナンスを代行したりするサービスも、コンサルティングと同様に許可されています。
4.自社製品と連携するカスタムノードの開発
自社で開発しているSaaSやアプリケーションとn8nを連携させるための、独自のカスタムノードを作成・配布することも問題ありません。これはn8nエコシステムの拡大に貢献する行為として推奨されています。
5.自社アプリのバックエンド利用(自社認証情報のみを使用する場合)
自社アプリの裏側の処理にn8nを利用することも可能です。ただし、重要な条件があります。それは、n8nが処理に使う認証情報(APIキーなど)が自社のものであるという点です。
例えば、自社アプリにAIチャットボットを組み込むケースを考えます。このチャットボットの裏側でn8nが動いており、AIサービスのAPIキーは自社のものを設定している場合、エンドユーザーはただ質問を入力するだけです。このようなケースは許可されています。
ライセンス契約(n8n Embed License)が必須となる商用利用パターン
n8nの機能を活用して直接的な収益を生むビジネスモデルを考えている場合、有料ライセンスが必要です。特に「エンドユーザー自身の認証情報を扱うか」が重要な判断基準となります。
ここでは契約が必須となる代表的なパターンを解説します。
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判断基準:「エンドユーザー自身の認証情報」を扱うか
無料で利用できるかどうかの最大の分かれ目は、アプリのエンドユーザー(あなたの顧客)自身の認証情報をn8nが収集し、処理するかどうかです。
もし顧客自身のSaaSアカウント情報(例: HubSpotのAPIキー)をn8nに入力させ、データ連携機能を提供するような場合は、無料ライセンスの範囲を超えます。
1.n8nを組み込み、ユーザー自身のデータ連携機能としてSaaSで提供する
前述の通り、自社SaaSの機能として「あなたのHubSpotアカウントと連携します」といった機能を提供し、その裏側でn8nがユーザーの認証情報を使って動作するモデルは、明確に「n8n Embed License」が必要となります。
これは、n8nのデータ連携機能そのものが、あなたのSaaSの価値の大部分を構成していると見なされるためです。
2.n8nのホワイトラベル化やホスティング環境の再販
n8nのUIからn8nのロゴを消し、自社ブランドのサービスとして顧客に有償で提供する「ホワイトラベル」行為や、n8nのホスティング環境を構築し、顧客にn8nのUIへのアクセスを提供してその利用料を徴収するビジネスモデルは許可されていません。これらも「n8n Embed License」の契約が必要です。
「n8n Embed License」の価格と概要
上記のようなNG例に該当するビジネスモデルを実現したい場合は、「n8n Embed License」を契約する必要があります。このライセンスの主な内容は以下の通りです。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 価格 | 年間 $50,000 から |
| 提供内容 | ホワイトラベル化、製品への組み込み、再販の権利 |
| リソース | インスタンス数、ワークフロー数、実行数は無制限 |
| 対象 | n8nを自社サービスの中核として顧客に提供する企業 |
詳細な見積もりや契約条件については、n8nのセールスチームに直接問い合わせる必要があります。
▶︎n8n Embed
なぜn8nはオープンソースではない?「fair-code」という思想
n8nはソースコードが公開されていますが、厳密には「オープンソース」ではありません。その背景にある「fair-code」という独自のモデルと、それがユーザーと開発者にどのようなメリットをもたらすのかを解説します。

「fair-code」とは何か?
「fair-code」とは、ソフトウェアのソースコードを公開し、誰でも無料で利用・配布・拡張できるようにしつつ、作者(開発元)が商業的な利用を制限する権利を保持するソフトウェアモデルです。これはライセンスそのものではなく、考え方や思想を指します。
オープンソースライセンスとの違い
Open Source Initiative (OSI) が定義する「オープンソースライセンス」は、利用目的(商用・非商用)による差別を禁止しています。n8nの「Sustainable Use License」は商用利用に一部制限を設けているため、OSIの定義するオープンソースには該当しません。n8nは「ソースアベイラブル」なソフトウェアと言えます。
n8nが「fair-code」を採用する理由
n8nのミッションは、誰もが技術的なスーパーパワーを持てるようにすることです。このミッションを達成するため、n8nはプロダクトを可能な限り広く、無料で利用できるようにしつつ、企業として持続可能なビジネスを構築する方法を模索しました。
その結果が「fair-code」モデルです。ユーザーは無料で高機能なツールを利用でき、開発元は事業として収益を得て、バグ修正や新機能開発を継続的に行うことができます。これにより、健全なエコシステムが維持されるのです。
n8nの商用利用に関するFAQ
n8nの商用利用に関して、特によくある質問とその回答をまとめました。ライセンスに関する疑問や不安をここで解消しましょう。
Q1. 自社のユースケースがライセンス違反か判断できません。どうすれば良いですか?
公式ドキュメントの例を確認しても判断に迷う場合は、n8nに直接問い合わせるのが最も確実です。公式フォーラムで、あなたのユースケースを具体的に説明して質問を送ることを推奨します。
n8n 公式フォーラム
Q2. 社内ツールとして使う場合、従業員数に制限はありますか?
ありません。「Sustainable Use License」は、企業の規模に関わらず適用されます。公式のドキュメントでは「10,000人の従業員がいる企業内であっても」無料で利用できると述べられており、従業員数による制限は設けられていません。
Q3. 以前のライセンス(Apache 2.0 with Commons Clause)との違いは何ですか?
2022年3月17日まで、n8nは「Apache 2.0 with Commons Clause」というライセンスでした。現在の「Sustainable Use License」との主な違いは2つです。
- 商用利用の定義がより明確に
以前は「販売(sell)」が制限されていましたが、現在は「内部ビジネス目的」に限定することで、許可範囲がより厳密になりました。
- コンサルティング等が許可された
以前はコンサルティングやサポートサービスの提供も制限されていましたが、新ライセンスではこれが明確に許可されるようになりました。
まとめ:自社の利用目的とデータの扱い方を明確にし、適切なライセンスを選択しよう
本記事では、n8nの商用利用に関するライセンス体系を解説しました。最後に重要なポイントを振り返ります。
- 社内業務の自動化やコンサルティングは無料で利用可能。
- 判断の境界線は「エンドユーザー自身の認証情報」を扱うかどうか。
- 顧客の認証情報を扱うSaaS機能や、n8nの再販・ホワイトラベル化には「Embed License」(有料)が必要。
n8nは非常に強力なツールですが、その力をビジネスで最大限に活用するためには、ライセンスの正しい理解が不可欠です。まずは自社のユースケースを明確にし、この記事を参考に適切なライセンスを選択してください。











