この記事のポイント
DX推進スキル標準(DSS-P)の定義と策定の背景・目的を解説
5つの人材類型(ビジネスアーキテクト・デザイナー・データサイエンティスト・ソフトウェアエンジニア・サイバーセキュリティ)の役割を紹介
2024年7月改訂(ver.1.2)の生成AI対応とプロダクトマネージャー追加を解説
ベネッセ・トヨタ・味の素のDX推進スキル標準活用事例を紹介

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
DX推進スキル標準(DSS-P)とは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)と経済産業省が策定した、企業のDX推進に必要な人材の能力基準です。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つの人材類型を核として、それぞれの役割や習得すべきスキルを体系的に定義しています。
本記事では、DX推進スキル標準の概要と5つの人材類型の詳細、2024年7月の生成AI対応改訂の内容、ベネッセやトヨタなどの企業活用事例をわかりやすく解説します。
DX推進スキル標準(DSS-P)とは

DX推進スキル標準(DSS-P:Digital Skill Standard for Professionals)は、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるために必要な人材の能力基準を示したものです。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)と経済産業省によって2022年12月に策定されました。
DX推進スキル標準は、特定の役割に必要な技能や知識、振る舞いを体系的に定義しており、この標準に沿って人材を育成することで、DXを効果的に推進することが期待されています。
DX推進スキル標準が策定された目的
DX推進スキル標準の策定には、以下の3つの目的があります。
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リスキリングの促進
DXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを明確に示すことで、既存の人材が新たなスキルを効率的に習得できる環境を整備します。
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実践的な学びの場の創出
標準に沿った教育プログラムや研修を設計するための基盤を提供し、実務に直結するスキルの習得を促進します。
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能力・スキルの見える化
各人材類型に求められるスキルを定量的に把握できるようにすることで、人材の適正配置や採用判断を支援します。
デジタルスキル標準の全体構成
DX推進スキル標準は、「デジタルスキル標準(DSS)」の一部として位置づけられています。デジタルスキル標準は以下の2つで構成されています。
| 区分 | 名称 | 対象 |
|---|---|---|
| DSS-L | DXリテラシー標準 | 全ビジネスパーソン |
| DSS-P | DX推進スキル標準 | DXを推進する専門人材 |
DSS-Lは全社員が身につけるべきデジタルリテラシーを定義するものであり、DSS-PはDXを推進する専門人材に必要なスキルを定義するものです。両者を組み合わせることで、全社的なデジタル人材育成の基盤が構築できます。
DX推進スキル標準の5つの人材類型

DX推進スキル標準では、DXを推進する主な人材を5つの類型に分類しています。それぞれの人材類型が協力し合いながらDXを推進することで、企業の成果を最大化させることができます。
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトは、DXの取り組みにおいてビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(目的)を設定し、関係者をコーディネートしながら目的実現に向けたプロセスをリードする人材です。
主な役割として、新規事業開発(データやデジタル技術を活用した新規製品・サービスの提供)、既存事業の高度化(既存製品・サービスの価値向上)、社内業務の高度化・効率化(業務の品質やコスト、スピードの向上)の3つの領域を促進します。
デザイナー
デザイナーは、ビジネスの視点と顧客・ユーザーの視点を総合的に捉え、製品・サービスの方針や開発プロセスを策定し、製品・サービスのありかたのデザインを担う人材です。
サービスデザイナー、UX/UIデザイナー、グラフィックデザイナーの3つの専門ロールに分かれ、顧客・ユーザー視点でのアプローチを関係者が常に意識できるよう導く役割と、倫理的観点を踏まえた顧客接点のデザインを担います。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、DXの推進においてデータを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材です。
データビジネスストラテジスト、データサイエンスプロフェッショナル、データエンジニアの3つの専門ロールに分かれ、自社の競争力向上につながるデータ活用を実現します。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材です。
フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、クラウドエンジニア/SRE、フィジカルコンピューティングエンジニアの4つの専門ロールに分かれ、高い技術力を通じて自社の競争力向上に貢献します。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材です。
サイバーセキュリティマネージャーとサイバーセキュリティエンジニアの2つの専門ロールに分かれ、DXによる価値提供とセキュリティ対策とのバランスを確保しながら、他の人材類型と連携してDX推進に伴うリスクを抑制します。
5つの人材類型の相互依存関係
各人材類型はDX推進において相互依存的であり、協力して働くことで事業の成果を最大化させることができます。ビジネスアーキテクトがDX戦略のビジョンを定め、デザイナーがユーザー体験を重視した製品デザインを創出し、データサイエンティストがデータ分析を通じた意思決定を支援するという連携が、DX推進の効果を高めます。
DX推進スキル標準 ver.1.2の改訂ポイント(2024年7月)

2024年7月、IPAと経済産業省はDX推進スキル標準をver.1.2に改訂し、生成AIに関する大幅な補記を追加しました。
生成AI対応の補記追加
ver.1.2では、生成AIの特性と、生成AIを含む新技術への向き合い方・行動の起こし方を解説したうえで、以下の2つの観点から必要なプロセスと行動例を示しています。
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生成AIを「活用する」場合
既存の業務プロセスに生成AIを組み込んで効率化や品質向上を図る際に、5つの人材類型それぞれが取るべき行動例を紹介しています。
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生成AIを組み込んだ製品・サービスを「開発する、提供する」場合
生成AIを活用した新しい製品やサービスを開発・提供する際の留意点や、各人材類型における主要な行動例を示しています。
プロダクトマネージャーの追加
ver.1.2では、ビジネスアーキテクトに類似する職種である「プロダクトマネージャー」が正式に定義されました。DXの推進において、製品・サービスの企画から開発、提供までを一貫して管理する役割の重要性が高まっていることを反映した改訂です。
DX推進スキル標準の活用事例

実際にDX推進スキル標準を人材育成や採用に導入し活用している企業の事例を紹介します。以下の事例はIPAの活用事例集から抜粋したものです。
ベネッセコーポレーションの活用事例
ベネッセコーポレーションは、DX推進スキル標準を基に7つの職種別スキルマップを定義し、人材のアサイン・育成・採用に活用しています。各職種に求められるスキルを可視化することで、適材適所の人材配置と効率的な育成計画の策定を実現しています。
トヨタ自動車の活用事例
トヨタ自動車は、DX推進スキル標準(DSS)を基に22種の役割と必要スキル・素養を定義し、段階に合わせてデジタル人材をレベル別に教育する体系を構築しています。大規模な組織においてもデジタル人材の育成を計画的に進められる仕組みとして、DX推進スキル標準を効果的に活用しています。
味の素の活用事例
味の素は、DX推進スキル標準を活用して「ビジネスDX人材」を定義し、全従業員のスキルの見える化を図っています。各従業員が自身のデジタルスキルの現在地を把握し、目標に向けた学習計画を主体的に策定できる仕組みを構築しています。
これらの事例に共通するのは、DX推進スキル標準を「そのまま導入する」のではなく、自社の事業特性や組織構造に合わせてカスタマイズしている点です。DX推進スキル標準はあくまで「標準」であり、自社に最適化して活用することが効果を最大化する鍵となります。
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まとめ
DX推進スキル標準(DSS-P)は、企業のDX推進に必要な人材の能力基準を体系的に示した指針です。本記事のポイントを整理すると、以下の3点が重要です。
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5つの人材類型の相互連携がDX成功の鍵
ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つの人材類型が相互に連携して取り組むことで、DXの成果を最大化できます。
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生成AI時代に対応した最新版(ver.1.2)を活用する
2024年7月の改訂で生成AIへの対応が追加され、プロダクトマネージャーも正式に定義されました。DX人材の育成においては、最新版のDX推進スキル標準を参照することが重要です。
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自社に合わせたカスタマイズが効果を最大化する
ベネッセ、トヨタ、味の素の事例が示すように、DX推進スキル標準をそのまま導入するのではなく、自社の事業特性や組織構造に合わせてカスタマイズすることが、人材育成と組織的なDX推進を成功させるポイントです。





