この記事のポイント
DX推進ガイドラインからデジタルガバナンスコード3.0への変遷と背景を解説
デジタルガバナンスコード3.0の「3つの視点」と「5つの柱」の要点を紹介
DX認定制度とデジタルガバナンスコードの関係を解説
デジタルガバナンスコードを自社のDX推進に活かす実践的なポイントを紹介

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
DX推進ガイドラインとは、経済産業省が2018年に発表した企業のDX推進に関する指針です。その後「デジタルガバナンスコード」として体系化され、2024年9月には最新版の「デジタルガバナンスコード3.0」が公開されました。
本記事では、DX推進ガイドラインの変遷から、デジタルガバナンスコード3.0の3つの視点と5つの柱、DX認定制度との関係、企業が自社のDX推進に活かすための実践的なポイントまでわかりやすく解説します。
目次
DX推進ガイドライン(デジタルガバナンスコード)とは

DX推進ガイドラインとは、経済産業省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」のことです。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するにあたり、経営者が押さえるべき事項を明確にし、企業のDX推進を後押しする内容となっています。
このガイドラインは、その後「デジタルガバナンスコード」として発展的に統合され、2024年9月には最新版である「デジタルガバナンスコード3.0」が公開されました。上場・非上場、大企業・中小企業を問わず、すべての事業者を対象としたDX経営の実践指針として位置づけられています。
DX推進ガイドラインが策定された背景
経済産業省は2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げ、同年9月に「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を発表しました。このレポートでは、老朽化したレガシーシステムを放置した場合、2025年以降に最大年間12兆円の経済損失が発生する「2025年の崖」問題が警告されています。
2026年現在、この時期はすでに到来しています。IPAの調査によれば、DXに取り組む企業の割合は2021年度の55.8%から2024年度には73.7%に増加しており、危機感を持った企業の対応は進んでいます。しかし、レガシーシステムの刷新が完了していない企業も依然として多く、DX推進ガイドラインの重要性はますます高まっています。
DX推進ガイドラインの変遷

DX推進ガイドラインは、企業を取り巻くデジタル環境の変化に合わせて段階的に改訂されてきました。以下の表でその変遷を整理しました。
| 時期 | 名称 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 2018年12月 | DX推進ガイドライン Ver.1.0 | 経営者が押さえるべきDX推進の基本事項を整理 |
| 2020年11月 | デジタルガバナンスコード | DX推進ガイドラインと「DX評価指標」を統合。4つの柱を体系化 |
| 2022年9月 | デジタルガバナンスコード2.0 | デジタル人材やESG/SDGsへの対応を強化 |
| 2024年9月 | デジタルガバナンスコード3.0 | 「DX経営による企業価値向上」を副題に。3つの視点と5つの柱に再構成 |
この表のとおり、DX推進ガイドラインは6年間で3回の改訂を経て、単なるIT投資の指針から「DX経営による企業価値向上」を目指す包括的なフレームワークへと進化しています。特に3.0では、「稼ぐ力」との連動がより強調され、人材戦略が独立した柱として位置づけられた点が大きな変化です。
デジタルガバナンスコード3.0の要点

デジタルガバナンスコード3.0では、経営者が企業価値の向上につながるDX経営を実行するにあたり、「3つの視点」を意識しながら「5つの柱」に取り組むことが重要とされています。
3つの視点
デジタルガバナンスコード3.0が掲げる3つの視点は、DXの取り組みを進めるうえで常に意識すべき基本的な考え方です。
-
経営者のリーダーシップ
DXは全社的な変革であり、経営者自らがデジタル技術の可能性を理解し、変革をリードすることが不可欠です。
-
ステークホルダーとの対話
DXの取り組みや成果について、投資家・顧客・社員などのステークホルダーに積極的に情報を発信し、対話を通じて信頼関係を構築します。
-
DXによる企業価値の向上
DXは手段であり、目的は企業価値の向上です。デジタル技術の導入自体を目的化せず、「稼ぐ力」の強化や社会課題の解決につなげる視点を持つことが求められます。
5つの柱
デジタルガバナンスコード3.0は、以下の5つの柱で構成されています。それぞれの柱には「柱となる考え方」「認定基準」「望ましい方向性」が示されています。
1. ビジョン・ビジネスモデル
企業はデジタル技術による社会や競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた経営ビジョンを策定し、ビジネスモデルの設計を行い、「価値創造ストーリー」としてステークホルダーに示していくべきとされています。
望ましい方向性として、経営者がデジタル化の影響を深く理解し、デジタル戦略を経営ビジョンの中核に据えることで、既存ビジネスモデルの強化と新たなビジネスモデルの創出を両立させることが挙げられています。
2. 戦略
ビジネスモデルを実現するための方策として、デジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示すことが求められます。3.0では「データ活用」の要素が明示的に追加され、データを重要な経営資産として活用する姿勢が強調されています。
この柱の下には、「組織づくり・人材・企業文化に関する方策」と「ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策」の2つのサブ項目が設けられています。
3. 組織・人材(3.0で独立した柱に昇格)
デジタルガバナンスコード3.0で最も大きな変化が、組織・人材が独立した柱として位置づけられた点です。従来は「戦略」の下位項目でしたが、DX推進における人材戦略の重要性が増したことを受けて、独立した柱に昇格しました。
DXを推進する人材の育成・確保、全社員のデジタルリテラシー向上、経営トップによる企業文化の変革推進が求められています。
4. 成果と重要な成果指標
デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標(KPI)を定め、ステークホルダーに対して自己評価を示すことが求められます。KPIが最終的な財務成果(KGI)に結びつくストーリーを明確にし、ESGやSDGsに関する取り組みの成果も含めて開示することが望ましいとされています。
5. ガバナンスシステム
経営者がリーダーシップを発揮し、デジタル技術の動向や自社のITシステムの現状を把握・分析して戦略の見直しに反映すること、サイバーセキュリティリスクへの対応を行うことが求められます。取締役会設置会社の場合は、取締役会が経営者の取り組みを適切に監督する役割も示されています。
DX認定制度とデジタルガバナンスコード

デジタルガバナンスコードと密接に関連する制度として、「DX認定制度」があります。DX認定制度は、情報処理の促進に関する法律に基づき、デジタルによって自らのビジネスを変革するためのビジョン・戦略・体制等が整った事業者を国が認定する制度です。
以下の表でDX認定制度の概要を整理しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 情報処理の促進に関する法律 第28条 |
| 審査機関 | IPA(独立行政法人情報処理推進機構) |
| 対象 | 法人・個人事業主(業種・規模を問わず) |
| 認定基準 | デジタルガバナンスコードの「認定基準」項目に基づく |
| 有効期間 | 2年間(更新申請が必要) |
| 認定のメリット | DX銘柄の応募要件、税制優遇、ロゴマーク使用、企業信頼性の向上 |
DX認定制度の認定基準は、デジタルガバナンスコードの各柱に設けられた「認定基準」に準拠しています。2024年12月からはデジタルガバナンスコード3.0に基づく新基準での運用が開始されており、データ活用の要素も認定基準に明示的に含まれるようになりました。
DX認定を取得することで、「DX銘柄」への応募資格を得られるほか、税制優遇措置や対外的な信頼性の向上といったメリットがあります。DX推進に取り組む企業にとって、デジタルガバナンスコードに沿った取り組みの成果を客観的に示す手段として有効です。
デジタルガバナンスコードを自社のDX推進に活かすポイント

デジタルガバナンスコードを効果的に活用するための実践的なポイントを紹介します。
-
経営ビジョンの策定と発信
経営者がデジタル技術による社会変化を踏まえた経営ビジョンを策定し、社内外のステークホルダーに積極的に発信しましょう。ビジネスモデルの変化や強化の方向性を「価値創造ストーリー」として示すことがポイントです。
-
デジタル戦略の構築とモニタリング
経営ビジョンに基づいて具体的なデジタル戦略を策定し、KPIを設定して進捗を継続的に評価します。戦略の進捗に応じて迅速に修正を行い、変化する環境に柔軟に対応できる体制を整えましょう。
-
DX人材の育成と確保
DXの成功には、デジタルリテラシーの高い人材の確保と育成が不可欠です。IT部門だけでなく業務部門にもデジタルスキルを持つ人材を配置し、全社員のデジタルリテラシー向上を図る教育体制を構築してください。
-
セキュリティとガバナンスの強化
デジタル技術の導入に伴うサイバーセキュリティリスクや個人情報保護への対応を徹底しましょう。セキュリティ対策をDX導入の初期段階から組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方が重要です。
-
DX認定制度の活用
自社のDXの取り組み状況を客観的に評価するために、DX認定制度への申請を検討してください。認定基準に沿った自己診断を行うことで、取り組みの現在地と改善点を把握できます。
これらのポイントを押さえてデジタルガバナンスコードを実践することで、企業は自社のDX推進を体系的に進め、企業価値の向上につなげることが可能です。
バックオフィス業務をAIで自動化 AI Agent Hub
Microsoft Teams上でAIエージェントが業務を代行
経費精算・請求書処理をAIが自動実行。インボイス制度・電帳法にも対応し、金融機関レベルのセキュリティで安心導入。
まとめ
DX推進ガイドラインは、2018年の策定から6年間の改訂を経て、「デジタルガバナンスコード3.0」として企業のDX経営を支える包括的なフレームワークに進化しました。本記事のポイントを整理すると、以下の3点が重要です。
-
DX推進ガイドラインの変遷を理解する
DX推進ガイドライン(2018年)→デジタルガバナンスコード(2020年)→2.0(2022年)→3.0(2024年)と段階的に改訂されています。最新の3.0では「DX経営による企業価値向上」が掲げられ、人材戦略が独立した柱に昇格するなど、より実践的な内容に進化しています。
-
3つの視点と5つの柱を押さえる
「経営者のリーダーシップ」「ステークホルダーとの対話」「DXによる企業価値の向上」の3つの視点を意識しながら、ビジョン・戦略・組織人材・成果指標・ガバナンスの5つの柱に取り組むことが、DX経営の基本フレームワークです。
-
DX認定制度を活用して取り組みを客観的に評価する
デジタルガバナンスコードの認定基準に沿ってDX認定を取得することで、自社の取り組み状況を客観的に示し、ステークホルダーからの信頼を高めることができます。





