この記事のポイント
Gemini 2.5 Proは、Google DeepMindが開発した最新の「思考モデル」AI
回答前に多段階の推論プロセスを経ることで、高度な問題解決能力を実現
Deep Research機能で、複雑なトピックに対する深い洞察を提供
テキスト、画像、音声、動画、コードを統合的に理解するマルチモーダル能力を強化
100万トークン(将来200万)の長文脈対応で、大規模データ処理や長文理解に優れる

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
AIが私たちの質問に答えるだけでなく、まるで人間のように「考えて」答えを導き出すとしたら?
そんな次世代AIの到来を予感させるのが、Google DeepMindが発表した「Gemini 2.5 Pro」です。単なる性能向上ではなく、「思考モデル」という新しいアプローチを採用し、AIの可能性を大きく広げています。
本記事では、この注目の最新AI「Gemini 2.5 Pro」の全貌に迫ります。
「思考モデル」とは何か、従来のAIと何が違うのか、そしてGemini 2.5 Proが持つ驚異的な推論能力、コーディング性能、マルチモーダル対応などの主要機能から、使い方、料金体系まで、徹底的に解説します。
目次
Gemini 2.5 Proとは?
Gemini 2.5 Proは、Google DeepMindが2025年3月25日に発表した最新のAIモデルです。
回答を出す前に論理的な思考プロセスを経る「思考モデル」として設計されており、数学・科学の推論やコーディングにおいて特に優れた性能を発揮します。
Gemini 2.5のスペック情報は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
モデル名 | Gemini 2.5 Pro Preview 03-25 |
リリース日 | 2025年3月25日(Preview) |
得意分野(Best for) | ・コーディング ・推論(Reasoning) ・マルチモーダル理解 |
ユースケース | ・複雑な問題の推論 ・STEM・数学・コードの難問対応 ・長文コンテキスト処理 |
知識カットオフ | 2025年1月 |
API料金(<=200K tokens) | 入力:$1.25 / 100万tokens 出力:$10.00 / 100万tokens |
API料金(>200K tokens) | 入力:$2.50 / 100万tokens 出力:$15.00 / 100万tokens |
UI料金 | 無料 |
レート制限(有料) | 150 リクエスト/分(RPM) |
レート制限(無料) | 5 リクエスト/分、25リクエスト/日 |
レイテンシ(応答速度) | 高速(バーグラフで右寄り) |
「思考モデル」とは何か
「思考モデル」とは、回答を出す前に「思考」するプロセスを経ることで、性能と精度を大幅に向上させるAIモデルを指します。
これは単なる分類や予測を超え、情報の分析、論理的結論の導出、文脈やニュアンスの理解、情報に基づいた判断を行う能力を意味します。人間の思考プロセスをより忠実に再現しようとする試みと言えるでしょう。
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従来のモデルとの違い
従来の大規模言語モデル(LLM)は、与えられた入力に対して直接的な出力を生成するアプローチが一般的でした。
一方、思考モデルは以下のような特徴を持っています・
- 多段階推論: 複数のステップを踏んで問題を解決する能力
- 自己評価: 自分の回答の妥当性を検証するプロセスの内在化
- 思考の明示化: 結論に至るまでの思考の道筋を明確に示す能力
- 修正と改良: 初期の考えを見直し、より良い解決策を導き出す能力
これらの特徴により、複雑な問題解決や繊細な判断を要する場面でのパフォーマンスが大幅に向上しています。
Gemini 2.5の料金体系
Gemini 2.5 Proは、以下のプラットフォームですでに利用可能です。
- Google AI Studio: 開発者や企業が実験的に使用できるウェブベースのインターフェースで、Gemini 2.5を含む全てのモデルが無料で利用できます。
- Geminiアプリ: Gemini Advanced(有料プラン)ユーザー向けに、デスクトップとモバイルの両方で展開されています。
実際に使ってみた
Gemini Advancedモデル選択画面
承知しました。それでは、「Gemini 2.5 Pro」および「Deep Research」を実際に使うステップに分けて、わかりやすく構成した文章をご提案します。下記のように「ステップ形式」で進めると、読者が実際に試す際のハードルを下げることができます。
実際に使ってみた
Gemini Advancedモデル選択画面
Gemini Advancedでは、「Gemini 2.5 Pro(試験運用版)」モデルをベースに、通常の生成タスクだけでなく、より深い情報収集ができる「Deep Research」機能も試すことができます。以下に、それぞれの使い方をステップごとにまとめました。
通常の Gemini 2.5 Pro を使う場合
ステップ 1:モデルを選択する
Geminiの画面右上にあるドロップダウンから「Gemini 2.5 Pro」を選択します。
これが現在提供されている中で最も高性能なモデルです。
ステップ 2:プロンプトを入力する
たとえば、以下のような質問に対応できます:
最近の半導体市場の動向について、分析と予測を含めて教えてください。
すると推論の状況が可視化されどのようなステップで回答を生成しているか見ることができます。
生成の状況
ステップ 3:出力を確認する
Gemini 2.5 Proでは、構造化されたテキストでの回答が返ってきます。論理性が高く、複雑なトピックにも強い印象を受けます。
Deep Research 機能を使う場合
ステップ 1:同じく「Deep Research with 2.5Pro」を選択
Deep Researchもこの2.5proモデルをベースに動作します。
ステップ 2:プロンプトバーに「ディープリサーチ」と入力
通常の質問ではなく、特定の調査テーマに対して:
Canva visual suite2.0について調べて
といった形式で入力します。
すると調査方針がGeminiによって提案されます。
リサーチの提案
その方針でよければ開始をクリックしてください。
ステップ 3:詳細なレポートが自動生成される
単なる要約ではなく、複数のサイト情報を統合し、因果関係や背景を含めた調査レポートが出力されます。文章は非常に読みやすく、構成もしっかりしています。生成には少し時間がかかるので10分ほど見込むと良いでしょう。
非常に多くのサイトからの引用
生成結果は以下の通りです。
Google documentに出力され、必要に応じて編集や共有が可能です。
生成結果サンプル
ステップ 4:音声で聞くことも可能(オーディオ概要)
生成されたレポートは、ポッドキャスト形式で再生できる音声版にも対応しています。移動中の確認や、目が使えないシーンでも活用可能です。
※2025年4月現在、音声は日本語に対応していませんのでご注意ください。
音声概要ボタン
Gemini 2.5の主要機能
Gemini 2.5は、複数の革新的機能を備えた総合的に強化されたAIモデルです。特に注目すべき機能を詳しく見ていきましょう。
Deep Research with 2.5Pro
Googleの最新AIモデル「Gemini 2.5 Pro(試験運用版)」には、調査や分析に特化した新機能「ディープリサーチ(Deep Research)」が搭載されています。この機能は、複雑なトピックに対して深い洞察を提供し、情報を統合しながら読みやすいレポートを自動生成するものです。
研究・ビジネス・教育分野における情報整理やレポート作成において強力な支援ツールとなるでしょう。さらに、生成した調査レポートを音声で聞ける「オーディオ概要」機能 も搭載されており、通勤中や作業の合間など、手が離せない状況でも情報をインプットできます。
推論能力の強化
Gemini 2.5の最大の特徴は、その優れた推論能力です。複雑な数学問題や科学的課題を解決するための論理的思考プロセスが大幅に向上しています。
従来のモデルでは苦手としていた多段階の推論を要する問題に対して、Gemini 2.5は人間のような思考プロセスを経て解決策を導き出します。具体的には以下のような能力が強化されています。
- 数学的推論: 複雑な数式の理解と操作、証明の構築能力
- 科学的推論: 科学的原理の適用、実験結果の予測と解釈
- 論理的一貫性: 長い推論チェーンを維持する能力
- 批判的思考: 前提条件や結論の妥当性を評価する能力
これらの改善により、教育分野や研究開発、複雑な意思決定を要するビジネスシーンでの活用が期待されます。
実際に、Humanity's Last Exam(HLE)と呼ばれる言語モデルのベンチーマークにおいて、同じく推論モデルであるOpenAIのo3-miniやAnthropicのClaude3.7 Soonet(拡張思考モード)を上回る成績を記録しています。
参考Google
コーディング性能の向上
Gemini 2.5はコーディング能力においても大幅な向上を実現しています。Google DeepMindは特にこの分野に注力してきたと述べており、以下のような点で優れた性能を発揮します。
- 視覚的ウェブアプリ作成: 魅力的なユーザーインターフェースを持つウェブアプリケーションのコード生成
- エージェント型コードアプリケーション: 自律的に機能するコードエージェントの開発
- コード変換と編集: 既存コードの最適化や別言語への変換
- 単一プロンプトからの実行可能コード: 簡単な指示から完全に機能するゲームなどのアプリケーションを生成
公開されたデモでは、単一行のプロンプトから恐竜ゲームの実行可能コードを生成する能力が紹介されており、開発者の生産性向上に大きく貢献することが期待されます。
マルチモーダル能力の強化
Geminiモデルの強みであるマルチモーダル能力がさらに強化されています。Gemini 2.5は以下のような多様な情報形式を理解・処理できます。
- テキスト: 長文書や複雑な説明文の理解
- 画像: 視覚情報の詳細な分析と解釈
- 音声: 音声データからの情報抽出
- 動画: 動画コンテンツの理解と分析
- コードリポジトリ: プログラミングコードの包括的な理解
これらの情報源を横断的に理解し、統合的な推論を行うことができるため、実世界の複雑な問題に対応する能力が向上しています。
長いコンテキストウィンドウ
長いコンテキストウィンドウでの圧倒的な性能 参考:Fiction.LiveBench
Gemini 2.5 Proは100万トークンのコンテキストウィンドウを標準で提供し、近い将来200万トークンに拡張される予定です。これは以下のようなメリットをもたらします。
- 大規模データセットの処理: 膨大な情報を一度に処理可能
- 長文脈理解: 長い会話や文書全体を文脈を保ったまま理解
- 複雑な問題の一括処理: 複数の情報源からの統合的な分析
- 前後の一貫性維持: 長い対話や複雑なタスクでの一貫性の確保
この100万トークンというコンテキストウィンドウは競合他社と比べて圧倒的に長く、性能も格段に良いことが示されています。
ベンチマーク結果と性能評価
Gemini 2.5の実力を客観的に評価するため、様々なベンチマークでの成績を見ていきましょう。複数の分野で最先端の性能を達成しており、AIの新たな標準を確立しています。
参考Google
LMArenaでの成績
LMArenaは、人間の好みに基づいてAIモデルの性能を評価する主要なベンチマークです。
Gemini 2.5 Pro Experimentalはこのリーダーボードで1位を獲得し、特に以下の点で高い評価を得ています。
- 応答の質: 高品質で洗練された回答スタイル
- 正確性: 事実に基づいた正確な情報提供
- 有用性: 実用的で価値のある情報の提供
- 総合的なユーザー体験: 人間にとって使いやすく有益な対話能力
数学・科学ベンチマーク
Gemini 2.5 Proは、高度な推論を要する数学・科学分野のベンチマークでも優れた成績を収めています。
参考Google
特筆すべきは、これらの成績が「Test-time technique」と呼ばれるモデルテスト時のコスト増加手法を使わずに達成されている点です。
これは、モデル自体の基本的な推論能力の高さを示しています。
Gemini 2.5 Proはこうした技術を用いずに高い性能を達成しています。
コーディング評価
SWE-Bench Verifiedは、エージェント型コード評価の業界標準とされるベンチマークです。Gemini 2.5 Proは、カスタムエージェントセットアップにより63.8%という高いスコアを達成しています。
この成績は、実際のソフトウェアエンジニアリングタスクにおける能力の高さを示すものであり、以下のような能力が評価されています。
- コードベースの理解: 大規模なコードベースの構造と機能の把握
- バグ修正: 問題の特定と適切な修正の実装
- 機能実装: 仕様に基づいた新機能の追加
- コード最適化: パフォーマンスや可読性の向上
Google DeepMindは、Gemini 2.0からの「大幅な飛躍」を実現し、さらなる改善も計画していると述べています。
業界における位置づけと影響
AI分野では、OpenAIのGPT-4oやAnthropicのClaude 3.7 Sonnetなど、複数の強力なモデルが競合しています。Gemini 2.5はこの競争環境で以下のような位置づけにあります。
- 推論能力: ベンチマーク結果から、数学・科学分野での推論において競合モデルをリードしている
- コーディング: SWE-Bench Verifiedでの高いスコアは、コーディング能力の高さを示している
- マルチモーダル対応: ネイティブなマルチモーダル設計は、Geminiシリーズの強みを継承
- 長文脈理解: 100万トークン(将来的に200万トークン)の長いコンテキストウィンドウは業界トップクラス
GoogleのAI研究への多額の投資と、DeepMindの専門知識の統合により、Gemini 2.5は市場での強力なポジションを確立しつつあります。
Google DeepMindの思考モデル開発の歴史
Google DeepMindは長年にわたり、AIの推論能力を高めるための研究を進めてきました。
- 強化学習の活用: AlphaGoなどの開発で培った強化学習技術の応用
- Chain-of-Thought(思考の連鎖): 複雑な問題を段階的に解決するプロンプティング技術の開発
- Gemini 2.0 Flash Thinking: 初の思考モデル実装として2024年に導入
- Gemini 2.5: 基盤モデルの大幅強化とポストトレーニングの改良による性能向上
Gemini 2.5は、これらの研究成果を集大成した製品であり、今後すべてのモデルに思考能力を直接組み込む方針をGoogle DeepMindは示しています。
まとめ
Google DeepMindのGemini 2.5は、AIの「思考能力」を大幅に強化した画期的なモデルです。高度な推論能力、優れたコーディング性能、マルチモーダル対応、長いコンテキスト理解など、多くの面で業界をリードする性能を示しています。
LMArenaをはじめとする複数のベンチマークでトップクラスの成績を収め、特に数学・科学分野での推論や、コーディングにおいて優れた能力を発揮しています。Google AI StudioとGemini Advancedユーザー向けのGeminiアプリですでに利用可能であり、今後Vertex AIへの展開や価格体系の発表も予定されています。
Gemini 2.5の登場は、単なる機能向上を超えたAIの質的変化を示唆しています。「思考するAI」の実現は、企業や開発者の働き方に大きな影響を与えるとともに、AIと人間の協働の新たな可能性を開くものでしょう。今後、すべてのGoogleのAIモデルに思考能力が組み込まれていくという方針は、AIの進化がさらに加速することを示しています。
テクノロジーの進化とともに、私たちはAIとの関わり方も見直していく必要があります。Gemini 2.5のような高度な推論能力を持つAIを最大限に活用するためには、適切なプロンプトの設計や、AIとの効果的な協働方法の模索が重要になるでしょう。