この記事のポイント
- DXプロジェクト成功に不可欠な要件定義の重要性と進め方を解説
- 要件定義は事業目的と利害関係者ニーズをシステム要件に変換する重要なステップ
- 目的設定、ステークホルダー特定・関与、情報収集などの具体的な進め方を紹介
- AIを活用した要件定義クラウドサービスやAPIの事例も紹介
- DX時代の要件定義を効率的に進めるためのヒントが満載
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
DXは、企業が急速な技術進化と市場変化に対応するために不可欠な取り組みです。
その成功には、プロジェクトの目的を明確にし、ステークホルダー全員が目指すべきゴールを理解することが重要です。
本記事では、DXプロジェクトの要件定義について、初心者にもわかりやすく解説します。重要性や具体的な進め方、ステークホルダー関与の秘訣を説明し、AI技術を活用した最新の要件定義ツール情報もお届けします。
「そもそもDXについてよく分かっていない」「DXについて包括的に知りたい」という方は、こちらの記事もご覧ください。
➡️DXとは?その定義や必要性、IT化との違いや、実際の事例を徹底解説
目次
DXプロジェクトにおける要件定義とは?
要件定義とは、システム開発の工程の1つで、プロジェクトの初期に実施される重要なステップです。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)において、この「要件定義」が非常に重要な役割を果たします。
要件定義は、事業の目的と利害関係者のニーズをシステム要件に変換するための重要なプロセスです。
適切な要件定義は、プロジェクトの成功に不可欠であり、全ての利害関係者が共通のビジョンを持つことで、チームが一致団結して各々の業務を遂行できるようになります。
要件定義とは?
例えば、企業が顧客満足度を向上させる新システムを導入する場合、要件定義では、提供すべき顧客体験、収集・分析すべきデータ、実現可能なシステム等を明確に設定します。
これにより、プロジェクトの方向性が定まり、チームは効率的に作業を進められるようになるのです。
DXにおける要件定義の進め方
要件定義の進め方
要件定義の進め方は、プロジェクトの成功を左右する非常に重要なプロセスです。ここでは、一般的な進め方を解説します。
なお、プロジェクトやチームの規模、業界、使用する開発方法論(アジャイル、ウォーターフォール等)によって、具体的なアプローチは異なる場合があります。
1.収集と明確化
- 目的の設定
プロジェクトの目的や解決しようとしている問題を明確にします。
- 情報収集
インタビュー、アンケート、ドキュメント分析などを通じて、プロジェクトに必要な要件を収集します。
- ステークホルダーの特定と関与
影響を受けるまたは影響を与える全ての個人やグループを特定し、彼らのニーズと期待を理解します。
ステークホルダー分析の例
例えば、「高い影響力と高い関心を持つステークホルダー」はプロジェクトの重要な意思決定プロセスに積極的に関与させ、「低い影響力と低い関心を持つステークホルダー」には定期的なアップデートを提供するに留める、といった戦略が考えられます。
2.分析と整理
-
要件の確認
収集した要件が正確で矛盾していないかを確認し、必要に応じて精査します。
-
優先順位の決定
要件に優先順位をつけ、プロジェクトの範囲内で実現可能なものを特定します。
要件のプライオリティ・マトリクス例
-
文書化: 分析と整理された要件を要件仕様書にまとめます。
要件使用書(Software Requirements Specification, SRS)とは、ユーザーが求めていることを「要求」とし、関連した「仕様」を詳細に文書化したものです。
📃要件仕様書例はこちら
要件使用書例1
要件使用書例2
3.検証と管理
- レビューと承認
要件仕様書をステークホルダーに共有し、フィードバックを得た後、改善します。最終的にはステークホルダーからの承認を得ます。
- 要件の検証
要件がプロジェクトの目標を達成するために実現可能かつ完全であることを検証します。
- 変更管理
プロジェクト進行中に要件が変更された場合、それらの変更を適切に管理し、プロジェクトの目標達成に影響を与えないようにします。
要件定義の課題と成功のためのポイント
このセクションでは、要件定義プロセスで頻繁に生じる可能性のある課題とその解決策について詳しく説明します。
要件定義はプロジェクトの成功にとって極めて重要な段階であり、その過程で生じる問題はプロジェクト全体に影響を与える可能性があります。
それゆえ、これらの問題を事前に認識し、適切な解決策を用意しておくことが求められます。
要件定義のよくある認識のズレ(ビジネス側とエンジニア側)
システム開発の要件定義フェーズにおいて、ビジネス側とエンジニア側の間で認識のズレが生じることが多く、様々な問題を引き起こします。
ビジネス側の視点🧑💼 | エンジニア側の視点🧑💻 | |
---|---|---|
機能要件 | 市場のニーズやビジネス目標を満たすための機能に焦点を当てる。 | 技術的な実現可能性、開発の複雑さ、保守性に重点を置く。 |
優先順位 | 市場投入のスピードや顧客の要望に基づいて優先順位を設定。 | 技術的な依存関係、再利用性、保守の容易さに基づいて優先順位を設定。 |
非機能要件 | 機能要件の達成に集中し、しばしば非機能要件(セキュリティ、パフォーマンス等)を見落とす。 | セキュリティ、スケーラビリティ、パフォーマンスといった要素を重視。 |
期待と実現可能性 | 時に現実的ではない高い期待を持つことがある。 | 技術的な制約やリソースの制限に基づき、実現可能性に基づいた見積もりを提供する。 |
コスト | プロジェクトのコストをできるだけ低く抑え、ROI(投資収益率)を最大化したい。 | 適切な機能と品質を確保するためには、十分な予算の確保が必要。コスト削減が品質低下につながることを懸念。 |
ビジネス側とエンジニア側の認識のズレを減らすには
ビジネス側とエンジニア側の認識の違いによって引き起こされる問題を最小限に抑え、プロジェクトの成功に寄与するには以下の方法が有効でしょう。
内容 | 説明 | |
---|---|---|
1 | 明確なコミュニケーションの確保 | 定期的なミーティングやアップデートを通じて、双方の期待と進捗を共有し、認識の違いを早期に解決します。 |
2 | 共通の目標の設定 | ビジネス側とエンジニア側がプロジェクトの共通の目標に合意し、チーム全員が同じ方向を目指します。 |
3 | 相互理解の促進 | ワークショップやクロストレーニングセッションを通じて、互いの専門知識と制約を理解し合います。 |
4 | 透明性のあるプロセスの実施 | プロジェクトの計画、進捗、課題を透明にし、全ステークホルダーが情報にアクセスできるようにします。 |
5 | 変更管理プロセスの確立 | 要件や目標の変更を適切に管理し、ドキュメント化してコミュニケーションすることで、最新の情報に基づく作業を可能にします。 |
DXプロジェクトにおける要件定義の注意点
DXプロジェクトにおける要件定義では、ビジネスモデルの変革やデジタル技術の活用を目的とした特徴があるため、従来のシステム開発とは異なる注意点があります。
また、社内外の幅広いステークホルダーとの連携が不可欠となります。
ここでは、DXプロジェクトの要件定義における3つの重要なポイントを紹介します。
1. 明確な目標と範囲の定義
プロジェクトの成功は、目標と範囲の明確な定義に大きく依存します。目標を明確にすることで、プロジェクトチーム全員が同じ方向を目指し、共通の目的に向かう事ができます。範囲の定義には、プロジェクトで実現すべき機能や成果物、そしてプロジェクトの限界を含めることが重要です。
このプロセスでは、ステークホルダーとの詳細な協議が必要です。範囲が広すぎると、リソースの過度な消費やスケジュールの遅延の可能性があります。
逆に、範囲が狭すぎると、プロジェクトの成果がステークホルダーの期待を満たさない可能性があります。明確な目標と適切に定義された範囲を持つ事でプロジェクトを正しい軌道に保つ事が出来ます。
2. ステークホルダーの積極的な関与
プロジェクトの成功は、ステークホルダーの積極的な関与に大いに依存します。ステークホルダーとは、プロジェクトの成果に直接的または間接的に影響を受ける全ての個人や組織を指します。
初期段階から彼らをプロジェクトに関与させることで、彼らのニーズと期待を正確に理解し、それらを要件定義に反映できます。
ステークホルダーとの定期的なコミュニケーションは、要件変更、新たな要件の特定、誤解の解消に有用です。
さらに、ステークホルダーがプロジェクトに参加している感覚を持つことで、プロジェクトへの関心が高まり、最終的な成果物に対する満足度が向上します。
3. 効果的な要件収集技術の利用
要件定義プロセスでは、効果的な要件収集技術の使用が極めて重要です。正確で完全なニーズの収集は、プロジェクトの要件を正確に定義し、期待される成果物を達成する基盤を作ります。
要件収集にはインタビュー、アンケート、などの様々な技術があります。
これらの技術を適切に選択し組み合わせることで、ステークホルダーから幅広く多様な情報を収集できます。
また、収集した情報を明確で具体的な形で文書化し、すべての関係者が理解しやすいようにする必要があります。
効果的な要件収集と明確な文書化は、開発プロセス全体で誤解を防ぎ、期待を一致させるために欠かせません。
要件定義✖️AIサービス
近年、AIを活用することで要件定義の効率化と品質向上を図るサービスが登場しています。
これらのサービスは、自然言語処理や機械学習などのAI技術を用いて、要件定義のプロセスを自動化・支援することで、要件定義にかかる工数を大幅に削減し、人為的なミスを防ぐことが可能です。
ここでは、そうしたAIを活用した要件定義支援サービスの代表的な事例を2つ紹介します。
ソルビファイ株式会社は、2024年3月からSolvifAI(ソルビファイ)という、システム開発を効率化するクラウドサービスを提供しています。
生成AI搭載問題解決SaaSツールSolvifAI (参考:SolvifAI)
生成AIを使用して、従来はコンサルタントが数時間以上かけていた要件定義の作業を驚くべきことに数分に短縮します。
この機能は、要求/要件に対する会議メモ等をAIが自動で整理/評価し、推奨要件を加えた評価表を作成します。現在、特許の申請中です。
生成AI搭載の問題解決機能は、組織のDXを支えるオールインワンツールとして非常に興味深いですね。
AI要件定義API
株式会社LABBIZはステム開発の要件定義を効率化する「 AI要件定義API 」を提供しています。
AI要件定義API (参考:LaBBIZ)
これは、株式会社LaBBIZが提供するITコンサルサービス「AI CTO にて使用している独自開発のAIアプリ「 Project Runner(プロジェクト・ランナー) 」の機能をAPI化したものです。
このツールを活用することで、要件定義にかかる工数を従来比75% 以上削減することに成功した結果も出ています。
まとめ
この記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)における要件定義の重要性を理解するための詳細な解説を行いました。
要件定義は、プロジェクトの初期段階で行われる重要なステップであり、目標と利害関係者のニーズをシステム要件に変換する役割を果たします。成功するDXプロジェクトは適切な要件定義から始まります。
要件定義の進め方やプロセス、課題と成功のためのコツ、そしてDX要件定義を成功に導く3つのポイントについて解説しました。
この記事の内容を踏まえ、要件定義の理解を深めることで、DXを成功に導いていきましょう。