この記事のポイント
- DXレポートは経済産業省が公開する日本企業のデジタル化課題と解決策を示すガイドライン
- 4つのレポートが公開され、各々が異なる視点からDX推進の方向性を提示
- 「2025年の崖」やコロナ禍の影響、デジタル産業創出のビジョンなど、時代に即した課題を扱う
- 最新のDXレポート2.2では、デジタルによる収益向上や経営者の行動指針などを重視
- これらのレポートは日本企業がDXを戦略的に進めるための重要な指針となる
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、日本の企業にとって避けて通れない道となっていますが、その具体的な進め方や解決すべき課題については明らかではありません。
この記事では、経済産業省が提供する「DXレポート」の内容を深く掘り下げ、最新版であるレポート2.2を含めて、日本の企業が現在直面しているデジタル化の課題をどのように解決していくべきか、その方向性を詳細に解説しています。
ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、持続可能な成長を遂げるための重要な指標となるこれらのレポートから、DX推進に役立つアクションプランを欲している企業の方々へ向けて、読み解く手助けをいたします。
目次
DXレポートとは
経済産業省が公開しているDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートは、日本の産業や企業が直面しているデジタル化の課題とその解決策に焦点を当てたものです。
DXレポートの背景(出典)経済産業省
具体的には以下の4つのレポートがあります。
これらのレポートは、日本の企業や業界がデジタル化をどう進めるべきか、どのような支援が政府から求められるかという点についての洞察を提供し、経済全体のデジタル化を促進するための重要なガイドラインとなっています。
DXレポート(2018年):「2025年の崖」の警鐘
2018年に発表された最初のDXレポートは、日本企業のITシステムの現状と課題を明らかにし、「2025年の崖」という概念を提示しました。
この「崖」とは、2025年までに老朽化したレガシーシステムを刷新しなければ、日本の産業が国際競争力を失うリスクを指しています。
2025年の壁について(出典)経済産業省
特に、既存のITシステムがレガシー化し、データの利活用が限定的で、新しいデジタル技術の導入が進まない現状が明らかにされています。
また、システムがブラックボックス化し、メンテナンスが困難な状況にある企業が多いことも指摘されています。
これらの課題に対し、レポートは以下の対策を提案しています。
- DX推進のための「DX推進システムガイドライン」の策定
- 企業のDX推進状況を可視化するための指標と診断スキームの構築
- マイクロサービスアーキテクチャの活用による既存システムの刷新
- 業界横断的な共通プラットフォームの構築
このレポートは、多くの企業に危機感を与え、DX推進の重要性を認識させるきっかけとなりました。
DXレポート2(2020年):コロナ禍におけるDXの加速
2020年12月に公表されたDXレポート2は、コロナ禍における企業のデジタル化の現状を分析し、DXの本質的な必要性と方向性を明確にしています。
レポートの主な内容
- 日本企業のDX推進状況の自己診断結果分析
- コロナ禍で明らかになったデジタル化の遅れと課題
- DXの本質と、それを実現するための組織変革の必要性
東京都のテレワーク率(出典)経済産業省
特に注目すべき点として、多くの企業がDXを「既存のITシステムの延長」と捉えており、真の変革につながっていないことを指摘しています。
また、テレワークの導入率の低さなど、コロナ禍で顕在化した日本企業のデジタル対応力の弱さも明らかにしています。
DXレポート2では、これらの課題を克服するために以下の提言を行っています。
- 経営者によるコミットメントとリーダーシップの発揮
- デジタル技術を前提とした業務プロセスの再設計
- デジタル人材の育成と外部人材の活用
- アジャイル開発やデザイン思考の導入による開発プロセスの変革
このレポートは、コロナ禍という未曽有の事態を踏まえ、DXの緊急性と重要性を再認識させる役割を果たしました。
DXレポート2.1(2021年):デジタル産業の創出
2021年8月に公表されたDXレポート2.1は、日本のデジタル産業全体の競争力向上を目指し、より広い視点からDXを捉えています。
このレポートは、ユーザー企業とベンダー企業の関係性に焦点を当て、産業構造全体の変革の必要性を訴えています。
3つのジレンマに関する解説(出典)経済産業省
【レポートの主要な論点】
- ユーザー企業とベンダー企業の「低位安定」関係の解消
- デジタル競争に対応する能力の向上
- 「3つのジレンマ」の克服
これらのジレンマを克服するために、 DXレポート2.1では以下の施策を提案しています。
- デジタル産業指標の策定と活用
- 経営者のコミットメントと組織全体の意識改革
- デジタル人材の育成と外部人材の積極的な活用
- オープンイノベーションの推進と新規事業創出の仕組み作り
このレポートは、個々の企業のDX推進だけでなく、日本の産業構造全体のデジタル化を視野に入れた点で、より広範な影響を持つものとなっています。
DXレポート2.2(2022年):デジタルによる収益向上
2022年7月に公表された最新のDXレポート2.2は、これまでのレポートの内容を踏まえつつ、より具体的な成果につながるDXの推進方法に焦点を当てています。
特に、デジタル技術を活用した収益向上や、経営者の具体的な行動指針の提示など、実践的な内容が特徴です。
デジタル産業宣言について(出典)経済産業省
DXレポート2.2における3つの重要なアクション
1. デジタルを収益向上に活用する
企業はデジタル技術を単なる省力化や効率化の手段としてだけでなく、収益向上に直接結びつけることが望まれます。
【具体例】
- 新規デジタルビジネスの創出
- 既存ビジネスのデジタル技術を活用した付加価値向上を目指す
2. 経営者の具体的な行動指針
経営者はビジョンや戦略を示すだけでなく、具体的な行動指針を提供し、社員全員が新しい働き方や仕事のやり方に順応できるようにする必要があります。
これにより、全社一体でDXを推進し、組織全体のエンゲージメントを高めることが期待できます。
3. 経営者の価値観を外部へ発信し新たな関係を構築
DXは個社単独では困難なため、経営者自らが価値観を外部へ発信し、同じ価値観を持つ企業同士で変革を推進する新たな関係を築くことが求められます。
このため、「デジタル産業宣言」を策定し、共通の行動指針を全社に浸透させる仕組みを導入することが明記されています。
このレポートは、DXを通じた具体的な事業成果の創出に重点を置いており、企業がDXを推進する上でより実践的なガイドラインとなっています。
経営者の役割や企業間の連携の重要性を強調している点が特徴的で、DXを個社の取り組みから産業全体の変革へと拡大する視点を提供しています。
DXレポートを活用したDX推進のポイント
DXレポートシリーズを効果的に活用し、DXを推進するためのポイントは以下の通りです。
自社の現状把握
DXレポートで提示されている指標を用いて、自社のDX推進状況を客観的に評価することが重要です。
特に「2025年の崖」に向けた準備状況を確認し、必要な対策を講じる必要があります。
経営者のコミットメント
DXを経営戦略の中核に位置付け、トップダウンでの推進体制を構築することが不可欠です。
また、デジタル産業宣言を策定し、社内外に発信することも重要です。
人材育成と組織改革
デジタル人材の育成・確保を計画的に進めると同時に、アジャイル開発やデザイン思考など、新しい働き方を導入することが求められます。
技術の積極的活用
クラウド、AI、IoTなどの最新技術を積極的に導入し、業務プロセスを再設計することが重要です。
同時に、レガシーシステムの刷新を計画的に進める必要があります。
産業エコシステムの構築
同じ価値観を持つ企業や団体とのパートナーシップを強化し、オープンイノベーションを推進することで、新たなビジネスモデルの創出を目指すことが重要です。
まとめ
DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なる技術の導入に留まらず、それは企業文化の変革、経営戦略の再考、そして組織全体の思考方式の変更が求められます。
DXレポートは、この変革を実現するための具体的な道筋を提供しており、それぞれのレポートが示す洞察と指針は、日本の企業が直面する独特の課題に対処するためのサポート資料になるでしょう。
これらのレポートを活用することで、企業はDX化をより戦略的に進めることが可能となります