この記事のポイント
- DX成功のための5つのステップを紹介
- DXを進める上での3つのポイントを提示
- 住友電工と富士通のDX推進事例を紹介
- DX成功のための戦略的アプローチの重要性を強調
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
DXに取り組む企業が増える中、その正しい進め方やポイントを知っておくことが成功の鍵となります。では、どのようなステップでDXを進めればよいのでしょうか。
この記事では、DXを成功に導くための5つの具体的なステップと、それらを実践する上でのポイントについて解説します。
日本企業におけるDXの現状や課題も議論し、住友電工や富士通のような成功事例を参考にしながら、組織全体でデジタルシフトを進めるためのヒントをご提供します。
「そもそもDXについてよく分かっていない」「DXについて包括的に知りたい」という方は、こちらの記事もご覧ください。
➡️DXとは?その定義や必要性、IT化との違いや、実際の事例を徹底解説
目次
DXの現状と課題
日本におけるDXは進行中であり、業績向上の成功事例や政府の支援によって、その重要性が広く認識されています。
しかし、ツール導入にとどまるケースやデジタルリテラシーの不足、DX人材の確保などの課題が依然として存在します。
これらの課題に取り組むことで、日本企業はDXを成功させ、デジタル時代に適応した持続的な成長を遂げることが期待されます。
DXの現状
1.DXの進捗
多くの日本企業がDXに取り組み、デジタル技術の導入やビジネスプロセスの見直しを進めています。IT投資が増加し、デジタルツールやソリューションの導入が広がっています。
2.業績向上の成功事例
一部の企業は、AIやIoTなどのデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築し、業績を向上させています。これにより、DXの可能性が示され、多くの企業が追随し始めています。
3.政府の支援
日本政府もDXを推進しており、DX白書政策を通じて、企業のDX取り組みを後押ししています。これにより、DXの重要性が広く認識され、企業が積極的にDXに取り組む機運が高まっています
DXの課題
1.ツール導入にとどまる
DXは単なるデジタルツールの導入ではなく、ビジネスプロセス全体の変革を伴います。しかし、ツール導入で終わり、組織全体の変革に結びつかないケースが見られます。
2.デジタルリテラシーの不足
DXの成功には、組織全体のデジタルリテラシー向上が不可欠です。従業員がデジタル技術を理解し、DXの価値に共感できるようにするため、教育プログラムやトレーニングの拡充が必要です。
3.DX人材の確保
DXを推進するには、デジタル技術やビジネス戦略に精通した人材が必要です。しかし、これらの人材を育成し確保するのは容易ではありません。既存の従業員のリスキリングや外部からの採用を組み合わせて、人材の確保と育成に取り組む必要があります。
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DXとは?
DXの具体的な進め方5ステップ
このセクションでは、DXを成功させるためのステップを見ていきます。
これらのステップを繰り返しながら、DXを進めていくことで、組織はデジタル時代に適応し、持続的な成長を遂げることができるでしょう。
ステップ1: ビジョンの設定
DXにおけるビジョン設定は組織全体の方向性を示し、戦略の策定やプロセスの変革、組織文化の育成に大きな影響を与えます。
ビジョンを設定する際には、以下の点に留意しましょう。
- 方向性を示す
DXは組織全体の変革を伴うため、その方向性を示すビジョンが必要です。
ビジョンはDXプロジェクトの目標や目的を明確にし、戦略や行動計画を立てる際の指針となります。
- 組織の一体感
DXは部門を超えた取り組みを必要とするため、全員が同じ方向を向いて進めるよう、制定したビジョンを共有することが重要です。
ビジョンが共有されることで、組織全体での一体感が生まれ、DXを推進する基盤が整います。
- 長期的な視野
DXは一度の取り組みで完了するものではなく、継続的な変革が必要です。
ビジョンを設定することで、組織全体が長期的な視野でDXに取り組む意識を持ち、持続的な変革を進められます。
ステップ2: 現状分析
組織の現在の状況を評価し、DXに必要なリソースや改善点を特定することで、組織はデジタル時代に適応し、持続的な成長を実現できるでしょう。
現状分析では、以下の点に注目します。
1.ビジネスプロセスの評価▶
このプロセスにおいてはビジネスプロセスのフローの現状を確認し、ボトルネックの特定を行います。
ビジネスプロセスのフローを図示し、各プロセスがどのように機能しているかを詳細に評価し、プロセスの効率性や重複、無駄な手順などを見つける事ができるでしょう。
2.技術インフラの評価▶
ここでは現在のインフラ技術の状況とセキュリティの確認を行います。
DXに必要な技術やシステムが既に整っているか、またはアップグレードや新たな導入が必要かを判断します。それに伴うセキュリティ対策も同様です。
3.人材のスキルとリソースの評価▶
DXを推進するために必要な人材(デジタル技術の専門家、プロジェクトマネージャーなど)が組織内にいるかどうかを確認し、リスキリングプログラムの導入・外部からの採用やパートナーシップの構築を検討します。
4.組織文化の評価▶
組織全体でDXを推進できるよう、デジタルリテラシーの向上や新しい働き方への適応を促す文化を育てつつ、組織文化にDXへの抵抗や障壁がないかを評価します。ワークショップや教育プログラムの導入が効果的でしょう。
ステップ3: 戦略の策定
このセクションでは、ビジョンに基づき、戦略を立てる際の方法と、リソース配分や進捗管理について説明します。
- ビジョンに基づいた戦略の立て方▶️
DXにおけるビジョンを明確にし、それを具体的な目標や目的に分解します。
これらを短期、中期、長期の具体的な目標に落とし込んでいきます。**SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)**なものにすることで、戦略の実現性が高まるでしょう。
- リソース配分▶️
戦略の実行には、どのようなリソース(人材、技術、資金)が必要かを特定します。
特に各プロジェクトや施策に必要な予算と人材を確保できるかどうかを慎重に検討・投資する事が重要です。
- 進捗管理▶️
戦略の進捗を評価するため、**KPI(Key Performance Indicators)**を設定します。
プロジェクトの進行状況を数値で把握し、成功に向けた進捗をモニタリングできます。
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ステップ4: プロジェクトの実行
ここでは、ステップ3での戦略に基づいて新技術の導入やプロセスの改善を行う方法を解説します。
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新技術の導入▶️
DX戦略に基づいて、ビジネスプロセスの効率化や最適化に必要な新技術を選定します。
例えば、**RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)**など、組織のニーズに合わせた技術を導入します。必ずテスト導入を行い、技術の有効性と使いやすさを確認します。
また、導入プロセスでは、既存のシステムやプロセスとの統合や、従業員のトレーニングを行います。
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トレーニングとサポート▶️
新技術の導入やプロセス改善に伴い、従業員に対して適切なトレーニングを行います。新しいツールや技術の使い方、プロセスの変化への対応方法を教育し、スムーズな実行をサポートします。
また、従業員が問題に直面した際に迅速に対応できるよう、ITサポートやヘルプデスクを設置します。
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ステップ5: フィードバックと改善
ここでは、プロジェクトの結果を評価し、次の段階で改善する方法を説明します。
- 結果の評価▶️
プロジェクトの進捗や結果を評価するために設定したKPI(Key Performance Indicators)をモニタリングします。
また、プロジェクトが組織全体に与えた影響や、従業員や顧客からのフィードバックを通じて、定性的な評価も行います。これにより、プロジェクトの成功や課題をより広範に捉えられます。
- フィードバックの収集▶️
プロジェクトの実行に関わった従業員からのフィードバックを収集します。
また、DXが顧客体験に与えた影響や、サービスやプロダクトの改善点を見つけるために、顧客からのフィードバックも収集します。
- 改善策の立案▶️
評価とフィードバックに基づいて、プロジェクトの課題や問題点を特定します。DXは一度の取り組みで完了するものではなく、継続的な改善が必要です。
プロジェクトの結果やフィードバックをもとに改善策を実行し、それを次の段階での評価や戦略に反映することで、持続的な成長を実現できます。
DXを進めるうえでのポイント
DXを進めるうえでのポイント
日本企業がDXを成功させるためには、戦略的アプローチ、人材の育成と確保、組織文化の変革とデジタルリテラシーの向上が重要な要素となります。
これらのポイントを押さえながらDXを進めることで、日本企業はデジタル時代に適応し、持続的な成長を実現できるでしょう。
1.ツール導入を超えた戦略的アプローチ
DXは単にデジタルツールを導入するだけではなく、ビジネスプロセス全体を変革する戦略的なアプローチが求められます。日本企業は伝統的に長期的な視野で経営を行い、着実に進めていく傾向があります。
しかし、DXを成功させるには、急速に変化する市場や技術トレンドに柔軟に対応することが求められます。
長期的なビジョンに基づいた戦略を維持しつつ、新しい技術やビジネスモデルに迅速に対応できる柔軟性を持つことが重要です。
2.DX人材の育成と確保
DXを成功させるためには、デジタル技術やビジネス戦略に精通した人材が不可欠です。
既存の従業員に対するトレーニングやリスキリングに加え、外部から専門家を採用することも検討すべきでしょう。
デジタルスキルだけでなく、プロジェクトマネジメントやイノベーションを推進する力を持つ人材を確保することで、DXの成功に近づくことができます。
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3.組織文化の変革とデジタルリテラシーの向上
DXには、組織全体のデジタルリテラシーを向上させ、変革に対応できる文化を醸成することが不可欠です。階層構造や年功序列に縛られず、新しいアイデアや技術を積極的に取り入れる風土を育てます。
また、日本企業は独自のビジネスモデルや伝統的なやり方に依存することが多いですが、DXを進めるには他の企業やスタートアップとのパートナーシップを活用することが重要です。
外部パートナーとの連携を活用し、DXの取り組みを加速させ、組織全体でDXを推進する基盤を強化します。
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DXの成功事例
ここでは、住友電工と富士通のDX推進事例を取り上げ、その特徴と成果を解説します。
これらの事例から、DXの進め方や組織変革のポイントを学ぶことができるでしょう。
全社DX計画の推進(住友電工)
住友電工では2021年10月に「全社DX計画」をとりまとめ、「部門DX計画」と「全社DX基盤」という二つのアプローチで横断的にDX化を推進しています。
住友電工の全社DX計画 (参考:住友電工)
製造現場のデジタル技術活用にとどまらず、サプライチェーンの強化・働き方改革・DX人材育成まで徹底的にデジタル技術の活用を進めているのが特徴です。
部門ごとのDX計画と全社的なDX基盤の整備を並行して進めることで、組織全体でのDX推進を加速させています。
IT企業からDX企業へ・全社DXプロジェクト(富士通)
2020年10月より富士通は、業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革する**全社DXプロジェクト(Fujitsu Transformation:フジトラ)**を始動しています。
全社DXプロジェクト「フジトラ」 (参考:富士通)
変革の対象は、新事業の創出から、戦略事業の成長、既存事業の収益性強化、様々なプロセスの標準化・効率化、人事制度や働く環境まで、幅広い経営・現場の重要課題を含んでいる事が特徴です。
また、顧客や従業員などの声を取り入れながら、デザイン思考やアジャイルなどのフレームワークを活用しています。
これらの事例から、DXの成功には全社的な取り組みと、部門間の連携が不可欠であることがわかります。
また、自社のDXで得た知見を活用して、他社のDX支援につなげるという発想も、DXを推進する上で重要なポイントといえるでしょう。
まとめ
本記事では、デジタル技術を活用してビジネスプロセスや組織全体を変革するDX(デジタル・トランスフォーメーション)について、その重要性と日本企業における推進のポイントを解説しました。
DXの成功には、ビジョン設定、現状分析、戦略策定、プロジェクト実行、フィードバックと改善の5つのステップを繰り返し、ツール導入を超えた戦略的アプローチ、DX人材の育成と確保、組織文化の変革とデジタルリテラシーの向上に注力することが重要です。
また、住友電工や富士通の事例から、全社的な取り組みと部門間連携の重要性を学ぶことができます。
日本企業がこれらのポイントを押さえてDXを推進し、デジタル技術や市場トレンドの変化に柔軟に対応し続けることで、デジタル時代に適応し、持続的な成長を実現できるでしょう。