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ディープフェイク(deepfake)とは?その危険性と対策、法規制について解説

この記事のポイント

  • ディープフェイクは、人工知能を利用して人物の動画や音声を合成する技術です。
  • ディープフェイクの活用は映画製作などにおけるコスト削減などの可能性を秘めていますが、偽ニュースの拡散や詐欺などのリスクも伴います。
  • AI技術の進化とともに、ディープフェイクの検出技術や法的規制の必要性が高まっています。
  • 利用者はディープフェイクの危険性と、正しい活用用途を理解する必要があります。

監修者プロフィール

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

ディープフェイク技術は、AIを活用して動画や音声を合成・編集する手法です。この技術の発展により、実在する人物の映像や音声を精巧に合成できるようになりました。
エンターテインメント業界での応用から映画制作の効率向上に至るまで、その有用性が認識され始めている一方で、偽情報の流布や詐欺活動といったディープフェイクに起因する諸問題や、それに伴う倫理的な課題も顕在化しています。

本記事では、ディープフェイクの概要、その作成過程、そして伴うリスクや不正利用の事例について深堀りしつつ、技術の将来性についても解説していきます。また、検出技術の最新動向にも焦点を当て、ディープフェイク技術の健全な発展とリスク低減に向けた適切な対処方針を考察していきます。

ディープフェイクの発展に伴う影響は、AI開発に携わる人のみならず、全ての人々に関わる重要な課題です。正しい知識を身につけるためにも、ぜひ最後までご覧ください。

ディープフェイク(deepfake)とは

ディープフェイクは、AI(人工知能)を用いて人物の動画や音声を人工的に合成する技術です。
初めて広く認知された例はエンターテイメント分野での使用ですが、政治的な偽ニュースの生成や詐欺など、様々な問題を引き起こす可能性があることから懸念されています。

また、ディープフェイクは倫理的な問題を引き起こす可能性も指摘されています。個人の同意なしにその人の顔や声を使用した偽コンテンツを作成することは、プライバシーの侵害、名誉毀損、さらには本人に精神的な苦痛を与えることにつながりかねません。

一方で、適切な用途で使用すれば、映画やビデオゲームの製作コストを削減するなど、建設的な利用も期待されます。

💡豆知識:ディープフェイクの語源

ディープフェイクという言葉は、人工知能技術の一つである「Deep Learning(深層学習)」と「Fake(偽物)」を組み合わせた造語です。

ディープフェイクの仕組み

ディープフェイクを作成する際に使われている代表的な手法は敵対的生成ネットワーク(GANs)と呼ばれています。
2014年に開発されたこの手法は、提供されたデータからパターンを学習し、擬似的なデータを生成する能力を持つアルゴリズムの一種です。

より理解を深めるために、GANの構成要素であるGeneratorDiscriminatorという2つのネットワーク構造について簡単に解説すると、以下の通りです。

  • 生成ネットワーク(Generator)
    生成ネットワークはランダムノイズや入力データから新しいデータを生成する役割を担っています。

  • 識別ネットワーク/ Discriminator
    識別ネットワークは生成ネットワークが生成したデータと本物のデータを区別する役割を担っています。


ディープフェイクの生成では、大量の画像や音声データを生成ネットワークに与えて学習させます。そして、学習したパターンを基に新しい画像や音声を生成します。

この過程で、識別ネットワークが生成されたデータを本物と区別できなくなるまで、生成ネットワークは繰り返し改善されていきます。

💡豆知識:GANの仕組み

GANの構造は、しばしば泥棒(生成ネットワーク)と警察(識別ネットワーク)として説明されます。

生成ネットワークは偽のデータを生成して警察を騙そうとし、警察は本物と偽物を見分けようとします。
この相互作用により、生成ネットワークはより本物に近いデータを生成し、識別ネットワークは偽物を見破る能力を向上させます。


ディープフェイクの悪用事例

ディープフェイクには本物と見分けがつかない動画や音声を作成できることから、多くの潜在的な危険が存在します。

振り込め詐欺への悪用

ディープフェイク技術の悪用事例として、なりすましによる振り込め詐欺があります。2019年にはAIを使用して企業のCEOの声を模倣し、緊急性を装って大金の不正な転送を要求する事件が発生しました。

この事件は、AIを利用したサイバー攻撃がどれほど巧妙になり得るかを示す恐ろしい例です。犯罪者はCEOの声のわずかなドイツ語訛りやトーンを模倣し、最終的に大金が犯罪組織へ転送される事件につながりました。

このような攻撃は、伝統的なサイバーセキュリティ対策では防ぐことが困難であり、ディープフェイクによる新たな挑戦を企業に突きつけています。

参考:Fraudsters Used AI to Mimic CEO’s Voice in Unusual Cybercrime Case(WSJ)

戦争時のプロパガンダへの悪用

また、特に影響が大きいとされるディープフェイクの悪用事例の1つは、プロパガンダへの利用です。2022年のウクライナ侵攻時、ゼレンスキー大統領になりすましたディープフェイク動画が出回り、降伏を呼びかける内容となっていました。
ウクライナ政府はこれを偽情報と速やかに否定しましたが、敵対勢力がディープフェイクで偽情報を流布し、相手の士気を下げ戦略的優位を狙う動きが明らかになりました。

上記は実際に拡散された動画ですが、パッと見ただけでは気づかない程の精巧さに感じます。
映像の信憑性が揺らぐディープフェイク時代には、偽情報が紛争を長期化・深刻化させるリスクがあり、規制の必要性が浮き彫りになった深刻な事例です。

プライバシーの侵害

また、ディープフェイクはプライバシーの侵害や名誉毀損にも悪用されています。テイラー・スウィフトの顔を合成したポルノ動画の拡散事件は、その代表的な例です。
一度インターネット上に拡散されたコンテンツを完全に抹消するのは極めて困難であり、被害者に長期的な精神的ダメージを与えかねません。

デープフェイクの悪用リスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。技術の進歩に伴い、法的規制や技術的な解決策の開発がますます求められるでしょう。

同時に、利用者はメディアリテラシーの向上や情報の信頼性の確保にも積極的に取り組む必要があります。


ディープフェイクの有益な活用例

ディープフェイクは、正しい利用方法を守ることでディープフェイクは様々な業界に有効活用できます。

映画・映像業界

映画・映像業界での活用はその代表例です。長期的な映像制作において、役者の高齢化や不祥事により出演が困難になるなど、様々な問題が作品の制作に影響を与えることがあります。しかし、ディープフェイク技術を活用すれば、役者の顔を差し替えることでそれらの問題を解決することが出来ます。

例えば、有名映画である「ワイルドスピード」シリーズでは、故人であるポール・ウォーカーの出演シーンを作成するために、高度なCG技術が用いられていました。

https://youtu.be/9YEolbwEnFw?si=KlsFDCksd3c6pyLS

CG技術は非常に高度な技術とコストを要しますが、ディープフェイク技術の進化により、同様の成果をより簡単かつリアルに達成できる時代になりました。
この技術の前進は、映画制作における故人の復元やキャラクターの表現に新たな可能性をもたらし、クリエイティブな表現の幅を広げています。

ビジネス領域での活用

また、ビジネス領域でもディープフェイクの活用が期待されています。証明写真などで指定された服装や髪型、髪色の条件を満たす必要がある場合、ディープフェイク技術を使えば簡単に対応できます。

自動で背景や身だしなみを整えた証明写真を生成することで、突然の用事にも対応しやすくなり、オンライン会議などでも楽な格好で参加できるようになるでしょう。

ディープフェイク技術の進化は、私たちの日常生活に新たな可能性と便利さをもたらしています。


ディープフェイクへの対策と法的規制

ディープフェイクのリスクを対策する為に、その存在を確実に検出し、軽減する技術が欠かせません。
研究者、技術者、そして一部の政府組織は、ディープフェイク動画を正確に識別できるツールの開発に力を注いでいます。

検知技術への取り組み

ディープフェイク検出技術は、映像や音声ファイルに存在しうる微妙な不整合を特定することを目的としています。
たとえば、自然な動きの中で視認できないほど細かい表情筋の動きや、画像の一部に異常なピクセルパターンがないかどうかを分析することがあります。

Microsoft社は、「Microsoft Video Authenticator」というディープフェイク検出技術を開発しています。
この技術は、画像や動画の中に含まれるディープフェイク(合成された画像や動画)を検出し、それらの信頼性を評価することができます。

Microsoftのディープフェイク検出


このようなディープフェイク検出技術の開発は、ディープフェイクの悪用を防ぐために重要な役割を果たすと期待されています。

法的規制

ディープフェイクの悪用例で紹介したようなリスクを懸念すると、日本政府はディープフェイクに対する適切な法規制を導入する必要があります。
しかし、現時点ではそのような法律が存在せず、ディープフェイクの制御が不十分な状況が続いています。

ディープフェイクに関しましては、このように広範に、アメリカでは規制の法制化が進んでおりますが、フェイクニュース・ディスインフォメーション全般ですね、日本の法規制の動きは正直言って鈍いです(湯淺,2022)。

ディープフェイクに関する各国の法規制の動向

ディープフェイク技術の研究や開発に対する透明性の向上、偽造コンテンツの検出技術の開発、そして適切な法律や規制の制定など、さまざまなアプローチが必要です。


ディープフェイクの作成例

昨今、ディープフェイク技術は大幅な進化を遂げ、かつては高度な技術スキルを必要としたこのプロセスが今や誰でも簡単に扱えるようになりました。

この技術の民主化は多くの可能性を秘めていますが、同時にその悪用によるリスクも高まっています。ここでの紹介は、ディープフェイクの作成例を通じて、その技術的進歩と可能性を理解することを目的としています。

作成フローの紹介

実際に、ディープフェイクの制作プロセスを体験してみました。実際に利用したツールや、詳細な方法についてはここでは扱いません。

  1. まずは差し替え元となる画像を用意します。今回はレオナルド・ディカプリオの画像を利用します。(画像引用元:SeaArt)

元画像選択画面
元となる画像を選択

  1. 次に、動画内で変更したい素材を用意します。今回はジョニー・デップの顔画像を利用します。
    (画像引用元:Weikipedia)
    変更したい顔画像をアップロード
    変更したい顔画像をアップロード

  2. すると、素材を用意してボタンを一つ押すだけでディープフェイク動画が完成してしまいました。
    完成したディープフェイク動画
    完成したディープフェイク動画

ここで紹介した作成例を通じて、現代のディープフェイク技術がいかに簡単に利用できるようになったかをご理解いただけたかと思います。このように手軽に作成できる技術の進歩は驚異的ですが、それがもたらす潜在的なリスクも念頭に置く必要があります。
ディープフェイク技術の可能性を探る一方で、その使用には最大限の慎重さと倫理的配慮をもって臨んでください。


ディープフェイクについてよくある質問

Q.ディープフェイクの作成は合法ですか?

A.ディープフェイクの作成の合法性は、その目的や内容、および国や地域による法規制によります。
創作活動や教育的目的で使用される場合は合法の場合が多いですが、他人をだます目的や名誉毀損、脅迫などの犯罪に関連する場合は違法になります。

Q.ディープフェイクはどのように法律や倫理規範に影響しますか?

A.ディープフェイクの普及に伴い、法律や倫理規範の適用についても議論が活発化しています。特にプライバシーや著作権などの法的問題や、情報の信頼性や公正性に関する倫理的な問題が注目されています。


まとめ

今回の記事ではディープフェイクについてその基本情報から、作成方法そして活用法から悪用例まで幅広く解説しました。

この技術は映像業界をはじめ、幅広いビジネス分野での活用が期待されている一方で、政治的な偽ニュースの生成や詐欺行為など、悪用への懸念も議論されています。そのため、ディープフェイク技術の発展には、検知技術の開発や法規制の導入など、慎重なアプローチが必要です。

読者の皆さんの中には、ディープフェイクに対して、不信感や恐怖といった否定的なイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ディープフェイクは適切に活用すれば、生活をより便利で魅力的なものにしてくれる可能性があります。
教育や啓発を通じて、この技術の正しい理解と安全な使用方法を普及させることが、社会全体にとっての最良の進め方です。

未来のテクノロジーを恐れるのではなく、それをどう活用し、コントロールするかが鍵となります。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

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