この記事のポイント
- この記事はAzure SQL DatabaseとSQL Serverの違いを詳しく解説しています。
- クラウドサービスにおける自動化やスケーリングのメリットを提供するAzure SQL Databaseに対して、SQL Serverは柔軟なカスタマイズが可能でオンプレミスやIaaSでの利用が前提です。
- 選択に際しては、プロジェクトの要件や運用環境に応じた検討が必要とされています。
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
データベースの管理システムとして幅広く使われているSQL Serverと、クラウドサービスの一環として提供されているAzure SQL Databaseですが、これらのサービスは機能面や運用環境で大きく異なります。
では、具体的にはどのような違いがあり、どのようなユースケースでどちらが適しているのでしょうか。
この記事では、それぞれの特徴、管理と運用の違い、機能と互換性、パフォーマンスと可用性、コストと料金モデル、さらに移行と互換性まで、詳細に解説していきます。
ユースケースや選択基準をふまえ、ビジネスに最適なデータベース選択のための参考情報を提供します。
Azure SQL DatabaseとSQL Serverの違いとは
Azure SQL DatabaseとSQL Serverは、どちらもMicrosoftが提供するリレーショナルデータベース管理システムですが、運用環境や機能面で大きな違いがあります。本記事では、両者の違いについて説明していきます。
Azure SQL Databaseとは
Azure SQL Databaseは、次のような特徴を持つ、Microsoft Azureのクラウド環境上で提供されるデータベースサービスです。
- クラウド上のサービス: インフラの管理はAzureが行うため、ユーザーは管理の手間が少なくて済みます。
- 自動スケーリング: 必要なリソースに応じて自動で拡張や縮小が可能です。
- 高可用性とフェイルオーバー: 自動的にバックアップと災害復旧が行われます。
- セキュリティ: データの暗号化やセキュリティ機能が最初から備わっています。
- コスト効率: 使用したリソースに応じた従量課金制を採用しています。
Azure SQL Databaseについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
➡️Azure SQL Databaseとは?SQL serverとの違いや料金、接続方法を解説
SQL Serverとは
SQL Serverは、オンプレミスやIaaSで動作するデータベースソフトウェアです。特徴は次のとおりです。
- オンプレミスまたはIaaSで運用: ユーザー自身がインフラやサーバーの管理を行います。
- カスタマイズ可能: サーバーやストレージの設定を自由に調整できます。
- ライセンス制: ソフトウェアのライセンスを購入し、自分でサーバーや設備を用意して運用する必要があります。
- フルコントロール: 設定やカスタマイズの自由度が高い反面、自分で管理やメンテナンスを行う必要があります。
SQL Serverイメージ
クラウドとオンプレミスの違い
以上をまとめると、
Azure SQL Databaseは、クラウド上で提供されており、必要に応じて簡単に規模を拡大でき、管理も自動化されているためコストを抑えることができます。
一方、SQL Serverはオンプレミスや仮想環境で利用され、細かい設定やカスタマイズができる反面、サーバーの管理やメンテナンスに手間がかかります。
管理と運用面での違い
Azure SQL DatabaseとSQL Serverは、運用の負担や管理方法において大きく異なります。ここでは、その違いを具体的に説明していきます。
インフラストラクチャの管理
Azure SQL Database (PaaS)
Microsoftがインフラを管理するため、ユーザーはサーバーやハードウェアの管理を行う必要がありません。自動でバックアップが行われ、データが複数の場所に保存されるので、運用が簡単になります。
SQL Server (IaaS/オンプレミス)
ユーザーがインフラを管理し、サーバーのセットアップやハードウェアのメンテナンスを行うことになります。必要に応じて拡張や変更も手動で行わなければなりません。
メンテナンスと更新
Azure SQL Database (PaaS)
メンテナンスやソフトウェアの更新はすべてMicrosoftが自動で行います。セキュリティパッチやソフトウェアのアップデートも自動的に適用されるため、ユーザーはメンテナンスを気にする必要がありません。
SQL Server (IaaS/オンプレミス)
ユーザーがソフトウェアの更新やパッチ適用を手動で行う必要があります。定期的にメンテナンススケジュールを設定する手間がかかりますが、アップデートのタイミングや内容を自由に選べる点はメリットです。
スケーラビリティと柔軟性
Azure SQL Database (PaaS)
需要に応じて自動的にリソースをスケールアップ/スケールダウンできます。必要に応じて簡単に容量を増やしたり、パフォーマンスを調整できる柔軟性があります。
SQL Server (IaaS/オンプレミス)
ハードウェアの制限に依存しており、処理能力を増やす場合には新しいサーバーや機器を購入する必要があります。柔軟性は高いですが、手動で調整が必要です。
機能と互換性の比較
以下では、それぞれの機能や互換性を比較してみましょう。
データベース機能の違い
Azure SQL Database:
- クラウド向けに設計されており、自動バックアップ、スケーリング、災害復旧などが標準機能として備わっています。
- Azure SQL Databaseでは、SQL Serverの一部の機能(例えば、SQL Server AgentやPolyBaseなど)が使えない場合があります。
例えば、SQL Server Agentという機能は、スケジュールされたタスクを自動で実行する機能ですが、Azure SQL Databaseではこの機能は直接使えません。
- システムの安定性と拡張性が高く、必要に応じてリソースを自動的に増やしたり減らしたりすることができます。
SQL Server(オンプレミス/IaaS):
- 全機能を利用可能。データベースエンジンの全ての機能(SQL Server AgentやPolyBaseなど)を完全に管理・制御できます。
- ハードウェア制限に依存し、規模を拡大するには新しいサーバーやリソースを追加する必要があります。
T-SQLの互換性
T-SQL(Transact-SQL)は、MicrosoftのSQL ServerやAzure SQL Databaseで使用されるSQLの拡張バージョンです。
T-SQLの基本構文(データの選択、挿入、更新、削除)は、Azure SQL DatabaseとSQL Serverの間でほぼ同じです。
そのため、SQL Serverで書かれたクエリやストアドプロシージャをAzure SQL Databaseに移行する際、大部分がそのまま動作します。
ただし、Azure SQL Databaseには、以下のような一部の互換性がない、または制限される部分もあります。
- サーバーやファイルシステムに関する操作: Azure SQL Databaseでは直接アクセスできないため、関連するT-SQLコマンド(xp_cmdshellなど)が使えません。
- 特定の管理機能: SQL Server特有の機能(SQL Server Agentなど)に関連するT-SQLコマンドも制限されています。
セキュリティ機能の比較
Azure SQL Database:
- 自動データ暗号化(TDE)が標準機能として提供され、データの保護が簡単に行えます。
- 脅威検出や自動バックアップ機能が含まれており、セキュリティ運用が強化されています。
- Microsoft Entra IDと統合してシングルサインオン(SSO)が可能で、クラウド特有のセキュリティ対策を実現しています。
SQL Server:
- Transparent Data Encryption(TDE)やRow-Level Securityなど、SQL Server固有のセキュリティ機能が利用可能です。
- より高度なアクセス管理やカスタム認証システムの構築が可能ですが、これらの管理や設定はすべて手動で行う必要があります。
パフォーマンスと可用性の違い
Azure SQL DatabaseとSQL Serverは、パフォーマンスの管理やシステムを常に使える状態に保つための方法が異なります。
Azure SQL Database多くの作業を自動で行う一方でSQL Serverでは手動で設定する必要があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
自動チューニングと最適化
Azure SQL Databaseでは、クエリのパフォーマンスが自動で監視され、インデックスの作成や最適化の推奨をシステムが自動的に行います。
パフォーマンスの低下が検知されると、システムが自動で調整し、常に最適な状態を維持してくれます。
一方、SQL Serverでは、パフォーマンスチューニングは手動で行う必要があり、管理者がインデックスの作成やクエリの最適化を担当することとなります。
そのため柔軟な最適化が可能ですが、時間と専門知識が求められます。
高可用性とディザスターリカバリ
Azure SQL Database:
- 自動フェイルオーバー機能により、障害が発生した際に他のサーバーに自動で切り替えが行われます。
- ゾーン冗長ストレージを活用し、データが複数の物理ゾーンに分散され、可用性を高めています。
- ディザスターリカバリ(DR)も自動化されており、地理的に分散したバックアップを使用して、障害時に他の地域でデータを簡単にリカバリすることが可能です。
SQL Server:
- 高可用性やディザスターリカバリの設定は手動で行う必要があります。
- Always On可用性グループを使用して、手動で冗長化やバックアップの設定を行います。詳細については、こちらをご参照ください。
- 設定は柔軟ですが、運用と管理に手間がかかります
パフォーマンスモニタリングとトラブルシューティング
Azure SQL Databaseでは、Azure MonitorやAzure Advisorを使ってパフォーマンスをリアルタイムで自動監視し、問題が発生した際には自動的に検出され、修正案が提示されます。
一方、SQL Serverは手動での設定が必要で、SQL Server Management Studio(SSMS)を利用してトラブルシューティングやモニタリングを行います。
【関連記事】
➡️Azure Monitorとは?導入目的やメリット、料金体系を解説
コストと料金モデルの違い
Azure SQL DatabaseとSQL Serverの料金体系は異なり、それぞれの運用環境やニーズに応じた選択が重要です。
ライセンスモデルの違い
-
Azure SQL Database:
クラウドベースのサービスで、個別にライセンスを購入する必要はありません。使用した分だけの料金を支払います。
-
SQL Server:
ライセンスを購入する必要があります。初期コストは高いですが、長期的に利用する場合は経済的です。
リソース使用量に基づく課金
-
Azure SQL Database:
- 基本的に従量課金制で、使用したリソースに応じて課金されます。DTUモデル(Database Transaction Unit)またはvCoreモデル(仮想コア)から選択可能です。
- 基本的に従量課金制で、使用したリソースに応じて課金されます。DTUモデル(Database Transaction Unit)またはvCoreモデル(仮想コア)から選択可能です。
-
SQL Server:
IaaSでAzure上でSQL Serverを運用する場合、次の課金方式が採用されます。- 従量課金制(Pay-as-you-go): 使用したリソース(CPU、メモリ、ストレージ)に応じて料金が発生します。
- Azure Hybrid Benefit: 既存のSQL ServerライセンスをAzureで利用することで、クラウド上での使用コストを削減できる割引オプションです。詳細は、Azure Hybrid Benefitを参照してください。
総所有コスト(TCO)の比較
-
Azure SQL Database:
初期費用が抑えられ、自動管理により運用の手間が少ないため、短期間や柔軟なリソース管理が必要な場合に最適です。ただし、リソース使用量が増加すると、コストも増える可能性があります。
-
SQL Server:
長期的に高負荷なシステムを運用する場合は、ライセンス購入が経済的です。管理に手間がかかりますが、カスタマイズ性に優れています。高い初期コストを負担でき、管理リソースがある場合に適しています。
どちらを選ぶかは、システムのニーズと予算に応じて判断しましょう。詳細については、Azure SQL Databaseの価格情報も確認してください。
移行と互換性の違い
Azure SQL Databaseへ移行する場合は、計画と実施がスムーズに進むように、移行手順や注意点をしっかり押さえることが重要です。
また、ハイブリッド環境での運用も可能です。
SQL ServerからAzure SQL Databaseへの移行プロセス
次のようなステップを踏んで、SQL ServerからAzure SQL Databaseへの移行を進めましょう。
- 環境の評価:
- 移行対象のSQL Serverデータベースを評価し、互換性を確認します。
- Azure MigrateやData Migration Assistantを使用して、移行可能な機能や設定をチェックします。
- バックアップの作成:
現行のSQL Serverのデータベースをバックアップし、移行中の安全性を確保します。
- データ移行ツールの選定:
Azure Database Migration ServiceやBACPACファイルを使用して、データ移行を行います。
- 移行の実施:
Azure SQL Databaseへデータを移行し、データとスキーマが正しく反映されているかを確認します。
- テストと検証:
移行後、パフォーマンスや機能のテストを行い、問題がないことを確認します。
移行時の注意点と制限事項
移行時は、次の点に注意してください。
- 機能の互換性: 一部のSQL Server機能(SQL Server Agentやファイルシステムアクセスなど)がAzure SQL Databaseではサポートされていません。
- サイズ制限: Azure SQL Databaseにはデータベースサイズの制限があるため、大規模なデータ移行の場合はプランに注意が必要です。
- ネットワークの設定: クラウド環境でのネットワーク設定やファイアウォールルールの調整が必要です。
ハイブリッド環境での運用
ハイブリッド環境は、オンプレミスとクラウドを組み合わせたITインフラです。既存のシステムを維持しながら、クラウドのスケーラビリティや柔軟性を活用することができます。以下を活用することによって、ハイブリッド環境を効果的に運用できます。
- Azure Arcを活用:
- オンプレミスや他のクラウドサービス上のSQL Serverも、Azureの管理ツールで一元的に監視・管理が可能です。
- オンプレミスや他のクラウドサービス上のSQL Serverも、Azureの管理ツールで一元的に監視・管理が可能です。
- Azure Hybrid Benefit:
- 既存のSQL ServerライセンスをAzureで利用して、Azure SQL Databaseへの移行コストを削減できます。
- 既存のSQL ServerライセンスをAzureで利用して、Azure SQL Databaseへの移行コストを削減できます。
- *Azure Data Syncを利用:
- オンプレミスとクラウド間でデータを同期し、どちらの環境でも最新のデータにアクセスできるようにします。
ユースケースと選択基準
Azure SQL DatabaseとSQL Serverのどちらを選ぶべきかは、プロジェクトの要件や運用環境によります。ここでは、それぞれの適した活用場面と選択基準について説明します。
Azure SQL Databaseが適している場合
クラウド中心の運用や自動化が求められる場合に適しています。
- 例:
- 自動バックアップやスケーリングが必要なプロジェクト
- 開発リソースを最小限にしたい中小企業やスタートアップ
- トラフィックやデータ量が急増するウェブアプリケーション
- 高可用性と自動フェイルオーバーが重要なミッションクリティカルなシステム
- グローバルに展開するアプリケーションで、複数地域にまたがるデータレプリケーションが必要
SQL Serverが適している場合
オンプレミスやカスタム設定が求められる場合に適しています。
- 例:
- カスタム設定や複雑なデータベース管理が必要な大規模システム
- 法規制やコンプライアンスにより、オンプレミスでデータを保持しなければならない環境
- SQL Server特有の機能(例:SQL Server Agent、PolyBase、ファイルシステムアクセスなど)が必要
- ハードウェアの選択やインフラの完全な管理が必要な場合
- 既存のSQL Serverライセンスを活用し、費用を最小化したい企業
選択のためのチェックリスト
どちらを選択するか悩むときには、以下のチェックリストを参考にしてみてください。
選択基準 | Azure SQL Database | SQL Server |
---|---|---|
自動化が必要か? | 自動バックアップや自動スケーリングが必要 | 手動での高度なカスタマイズが必要 |
運用場所はどこか? | クラウドでの運用を希望 | オンプレミスまたは仮想環境で運用 |
可用性やスケーラビリティの要件は? | 高可用性が求められ、インフラを自動で調整したい | ハードウェアを手動で調整し、柔軟に管理したい |
コストの優先度は? | 完全に管理されたサービスで運用コストを抑えたい | コストを抑えつつ、既存のライセンスを活用したい |
SQL Server固有の機能は必要か? | クラウド特化のサービスで代替可能 | SQL Server Agent、PolyBaseなどの機能が必須 |
まとめ
本記事では、Azure SQL DatabaseとSQL Serverの違いについて、いくつかの重要な側面から詳細に解説しました。
Azure SQL Databaseは、特に自動化された管理機能や、インフラのスケーリングを自動で行いたい企業に向いています。一方、SQL Serverは、柔軟で細かな設定が必要であり、自社のインフラを完全に制御したい企業に適しています。
クラウドベースのデータベースソリューションは、今後もさらなる進化が期待されます。そんな中、企業は現在のニーズ、将来的なスケーラビリティ、コスト、管理体制などを考慮して、どちらのデータベースソリューションが適しているかを判断することが重要となるでしょう。
本記事を参考に、長期的な視点で最適なデータベースソリューションを選定し、ビジネスの成長を支えるインフラを構築してください。本記事が皆様のお役に立てば幸いです。