この記事のポイント
- 数百万台規模のIoTデバイス管理と双方向通信の実現
- デバイスツインによるリアルタイムな状態監視と制御
- 多層的なセキュリティ機能による安全なデータ通信
- IoT Central、Digital Twinsとの連携による高度な分析
- Basic/Standardプランによる柔軟な料金体系
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
IoTデバイスの増加に伴い、大規模なデバイス管理とデータ収集の重要性が高まっています。
Azure IoT Hubは、数百万台規模のIoTデバイスとクラウド間の安全な双方向通信を実現し、効率的なデバイス管理とデータ分析を可能にします
デバイスツインによるリアルタイムな状態監視、TLS暗号化やX.509証明書による多層的なセキュリティ、メッセージングによる双方向制御など、エンタープライズグレードの機能を提供。
製造業、スマートシティ、エネルギー業界など、様々な分野での活用が可能です。
IoT CentralやDigital Twinsとの連携により、収集したデータの可視化や分析、シミュレーションまで包括的なIoTソリューションを構築できます。
また、Basic/Standard両プランを用意し、小規模な実証実験から本番環境まで、ニーズに応じた選択が可能です。
本記事では、Azure IoT Hubの主要機能から具体的な設定手順、活用シナリオまで、実務で即活用できる情報を体系的に解説します。IoTソリューションの構築に取り組む組織に、実践的なガイドを提供します。
Azure IoT Hubとは
Azure IoT Hubは、Azure IoTサービスの1つで、クラウドとIoTデバイス間の双方向通信を可能にするMicrosoftのマネージドサービスです。数百万のIoTデバイスを効率的に管理し、データをリアルタイムで収集・分析するための基盤を提供してくれます。
堅牢なセキュリティ機能やデバイスごとの認証、メッセージの暗号化などの機能が備わっているので、安心してデータ通信を行うことができます。
AzureIoTHubイメージ図
Azure IoTについて
Azure IoT Hubについてご説明する前に、Azure IoT HubはAzure IoTというサービスの一部であることから、まずAzure IoTについて説明します。
Azure IoTとは、クラウドとデバイスをつなげて、データの収集・分析やデバイス管理を効率的に行えるMicrosoftのIoTプラットフォームです。
Azure IoTイメージ(参考:マイクロソフト)
主要サービス一覧
Azure IoTは多様なニーズに対応するために複数の主要サービスを提供しています。
ここでは各サービスの特徴を簡潔に説明します。
Azure IoT Hub
IoTデバイスとクラウドをつなぐ基盤的なサービスで、数百万台のデバイス管理、セキュリティ対策、双方向通信が可能です。
Azure IoT Central
コーディングなしでIoTアプリケーションを構築・管理できるSaaS型プラットフォーム。直感的な操作が可能で、中小規模のIoTプロジェクトに適しています。
Azure IoT Edge
デバイス自体でデータ処理を行うエッジコンピューティングサービス。インターネット接続が不安定な環境でもクラウド依存せずに動作可能です。
Azure Digital Twins
物理環境をデジタルで再現し、シミュレーションや予測分析を行うプラットフォーム。複雑なシステムの管理と最適化に役立ちます。
Azure IoT Hubは、上記のAzure IoTというサービスの中でクラウドとIoTデバイスを安全に双方向でつなぐサービスです。このサービスを使うことで、遠隔からリアルタイムでデバイスを管理したり、監視したりすることができます。
例えば、工場の生産ラインの管理、スマートホームデバイスの遠隔操作、都市のインフラ(例えば交通信号や水道管理)の監視など、多くの業界で利用されています。
Azure IoT Hubの主な機能
ここではAzure IoT Hubの提供する多様な機能についてご紹介します。
デバイス管理機能
IoT Hubは、デバイスのリモート管理をサポートしており、デバイスの登録や設定変更、ファームウェアのアップデートなどをクラウドから一元管理することができます。
デバイスツインとプロパティ管理
デバイスツインとは、IoT Hubが各デバイスの「状態」や「設定情報」をクラウドに同期するための仕組みです。
デバイスツインを使うと、クラウド上にデバイスの現在の状態が反映されるので以下のように管理や操作が容易になります。
現在のデバイスの状況を確認
デバイスツインにより、デバイスが報告する現在の温度やバッテリー残量などがクラウド上で確認できます。
これにより、運用状況や消耗状態の把握が簡単に行えます。
異常情報の通知
デバイスがエラーや異常を検知した際に、デバイスツインを通じてクラウドへ異常情報を送信します。
これにより、管理者は即座に問題を把握でき、早急な対応が可能です。
設定変更の指示と反映状況の確認
クラウドからデバイスへ新しい設定(例えば温度設定など)を指示すると、その指示がデバイスに届き反映されます。
その後、デバイスが設定を完了すると、デバイスツインを通してクラウドに報告が返され、設定が適用されたことが確認できます。
メッセージング機能によるリモート監視と操作
IoT Hubは、デバイスとクラウドの間でデータを双方向に送受信できます。
つまり、デバイスからクラウドへデータを送るだけではなく、クラウドからデバイスに指示を出したりすることが可能です。そのことにより以下のようなメリットがあります。
リアルタイムな監視と対応
デバイスからリアルタイムにデータを送信できるため、例えばセンサーが異常値を検出した際、すぐにクラウドに通知が届きます。
この情報をもとに、クラウド側から即座に対応策を指示したり、他のシステムに通知したりできるため、迅速な対応が可能です。
メッセージの種類ごとに柔軟に対応
IoT Hubでは、テレメトリデータ(センサーからの測定値)やデバイスが正常に動作していることを通知する「ハートビート」メッセージ、異常を知らせる「アラート」メッセージなどの異なる種類のメッセージを扱うことができます。
そのため、たとえば、テレメトリやハートビートでデバイスの通常状態を監視し、アラートで緊急対応を行うなど、メッセージの種類を用途に応じて区別しそれぞれに最適な対応を取ることができます。
このように双方向通信の強みは、デバイスからの情報を受け取るだけでなく、クラウドからの指示や操作を即座に反映できる点にあります。
セキュリティ
Azure IoT Hubは、デバイスとクラウドのデータのやり取りを安全に保つため、以下のようなさまざまなセキュリティ機能を備えています。
デバイスごとのアクセス制御
各デバイスに個別のアクセス権を設定できるため、デバイスごとに異なるデータアクセスや操作の制限が行われます。
たとえば、センサーAは「温度データのみ送信可能」、センサーBは「温度データと湿度データを送信可能」といった管理が可能です。
TLS暗号化
IoT Hubは、デバイスとクラウド間の通信にTLS(Transport Layer Security)プロトコルを使用し、メッセージの暗号化を実施しています。
こうして、データが送信される際に盗聴や改ざんを防ぎ、通信の安全性を確保します。
個別キーによる認証
各デバイスは、独自のアクセスキーや証明書を使用して認証を行います。
これにより、許可されたデバイスだけがクラウドに接続でき、無許可のデバイスによるアクセスを防止します。
X.509証明書
より高度なセキュリティが必要な場合、X.509証明書を用いたデバイス認証が可能です。
これを用いることで、企業が管理する認証システムと連携して、安全なデバイス登録と認証が実現されます。
多要素認証(MFA)との連携
IoT Hubは、Azure Active Directory(Azure AD)と連携することで、多要素認証をサポートします。
管理者アカウントなどの重要なアクセスには、パスワードと認証アプリの二重の認証が追加され、不正アクセスへの対策がより強化されます。
Azure IoT Hubの作成手順
それでは、具体的にIoT Hubの使い方を見ていきましょう。
ステップ1: Azureポータルにサインイン
- Azureポータルにアクセスし、Azureアカウントでサインインします。
Azureポータル画面
ステップ2: AzureIoTHubの作成
-
Azureポータル画面の「リソースの作成」で「iot hub」で検索し、「IoT Hub」をクリックします。
IoTHub選択画面
-
「IoT ハブ」画面、「基本」タブで適切な設定をします。
「次へ: ネットワーク >」をクリックします。
基本タブ画面
-
「ネットワーク」タブで適切な設定をします。
「次へ: 管理 >」をクリックします。
ネットワークタブ画面
-
「管理」タブで適切な設定をします。
「次へ: アドオン >」をクリックします。
管理タブ画面
-
「アドオン」タブで適切な設定をします。
「確認および作成」をクリックします。
アドオンタブ画面
-
「確認および作成」タブで設定が正しいことを確認します。
「作成」をクリックします。
確認および作成画面
-
作成したリソースの管理画面のデバイスからデバイスの追加を行う。
デバイスの追加
-
IoT Hubのサービス接続文字列を取得する。
いくつかの方法がありますが、今回はAzure PowerShellを使用した方法で解説します。
以下のコードをAzure PowerShellで実行してください。
Get-AzIotHubConnectionString -ResourceGroupName "<YOUR_RESOURCE_GROUP>" -Name "<YOUR_IOT_HUB_NAME>" -KeyName "service"
すると以下のようにサービス接続文字列を取得できます。
"HostName=<IOT_HUB_NAME>.azure-devices.net;SharedAccessKeyName=service;SharedAccessKey=<SHARED_ACCESS_KEY>"
これで得られた文字列を保存しておいてください。これをコードに組み込むことでデバイスとIoT Hubを接続することができます。
Azure IoT Hubの料金プラン
ここではAzure IoT Hubの料金についてご案内します。
Azure IoT Hubの料金は、主に Basic レベル と Standard レベル という2つのプランが用意されています。
- Basic レベル
クラウドにデバイスからデータを送信することに特化しており、シンプルなユースケースに向いています。
エディションの種類 | IoT Hub ユニットごとの料金 (1 か月あたり) | IoT Hub ユニットごとのメッセージの合計数 (1 日あたり) | メッセージの課金サイズ |
---|---|---|---|
B1 | ¥1,448.050 | 400,000 | 4 KB |
B2 | ¥7,240.250 | 6,000,000 | 4 KB |
B3 | ¥72,402.500 | 300,000,000 | 4 KB |
- Standard レベル
デバイスとクラウドの双方向通信やデバイス管理をサポートしており、より高度なIoTソリューションに向いています。
エディションの種類 | IoT Hub ユニットごとの料金 (1 か月あたり) | IoT Hub ユニットごとのメッセージの合計数 (1 日あたり) | メッセージの課金サイズ |
---|---|---|---|
Free | Free | 8,000 | 0.5 KB |
S1 | ¥3,620.125 | 400,000 | 4 KB |
S2 | ¥36,201.250 | 6,000,000 | 4 KB |
S3 | ¥362,012.500 | 300,000,000 | 4 KB |
Azure IoT Hubの活用例
ではAzure IoT Hubは、どのように実際用いられているのでしょうか。ここでは多様な業界でのAzure IoT Hubの活用場面をご紹介します。
スマートシティ
都市インフラや交通システムの監視と管理にAzure IoT Hubが活用され、都市全体の安全性と効率が向上しています。
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信号機の遠隔監視と制御
IoTセンサーが信号機に取り付けられると、信号機の稼働状況や交通量のデータをリアルタイムで収集・分析します。
交通量の多い道路では信号の切り替えがスムーズになり、渋滞の緩和に役立ちます。
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公共設備のメンテナンス最適化
スマート街灯やごみ収集機器、給水設備などのインフラにセンサーが設置され、常にクラウドで監視されています。
設備の状態や利用頻度に基づき、最適なタイミングでメンテナンスが行われるようにし、運用コストの削減が可能です。
製造業
製造現場では、Azure IoT Hubによって生産ラインや設備の状態がリアルタイムで把握され、効率的な運営が可能です。
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生産ラインの異常検知と予防保全
機械や設備に取り付けられたセンサーが温度や振動、電力消費量のデータを収集し、クラウドで分析します。異常なデータが検出されるとIoT Hubがアラートを出し、早期に機器の異常を検知できます。
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設備の稼働率と生産性の向上
IoT Hubでリアルタイムに設備の稼働状況をモニタリングし、生産性が一目で確認できるため、稼働率が低い場合の原因が特定しやすく、プロセス改善に役立てられます。
エネルギー業界
エネルギー業界では、IoT Hubを利用してエネルギーの需要に合わせた最適化が行われ、コスト削減や効率向上が実現されています。
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送電システムの遠隔監視と最適化
発電所や送電システムに設置されたセンサーが電力の流れや需要量を収集し、クラウドに送信することで、需要に応じた送電調整が可能になります。異常な電圧や電流が検出されるとアラートが発生し、トラブルの予防に役立ちます。
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発電設備の効率向上とコスト削減
各設備の稼働状況やエネルギー消費量をリアルタイムで監視・分析することで、無駄なエネルギー消費を防ぎ、運営コストの削減に貢献します。
Azure IoT Hubと他のAzure IoTサービスとの連携
Azure IoT Hubは、他のAzure IoTサービスと連携し、柔軟で包括的なIoTソリューションを提供します。
ここでは、他のAzure IoTサービスについてご紹介します。
IoT Centralとの連携
Azure IoT Centralは、コーディングや複雑な開発なしで、IoTアプリケーションを迅速に立ち上げ、管理できるSaaS型サービスです。直感的なダッシュボードやアラート設定が簡単に使えるため、中小規模のプロジェクトに特に適しています。
IoT Centralを使用すれば、IoT Hubを通じて収集したデバイスデータを、管理画面で簡単に確認・操作できるようになります。
例:
スマートビル内のエアコンや照明、セキュリティカメラなど、複数のIoTデバイスをIoT Hubで接続し、データを収集します。
IoT Centralのダッシュボードから、各デバイスの稼働状況や消費電力を一目で確認でき、アラートを設定して異常が検出されたときに通知を受け取ることも可能です。
Azure Digital Twinsとの連携
Azure Digital Twinsは、現実世界の物理空間や資産を仮想モデルで表現し、データのシミュレーションや分析を行うサービスです。
Azure IoT HubとAzure Digital Twinsを連携することで、現実のIoTデバイスのデータをデジタルツイン(仮想モデル)にリアルタイムで反映させ、現実世界の状況をシミュレーションや分析に活用できます。
例:
デジタルツイン上でデバイスのデータを用いたシミュレーションが行えるため、設備の稼働状況を再現し、異常が発生する前に故障を予測することが可能です。
また、エネルギー消費量や温度変化の予測を行い、最適な稼働計画を立てることもできます。
まとめ
本記事では、Azure IoT Hubの概要と主な機能、活用場面、料金体系、さらにAzure IoT の関連サービスについて解説しました。
Azure IoT Hubは、Azure IoTサービスの1つで、クラウドとIoTデバイス間の双方向通信を可能にする、Microsoftのマネージドサービスです。効率的なデバイス管理やリアルタイムなデータ処理が可能とし、企業のIoTソリューション展開を支援するものとなるでしょう。
ぜひAzure IoT Hubを活用して、デバイス接続やリアルタイムデータ処理の設定を行い、業務の効率化やIoTソリューションの強化に役立ててください。
本記事が皆様のお役に立てたら幸いです。